朝起きたら、少しだるくて、喉や鼻が痛かった。

―風邪、引いたか…

ベッドと、本棚と、小さな雑貨の入った棚だけがある質素な部屋に、小さな咳が響いた。
ベッドからもそりと起き上がったのは髪に少し寝癖をつけた、アサシンの職にある青年。
寝起きで少しどろんとした青い瞳白い短いによく映えている。
彼は少し痛みのある喉と鼻をかばう様に、口と鼻を手で覆った。
朝の冷たく、乾いた空気が痛い。

いつもは治るまでジュースでも飲んで適当に寝ていたのだが
ここに一人暮らしをしていた時に酷い風邪を引いて、たまらずアルケミストから買った薬があった。
半ば慌てて置きだし、部屋にある小さな棚からそれを探した。

同居人がいる今、風邪など引いて心配させるわけにはいかない。
やっと、ちらかった棚の奥の方に小瓶に入ったそれを見つけた。
何錠だか忘れてしまったが、適当に3錠口に放り込んで水も使わずに飲み込んだ。

寒い。
薬を飲み終わって立ち上がったらめまいがした。
引き初めではなく、もうすでに本格的に引いていたようだ。
今日は何処にも行かずに寝ていようとベッドに戻って横になった。







こんにちは、お久しぶり オア 初めまして
時には人間、時にはルナティックのいやしけいでございます。
おかげさまですっかり人間の言葉にも慣れて、買い物も一人でいけるようになりました。

えー、初めましての方に説明しますと
私は初めは何の変哲もないルナティックでしたが
ある日ルナティックをこよなく愛するローグにペットとして飼われ始め
その愛故か、青箱から出た人型クッキーを食べたら
なんと、
私は人間の姿になってしまったのです…!!!!


って力入れても、知ってる方には「今更かよ」ですね。

そんな私の身の回りの方を紹介しますと
ご主人のローグさん、その親友の優しいアサシンさん
そして最近そのアサシンさんにストーキングもといアプローチをなさっている騎士さん。
アサシンさんも騎士さんも同じギルドに入ってらっしゃいますが
あまり積極的にメンバーの方と交友なさっているカンジではないですね。


まぁ、それは置いといて
私は今、買い物にプロンテラの野菜売り場へやってきました。
とりあえずネギを買いに。

じつはアサシンさんが風邪をひいてしまったようなのです。
朝、冷蔵庫にあったケーキを食べて良いか、部屋へ聞きに行って
なんだか苦しそうな声で鼻声な気がして、風邪かと聞いたら「寝起きのせいだろう」とシラをきられ

思いっきり布団を剥いで服をひん剥いて脇をくすぐったら
寒さと苦しさと恥ずかしさとくすぐったさに観念してやっと風邪であることを認めてくれました。
まったく、人に気を使って風邪なのを隠すなんて、謙虚にもほどがありますね。

そんな風邪引きさんのために、風邪にいいというネギを買ってまいりました。

「で、これをお尻に突っ込むんでしたっけ?」
「それが言いたくてわざわざ1本買ってきたのか。」
一本のネギを片手にニヤリを笑みを浮かべて聞くと、アサシンさんは冷や汗をかいて布団にもぐりこみました。
布団の中から勘弁してくれ、と弱弱しい声がします。

「冗談ですよーとりあえず首に巻きましょう。」
布団の中のアサシンさんを引きずり出して、ネギで首を締め上げ…おっと、首に巻きつけてあげました。
アサシンさんは風邪で苦しいのか、もうどうにでもしてくれ状態でした。

おでこに手を当てると、ものすごく熱くて、少し汗をかいていました。
でも私の手の冷たさが気持ちいいのか、アサシンさんは一瞬、気持ちよさそうに目を細めました。
うーん、元がカッコイイ人なので、こんな顔されるとちょっとときめいちゃいますね。
私はご主人一筋ですが。

「どうですか?治りました?」
「…とりあえず、ネギくさい。
それはよかった。じゃあ、ご飯作ってきますね。」
野菜売り場のおじさんに聞いたら、風邪にはニラや玉子酒がいいというので
その辺は買い揃えてきました。
料理は好きなので腕がなります…!



