僕はしがないバード。
狩りは生活費がやばくなった時にしかいかない、ひたすら自分の思うがままに音楽を奏で詩を謳う、正真正銘の吟遊詩人さ。
今日も僕の感性が疼くままに街を歩き巡り、詩の材料を探す。

といっても、今は狩りの装備を整えにプロンテラに来ていて、材料は乏しい。
自然豊かなフェイヨンや科学技術の街ジュノーとかならまだネタはいっぱいあるんだけどなあ〜
かれこれ1時間くらい歩いて疲れちゃった。
少し休憩、と露店をぽつぽつと開いている商人さんみたいに地べたに座った。

まあ、せっかくだし、歌でも披露して小遣い稼ぎでもしようかね。
愛用の武器兼楽器を膝にのせて、弦の調整をする。
にしてもプロンテラも国交が発達してより賑やかになったなあ…
大通りじゃあ狭いとばかりにこんな脇道にまで人がたくさんいるんだものね〜。
まあ、この隣には精算広場なるものがあるから人も多めだろうけどね。



……おや、なんだか僕の芸術センサーに引っ掛かるような人を精算広場に発見。
やっぱ詩の定番は絶世の美女だよな〜。
卑猥なところにいくとセクシィな女性か美少年ってね。
でも僕が気になったのはそうゆう感じではない。

あえて言うなら…野性の小動物かな。
10代半ばくらいの白いウサギちゃんみたいな子。
別にちっちゃいってワケじゃないんだけど…

存在が小さい…じゃなくて存在感が小さい。
人が多い広場でもまるで幽霊の様にスムーズにぶつからないで歩いてて
だーれも彼に気付いてないね。
足音まで潜めちゃって。
プロだね、あれは。あのアサシン装束は伊達じゃないね。

あ、こっちの方にきた。

「君、君。」

聞こえないんじゃないかと思いながら声をかけたら、すぐにこっちを向いた。
あ、顔を近くで見たら結構可愛いなあ。
でもどこか暗殺者の雰囲気を感じる。
…うーん、久々のヒットかな?

昔に作ったとある白髪少年の為の詩があるけど、ちょっと似てるかなあ…この子。
髪も白いしね。
でも彼には容姿とは裏腹に歳にそぐわない憂いがあるから、昔のとは一味違うものができそうだ。

「君の詩を作らせてくれないかーい?」

歌うように言うと、彼は小首を傾げた。
近付いてくれないし、さりげなく腰に手を当ててる振りして武器持ってるし。
つれないなあ子ウサギちゃん?

「僕は本能の赴くままに詩を作って旅をしているしがないバードだよ〜。よかったら僕の詩のモデルになってくれないかな?
なに、ニ、三質問に答えたり、昔のことを教えて欲しいだけさ。」

子ウサギちゃんは目をまるくして、しばらく立ち尽くした。
そしていきなり腰から提げてた荷物鞄を探り始めた。
何だろう、名刺でもくれるのかな?
…え、なんだ。メモ用紙とペン?
え、何?

『名前は?』
そう書かれていた。

「お兄さんの名前はアポロンですよ〜リュート持って竪琴弾きの名前とはこれかいかに」
『俺はルァジノール。』
「おおう?」

やっと子ウサギちゃんから話してくれた!
でも何だか違和感、というか今口を動かしてなかったよね君?

『話せないんだ。…生れつき』

ああ、それで名前を聞いてからWISしたわけか。
何気に便利だなあWISって。

「そうだったのか。残念だな〜出来上がった曲は是非歌って欲しかったのに。」
『……じゃあ。』
「ああっ!こらお待ちなさい!僕は詩のモチーフが欲しかっただけで、君に歌を売るわけじゃあ無いんだから!」
『……。』

彼は大人しく戻って、僕の前にちょこんと座り込んだ。
迷惑がっていたわけじゃあないんだね。

「じゃあ、いろいろと質問するから答えてね」

頷いてくれた。
いい子いい子。

「君は幸せ?」

彼は目を丸くした。
多分だけど、この子はプロの暗殺者。
他にそんな人を僕は知っている。
けど、この子は彼らとは違って、どこか温かさを持ってる子だ。
人を殺した罪科と、人の温かさの徳を持つ、そんな少年に僕は惹かれたんだよね。

