朝早くからの訪問者に首を傾げながら扉に向かう。
アサシンの青年はすでに狩りの準備をしていた為とくに準備の必要はなかった。
彼の白い髪が少しボサボサなのは寝癖でなはくいつものことだ。
軽く、ずっと叩かれている扉を、何も言わずにガチャリと開けた。
「…よう。」
向こうにいた黒い髪の騎士を見て、開けた扉を速攻激しい勢いで閉めた。
「……ッ!…ッ?!」
急いで鍵をかけ、尚扉を開けられない様に背中で抑えながら、一人声にならない声を上げていた。
混乱が治まるのを待たず、ドスッと鈍い音がして
扉の向こうから突き刺された鋭い剣が、アサシンの脇を縫った。
それにぎょっとして、慌てて扉から離れた。
「そんなに照れることないだろーハッハッハ」
「人の家の扉切り刻んで不法侵入しながら寝言をほざくな貴様…!」
明るい声でアサシンの青年の主張を無視して木の扉を剣で切り捨て、その騎士は堂々と家に侵入した。
扉を破壊し終わると剣を鞘に収めたが、アサシンの方はしっかりと対人用のカタールを構えていた。
「また脱走したのか」
質問に答えないで、騎士はアサシンに近寄るが、彼はカタールを構えたままあとずさった。
その様子を見て騎士は少しため息をつき、彼にズカズカ近寄るのは諦めたようだった。
「いや、ちゃんと出所したさ。あれからどんだけ経ってると思ってるんだ。」
「まだ4ヶ月少々。」
アサシンがこの男に親友やその恋人に嫌な思いをさせて、その敵をとり騎士団に突き出して4ヶ月。
だがクリスマスに一時的に留置所から抜け出して、アサシンの青年の元にやってきた。
故に最後に顔をあわせてからまた1ヶ月もたっていない。
「もうそんだけ経ったんだなぁ…」
「まだ早い。戻れ。」
「そんなこと言われても、向こうはもう出してくれたからここにいるんだ。」
更に一歩近づけば、全く隙を見せないアサシンの目が鋭く光った。
白い豹のようだった。
姿勢を低くして、いつでもこちらに斬りかかれるように目を光らせている。
勝ち目がないと分かればこの青年は動かない。
だが勝ち目が少しでも見えていれば最後まで喉に食らい付いてくるだろう。
時にこうして見せる気高い一面を、騎士はもっとも好んでいた。
もう彼の後ろは壁で、後が無い。
これ以上近づけば牙をむくだろう。
「あれから強くなったのか?」
「……。」
アサシンは答えない。
敵には答えない。
「やめろよもう。…結構苦しいぞ。」
騎士は弱弱しく、苦笑いを浮かべた。
拒まれるのが辛いと言う。
それを見た瞬間、アサシンは目を丸くしてしまった。
「…っ」
騎士に抱きすくめられた。
途端に苦しくて、体が動かなくなった。
それは不意を突かれて敵に負けた時の感覚。
愚かだった。
あんなにも警戒していたのに、のうのうと隙を見せてしまった。
きゅぅうぅうぅぅ〜…
騎士の腕の中で目を丸くしていたら、部屋の端で妙な音がした。
2人してその音のほうを見たら…白い小さな塊がビクッと動いた。
「なんだこのルナティッぐぇ」
部屋の端にちょこんと座っていたルナティックを確認した瞬間、アサシンはいきなり全力で騎士を突き飛ばした。
「いやしけい…いるならいると言え。」
「なんだか邪魔しちゃいけない雰囲気だったので…」
アサシンがしゃがみこんで手を出すと、ルナティックはその手にちょこんと飛び乗った。
「…さっきのは腹の虫か?」
「〜っお恥ずかしいです…」
「待ってろ。」
アサシンはローグのペット…時には恋人のルナティックのいやしけい(もちろんローグ命名)をテーブルの上に置くと、逃げるようにキッチンに行った。
「…とりあえず、腰かけてください。」
「え…あ、ああ。」
やたら器用に人の言葉を話すルナティックに進められて、とりあえず椅子に腰掛けた。
よもや目の前にいるルナティックが、以前自分が犯そうとしたプリーストの真の姿だとは思うまい。
以前、酷い目に遭ったというのに
被害者のローグもいやしけいも、やたら騎士と気まずさなどなく普通に話していた。
なんだか騎士を警戒しているのはアサシン1人だけで、少し浮いていた。
4人でテーブルを囲んで、お菓子なんかをつまみつつ雑談を交わしている。
とりあえず、着けといわれたのでアサシンもその席についているが
大して会話に加わらず、話もあまり聞かずにぼーっとしていた。
「…あ?」
騎士が不意に目を丸くして、アサシンの顔に手を伸ばした。
周りに友人たちがいるからだろう、今度は彼は構えたりはしなかった。
「…ピアス、付けたのか?」
そう聞いて白い髪を掻き上げた。
そうしなくても元々髪は短いため耳朶はちゃんと見えているが。
以前は何もなかったはずの場所に、目立たない小さなピアスがついていた。
「ああ、クリスマスに開けたんだよな。穴が定着するまで俺のを…」
