楽しいことはいいことだ。
…だからって自分だけ楽しんで回りに迷惑をかけるのはよくないと思う。


 

朝、いつも通り日が昇り始めるころに目が覚めた。
商人の服を軽く着て、部屋を出ると

「!!?」
そこは別世界だった。
リビングのテーブルに、蟲の殻だのネズミのしっぽだのべと液だの、生々しい戦利品が積んであった。
…臭い。
何故こんな状態になっているのかはともかく、誰かこんな状態にしたのかなら分かる。
「…ルナティス!!」
俺は半ば怒鳴るように彼を呼んだ。
返事はシャワールームから聞こえた。
戦利品からして、多分下水に行ったのだろう。あそこに行った後は全身がものすごいことになるからな。

「はいはい〜シェイディおはよう〜」
いかにもスッキリした顔をしてルナティスは出てきた。
脇に汚れたアコライトの服を抱えている。
「おはよう…じゃなくて、なんでいきなり下水に行ったんだ?」
「いや、昨日さ、プロンテラの大通りに桜が植えられただろ?」
「…ああ」
「それで、みんなお花見してて面白そうだったから」
ルナティスはそう言って、台所に行って、コーヒーか何かを作り始めた。

「…それで何故下水…?」
俺はこの臭い物たちをなんとかしたくて、カートに詰め込み始めた。
カートの中なら少しは匂いを防げるし、すぐにでも売ってきたい。
「ほら、ヒショウが丁度フェイヨンにいるから、向こうにいってみんなでどうかな〜と思って。」
「で、ポタ代を稼いでたのか…?」
「そうそう。」
それにしたって、深夜に下水に徹夜で篭ってくることはないだろうに…

「…じゃあ、換金してくるよ。」
「おお!ありがとう〜!!」
ずっしりと重いカートを引いて、俺は一番近い花売りの少女のもとへ向かう。
…か弱い女の子にこんな生臭い物どもを押し付けるのは気が引けるが、これも人生の無常というものだ。
…うっ、気持ち悪くなってきた…。

 

「わーいフェイヨン久しぶり〜!」
これから狩りに出かけようとしている冒険者でにぎわっているフェイヨンの町中。
ここは森の中にある町で、前に来たときはどこもかしこも緑だったのだが
今では桜が咲き乱れて、すっかりピンク色になっていた。
「じゃあ、宿屋いってヒショウ探そう!」
「おう…」
ルナティスに速度増加をかけられ、早足で町の奥へと進む。

 

「わぁ〜…朝だってゆーのに人いっぱいだねぇ…」
「そりゃあ、今が一番の満開時だしな。」
見上げれば、空を覆うように咲き乱れた桜は、ところどころで花びらを散らし、雪のように舞っている。
思わず、大口を開けて見入ってしまいそうになる。
「…ルナティスがヒショウを呼んできてくれ。俺は場所とりする。」
隣を見ると大口開けて見入っていたルナティスがいた。
「…ああ、うん。お願い。」
彼は我に返って、小さな宿屋に入っていった。
ヒショウのことだから、あまり人がいないところがいいだろう、と人が少ないところを探し回るが
いい場所は、周りに人がいっぱいいる。
仕方ないので人が多いのはあまり気にしないで、そこそこいい場所に腰を下ろした。

 

「シェイディー!ヒショウ連れてきたよ〜」
すこしして、なにやら両手に袋を抱えたアサシン―ヒショウと、何故か頬に真っ赤な手形を浮かべたルナティスが戻ってきた。
…ルナティス、朝っぱらからヒショウに何した。
「おはよう」
「…おはよう」
バリバリ寝起きで、目をしぱしぱさせたままヒショウが御座の上に座った。

彼が抱えていた袋が気になって、中を覗いてみた。
「…酒?」
「ああ、昨日の夜中にルナティスからWISで頼まれて…明け方に宿屋の主人から買ったんだ。」
それで、また少し寝ようとしたところにルナティスが起こしに来たからそんなに眠そうなのか。

それから、花見はのんびりしとやかに続いた。
周りはドンチャン騒ぎをするのが楽しいようだが、俺たちはこうやってのんびり飲んでいるほうがいい。
…ただし、俺は未成年なのでにんじんジュースだが。

日が昇りきるかというころ、人がまた増えて、やたら騒がしい集団がやってきた。
「なんかあそこの一団すごいハイテンションだな」
ヒショウが覗き込んで、指差す。
俺からは気がジャマでよく見えなかった。
どうやらギルドメンバーで花見をはじめているらしいが
少し離れていてもその騒ぎようは目立つ。

「まぁ、いいんじゃない?楽しいのはいいことですヨ。」
ルナティスがへらっとした表情でそんなことを言う。
…酔ったのか?

 

俺は少し身を乗り出して、その騒がしい集団の方を見た。
「一番ゲート!!マナにストリップアーマーかけます!!!
「真昼間からアブないことすんじゃねえええええ―――!!!!!」
「ハッ!!これ以上脱がせられるもんなら脱がせて見ろやあああ!!!!!」
自ら脱ぐなマナァァァアアアア――――!!!!!!

