DARKNESS
NIGHT
闇の中にいた幼い日の記憶
「全く、皮肉った名前だな。」
彼はよく酒を飲んでいた。
その夜はよく俺を部屋から出してくれて、よく話した。
最近は俺も暗殺者として仕事にでるようになって“言語”を必要としていたから学ばされるけれど、以前は外から漏れ聞こえる人の声と、その男の声が俺が学習するものの全てだった。
だから彼の声は嫌いではない。
「永遠の沈黙」
彼が呟いたその言葉は俺のコードネーム。
それまでは彼がつけた「ルァジノール」という名前で呼ばれていたのに。
「お前が標的を永遠に沈黙させるのか、それとも…お前が沈黙していろ、とでも。」
何がおかしいのか、笑ってまた酒の入ったコップに口をつけた。
喉を鳴らして水のように酒を飲んで、一息ついた。
「…ルァジノール」
名前を呼ばれた。
「返事をしろ、ルァジノール」
そう言われても、この喉は一度も音をだしたことはない。
そんなの彼だって知ってるのに。
彼は突然席を立って、向かいに座っている俺の腕と酒瓶を同時に手にした。
何をされるか分からないが、最近、彼に触れられてろくなことはない。
咄嗟に逃げようとしたが、掴んでくる腕は力強くて全く動かない。
「っっ!!」
反対の手で酒瓶をテーブルの角にぶつけて割った。
殺される、咄嗟にそう思って必死に暴れた。
それでも痛いほど掴まれて腕は動かない。
不意に掴まれた腕がするすると抜けて、逃げられると期待した。
けれど結局また彼の手に力がこもって、手首を掴まれる。
「っっ!!!!」
手首を机に押し付けて、二の腕あたりに瓶が突き立った。
激痛に情けなくもがいて、声の出ない喉で悲鳴をあげる。
割れた瓶の先が皮膚を破って肉に食い込む。
声が出ない分、涙が溢れた。
必死に彼に許しを請う。
けれど彼の名前を知らないから言霊も届かない。
「逃げれば、肉がもっと裂けるぞ。」
そういう彼は、さっきとは違って笑っていない。
いつもと同じ、酒の入っていないときと同じ顔。
わからない、この人のしたいことが分からない。
この痛みの意味も分からない。
逃げる、泣く、助けを求める、それ以外にできることなんかない。
数秒だったけれど、俺には気が遠くなるほど長く感じた。
やっと瓶と手首が離されて、俺は床にうずくまった。
血で濡れた腕を抱えて、床と服を汚して転げまわった。
「…何も学ぶ必要なんてない。」
泣きながら、熱くなった傷と濡れて冷たくなった肌をなめていた。
そんな様子を見ながら、彼は何か呟くように話している。
「逃げられやしない。泣いてはいけない。誰も助けてはくれない。」
それは、まるでさっきの俺だと思った。
「なら、どうすればいいんだ。」
それは俺への問いかけなのか、それとも彼が自問しているのか。
とにかく、彼は俺を見ていない。
「簡単だ…死ぬんだ。ただ死ぬしか道はない。」
その答えが、怖かった。
ただ死ぬしかない、その答えに泣き叫びたくなった。
俺は今、助かったのに。
「お前は死ぬために生まれてきた。俺も死ぬためにアサシンにさせられた。」
彼は俺の血がついた割れた酒瓶を床に放った。
「俺達は、どうせ捨て駒にされて死ぬんだ。未来には残虐な死以外にない。
なのになんでお前はそこにいる…?」
なんで俺がここにいるのか。
それは彼が部屋から出してくれて、俺に話しかけるから。
「なんで俺は酒を飲んでお前に話してる、なんでお前は俺の話を聞いてる。」
そんなこと、俺がわかるはずがない。
俺は彼よりも子供だ。