「ん、お粥作ってるのか?」
私がキッチンでお粥を煮ながら玉子酒を作っていると、ご主人が起きてきました。
ご主人は目覚めは早いですが起き上がるのが遅いです。
「ええ、アサシンさんが風邪を引いたようなので」

言ったら、ご主人は目を丸くしました。
「アイツが?…珍しいなァ。」
「結構、体丈夫そうですからね。…お粥もういいかな。」
私はエプロンをはずして、お盆の上にお粥と玉子酒を乗せました。

そのとき、家の扉がノックされました。
「ご主人、お願いします。」
私はすでにお盆を持っていたので、お客さんの方はご主人にお任せしてアサシンさんの部屋へ行きました。







人に看病をしてもらうのは…思えば初めてかもしれない。
幼いころのことは覚えていないので、10歳以降のことだが。
…ついでに言うと首にネギを巻いたのも初めてだが。

「お粥と玉子酒持ってきました。」
だからそんな声がして、良い匂いの料理が届けられていることが夢のようだった。
ネギの匂いがなければそれに素直に感動できたものを…。
そして軟らかい手が額や首元に触れてきて、とても心地よかった。

「体は熱いけど…まだ寒いですか?」
寒気は相変わらずで、小さく頷いた。
さっきから、天井がぐるぐる回っているような気さえするのだ。今回のは久々に重症かもしれない。

「じゃあ、お布団もっと持ってきますね。あ、お粥食べれますか。」
食べたら吐き戻してしまいそうな気がするが、空腹は感じていた。
食べたいところだが起き上がってそれを取れる気がしない。
けれどそれは言うのは気が引けたので頷いておいた。

白い、綺麗な聖職者は微笑んで部屋を出て行った。
看病してくれる人がいてくれて、以前より良い環境のはずなのに、落ち着かない。
迷惑をかけていて気が重い。

けれどそれ以上に、今は具合が悪い。
だるくて、力が入らなくて
とりあえず全身の力を抜いて、眼をつぶった。










不意に眼が覚める。
暗い。
だがうっすらと見える天井がぐるぐる回って
体も回っているようで…

「……っ」

いきなり、気持ち悪くなった。
吐くかもしれない。
起き上がろうと体を支えた手がガクガクしている。

「…ひっ…」
胃から何かがこみ上げてきたのを感じた。
手が…

またベッドに倒れてしまいそうになったところを誰かに支えられた。

だめだ、吐く…
「う、ぇっ…」
涙と一緒に込み上げてきたものが、咽喉に焼けたような痛みをもたらした。
そんな切羽詰った状態で、なぜか走馬灯のように何かが見えた。

怒鳴られて、殴られる
怒られる。

それは多分、忘れている記憶の断片だ。

背筋が冷たくなったのに、吐き気は抑えられなかった。
耐え切れず、支える人の手から離れることもできずに込み上げてきたものを吐き出した。
けれど相手はそれを分かっていた様で、口元に紙袋のようなものを当ててきてくれた。
それだけが救いだった。


全て吐き終わった後、体が異様に軽く感じた。
寒気はないが、あまりに暑すぎて体の感覚がない。
熱が、そうとう上がっているようだ。

「…っめ、なさ…ぃ…」
体を震わせながら、なぜかそんな言葉が口をついて出た。
言おうと思って言ったのではない。条件反射のようだった。
けれど相手は大丈夫、というように背をなでてきてくれた。
それでハッと我に返った。

「熱、相当上がってるんだろ。薬は飲んだのか?」
耳元で聞こえた声は予想していないものだった。
寝る直前にいたのがいやしけいだったので、てっきりいるのは彼かと思っていたが
いたのは、同居人2人ですらない、黒い髪に黒い瞳。
同じギルドのメンバーで、ちょっとした腐れ縁の騎士だった。

「…寝る、前に…」
その男がいたことに少し動揺したが、気にしていないフリをして答えた。
彼は持っていた紙袋の口を縛り、ゴミ箱に捨てて
変わりに濡れたタオルを口元に当ててくれた。
まだ彼に横抱きに支えられたままだ。