「嫌な質問だったかい?」

答えがすぐにかえってこないから、聞いてみた。
彼は首を横に小さく振った。

『…幸せだ。……罰が当たりそうなほど。』
「罰?」

唇を引き結んで、彼はうなだれるように頷いた。
…ビンゴ。
やっばり彼は“本物の暗殺者”だった。
でも

「それは違うなあ。幸せになっちゃいけない人なんかいない。
不幸にならなきゃいけない人もいない。」

僕をじっと見て話を聞いている彼は歳より子供に見えた。
歳知らないけどさ。

「誰かを不幸にしなきゃ得られない幸せなら考えものだ。
でも、それでも幸せを捜し求めずにはいられない。それが人間ってもんだよ。」

うん、リュートも音が調ったし、詩も一小節できたかな。

「じゃあつ…」

次と言おうとして、思わず言葉を止めた。
少年は俯き気味で、唇を引き締めて…笑ってた。
目元は穏やかな気がするだけで、唇は笑みを作ってはいないけど。
けど、幸せそうな感じがした。

『…“外”に出て…あったのは素晴らしいものばかりだった。』

頭に響くアサシンの声は癖のように無機質さを残しているけれど、力と感情が確かにあった。

『…皆もそうだし…貴方のように…優しい言葉をくれる人がいて…
俺は“綺麗”にはなれないけど……温かい人達と一緒にいられる…
…それだけで、信じられないほど、幸福だ。』

切れ切れに言葉を紡ぐ。
きっと、話すのは苦手なんだね。

でも心に思うことはいっぱいあるから…
君はそんなに優しくて温かい言葉を紡げる。

「ありがとう。今夜には素敵な曲が歌えそうだよ。」
『…こんなものでいいのか』
「うん。君という素敵な存在に巡り逢えた、それだけで詩になれる。」
『……。』

彼は黙って頷いた。
でも顔がちょっと赤くなっちゃって…可愛いなあ。
このまま帰しちゃうの、惜しいな…。

「ねー、君、定住してる宿はあるのかい?」
『ある。』
「じゃあ、いつかまた会いに行ってもいいかな?また君の詩が欲しくなった時に。」

表情は変わってないけど、驚いているみたいだ。
別にやましい気持ちはこれっぽっちもないよー。
せっかく好感度アップだったのに、不信に思われちゃったかなあ?

と、思いきや、不意に目を細めて、唇の端をあげて

『…いつでも。』

なあんて。
…ちょっとこれは意外だったかも。
意外だ、うん。
可愛い。

笑った顔が可愛いってのもあるけど…
養子にしたい可愛いさだね。
おにーさんに可愛い奥さんがいたらこの子を養子にしてウハウハしちゃうんだけどなあ…

『部屋ばかりだから。』
「え、なにが?」
『いるのが。』

ああ、いつも部屋に篭ってばっかだから、いつでもおいで…ってことね。
ちゃっかり友達登録もしちゃって、今日は大収穫だったなあ。

「あ、そうだ、今日は夕方酒場で歌うんだ。よかったら聞きにこないかい?間に合ったら君の歌も歌うしね。」
『…足りない。』
「何が?」
『歳。』

あー未成年ってことね。
律義だなあ〜

というか君、さっきから主語が抜けまくりじゃないかい?

さっき一気にしゃべって、力を使い果たしたとか?

『…一緒に、友人もいいなら…行くかも』
「よかった!是非誘っておいで。僕の歌は年齢制限は10歳からだからね!」
『…そうか。』

うんうん。
じゃあー可愛い子ちゃんが来てくれるなら張り切って良い歌作らないと。

『じゃあ』
「うん。またね。」

別れに手を降る変わりに、曲を考える為に、膝の上の楽器をポロン、と奏でた。
さあ、心美しく可愛いらしい人の為に最高の歌を…ね。







純白の子供の歌

その心はまだ 迷い揺らぐ
水面に映えている無始に

絆という名の産衣に
希望という名の絆に
貴方という希望に

純白の子供は
温かに包まれ目覚める

純白の子供は
世の夜の涙に 溺れている

貴方は光を紡いだ

子を包む樹氷を砕いて
慟哭を塞いで
幾度となく交えた朝の日に

純白の子供は
月ごと連れ去り
泣き笑う佳人に出会った