話すから聞く、じゃあ聞くから話してる、それだけじゃないのか。
「何故だ…!何のために俺はここにいるんだ…!!」
人を殺すため。
自分達は誰かを殺したいと願う人の為にいる。
そう彼も言っていたのだから、俺はそうと疑っていなかったのに。
なんで彼がそういうのかわからない。
何度か、彼はテーブルに拳をたたきつけた。
分厚い木でできたそれが、いつ折れるのか心配で、少し離れた。
折れる前に彼はテーブルに蹲ったけれど。
「何故…!!」
そんなこと、俺が聞きたい。
何故、この男はここにいるんだろう。
何故、俺はここにいるんだろう。
何もいらなかったのに。
俺達には、何もない。
これから先にもあるのは死という結末だけ。
そう思っていた。
再び闇に堕ちた先刻の記憶
「たりぃな…」
「……。」
会話はあるものの、どこにいるかわからない程に気配を消した影が二つ。
「なあ、何で俺は今回“実行者”なんだよ」
「……。」
「黙ってんなよ、おい。」
自分の仕事を監視、見届け報告する係が傍にいる。
その姿ははっきりとわからないが、そこにいるだろうという方へ剣先を向けた。
それでも返事はない。
「…チッ、居眠りして報告し忘れなんかすんなよ」
「…124」
「は?」
返事を諦めた途端に帰ってきた返事。
内容は実行者自身のナンバーだった。
「お前は先日まで監視者だったな」
「…なんだよ、相方は女か?」
予想外にも姿見えぬ監視者の声はなかなかに綺麗な女性の声だった。
実行者の口元に嫌な笑みが浮かぶ。
「124、お前は監視者の時に報告を偽装し実行者から金を巻き上げて代償にその失態を隠
したり、功績を横取っていたという噂を聞いた。」
「………。」
「それを告げ口したりはしない。ただ事実確認をしたい。」
「……ま、そういうこともあるかもな。」
悪びれた様子もなく、ため息をついてそう答えた。
「では今回、実行者にされた理由は聞いたか。」
「……さあ?」
実行者、監視者、常にペアを組む二人は相方が死なない限りは代わったりしないし、まし
てやその役割を変えることはない筈だ。
正式な理由も告げられたなら別だが。
「…嫌な、予感がする。」
「びびんなよ、人殺しが。」
笑いながら、実行者は姿を月明かりの下に晒した。
赤い髪を闇に紛らわす為に黒く塗り、銀のカタールを腰に構えた漆黒のアサシン。
その隣に、一回り小さい黒い髪のアサシン。
白い四肢は大して装束で包まず惜し気もなく晒す。
「…日頃頑張ってる俺にご褒美であんたをまわしてくれたんじゃねーの?上は。」
「そんな、わけがない。」
呟いた女アサシンの声はどこか切羽詰まっていたが、相手はさして気にも止めていない。
「標的の男の皮を剥いだら次はあんたの服を剥いでやるよ」
男は笑いながら歩を進めた。
が、二歩も行かぬところで足を止めた。
「……おい、今何かいたか?」
「………いや、わからなかった。」
女はわからないと言いながらもその手は得物を掴んで警戒を緩めない。
だが何かいるように思えたのはたった一瞬、気のせいか、のら猫としか思えない程度の。
そんな微かなものに怯えて固まっていても仕方ない、と男は再び歩みを進めた。
その瞬間だった。
男の視界がぐるりと反転した。
頭だけぐらぐらと揺らされるような浮遊感。
「………っ…」
「っひ…ぁ……!」
男の声は音にならなかった。
その代わりに女が掠れた悲鳴を上げた。
男は本当に頭だけになって、ぶら下がっていた。
新たにその場に現れた影の手元に。