「寝る前っていうと朝だよな。もう一回、何か食べてから飲んだほうが良い。」
「…ぁ、今、何時…」
「さあ?とりあえずもうすぐ日が暮れる。」
少ししか寝た実感がないが、だいぶぐっすり眠り込んでいたらしい。

「…お前、いつから…」
「アンタが寝てからすぐに来た。」
「…朝から…?」
「まあな。ちょっと寝顔見て帰るつもりだったが、あまりに苦しそうだから離れるに離れられなくてよ。…薬どこだ?」
彼の返答に唖然としながら、小さく、あの棚の中の小瓶だと答えた。

「お宅のプリーストサンが作ってくれたぜ。お粥でも食べるの苦しいだろうからって」
そう言われて、結局いやしけいが作ってくれたお粥を食べられなかったことを思い出した。
しまった、それなら無理にでも食べてから寝ればよかった。

彼が薄暗いランプの中で持った皿には、なにやら白いどろどろした液体が入っている。
「バナナをつぶしてミルクと混ぜたヤツ。俺がガキの時に作ってもらってた。」
では騎士の方からいやしけいに、これにしてくれと頼んだのだろう。
彼に支えられながら口に運んでみた。
食べやすくて、痛い咽喉にもすんなり通った。

「…残してもいいからな。少し食えば薬が飲める。」
言われて、朝、空きっ腹に薬を入れてしまったことを思い出した。

食べられないこともなかったが、あとのことを考えるとあまり食べられなかった。
手を止めたら、彼が口元に薬を差し出してきてくれた。
それを放り込んでもらって、飲み込んだ。

皿を渡して、またベッドに横にしてもらった。
それで一息ついてから

「…すまん。」

思いっきり彼に甘えてしまったことに気づいた。
「気にすんな。むしろその方がイイ。」
視線を合わせて謝ると、彼は何故かうれしそうにそう言ってきた。
…そんなに無視したり冷たくした記憶はないが。

「…大分楽に、なった。もういい。」
朝からずっと看てもらって(頼んではいないが)いたのでは悪い。
できれば早く帰ってもらいたかった。
「…こんな状態のお前から離れたら、心配でおかしくなりそうだぞ。」
…そんなに、酷い状態だろうか。確かに、大分楽になったと言いながらも全然楽じゃないが。

「…汗かいただろ、寒くなってこないか?」
そういわれて、服がものすごくびしょびしょで少し背中が寒くなってきていた。
…何故、彼はこんなにも気が利くのだろうかと眼を丸くした。
看護士か?

「体拭いて着替えたほうがいい。それのせいでまた風邪をぶり返したりするからな。」
「…一人、で」
一人でできるから帰れ、言おうとしたら、待て、と即とめられた。

「俺の前で脱ぐのは不安だろうが、起き上がりもできないくせに一人じゃできんだろ。」
別に、彼の前で脱ぎたくなかったわけではない。
ただ彼に迷惑をかけたくないだけだ。
「病人にがっついたりしないし、お前からお許しが出るまで手はださないと言っただろ。」
なんだか、断っても帰らない様子なので、仕方なく頷いた。


薄暗くて静かな部屋の中で、上着を脱がされて
相手が小さく息を呑むのが聞こえた。
…そうゆうことするから不安になるんだろうが、と心でつっこみを入れた。
彼が(一方的な)約束を守ることは信用しているので別に不安じゃなかったが。
そして異様に素手で肌に触れないように気を使っている様は少し面白かった。

タオルで上半身を隅々まで拭かれて新しい服を着せられると、その肌触りの良さで少しだけ癒された。
「ありが、とう…」
また横にしてもらって、それをいったら…眼を丸くされた。
「何だ…」
「ん、いや…アンタも人にありがとうとか言うんだなーと思って。ほら、なんか見た目に寄らず愛想悪いし。」

…この男に俺はどう見られていたのだろう。
礼も謝罪も挨拶もちゃんと普通に言う。
「…あ、あれだな。俺ずっとアンタに敵視されてて冷たくされてたから。」
そういわれれば、今ではすっかり忘れていたが一時期は
この男を撃退するために+9トリプルブラッディジュルなんてものを購入したほどだった。

