「あー、アサだ。」 弓で狙っていたモンスターの向こうに、なんだか見覚えのある姿がよぎって、思わず声をあげた。 視力に自信はあるって言ってもアサシンマスクをつけてるせいで真っ白い髪と青い目しか判断素材は無かったし、たいまつがあるといっても薄暗い洞窟のなかだったけど。 ピクッと反応して、こっちを見てくる。 正面から見て、やっぱり俺の予想は合ってると確信した。 とりあえず目の前のソルジャースケルトンを軽くバラして、てくてくと歩み寄った。 見た目から身長も年齢もレベルも下の俺にもきっちり警戒するあたり、アサシンらしいやつだなぁと思った。だって俺与ダメも少なめのアーチャーだぜ? というか、こいつ怖い。 近づいたら殺す、って感じのオーラがあって、3歩前で動けなくなった。 「えーっと、まぁ話したことなかったよな。俺のこのギルドエンブレム見たことあるっしょ。」 このアサシンは俺のギルドの先輩の友達らしくて、よく一緒にいるのを見かけてた。 でもなんか皆が話してる中で一人黙ってぼーっとしてて置物みたいだったけど。 俺が胸の冒険者証をつまんで見せると、彼は頷いて警戒を解いた。俺の記憶の中の、いつもボーっとして俺の先輩たちと一緒にいたときの様子になる。 こっちも、にらみつけてくる蛇が消えてホッと息をついた。 「あ、いきなりで悪いけどさ、回復薬とか拾った赤ポとか余ってね?ちょっと買い取らせて欲しいんだけど。」 威力ないせいでソルジャースケルトンが近づいてくるまでに倒せないせいで回復薬の消費が激しいのなんのって… 彼はすぐに頷いて、これでもかって程の赤ポとミルクを出してきた。 うわ、重量ギリギリだけどありがて〜 「サンキュー!いくらだろ…えーっと…5kでいい?」 そういうと、彼は首を横に振って握った右手の人差し指と中指だけを立てて見せた。 つまり? 「あと2k?」 首を横に振った。はっきり言えよゴルァ 「2kでいいってこと?」 頷いた。うお、マジで! 「マジ、サンキュー!じゃあ2k。本当に助かった!」 顔を隠してて分かりにくいからかもしんないけど、彼の目もとはピクリともしないで無表情。 愛想ないな… 「アンタ、名前はなんてーの?」 聞いたら、彼はしばらく視線を彷徨わせてカタールを腿のベルトに収めて、腰の短剣を抜いた。 それで地面をガリガリと削った。 「ん?なに……ラ…じゃねぇ、ル…ルー…ジ…? ごめん、俺字ぃ読むの苦手なんだ。俺もともと外国出身だから。」 彼はそれの隣にまた何か書き出した。 よくある文で、これは読めた。 「俺の名前ね。ウィンリー」 『ルァジノール』 「うお」 さっきから黙りこくってると思ったら、いきなり耳元で声がした。 相手は足元にいるんだから、WISだな。 『礼はいらない。重かったから。』 「ん?…ああ、そか。」 自分は重量越えしてたから、俺が回復薬くれって言って来たのは丁度良かったってことか。 「アンタ、ルァジノールってのか。長いなァ…ラジでいい?こっちのが俺にゃ言いやすい。」 『皆、ジノと言う。』 「それはそれ、これはこれ。あだ名はいくつあったっていいだろ。」 そう言ったら、彼は頷いた。 今まで話したこと無かったし、せっかく機会だからいろいろ聞きたくなってラジに少し話したいと言った。 めいっぱい目を丸くしやがって。何だよ、文句あんのかっ 問答無用で俺がたいまつからすこし離れたところで胡坐をかいたら、ラジも座った。 けど、座ってから俺の方をじっと見てて、それから見よう見まねで胡坐とかしてる。 いや、別に胡坐しろとは言って無いけど。 とりあえず顔が隠れてると気になるからマスクをとらせたら、やっぱり無表情で余計に空気が…。 しかもなんか真正面でなんか萎縮した感じで、なんか若者の初デートかよっ!って気になる。 「ラジさん、お歳は?」 お見合い風に言ってみる。 『15』 そこはまたお見合い風に返せよっ!笑いのネタが続かねー って… 「マジで。俺と同じじゃん。もっといってると思った。」 『そうか』 「ほら、ラジが一緒にいる俺の先輩とかアンタの友達とか成人してるじゃん。そん中で不自然じゃなかったからな。」 『…グローリィは18だ。』 「え、マジで。あの人先輩より上だと思ってた。」 なんか、身内ネタでホッとするみたいな感じでラジの表情がフッと緩んだ。 つかアレか、目元は動かないで顔の下半分で表情作るのかコイツ。アサシンマスクじゃわかんないな。 「でも俺と同い年でもうそんな強ぇのか、すげー」 …あ、照れてる。 『弱い。…ヒショウさんに世話してもらってる。』 ああ、それであの人最近よく出かけてるんか。 ちょっとの狩り以外は出かけないで本ばっか読んでたのにな。 「それでか。ルナティス先輩がさ、『ヒショウが出かけてばっかで寂しい〜』て泣いてた。」 笑いならそんなこと言ったら、ラジは黙っててフッと俯いた。 …あれ? 『…なるべく、一人でやる、から…と、謝っておく。』 言葉を探しながらそういうラジは、さっきと打って変わって沈んでいる。 いや、そんな深刻になるなよ! 「いやいや、でも別に本気じゃなくてさ『でも可愛い僕らの子供のためだから!』って。責めてる風でもなかったし、むしろ嬉しそうだったし。」 『子供…?…俺?』 そう呟いて、また黙り込んだ。 今度はそう沈んだようでもなくて、ただ何か考えて… あ。 まさか言葉どおりに捉えたか。 「あれだよ、自分の子供みたいに可愛いってことだよ。子供ってのは例えだって。」 ラジはこっちを見て目を丸くした。 無表情かと思ったら、意外と表情はあった。 よーくみないと分からない程度だけど、でも子供みたいにコロコロ変わる。 今度も、また嬉しそうに少し目元も緩めて、口元引き結んで。 うん、なんか… ヒショウ先輩とルナティス先輩の気持ちがよーーーーーーーーーーくわかった。 「意外と可愛いところあるんな、アンタ。」 笑いながら言ったら…予想通り、また目を丸くした。 赤くなって照れるんじゃないかなぁ〜? と思ったら、いきなり俺を軽く突き飛ばして、視界からパッといなくなった。 「??」 訳が分からずにいたら、少し向こうで矢を売ってきてるアーチャースケルトンの方にカタールを構えて走っていた。 流石アサシン。かっけー… でも 「耳赤いぞー?」 『…っ』 文句は言ってこなかったけど、WISで俺の耳元で息を詰まらせるような音がした。 やっぱおもしれ〜 |