<Knight Side>
『実家に帰らせてもらいます。』
朝起きたらそんな置手紙があったりして…とか、何を阿呆な想像をしているんだ俺は。
必死に抑えていたのだが、恋人を欲望のままにしたいという欲求は同居を始めたことをきっかけに解放されて
昨晩彼を散々な目に遭わせてしまった。
行為に区切りができれば、しまったと思い激しく後悔するのだが
腕の中で朽ち果てて今にも壊れてしまいそうにしている男の姿を見る度に、俺の方が狂ったように暴走を始め、また彼を抱く。
そしてまた後悔して…
そんなことを何度も繰り返した。
努力したとはいえ流石に…あきれられただろう。
だから彼が目が覚めれば、さっさとどっかへ行っているのではないか不安になった。
というか、現に彼が寝ていた筈のベッドに俺一人でいる。
ドクン、と自分の心臓が大きく脈打つ。
絶望、けれど怒りにも似た感覚。その対象は逃げた彼にか、自分を抑えられなかった俺自身にか。
冷えている空きスペースのシーツに触れ、それを掻き毟るように爪を立てた。
湧き出る黒い感情。
少しでも冷静にあろうとしていた俺を汚していくもの。
昔の理不尽で傲慢で残酷であった俺を呼び起こそうとするもの。
いつも愛しく思うあのアサシンを犯したいと思っていたもう一人の俺。
「起きたか。」
幻聴かと思うほど丁度良いタイミングで、あのアサシンの声が聞こえた。
ベッドに座っているような状態のまま後ろを振り返ると、昨日と同じアサシン装束を来た彼が平然と部屋の入り口に立っていた。
昨日、限界まで犯されて息も絶え絶えになっていた姿など微塵も見せずに。
スッと目を鋭く細めて、後ろ手に扉を閉めて近寄ってくる。
耳に届く靴の音はアサシンという職業上殆ど聞き取れず、けれど何故か神経が過敏になっている俺には感じ取ることができて、目の前にいる青年が幻でないことを証明している。
「瞳孔が開いてるぞ。」
言われて、自分が目を見開いて彼を幽霊でも見るような目で見ていることに気付いた。
情けないところを見られた…
口元を手で覆って、息を吐いた。
「目が覚めたなら食うか?」
そういって手に持っている手提げ袋を揺らし、テーブルに置いた。
その足取りがいつもどおり音がない、けれどふらついていることに気付いた。
やはり、あれだけやられて平気な筈は無い。
今にも倒れそうな気がして、思わず駆け寄って抱きとめた。
「…悪かった。」
気のせいだろうが、やつれたように思える肩を後ろから抱いて、髪に頬を埋めた。
朝にシャワーを浴びたのか、まだ湿っていてシャンプーの匂いがした。
すぐ傍でため息をつくのが聞こえた。
「そのセリフ、前も聞いたと思うが。」
けれど、それしか言い様が無い。
他に言葉がないか探したが、結局もう一度囁いただけだった。
「悪いと思うなら、床を片付けて今日一日俺を休ませろ。」
昨日俺が落としたワインと瓶の破片とその上に被せられた木綿の服がそのままだった。
「分か…あ、傷は…?」
瓶の破片で思い出した。
昨日、あれの破片で彼の胸を傷つけた記憶がある。
我ながら馬鹿なことをしたと思う。
「治してもらった。」
彼の声は掠れていた。
「誰に。」
嫉妬したのかもしれない、彼が俺に何も言わずに治療を受けに行ったという相手に。
気が付けば眉間に皺が寄っていた。
「プリースト。」
そう言われて思い出したのは、昨日も来ていた彼の親友の恋人のプリースト。
「流石に引かれた。切るのはまだしも、噛み千切るのはよせ。」
「…噛み千切った、か?」
「肩を。見るか?」
肩越しに意地の悪そうな笑みを浮かべてそう言う。
首を横に振って、記憶に残る彼の肩口の傷を服越しに抑えた。
「やっぱ…一緒に暮らすのはよした方がいいな。」
そう提案した俺の声は情けないほど力が無い。
本当は放したくない、これで終わりになんてするつもりは無いが、やっと得た宝物を放してしまうような気がしたからだ。
それをこのアサシンも分かっているんだろう。
鼻で笑うのが聞こえた。そして彼は一人呟くように…
「…昨晩のお前はいい顔をしてた。」
「……は!?」
あまりにも意外なことを言われ、本気で驚いて声をあげた。
いい顔…?
怖い顔とかやばい顔の間違いじゃないか…?