ローグが淡々と話していたら、いきなり騎士席から立ち上がった。
「ちょっと来い。」
そう言ってアサシンの腕を掴んで別室に引きずりこんでしまった。
抵抗などしていないのだが、彼はやたら力んでいた。
「…助けた方がいいと思うか?」
「…いや、邪魔しない方がいいかと思います。」
居間に残されたローグとルナティックはそれだけ確認し合い、またお菓子に手を伸ばした。
「…何だ。」
よりによって親友達の寝室に移動してしまったのが気になるところだ。
騎士は側に寄り
「動くなよ。」
それだけ言ってアサシンの耳元に手を伸ばした。
「…ッ!」
次の瞬間、ピリッとした痛みをそこに感じて、思わず相手の胸を突き飛ばした。
「…やっぱまだ定着しきってなかったな。」
耳朶の痛みに眉をしかめていた。
血ではない体液がピアスホールから滲んで、穴を押さえていた指を濡らす。
騎士の足元に、何かが音をたてて落ちた。
ローグに借りていたピアス。
それを騎士は容赦なく踏みつけてしまった。
「おい、それはアイツの…」
文句を言う前に、また抱き寄せられて
手を引き剥がされた耳朶に柔らかく、湿った感覚。
舐められていることに不思議と気持ち悪いとは思わなかったがやめさせようと掴まれた手を引いた。
この体格の良い騎士相手に自分の力ではびくともしない。
「やめろ。膿んだらどうしてくれる。」
低い声でそんな悪態を突くくらいしかできる抵抗は無かった。
「何、勝手に開けてんだ。」
そんな苛立たしげに言われる意味が分からない。
いつでも腕の中のアサシンを自分の物のように言う。
この男は勝手過ぎると思った。
「他人のピアスなんか付けて。」
「俺の勝手だろう。」
「その穴塞げ。」
「何故。」
「俺が開けなおす。そのつもりであのピアスもお前に送ったんだからな。」
「…。」
何も抵抗ができないまま、耳朶に触れていた唇で言葉をふさがれた。
唇を舌で割ろうとしていたが、拒んだ。
それに気づくと相手はすぐに諦めた。
その潔さが、この男にしては意外だった。
今度は首筋に唇が当てられた。
けれど、それだけで騎士はしばらく動かずにいた。
「……。」
ただ強く抱きしめられる。
少し苦しかったが耐えられないわけではないので放っておいた。
「悪かった…」
「…は?」
散々自分勝手なことを言われ続けたあとに突然謝られて、思わず驚いてしまった。
さっきから苦しかったのに更に強く抱きしめられて、少し息が詰まる。
謝るくらいならこの腕を解いて欲しかった。
「散々あのローグとプリーストに言われたし、自分でも分かってるんだがな…」
「何が。」
「俺の自分勝手さ。」
少し唖然としてから、自覚あったのか、と呟いたら笑われた。
「昔から…そうなんだよな…。
欲しいと思うものは全部力ずくで奪い取ってたが…
本当に欲しいと思うものは奪い取れるようなもんじゃなくて
結局卑屈になって、自分で壊しちまって、終わりだった。」
騎士がベッドに座り、その足の間にアサシンも座らされて後ろから抱きしめられている。
立ったまま、強い力で抱きしめられたままなのが辛く、それを訴えたら何故かこの体勢にされた。
「…例えば?」
彼が望んだ、壊してしまった本当に欲しいもの。
それが気になって、聞き返してみた。
「一番始めの記憶は…母親の愛情だったな。」
その答えに、なるほどと納得した。
それは確かに奪い取れるものではない。
「どうしたらいいか分からずに、結局母親を疲れさせて病院送りにしたしな。」
内心、うわー…とか思ったが、顔にも声にも出さなかった。
「その後も、まぁ求めたのは全部そんなもんで…好きな奴なんかいなかったが愛情ばかり欲しがってたな。」
「俺にそんなものを求めるなよ。」
「アンタにはそんなもの望んでないさ。」
しっかり着込んだ装束に手を入れられ、左胸の心臓の辺りを手のひらでなぞられる。
酷く脈打ったのは、一瞬だけ心臓を攫みだされるような錯覚を覚えたから。
相手の手は少しだけ冷たい。
「アンタそのものが欲しい。」
それは告白なのか。
耳元に触れた声が、熱かった。
「…それはまた困る要望だ。」
率直な感想を口にしたら、また笑われた。
「初めは、鎖にでも繋いで一生飼ってやればいいとか思ってたが…そんなんじゃ満足しないのも分かってた。」
「……。」
装束の肩口に顔を埋められる。
この男はこうしていれば少しでも満たされているのか。
とりあえず、抵抗はしないでおいた。
何かを求めて、けれどそれを得る術を知らず、卑屈になる。
それはアサシンも同じだった。
今尚、満たされず、退屈や孤独にいつも怯えて、それを常に傍らに感じている。
時々生まれる黒い感情。それを持つのは2人とも同じなのだろう。
それを抑えているか、表に出しているかの違い。
「けど、あの妙なローグとプリーストに説教されるは相談させられるは…
