お使いを終えて家に帰るとそこは別世界。


左手に下げていた買い物袋を取り落とした。



「ジノ、おかえりーw」
「お邪魔してまーすw」
「……。」

玄関で立ち尽くしているアサシンの青年の名前はルァジノール。職業は元暗殺者、今は冒険者のアサシン。
ずっと殺人でしか生きる術を知らなかった彼が、同業者に追われてまでその道を断ったのには訳がある。

グローリィというプリーストが導いてくれたから。
彼は人の温かさを知らなかった少年に優しく接してくれて、傍にいてくれて、“普通の人”として生きることを教えてくれた。
だからルァジノールにとってグローリィは神に等しい存在だった。
長い銀髪、中世的で妖艶な容姿とくれば、それは尚更。

けれど彼が常識を知るにつれ、そのプリーストの非常識さが滲み出てきた。



グローリィという人間は久々に彼の家に帰ってみれば、友人2人と水を張った大きいビニール製のタライのようなものにパンツ一丁で入って出迎えるような変人だっただろうか。

今小さい風呂のように水につかっている3人の他にもう2人くらい入れそうなその容器。
去年だったか暑い日に子供がそれで水に入って遊んでいたのを思い出した。

子供が入るならともかく、大の大人3人は滑稽だ。
滑稽すぎる。
滑稽を通り越して
異常だ。


グローリィの友人は、一人はルナティスという同じ仕事仲間のプリーストで、綺麗な人だなぁと思うけれどグローリィとはまた違う。
豪快に笑う人で、長めではあるがショートの内に入る金髪、大きめのエメラルドグリーンの瞳が綺麗だが中世的というよりはちゃんと男性的な人。
普段は法衣に包まれいてわからなかったが、殴りプリというだけあって服を脱いでいる目の前の彼の身体はがっしりしている。

もう一人はグローリィの友人というよりはルナティスの友人、ヒショウ。
冒険者のアサシンだがほんの一時期だけ暗殺者として働いたことがあるらしく、その両面でそれなりの経験があるため、時々ルァジノールの護衛として雇われ、皆と仲も深まったという感じ。
こちらは逆に男性的なのにどこか中世的に思える、といった感じで、黒いしっとりとした髪に垂れ目がちだが鋭い深蒼の瞳。
見た目だけでなく正確もそこそこクール。
だから、彼までこんな奇怪な行動をしているのが意外だった。



『グローリィ…何をしてるんだ。』
「オトコモリ」

『……は?』
「久々に暖かいからね、ちょっとやりたいことがあってね〜」

『……居間のど真ん中で水に男3人で浸かりたかったのか?』
「いやいや、最近アマツに興味がでていろいろ調べてて、丁度甘いものが食べたくなったなぁと思ったらコレがあってね。」

『…そうやって浸かってて何かができるのか。』
「普通に器で作っていいんだけど、せっかくならゼリーみたいにお風呂いっぱいに作って浸かりながら食べたいじゃない?
そんな思いが浮かんでやってみちゃったw」
ルァジノールにはその思想は良く分からなかった。

『…オトコモリってなんだ。』
「アマツの料理。」
『…そんな料理あったか?』
「うん。カンテンをひも状にして酢醤油で…」

「ゲロたん、ゲロたん」
しばらくぼーっとしていたルナティスが不意に話に割ってはいる。

「これはトコロテン。」

ルァジノールがWISで会話している為グローリィの声しか聞こえていないだろうが、それでも話の内容を察したらしいルナティスが口を挟む。



オトコテンコモリの略だからトコロテンでもオトコモリでもいいんじゃないの?」
「いや、トコロテンはトコロテン以外の何物でもないだろうが。


  ………。


「あははー、そんな冗談にだまされるなんてゲロたんも可愛いところ残ってるんだねぇー」
左でため息をつくヒショウと右で笑っているルナティスに言われて、グローリィはぷぅと頬を膨らませた。
状態の異常さを分かっていない三人とそれを端から見ているルァジノールの間に溝が見えた。