「忘れてたな…」
ぼんやり言うと、またこの騎士は驚いていた。
今度はなんだと思ったら、今度は彼はうれしそうに笑っていた。
「じゃあ、少しはアンタに近づけたんだな。誠実になってみるもんだな。」
そりゃあ、昔のコイツのようになんでも力づくでこられたら警戒もするだろう。


「もう、大丈夫だから、帰れ。」
朝からいてもらってる上に、ここまで面倒を見てもらっては申し訳ない。
早く、かえってほしかった。

「…迷惑か?」
「違う。」
「ならいいだろ?」
「だが…」
「俺は好きでここにいるんだ。それに、アンタが遠慮してそう言ってるなら尚更置いていけない。」

熱のこもった額に、彼の手が乗せられた。
これだけで心地よい。


もう彼を帰らせるのも面倒になって、心地よさに目を閉じた。





前半で。異様にいやしけいとアサシンを絡ませたくなりました(爆死
なんかルナティック×ローグよりも、騎士×アサシンよりも
ルナティック×アサシンの方がなんかやりやすいんですよ!!!(謎

(´ω`*)私は全然風邪引かない馬鹿なのでむしろ変態なので(ォィ)
あんまり風邪の症状は分からないのですが
体の弱い兄の体験談を聞いていたら、異様に風邪ネタ書きたくなりました。

そもそも「そろそろ騎士とアサシンは結ばれてもいいわよね〜」と思って
ぶっちゃけ ヤ ら せ る た め に 書き始めたのですが
(゚Д゚;)アサシンを重症にしすぎた(爆)
この状態でやらせたら何度色気なく
吐きまくって死ぬことか

(´ω`*) とりあえず治ってからw (それでもやらせる気か)


先日、尊敬サイトさまのリンクにうちのホムペが載ってて
ビックリして内臓を吐きながら友人にメッセしました。
(゚Д゚;)恐れ多くて当人様に何も言えてないですが、感動で目から鱗が(ぁ
(つД`;)シありがとうございましたー
見てくださってるかわからないけど…なら直に言えって?無理、鼻血がでます(爆





















*書く場所が無かったのーん。*




「ぁー…そこのプリさん」
「え、はい?」
ご主人と朝食にしていたら、アサシンさんの様子をちょっと見てきた騎士さんがお盆を抱えて戻ってきました。
それは私がアサシンさんに作ってあげた病食でした。
「…アイツ、お粥も食えてないみたいなんだ。」
「あら本当だ。…何なら食べられるんでしょうか…」

「多分、もちっとよくなったら食えると思うから、それはとっておいてくれ。
あと、アイツの看病…俺にやらせてくれないか?」
なるほど、看病して高感度アップをねらうのですな!
そうゆうことなら協力しましょう!
看病の実習もしたかったのですが。
にっこり微笑んで、私はうなずきました。

「…それと、前は悪かったな。」
「…はい?」
いきなり謝られて、一瞬何かと思いました。
そして少し遅れて…

「あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
そうだ、私は以前この男にイヤラシイことされて汚されて…っっ
「まあっ思い出しましたわ!!あのときはよくも私の貞操を汚してくれましたわね!!
懺悔なさいお詫びなさい悔い改めなさいっっっ!!!!!」
「「いや、なんでカマ口調なんだよ」」

ご主人と騎士さんの同時ツッコミ。
ノリです、ノリ。
「いやまぁ別にいいですけどね〜おかげでそのあとご主人でオイシイ思いできましたし。」
「おいっ!!」
「…ご主人?」
騎士さんが“ご主人”の語に首を傾げました。
しまった…この人は、私がルナティックだって知らないんだった…!!

「…まぁ、スルーしとくよ。」
…お気遣いありがとう騎士さん。
でもその目は絶対「・・・こいつら、こうゆう趣味があるのか」とか思いましたね…!!!!
てゆーか私が攻めですから!!!!

まぁ、せっかく本人がこうして謝ってくれているので…
「まぁ、アレです。本当に後悔してるなら」
「うん…?」
「ヤる時のテクニック伝授してくだs」
「どぅあっしゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!1」

ものすごい気合でご主人に私たちは殴られました。
…てか騎士さん何も言ってないのに…