まるでマネキンのようだった頭部は遅れて首から体液を漏らしだし、筋肉を弛緩せてい
く。
「…っ…!!!!」
男の首が放され、重力に従い地面に落ちていく。
それが地に着く前に、生き残されていた女は走り出した。
一対一の闘いの訓練だけはいつも強いられるしアサシンなら得手となるが、それでも女が
逃げ出したのは相手はそれ以上の…アサシンだと確信したから。
「っや、やはり…私達は…っ!!!!」
疑惑は確信になった。
組織で掟破りではないとは言え当然の仕事を熟さないアサシン、そして仕事の失敗を繰り
返すこの自分。
突然組み合わせられ、突然仕事に駆り出された。
本当に仕事自体があったのかすら分からぬが、分かるのはただ一つ。
自分達はギルドに見限られた。
「っ!!!!」
足首の健に何かが突き刺さる。
途端に足は機能しなくなり、地面に転がった。
「ッア、ア、ア、ア!!!!」
頭に響く激痛。
だがあの影はもうそこに…
「―――…っ…」
暗闇で、女が月のない空を背景に見た影
―――…こど…
最期に見たのは、悲しげに歪めた幼い顔付き。
ただ異物が肉に割り込むように静かな音だけで女の命は刈り取られた。
それは、光を歩く希望を捨てさせられた瞬間
「ねえ、おにいちゃん」
走りよってきた女の子が見上げてくる。
その手には白猫と黒猫のぬいぐるみがあるが、その子自身が子猫に似ていた。
彼女はそのぬいぐるみの黒い方を差し出してきた。
「あのね、あそこのおじさんが…あれ、いない?」
少女は振り返って通りから外れた場所を指差すが、そこにはただ交通人がいるだけでこちらを見ている人物も立ち止まっている人物もいない。
彼女は困ったような顔をしながらもこちらを振り返ってくる。
「さっき、おじさんが、私に白いねこちゃんのね、ぬいぐるみをくれるっていったの。」
「……。」
返事はできないから、ただうなずいた。
「そうしたらね、おにいちゃんにこの黒いねこちゃんを渡してくれたら、白いこは私にくれるっていったの。」
嫌な予感がした。
俺は黒い猫を受け取って、撫でるような振りをして白い猫に触った。
頭を握って、胴も握って、それでその中に妙なものは入っていないと分かった。
けれど、俺の黒い猫の中には何か入っている。
手にする前からの予測でもあったし、手にしてから分かったことでもある。
俺は女の子に頭を下げて、家路を急いだ。
「……っ」
道中、ぬいぐるみを左右に引き裂いた。
バリバリと音がして黒い布が破れ、綿が溢れて、その隙間から鉄の欠片が落ちた。
短剣の先だ。
「……。」
指先で触れた瞬間、指先の感覚が潰れた。
皮膚吸収型の毒。
―― 解毒
アサシンのスキルで簡単に解毒はできた。
指先に感覚の戻ったのを確認してから、爪で毒が付与された短剣の欠片をひっくり返した。
『プロンテラ外壁 座標・・・/・・・ そこに記す』
プロンテラの外壁にメッセージを残しているから読みに来い、そう刻んであった。
アサシンギルドからのメッセージにしてはらしくなく慎重な伝言だった。
少女に持たせたぬいぐるみに始まり、外壁に記された店の名前、その店の伝言板に書かれた文。
その文にやっと会合の場所と話の内容の一部が入っていた。
『ヴァーミリオン・ナイト、永い時、黙して待っている。沈んだ気分を晴らすなら酒だろう。悪い話ではない、アンタの為だ。』
支離滅裂なメッセージ。
別にヴァーミリオンという人に宛てられた文じゃない。