「いい顔というか、お前が本性曝け出してるという感じか。」
「…ああ…」
確かに、暴走していたからそんな顔もしていたかもしれない。
それがどうしていい顔とか言うのか分からないが…。
「とりあえず、ベッドに寝かせてくれ。」
立っているのも辛いらしく、そう言いながら俺の腕を抜けてベッドにふらふらと歩み寄り、倒れるようにして横になった。
彼を放っておいて一人で飯を食べる気にもなれず、なんとなく横になっている彼の脇に座った。
<Assasin Side>
「ひょっとして…『実家に帰らせてもらいます!』ってやつですか?」
「違う。というか俺の実家はここなのか。」
傷だらけの身体を引きずってここまで来て、出迎えの第一声はそれか。
まだ日も上がりきらない早朝、あのローグは夢の中だろうがよく寝るくせに早起きのプリーストなら起きているだろうと思っていた。
ふざけたことを言っていても俺が辛いのはよく分かってくれているようで、すぐに部屋に通して座らせてくれた。
出された温かいはちみつレモン水カラカラに乾いて掠れた喉に染み込むようで、今ほど他人に感謝したことはない。
「悪いが、ところどころ傷があるんだ。それで消毒とヒールを貰いにきた。」
「え、もしや下のクチ」「肩と胸だ。」
なんとなくそういうのではないかと思って、即座にそう答えて上着を脱ぐ。
さっき服を着る前に自分の身体を見て俺自身が絶句してしまった。
肩から腹あたりまで続く大きな十時傷に、赤い肉がわずかに剥き出している肩の傷。
両方血は止まっているが、それでも少し前には大分出血していたのだろう。
まだ酷く熱を持っていて痛む。
「うわ…過虐SMプレイですか」
「何の話だ、何の。」
引くかと思われた相手はこの傷口を見て何やらときめいている。
…どこをどうしたらこんな性格に育つんだ。
ふざけたことを何度も言ってはいるが、彼の処置は適切で素早かった。
本当のプリーストでもないくせに、昔はヒルクリがないとできなかったヒールも随分効果が出ている。
ああ、本当のプリーストでないというのは余談だ。
一通り処置が終わると、彼は真顔になって隣に座った。
彼は俺が今まで見てきた中で一番妖艶な容姿をしていると思う。
長い髪も、紅い瞳も、それを覆う白い睫毛も、白く透き通る肌も、人間離れしている。
しばらく同じ屋根の下で暮らしていて、何度か目を奪われたことがある。
「何があったんですか。夜の(*´Д`*)ハァハァにしては酷い傷じゃないですか。」
こうゆうコトを言う辺りが玉に瑕だと思う。
「…あの男にこうゆう趣味があるだけだろう。」
「あの人がこんなことするとは思えないんですがねぇ。」
彼があの騎士の何を知っているんだろう。
大して話したことも無いはずだが。
「まぁ、私なりの野生の勘といいますか、あの男には危険なオーラがあるのですよ。」
「危険なオーラ…」
彼の言いたいことがなんとなく分かる気がして、小さく頷いた。
最近は感じられなかったが、以前は近付くもの全てを無残に切り捨ててしまうような、全てを敵に回しているような、そんな雰囲気があった。
いつの間にか俺の周りの人たちと仲良くしているからそんな雰囲気はすっかり感じなくなっていた。
昨晩までは。
「そうですね、例えるなら虎が人間の皮を被っているような感じですね。穏やかな顔していてもすぐ下に狂気を持っているのを感じるんです。」
騎士となんでもなさそうに話していた彼がそんなことを感じ取っているとは正直思わなかった。
「…それは、俺も思っていた。」
「でしょう。でもあの人は必死にそれを隠したままにしていました。特にあなたの前では。」
「……。」
それは知らなかったので思わず目を丸くしてしまった。
きっと、この青年にしか分からなかったことだろう。
「だから、あの人があなたをこんな目に遭わせたかったと思うはずはないんです。」
―――すまない…俺は……
まるで休み休み続けられる拷問のような責め苦の中で、あの男の辛そうな顔と謝罪の声を何度か聞いた気がする。
痛みばかりであまり意識できていなかったし、今まで忘れていたが。
「だからですね」
俺の思い悩みもお構い無しで彼は話を進める。
「あなたが我慢しているだけじゃ、あの騎士さんも可哀相です。
まあ、あなたが極Mならいいで」 「だが我慢する以外にあいつと関係を続ける方法はないだろう。」
また余計なことを言いそうだったので、彼の言葉の途中で邪魔をさせてもらった。
彼はしばらく視線を浮かせてなにやら考えていたが、それから不意にこちらを見てにっこり笑った。
「…よく、聞いてくださいね?」
その微笑みは、いつもと違って
どこか真剣な微笑みだと、何故か思った。
「別に、俺は平凡な生活や幸福な生活を望んでるわけじゃない。俺達には俺達の、やりかたがあるだろう。
互いに傷を負っていてもこれが俺達のやりかたなら、仕方ない、問題ない…思っていた。 だが」