馬鹿な話なんかしてたらな…少しだけ見えた気がするんだ。」
「満足する方法?」
服に入れられた手で装束を少し脱がされて、露出した首筋に騎士の唇が触れる。
「とりあえず、我慢してみたくなったな…。
我慢して、アンタに真直ぐ向き合ってもらえるまで頑張ってみたくなった。」
「…良い改心だと思うが、言ってることとやってることが違うんじゃないか?」
アサシンの暖かい肌を唇と手のひらで貪っている。
「アンタが嫌がればすぐにやめるし…許しが貰えるまで抱いたりしない。」
「…俺が最後まで受け入れなかったら?」
少し振り返ってそういった瞬間、騎士は苦虫を噛み潰したような顔をした。
それほど辛いことなのか。
少し驚いて見ていると、無理矢理作ったような笑みを…どこか自虐的な笑みを浮かべた。
「多分、耐えられなくなったら…お前を、壊しにいくかもな。」
「…かも、じゃなくて…そうなんだろ。」
騎士はその先を答えないが、肯定と取れた。
「何故、そんな貪欲に何かを求められるんだ…」
アサシンは騎士に軽く体重を預けながら、ぼんやりと呟いた。
「手に入らないなら、もがくのも面倒だろう。自分から切り捨てられないのか。」
質問と言うよりも独り言に近かった。
騎士はなるほど、と後ろでうなずいていた。
「そうやってさっさと切り捨てられるのがアンタの性分なんだろう。
どこまでも欲深くて、手に入らないと気がすまない…それが俺の性分、それだけだ。」
返されたその言葉に、共感できた。
穴の開いた耳朶を甘噛みされて、鈍い痛みが走った。
「俺とお前は、やっぱり似てるんだな…」
アサシンの呟きに、騎士は「何が」と聞き返してこなかった。
力を抜いて、されるがままになっている彼のその言葉の意味を知っている。
彼の口から再度言ってもらうまでもない。
その唇を後ろから指でなぞり、口内に侵入させた。
2人とも何かを求めて、けど得られなくて卑屈になっていた。
白い髪の青年は求めることをやめて目をそらし続けていた。
黒い髪の男はがむしゃらに力任せに得ようとしていた。
「…お前は俺に何を求めてるんだ?」
アサシンは首だけを騎士に向けて、聞いた。
ずっと求めていた蒼い瞳がこちらを見ている。
騎士はガラにもなく、応えられている嬉しさで泣きたくなった。
「アンタが俺を受け入れて…傍にいてくれればいい。」
不思議と、今までと違って食いつぶしてしまおうという凶暴な欲はなかった。
アサシンは傍に誰かがいれば満たされる。少なくとも、孤独を誤魔化せる。
騎士は腕の中の青年が手に入れば、それで満たされる。
互いの利害が一致しただけ。
「…分かった。」
その言葉で、騎士がどれだけ胸を締め付けられたか
本人は知らないだろう。
触れられるところが熱を持ち出し、脳を侵し始めた。
朦朧とする熱の中で、床に落ちている壊れたピアスを見つけた。
それを見て思い出し、アサシンは口を開いた。
「…一応、言っておくが…」
「うん…?」
「このピアスホール…お前に貰ったやつを…つけようとして、開けたんだからな…」
「分かってる。だがファーストピアスだからって他人のを付けて欲しくなかったんだ。」
「…本当にッ強欲、だな…」
「それが俺だ。」
それ以降、言葉を発する余裕など無くなった。
毒のように熱が全身にまわる。
この男自身が強い毒だろう。
けれど、それでも空虚なこの自分を満たしてくれるなら
毒でも何でも飲んでやろう。
騎士は許しを得ていない為、アサシンを最後まで抱くことはしなかった。
確かに言っていることは本当だった、が。
「これでどうやって部屋からでろって言うんだ貴様…」
装束は完全に肌蹴けさせられて、露出したところには吸い付かれてできた鬱血の痕。
「…うむ、満足。」
「聞けよ人の話。」
「いや、やっぱお前はこうやって乱れてる方がそそる…」
こめかみに容赦ない鉄拳が飛んだ。
(´ω`)カッコイイ男の絡みを書きたいとか思ってまたまた突発的に…(ぁ
_| ̄|○|||かっこいいか?これ…
ただ難しいことづらづら言ってるだけなのでは…!?
(・∀・)秘儀『ページ稼ぎ・話してるだけ』!!!(逝ってよし
とりあえず、騎士×アサシン なんとか結ばれました。…結ばれてますよね?(聞くな)
この2人に関しては、なんだか面倒くさいやりとりがいろいろと浮かぶけれど
何故かエロが浮かびません。(゚Д゚;)珍しい…(爆)
とゆーかこの2人がヤるときってどんなだろう…。
昔の強姦しか浮かばNEEEEEE
てか今でも強姦風味にヤッてSOOOOOOOOOO(チネ)
そしてこの2人の小説を書くとき
毎回お腹を壊してるのは、いやしけいの呪いですね(なんざそら)
(;´ω`)毎度毎度こんなん読んでくださる方に正露丸を捧げます。(謎/そしてお前が飲め)