今まで何度か受け取ったものに似ていて、俺に宛てられたものだとすぐに分かる。
永い時、黙す。
『永遠の沈黙』
それが俺の暗殺者用のコードネーム。
訳せば「ルァジノール、話があるから日が沈む頃にヴァーミリオン・ナイトという店で酒を置いて待っている。」
以下はそのままの意味。
日が沈む頃、それはもうすぐだ。
グローリィやアイリに知らせるべきか。
けれどこのメッセージの残し方はアサシンギルド。
アサシンギルドなら呼び出してその段階で消すなんてまねはしない。
必ずことの始まりは1対1が原則、そして互いに害することはしない。
その前に呼び出した相手が余計な細工や遺言を残すことを器具するから。
それに逆に複数で行くほうが部外者は口封じに徹底して消そうとするから危険だ。
グローリィに言えば絶対に心配する。一人で行かせてくれないかもしれない。
アイリは絶対に尾行してくる。
俺は殆ど迷わず一人で行くことを決めた。
指定の酒場に入り、誰にも声をかけられぬように気配を消して店内を歩いた。
何しろ俺は未成年だ。
雰囲気作りの為に薄暗くされた店内は密談には好都合。
一番ライトから離れて暗くなっているカウンターの最奥の席で、マントをつけた男がこちらに目配せをした。
(…あれか。)
静かに歩み寄り、そっと隣に腰掛けた。
話しかけてくる前に、彼の手元にあった杯が俺の前に差し出された。
コースターと一緒にその下にメモを挟みこんだまま。
「お前の為にもなる仕事だよ。」
手元で、隠しながらそのメモを読んだ。
「……。」
そんなことではないかと、思った。
そこには『3日後に某所でグロリアス・リアーテを暗殺』とあった。
俺が過去に受けて、失敗したのと同じ仕事。
やり直させてもらえる。だがやり直す気はない。
俺には彼を殺せなかった。
絶対に彼を死なせたくない。
「お前にそれを頼みたいわけではない。」
俺が思っていたことを否定され、思わず彼を見てしまった。
だが縁の大きい帽子を被っていて顔は見えない。
「それはお前が失敗したのを含めて6件、俺たちに依頼されている仕事だ。」
…つまり、グローリィは既に6回も暗殺されかけたということなのか。
何故、あんな優しい人が恨まれているんだ。
いやそれよりも、一体誰が…
「誰が企てているのか、知りたくはないか。」
俺の心を読んだようなその男の台詞。
それを聞いた瞬間から、俺の運命は再び闇に引きずりこまれた。
そして今、自分がいる場所は…闇
「到着ー!」
息を切らせている男三人、深い森の奥で倒れ込んだ。
「な、んで…走ってんだ…」
「ピクニックと言えば、かけっこでしょ!」
三人ともへばっているものの、ルナティスがずっと先頭を走っていて、なおかつ今も1番
元気だろう。
後から続いていたヒショウとルァジノールは二人ともアサシンだが持久力よりは瞬発力を
鍛えているので、プリーストとはいえ殴りで前衛と変わらないルナティスにはかなわな
かったようだ。
深く息を吐いて呼吸を調え、ルァジノールは立ち上がる。
途端に眩しさに目を焼かれそうになった。
「あはは、森の暗さに目が慣れてるからねー」
彼が眩しさに怯んだのを見てルナティスが言う。
確かに彼の言う通りここまで通ってきた道は茂る木々に光が遮られまるで夜だった。
その中にポツンと佇む泉は一際輝いている。
どこからかちょろちょろと清水が流れ込んで、あまり深くないので底まで見えている。
水と泉の底が、ぽっかりと口を開いた森の天井から差し込む太陽に輝いている。
………宝石?
