ひーまーだーなー…

目の前に並んだ品物はぼちぼち売れてはいるけど、量がハンパじゃないから完売はまだ先だ。
まぁ、ヒショウの代行で収集品売ってやってるわけで、アイツの頼んできた値段で売ればもうとっくに完売してただろうけどな。
ちょっとばかし上乗せして、それを私のへそくりにしてやれ、と思ったけど

欲出しすぎた。上乗せしすぎた。
それでもぼちぼち売れちゃうからやめる気にもなれない。

暇潰しがありゃ苦じゃないんだけどなァ…
お隣りサンは昨日ナンパがしつこくてガン飛ばしたせいで険悪だしな…
反対側は……


「……ウォウ!」

反対は商人のボクちゃんが寝てた…んだが、いつのまにかその前からうちの商品みてる男の子がいた。
まっ白い髪に口元までマフラーあげてるアサシン

…って、あれ?この子…
「ルァジノール?」

ピクッと反応して、顔は下に向けたまま視線だけでこちらを伺ってきた。
顔ちゃんとみしてくれないと不安になるだろ、こっちは確証無いんだから。
でも向こうは私のことを分かったのか、ペコッと頭を下げてきた。

「いらっしゃい、何探してんの?ココに並んで無くてもカートにあったら売るぞ?」
彼は視線を下げたまま黙った。
その視線の先には…なんとなく置いてある飾りのアクセサリーなんだが。

「これ欲しいのか?」
『いや…属性カタールを。』
じゃあなんでそれ見てたんだよ。

ってか私の名前が分からなくてWISが送れなかった、とかそんな理由じゃなかったことには安心した。
まぁ、コイツはヒショウとルナティスにくっついてたから、私とは殆ど喋ったことないしな。
けどこっちが知ってるのに相手は知らないって何気に傷つくし。

「んー…茨のカタールしかねーな。後は短剣でいいなら火ダマスカスがあるけど?」
『茨のカタールを』
「んじゃ友情価格で10kね。」
そういった瞬間に、初めて視線を上げた。
私らの友情じゃないけどな、ヒショウとルナティスとのだけど。

『…ありがとう、ございます。』
「どーいたしましてー。で、その代わりっつっちゃなんだけど…」

にーっこり笑って、彼の二の腕を掴んだ。
細っ。私より細くないかこの子。まぁそんなことより
「今、時間ある?」






『マナさん』
「さんはいらね。」
『…マナ』
「何?」
『…これの意味は?』
「客寄せ。」

ルァジノールは不満そう、というよりは恥ずかしそうにしている。
そりゃそうだろうなぁ…。

ちなみに私が何をしたかというと、店のマスコットのようにちょこんと座らせたルァジノールにギルドメンバーのお古のうさみみのヘアバンドをつけさせて、こないだ作った頬紅もくっつけて、また別のギルドメンバーが作ったやわ毛が材料のぬいぐるみを持たせてみた。

元が白いし髪の毛も白いからうさみみもぬいぐるみも似合う似合う。
何気に目つき顔つきの基本がちょっと険しいのが玉に瑕だが、うつむいてるせいで十分隠れてる。

主に女の人が寄ってきて、ジノを見るついでに何か買ってってたりする。
いいね、使えるなコイツ。



「んーいい感じ。アンタが来てくれて助かったわー。」
隣のウサ耳つけた頭をがしがしと撫でた。
けど、そんなことをしたらルァジノールは一瞬ビクッとして、一層深くうつむいた。

「…スネた?」
『…っ、違います…』
「ん〜?」

俯いている彼の顔を覗き込んだら、すぐにそっぽ向かれた。
うわ、てか今すっごい顔真っ赤だったな。

…もっかい頭をなでてみる。

『……。』
照れてはいるものの、嫌そうではない。
なんか小動物の頭なでてる気分だな。



「ルァジノール、皆にジノって呼ばれてたっけ?」
肯定で彼は頷いた。
「OK、じゃあ可愛いジノ君におねーさんがサービスしてやろう。」

腕を引っ張ると、体勢を崩したジノの膝からルナティックのぬいぐるみが転がり落ちた。
その手にプレゼントを握らせてやる。



『…これ』
「やる。私が趣味で作ったんだが、職業柄あんまつけないしな。」

ジノは自分の手の平に乗ったくしゃくしゃになった鎖を見て固まった。
これでもちゃんと広げれば所々に硝子細工のちりばめられたブレスレットになるんだ。

さっきジノが来たときに見てたアクセサリー。
これが欲しいわけじゃないっつってたけど、実はちょっと欲しいと思ってたんじゃなないかと思ったから。

「さっき細工して、指輪と繋げたから袖の長い服着ても見えるぞ。」
ジノがきょとんとこちらを見てくる。
「銀って白い肌によく映えるよな。ガラスもイメージは白だし。
それにこれ十字架ついてたからプリーストに似合いそうだもんな。」

目を見開く。
『…なんで、分かったんですか。』
そのブレスレットが、彼の恩人に似合うんじゃないかと思って見てたこと。

「なんとなく。でも合ってただろ?」
彼は素直に頷いた。

そうだよな、殆どヒショウとルナティスの話を聞いてただけだけど、お前はアクセサリーとか欲しがるような奴じゃないしな。
だとしたらプレゼントだし、する相手といえばコイツを飼ってるプリーストくらいだし?



「今日のバイト代な。」
そういいながらまた彼の頭を撫でた。
皆がやたらコイツの頭撫でる気持ちが分かる。やわらかくて気持ちーわこれ。

彼は手の中のものをそっと握って、頭をペコッと下げた。
その俯いた顔がほのかに緩んで、小さく微笑んでいる。



 ……。



ちゅっ

『!!?!??』
流石アサシン、反応が早い早い。

ちょっとした好奇心というか、悪戯心というか、本能というか。
可愛いなコイツと思ったらついキスしてた。
かるーくだけど口に。

唇の感触の余韻に浸る前に、相手はもうバックステップで離れてた。
ってジノ君、お隣の露店に突っ込んでるよ。

『…ふ、ふざけ…っ…お、俺っ…』
「あははー、ゴメンゴメン。もうしないから戻っておいで。」
顔真っ赤で相当混乱してるな。

全く、ウブだな。





「おやこんにちは、マナさん。」

ぐおっ!!飼い主登場!?
てか頭を掴むな!つぶれるつぶれる!!
何この怪力!あんた支援プリじゃないのか!!

後ろから私の頭を掴んでくるプリーストに負けじと、気合で振り向いてにっこり微笑んでやった。
「こんちわ、グロサン。」

うっは、黒い天使が笑ってるよ。むしろ白い悪魔か。

「待たせたね、ジノ。」
グローリィはいやみったらしく私の露店の敷物を堂々と踏んで横切って、ジノの前に立った。

その頭をがしっと掴んで公衆の面前で思いっきりキスしてみせる。
…口直しかヨ。

「じゃ、行きましょうか。」
きょとんとしたままのジノの肩を抱いて、二人はこちらに背を向けた。

去り際にくるりと振り向いて「お邪魔しました。」と言うグローリィの笑顔からものすごい殺気がにじみ出ている。
…こりゃ3日くらいは寝ずに身を守ったほうがいいかもな。




絵日記に書いたモノ