分かったのは、グローリィが作ろうとしたアマツ料理はゼリーのようなものだということだけ。



『…で、できたのか?』
「それがトラブっちゃって。」

グローリィが相変わらず穏やかにニコニコ笑んでいる隣で、ルナティスはあははーと乾いた笑いを浮かべ、ヒショウは俯いていて顔が見えない。



「抜けなくなっちゃった。」





『とりあえず盛大にアンタは阿呆だとツッコミを入れていいか。』

「痛くない程度になら。」

真顔でした質問に真顔で答えが返ってくる。

「ぐふっ」
ルァジノールはグローリィの首に盛大にラリアットを食らわせた。


思い切り身体が後ろへ反れても、水に浸かっている腰から上と肘から上しか動かない。
水というより、氷のようにカチコチに固まっている。



『そもそも2人まで何故こんな状態に…』

WISでの呟きはグローリィにしか届かないが、ルナティスは彼の様子や視線からなんとなく考えていることを察した。

「僕はなんか脱げって言われてゲロたんに引きずり込まれた。
ヒショウは僕を助けようとして引きずり込まれてから僕とゲロたんで脱がせた


ヒショウ…助けようとした相手に裏切られたのか。


「そんなこんなしてるうちにカチコチになっちゃった。ゼリーより固くなるのは解ってたんだけどここまでとはね〜。分量間違えたかな。」

どうせグローリィの友人だから変人じゃないかと思っていたが、やはり一筋縄ではいかないようだ。

『……。』
「とりあえずジノ、助けてくれないかな」

グローリィは悪びれる様子も無く言う。
彼一人なら放置しておいたかもしれないが、他二人は被害者だ。

『とりあえず、地道に削るか。』
そもそも三人は足と肘の上まで寒天に浸かっている為に身動きが取れないのだから、周りを削れば




ガツン



「……」
「……」
「……」
「……」


「ゲロたん、材料以外に何か入れた?」

ルァジノール寒天に短剣を突きたてながら思ったことは既にルナティスが聞いてくれた。
ちなみにその短剣は思い切り突き立てたのに全く寒天に刺さっていない。

「まぁいろいろと。」




「……ジノ君、まずゲロたんを刺して」

『おう』

「いやいやいやいやいやちょっと待ってごめん謝るから。ちょっと悪戯心でね?」


「ゲロたーん、ちなみに何を入れたァ?」
「…白ポ、アンティ、触手、聖水…あとー」
今触手っつったな?なに固形物いれてんだこのエロプリが」
「いいじゃん折角だから好きなもの入れたほうが美味しく…」
プリースト2人の言い合いに、脇のアサシン2人は項垂れた。

もう頭痛がして、ルァジノールは自分の宿へ帰ろうと部屋を出ようとした。



「…もう…自決したい…

「ちょっと待ったジノ君!!ヒショウが自決しちゃうって!!頼むから助けて、あとでゲロたん一緒にボコってあげるから
「をい」



『わかった。良い案が浮かんだ。』
グローリィへWISをしてしまうのは最早条件反射か。
ルァジノールは不意に振り返った。

荷物袋から取り出したらしいものを手に持って三人に近づく。
その手にあるのは何やら透明な液体が入った瓶。


「え、ちょっとジノ…?!何するつもりだ!?」
『…解放して欲しいんだろ…?』
ブッ壊れてしまったようにルァジノールは妖しい笑みを浮かべる。
3人は思わずゾッとしてたじろいだ。


『これで温めれば溶けるだろ』
そう言って彼は手際よく瓶の口に紙を詰めて、野宿用の火付け石でその紙に火をつける。

そうすればその瓶がファイアーボトルであると良く分かった。



「なんでそんなもん持ってるの!?
というか
溶ける温度いくつだと思ってるの!!?
むしろその前に
僕らが焼ける!!!!

「ジノ!!火遊びは良くないよ!!ファイアーボトルだってお子様の手に届かないところにって注意書きが…

「煽るなド阿呆がああああ!!!!」




腕が使えないルナティスが、隣のグローリィに頭突きを食らわせた。
クリティカルヒットをみせたその一撃でグローリィがガクリと力尽きた。


「ヒ、ヒ、ヒ、ヒショ…ちょっと君からジノを説得…」
「俺は愚か者だ…こんな醜態を晒して…もう燃えてしまえ何もかも…ふははは………

「ヒショウが壊れたあああああああん!!!!」





数日後、謎の火事による火傷で三人が重傷を負った(うち一人打撲などにより重傷というニュースがプロンテラに流れた。

 

 



昔はこんな字をどでかくして、阿呆な小説ばっか書いてたなぁと思いつつ、初心を思い出してみました。
自己満足です。萌えの欠片もなく笑えない小説ですいませ…っ(つД`;)