けれど、あのプリーストが言うにはそれではダメだという。
一緒にいるにしても、互いに良い方向に進めと。
ただいられればいいだけではもったいないと。
俺も、この騎士も苦しんでいてはだめだと。
―――虎はね…
「虎は、飢えれば恐ろしい凶暴な獣だが、腹が満たされている時は目の前を通る兎にも手を出さないそうだ。」
ベッドの脇で心配そうに忙しなく覗き込んでくる男に、半分眠り込みそうになりながら話していた。
俺はいまいち気が利いたことは言えそうにないが、半刻ほど前に聞いたあのプリーストの声を思い出しながら話していた。
―――だから、あなたが…
「だから、俺がお前を飢えさせなければいい。」
「……。」
「一方的に食い尽くすばかりでは、終わりなんか目に見えている。」
―――そうやって共生するのが
「そうやって、共生するのが恋人とか…そうゆうものだろう…」
言っている最中もうつ伏せでいるので隣の男の顔は見えない。
もう言うことはないかとしばらく枕に顔を埋めて考えていた。
けれど疲労がたまりまくっている中、無理をして治療を受けにいったりしたあとで、完全に睡魔に飲み込まれかけていた。
もう考える思考が働かない。
―――飼いならせばあの虎はずっと傍にいて一番にあなたを守ってくれます。孤独や寂しさからも。
「…だからアンタはずっと、俺を守ってくれ。」
「…っ」
半分眠りながら呟いた俺の言葉に、相手が息を呑むのが聞こえた。
それから、もう完全に力を抜いて眠ろうとした。
「お前以外に俺の飢えを癒せる者はいない。」
すぐ耳元で低く透き通るような彼の声。
昨晩の暴行を思い出させるような性急な手付きで身体を仰向けにさせられ、アサシン装束の懐に入れられて胸を撫で上げられる。
それでも俺の最大級の眠気が覚めることはない。
下手をすればこのまま犯されていても眠っていそうだ。
いや、それは眠りというより気絶か。
唇を重ねられて、力の入らないそれに舌を割りいれてくる。
けれど後ろ髪を指で梳きながらの口付けは乱暴なものではなく、味わうように舌を絡ませるだけ。
ただ居様に長かったが、愛撫のようなその動きを苦しく思うことはなかった。
それが終わってから、渾身の力を振り絞って瞼を上げるとぼやける視界にあの黒い瞳があった。
「このアサシンが手に入るなら何もいらない。俺だけの存在を全身全霊で守り抜くだけだ。」
彼が自身に言い聞かせているようなその言葉は俺の身体にそっと染み込んでいく。
おやすみの代わりに俺の頬を撫でてくる手にそっと触れて、彼に後頭部を支えられたまま全身の力を抜いた。
虎に包まれて眠るかのように、安らかで深い眠りに落ちていく。
<Aother Side>
どうやら私の恋人の親友さんカップルは無事に丸く収まったようです。
あの内に凶暴性やら闘志やらを隠し持っている似たもの二人です、釣り合いがとれているのですから上手く共生できれば最強カップルになることでしょうな。
アサシンさんには私と今の恋人との仲を取り持ってくれた恩があることですし、今回は恋のキューピッドとしてがんばりました。
安堵のため息をついて、私はヘッドフォンを外し、とある裏路地の壁にあけられた穴の中に設置された黒い箱からヘッドフォンのコードを引き抜きました。
そしてとなりにあった木箱をその穴を隠すように積んで…
ん?これは何かって?
そりゃあまああのお2人の行方を見守るためのキューピッド通信機といいますか…。
盗聴器とか言わない、そこ。
確かに夜の(*´Д`*)ハァハァの音も拾っちゃったりしますけど、ここにきてヘッドフォン挿さないと効果がないので問題ありません。
とか言いつつ昨日の夜ここにきて挿してハァハァしていたわけですが。
まぁそれはさておき、そろそろ私の大切な人が起きる時間ですし、戻りましょうか。
一番大切な人とか恋人とかとは、やっぱり分かり合って支えあっていきたいものです。
私はそれを今の大切な人と学び、そのきっかけを与えてくれたあのアサシンさんにもわかってほしかったんです。
私はこれからお2人が寄り添って生きていく学び舎を振り返って、心の中で祝福して、
私の大切な人のもとへ帰りました。
*END*
終わりがいっぱいいっぱいですみませ・・・っ
SMな最中とか時間があれば書きたいなぁと思っているけれど…
書きたい書きたいといいつつ結局最後まで書けないこのいい加減な純B型の血が恨めしいy=ー(
゚д゚)・∵.
初めて読む方の為にもいろいろと本家での設定を出さないようにしてみました。
にしても、名前がないとはホントウに不便だ…
誰が何をしゃべっているのかわかりにくかったとは思うけれど、それを尚説文才は僕には…orz
この某プリがTUEEEとか言われました。
彼はいざとなればなんにでもなれるので(ぇ)今回も強くなって頂きました。
総合的にショボくて申し訳ない orz
素敵な小説の中に駄作を失礼しましたっ
でもレス下さるかたありがとうございますっっ