――― ピュー ピィー ピュー ピッ ピュー … 特に何の曲というわけでもないけれど、リズムや音程をつけながら口笛を吹いてみる。 せっせとやっている紙細工の作業は、大体勝手も分かったから集中してなくてもスムーズにできる。 爽やかな香りのする御香が窓辺に焚いてあって、日もよく入り、風通しもよくて良い部屋だ。 僕の部屋じゃなくて、友達のグローリィというプリーストの部屋だけれど。 どうやら結婚式の司祭を頼まれたらしく、それと一緒に飾り作りの手伝いも頼まれたとか。 それを僕に押し付けて、当の本人はどこかへ行ってしまった。 まぁ、毎回のことながらお金貰ってるからなんとも言えない。 いつの間にか僕の周りは 花畑のように色とりどりの紙細工が散らばり積もっている。 …こんなにいっぱい結婚式で飛ばすのか… 後片付け大変だろうなぁ…。 「っくぅ〜」 丁度100個め。 ひと段落して両手を挙げて伸びをして、そのまま後ろのベッドに横になった。 …ん? 丁度頭が何かに乗っかった。 ちょっと仰ぐと、ここの家主のペット…じゃなくて、居候の青年がこちらを見下ろしていた。 「うぉおおおお!!!ジノ君いつの間に!!!!」 彼は僕の後ろで正座していらしく、そうと知らずに僕が横になって彼に膝枕してしまったらしい。 慌てて飛びのいて彼と向かい合った。 「ごめんごめん、気づかなかったから。ところでいつの間に後ろに…」 『一刻ほど前に。』 「え、ドアから入ってきた?」 彼は首を横に振った。 『窓から。』 「え、何で?」 『…入れなかった。』 言われてみれば、部屋中僕の作った紙細工が散らばってて足の踏み場が無い。 風に飛ばされてもかまわず放置していたから、部屋の入り口まで散っている。 それでわざわざ踏まないように外から回り込んで窓から入ってくれたらしい。 「あはは、ごめんね。ところで何か用だった?」 『いや…』 彼はそう言って黙り込むが、なんだか言いたそうな気がする。 じっと黙って待ってたら、やっと顔を上げた。 『口笛を聞いていた。』 「え…」 口笛? そういえばなんとなく吹いてたけど。 「うわ、まさかそんな恥ずかしいところをっ。鼻歌並みに恥ずかしいー」 『恥ずかしい?』 「うん、だってなんか…ねぇ?!」 僕がやたら恥ずかしがっているのに、彼は訳がわからないと首をかしげいている。 「聞いてても楽しくなかったでしょう、声かけてくれればいいのに。」 『いや…』 そう言って彼はまた言葉を区切った。 どうでもいいけど、間が多い子だなぁ・・・。 『それ、どうやるのかと…』 しばらくしてジノ君が思い切って聞いてきた。 「それって…これ?」 僕が紙細工を掲げると、首を横に振った。 ああ、もしかして。 僕は口を蕾めて小さく口笛を吹いた。 ――― ピュー、ピュー 「これ?」 聞くと彼は頷いた。 『俺には、できないだろうか。』 「そんなことないよ。声は必要ないし。なんとか1回できればあとは慣れで。」 彼は視線を下ろして、僕の見よう見まねでヒューヒューと息を吹き始めた。 「こう、口を蕾めて。舌はとくに動かさなくて大丈夫。 音が出るまで、息を吹きながらちょっとづつ口を閉じたり開けたりしてみて。」 なかなか音が鳴らなくて眉を少ししかめている。 夢中になってやりこむところが子供っぽいなぁと思う。 前々から思ってたけど、もう体も体力や技術もそれなりに成長してるのに、最近まで全く俗世に触れていなかったせいか、こんな他愛も無いことに熱中する。 そんなジノ君を見るたびに、皆で我が子の成長を見守る親のように騒いでいたわけだけど。 今回もそんな感じで…つまりものっそい可愛いんだ。 ――― …ヒュッ… 「!」 「あ」 ジノ君が一瞬こちらを見上げてきて、それから今の感覚を取り戻そうとまた一生懸命吹き始めた。 ――― ヒューッ……ピュー… 「できたーっ!」 相手は15歳くらいのはずだけど、可愛くて思わず抱きしめて頭を撫でた。 最近皆にこんなことをされまくって、ジノ君自身なれてしまったらしく戸惑うものの嫌がられはしなかった。 「…ただい…おや?」 丁度僕がジノ君の髪にほっぺたスリスリしてるところで、グローリィが帰ってきた。 「また…ルナ、 私 の ジノに何してるんですか?」 私のを強調しない、そこ。 ジノ君はみんなのものー! 「ゲロたんお帰り。何って、僕がたった今ジノ君を1つ大人にしてあげたんだよ。」 『??』 ニヤリと笑って、またぎゅっとジノ君を抱きこんだ。 「フフフ、紙細工のせいで入ってこれまい!そこで指を咥えて見てるがいい…てあああああ!!!!!」 にっこりとどこか黒いオーラが渦巻く笑顔を浮かべて、グローリィは人が一生懸命作った紙細工の山を遠慮なく踏んで入ってきた。 「こら!!遠慮なく踏むなって!!」 「ルナがいけないんでしょう。おいたをするから。」 「お、おいたってアナタ…」 僕らの目の前まで来たグローリィは、ジノにまずにっこり笑って、頬にちゅっとキスをした。 「ちょっとルナと二人きりにさせてもらえますか。夕飯まで部屋にいてください。」 そんなことを言われたジノ君は素直に頷いて、僕の腕から抜け出しベッドの上にしゃがんて、それから部屋の入り口まで軽やかに跳躍した。 ちゃんと踏まないで帰ってくれるジノ君、なんていい子なんだ…! それはともかく… 問題は… 「安心してください。ジノは言いつけをちゃんと守るいい子ですから。」 憎たらしいまでに輝かしい、友人のその笑顔。 安 心 できる かぁあああああぁぁぁぁ…… (フェードアウト) |