俺たち三人は同時に御座の上にズッコケた。
それは俺にとっては物凄く…ヒショウとルナティスにとってもそれなりに、聞きなれた声、名前、見慣れた姿だったから。
言わずとも、俺の所属しているギルドの面々だった。
…そういえば、アマツに花見に誘われたけど、プロンテラを離れたくないということで断ったんだが…
それが何故にフェイヨンにいる。
…アマツは込んでたとか?

「…あれはもう既に相当出来上がっちゃってるね…」
ルナティスの言うとおり。
確かに年中ハイテンションな人たちではあるが、あれは異常だ。すでに酒が入っている。
「…この距離なら見つからないだろう。無視だ。」
あの怪しい集団の中には入りたくない。
俺たちは気にせず、桜を堪能することにした。

 

「三番ユリカ、えと…とにかく祝福しまくります!!!!」
不意に、同じく出来上がっちゃっているらしいユリカさんがそんなことを言った。
ちなみに、二番はマナがギルメンを天国へご案内…とかいって、ハンマーフォールブチかまして気絶させていた。
…数秒だったが、一瞬でここら一帯が静かになっていた。
「速度増加!ブレッシング!イムポシティオマヌス!リカバリー!」
インビシブルメンバーのエリア一帯に支援の光が降り注いだり、天使が意味なく舞ったりしている。
…キレイだが、なんか煩いし、罰当たりな気がした。
それを俺たちは他人事のように見ていたのだが…

「エンジェラス!!」
それは体力を上げてくれる、祝福の鐘を鳴らす魔法なのだが…
効果は一人にではなく、パーティー登録をしているメンバーにいっせいにかかる。
そして、俺は今更気が付いた。

昨日、ギルド狩りをして、そのままパーティー登録を解除し忘れていた。
つまり、俺はまだあの人たちと同じパーティーにいるわけで…

あっちでエンジェラスの鐘がガンゴン鳴ってるなか、少し離れた場所…俺の頭上でも、エンジェラスの鐘がガンゴンなり響いていた。
「……っ」

「……あれ、なんか向こうで音が…」
マスターのその言葉に、思わず俺はヒショウの影に隠れて身をすくめた。
「そうかぁ?気のせいだろ?」
マナのその言葉に、ホッと息をついた。
が、それも束の間。
「マグニフィカート!」
「っ!!?」
ユリカさんの追い討ち。
俺の頭上に、天使様が翼を広げた。
…ああ、癒される…じゃなくて!!!
「おい!やっぱり今向こうにもマグニッフィ様がいたぞ!!」
「え、だって他にギルメン…ああ!!シェイディの現在地がフェイヨンになってる!!!」

ばれたっ。

「ヒショウ、ルナ。逃げよう」
「え…」
「せっかくだから挨拶でも…」
「今あの集団に近付くのは危険だ」
俺はルナの手を取って逃げようとする…が。

「そうは問屋が卸さねぇぜ!!!」

「げっ!!!」
ゲートの声。
「うあ!!」
「うっ!?」
そして次の瞬間、俺は暗闇に引きずり込まれていた。
隣でヒショウの唸り声がしたから、彼も引きずり込まれたんだろう。

「おらぁ!!シェイディ捕獲!ついでにユリカのダーリンも連れてきたぜぃ!!」
気付けば、俺とヒショウはインビシブルの面々の前にいた。
ゲートのローグスキル、トンネルドライブで地中を引きずられてきたようだ。
てかそこ、ダーリンじゃないし。
嫌な予感がして隣のヒショウを見ると…

出た。酸欠金魚。
じゃなくて、案の定、真っ青な顔して俯いている。
肺が傷むかのように胸元を掴んでいる。
マズイ。
早く逃げないとヒショウが呼吸困難で死ぬ…!!

「あれ、やっぱり皆さんだったんですね〜」
ルナティスが何食わぬ顔で走りよってきて、こんにちわ〜と挨拶をしながら、ヒショウの隣にチョコンと座る。
みんなに見えないように、後ろから背中をさすってやっていた。
「っ…お、お久しぶりです…」
それに後押しされるように、ヒショウは汗を滲ませながらも微笑んで、みんなに声をかけた。
…どうやら、何度か面識があるし、ルナティスがいれば大丈夫そうだ。

「もしかして、シェイディ、三人だけで来たかったのか?」
御座の上で、彼のペコペコにぴったり寄り添ってアルが聞いてくる。
どうやら彼と、謎なウィザード、イレクシスはそんなによっていないようだ。
「いや、来る予定も無かったんですけど、今朝いきなりルナティスに連れてこられまして」
「んーじゃあ遠慮なくこっちに引き込んでいいんだな!」
俺が答えると、マナが嬉しそうにそう言った。
嫌がっても引き込むくせに何を言うか。