「鉱石だ」
ルァジノールは疑問を声にすることはなかったが、泉の底の正体が気になったのはヒショウ
には分かったらしい。
「ここらは地震が多いから、地層が隆起して化石や鉱石が表面に来ている。そこに出来た
泉だからこんなに光っているらしい。」
「まあ、自然の光でそんなに明るくはないけど、回りが暗いから明るく見えるんだね。
綺麗だろ?僕らのお気に入りの場所なんだ。」
異質な空間だった。 暗闇の中でただそこだけ明るい。
闇の中で、ただそこだけ祝福されたような
そこなら全てを許されるような…
清浄な場所に思えた。
けれど、それを自分は踏みにじり、汚すことになってしまった。
「………。」
まるでサンタクロースの袋。
たっぷりと膨らんだ麻の袋を、暗い森の中で引きずる。
中身は子供に渡すプレゼントから到底かけ離れているが。
近くまでは蝶の羽による転送でなんとか来れたが、途中からは袋を引きずって運ぶしかな
い。
もう麻の袋は破れかけている。
だが中身が漏れだすまえに目的地についた。
着いたのは人の来ない森の奥の泉。
『綺麗だろ?僕らのお気に入りの場所なんだ。』
自分が大切に思う人達が、光を歩く人達が好んでいた場所。
昼に来たときはたしかに綺麗だった、月明かりがある日もきっと綺麗だろう。
だが今夜はただ闇だけしかなく、泉は不気味に底無しの口をぱっくりと開けている。
『ごめんなさい。』
ここをお気に入りだと言っていた人達に謝る。
この場所を綺麗だと思った。
だからこそ、ここしか埋葬してやれる場所が思いつかなかった。
自分が殺してしまった人達を隠す場所。
泉の見える位置の木の一つに麻袋を置き、中からシャベルを取り出す。
木の根元を調べ、十字傷がないのを確認する。
傷がある木の下には、既に住人がいる。
辺りの木にはもう既に十近く、傷があった。
皆、自分と同じ組織にいた人達。
これだけの人数を組織が1つの仕事に当てるなんてことはめったに無い。
しかも大して暦が長いわけでも、実力があるわけでもない。
皆、役立たずとして処理するために『グロリアス・リアーテ暗殺』に送り込まれたのだ。
彼の元には俺が居る、しかも律儀に襲撃の日時まで知らされて。
俺は完全に処理係として活用されていた。
それでも…この手を汚すことは止められない。
止めればグローリィに害が及ぶ。
『綺麗だと、言ってくれたのに…』
この肌を、髪を、綺麗だと言ってくれたのに。
もう血に汚れなくていいと、俺を許してくれたのに。
『グローリィ…』
身体が、酷く冷たい。
俺は、今こんなにも汚く血なまぐさい。
血と肉と恐怖と憎悪をこの地に振り撒いている。
こんな綺麗な場所に。
けれどここ以外のどこに行けば許されるのか。
どこなら自分が殺した者達は救われるのか。
ここしか浮かばなかった。
ここと、もう一カ所だけ。
「おはよう。」
約束の日、時間は指定されていないからなるべく早く。
あの泉で全身を洗い流して、血の臭いを少しでも消そうと薬草をこすりつけて。
そのままの足でここへきた。
俺の知る、もう一つの聖域。
「また朝まで狩りをしてたんですか?」
ヒールの温かい光。
何も知らないプリーストは頭を撫でて笑いかけてくれる。
「無理をしないで下さい。強さよりも大切なことがあるでしょう。」
こんな俺を労る言葉。
優しい声。
温かい笑顔。
初めて見つけた、俺の大切な場所。
一番大切なのはここ、彼の元。
その為に力がいる。
俺は強さが必要だった。
また闇に還る必要があった。
『ありがとう』
ありがとう、そしてごめんなさい。
俺は貴方を裏切った。
もう暗殺者には戻りたくなかった。
人を殺したくなかったのに。
貴方が自由を与えてくれたのに。
俺はその自由の留めかたを知らなかった。
でも自由は貴方がいなければきっと意味がない。
だから自由になることを切り捨ててでも、貴方を守りたかった。
俺はまた、地の底に墜ちた。
それを隠して、まだここにいる。
此処だけは、グローリィだけは誰にも汚されたくなくて、だから俺はここへ降り懸かろうとする血を外で払い、あの泉に押し付けてくる。
全ては、ここを守りたいから。
彼を襲撃しようとした一人目、あの人を殺した瞬間に
再び俺の死へのカウントダウンは始まった。
いつかは襲撃してくるアサシンの一人に殺されるか。
もしくは相打ちで、全ての元凶たる女の首を取りにいくか。
どちらにせよ、俺の未来にはまた死のみが残された。
一度は脱したこの道に、自ら戻ってきてしまったのだ。
けれど後悔はしない。
この首が落とされても、この身体を八つ裂きにされても
貴方という聖域に一歩踏み込めたことを幸福に思う。
俺は貴方の為に、死ぬまで血の中で戦い続ける。