「4番イレク…なんか皆さん暑苦しくなっているので、雪でも…」
「ストームガストはやめろイレク!!死ぬから迷惑だから!!」

「5番ルナティス!!ストリップアーマー出来ます!!!かっこヒショウ限定」
「…俺かよ」
最近、ルナティスとヒショウの関係が怪しい気がするのは気のせいか?
「アコライトのくせに生意気な〜!!俺様のストリップアーマーと勝負だァ!!!マナかもーん!!」
「だからマナはもう脱げるほど服も防具も付けてねんだからやめろっての!!!」
…ちょっと期待してる俺ってやっぱり男なんだな。
「んじゃあ私はユリカにでもぉ〜…」
「マッ、マッ、マナッ!!?」
あからさまにベロンベロンになっているマナが、ユリカに飛び掛る。
…止めるべきだろうか。
「イレク、どれを止めるべきだと思う…?」
「放っておこう。面倒だ。」
それらを至って平静なアルとイレクが2人でみんなを傍観している。
俺も、彼らの隣で傍観。
・・・てか自警団が来たら俺達だけ逃げるから。

 …とりあえず、とても盛り上がっている。てゆーか、現在ストリップアーマーネタが続いている。
脱がせようとしてくるルナティスを必死に止めようとしているヒショウだが、生憎ルナティスの方が殴りゆえに力が強い。
あれはどう見ても犯罪な気がする。
止めるべきだろう、が、面倒くさいので俺は相変わらず傍観。

「…っ、…っ!…ベナムダスト!!!!!!」
「うぐあっ!!!」
ヒショウは遂に切れてスキルまで持ち出した。
ベナムダストをくらって、見事に毒に犯されたルナティスは地面に突っ伏した。
…てか、これ如きでレッドジェムストーンを使うなヒショウ。

「ぎ、ぎもぢわる…」
「自業自得だ阿呆」
「ユ、ユリカさぁん…解毒してぇ〜…」
「残念ながら、解毒スキルはアサシンしか持ってないんですよ〜」
「うええええ、そんなぁ〜ヒショウ〜…」
縋り付いてくるルナティスを、ヒショウは見てみぬ振りだ。

「…っ、治してくれないとヒショウの恥ずかしい過去をあることないこと言うぞ!!」
ルナティス、必死の抵抗?
てかないことはダメだろ。
それに対し、ヒショウは…
ルナティスを冷たく見下ろして…不適に笑った。

「…6番ヒショウ。…ルナティスの大好きなたけのこを生やしまーす…」

 

一同硬直。

知らないものは知らないのだが
アサシンにはハイディングという、どこでも身を隠せるスキルがあり
その状態のまま、地中から攻撃ができるグリムトゥースというスキルがある。
グリムは地面から巨大な針が生えて、敵を突き刺すような感じの技で…

それはまるで、たけのこが突然生えてきたように見える、とも言われている。
つまり、彼のいうたけのこを生やすというのはグリムトゥースを使うということだろう。

“ルナティスの好きなたけのこ”
つまり
ルナティス標的で。

「いやああああああああルアフルアフルアフ!!!!!」
「っの!!ハイディングハイディングハイディング!!!!!!」

お前ら、仲いいのか悪いのか分からないな。
SPの無駄遣いをしているやつらはほっといて…

…いつの間にか酔いつぶれて寝こけているこの人たちをどうにかしよう…。
とりあえず、散らばった酒瓶をカートの中に放り投げる。
何か掛けなくても大丈夫だろうか?風邪ひかないか…?
ごそごそとカートの中を探り出した。
たしかどこかにマントがあったような…

「シェーイディー」
「うわっ」
ヒショウが…多分、女の方のヒショウが、後ろから俺の腰に抱きついて押し倒してきた。
「後片付けなんてまだいいから桜見ようよぉ〜」
「おい…てか最近ほんといきなり出てくるな。」
「だって〜ヒショウ結構酔ってたし、ルナいぢめてたから〜」
ヒショウ、酔ってたのか。顔に出ないなぁ…

「うおっ」
ヒショウにものすごい力で仰向けにひっくり返されて、横から逃がすまいと抱きつかれた。
…彼女(彼)の腕が重い、苦しい。
「おい、ヒショウ…」
「せっかくのお花見でしょう。気使ったりしないでさ、のんびり花だけ見てようよ。」
彼女はそう言って、俺のとなりにゴロンと寝っ転がって、何も言わなくなった。

俺も、ただ花だけを見ていた。
涼しくて、花は綺麗で、周りの騒音も気になるけど、それ以上に心地良い。
…もう少し歳をとったら、今度は酒を飲みまくって、酔いつぶれて
それから桜を眺めて寝入ってしまうのもいいかもしれない。
…大人の楽しみ、ってわけなのか。

 

 

みんなすっかり寝入ってしまい、風邪を引いたのは置いといて…
みんな起きたらとても片付けなどできる状態ではなく、俺一人で片付けたのは置いておいて…
いくら楽しいからって、人に迷惑をかけるのはやめろよ。