[あの4人のとある日常]



ちは。
初対面の奴は初めてマシテ。
俺は冒険者で騎士職に就いてるもんだ。
名前は

「ワン騎士さん〜お夕飯はご飯におみそ汁をかけますか?それともおみそ汁にご飯を入れますか?」
「………。」
誰がワン騎士だ。
しかも飯と味噌汁のミックスは決定かよ。
…あのプリースト、後で泣かす。

…ん?何の話をしてたんだっけか。
まあいいか。
俺は今、人様の家に上がってリビングのソファで踏ん反り返るってるんだが…

落ち着かねえ…。
というか苛立ちが治まらねえ…。
「そんなにピリピリしないでワン騎士さんwさあ、今日はご馳走ですよ〜」

とか言いながら、白髪にうさみみの生えた美青年プリーストが俺の前に飯を置いた。
「てめえ、いい加減シメんぞ」
「ぎゅふっ」
もうシメてるが。俺は気が短えんだよ。
変な呼び名に加え、今度は飯と味噌汁を掻き交ぜて焼鮭の骨のっけた飯なんぞ出しやがって…

「ただいま…うわああああ!!!てめえ!俺のいやしけいに何しやがる!!!」
ふざけたプリーストをこのまま永遠に眠らせてやろうかと思ったが、惜しいとこで家主が帰ってきやがった…。
俺は仕方なく、襟首掴んで持ち上げてるのびたプリーストを、帰って来た彼の恋人であるローグに突き返した。

「っ、おいアンタ!いくらあいつの恋人だからって許………」
息巻いていたローグは俺を睨みつけると、絶句して口を開けたまま固まった。
別に俺が思い切り睨み返してたからではないだろう。

「…おい」
家の入口には凛と立つアサシンの姿。
俺は恋人である彼に抱き着いてキスの一つでもくれてやろうとした
が、顔を抑えられた。
…チッ

「……なんだ、その耳は。」
アサシンはさっきのローグと同じく唖然として俺の頭を見ていた。



それは数時間前に遡る。
アサシンが友人のローグと狩りに行ったため、俺は暇していた。
そして町をぶらぶら歩いていた。
「…あ、騎士さん調度いいところに!!」
突然声をかけてきたのは…そのローグの恋人であるプリーストだった。
いつも見るのは殆ど室内だが、外で見ると一段と人間離れして綺麗な男だなと思った。

「おう、何だ。」
「今お金ありますか!?」
「まあ、あるな。」
「貸して下さい!400k!」
「…また微妙に大金だな…おら。」
「ありです!そしてそのまま付き合って下さい。」
奴は金の入った財布を差し出した俺の腕を掴み、そのまま引きずる勢いで引っ張っていった。

そして俺達が行き着いたのは何の変哲もない露店だ。
そこでプリーストは何か白いほわほわしたものを買っていた。
「はい!」
いきなり振り向きざまに俺の頭にそれを乗せてきた。
頭にくっついたそれを、少し遅れて手探りした。

「…猫耳か?」
「いえ、子犬耳です。」
「なんだそりゃ。」
レアものには鼻が利くが、流行とどーでもいい装備にはてんで興味ない。
子犬耳なんてあんま見ないから、最近売り出されたものだろうか。

「おい。」
「とってもお似合いですようっは受けくさっ」
「…おい。」
「ぷぎゃああああ!!!」
何が嬉しいのかぴこぴこ動いていた奴のうさ耳を左右合わせてぎゅっと引っつかんでやった。
まぁ世界は広いもんで、こうゆう種族がいるんだろうコイツのうさ耳は本当のナマモノだ。

「み、耳は…急所だって…」
「だからやったんだろ。つーかこれ、とれねえぞ。」
「へ?」
俺が自分の頭にくっついたその耳をかなり強引に引っ張っているのを、奴は目を丸くしてみている。

「…こっちから見てると、子犬虐待に見えるんですが痛くないんですか?」
「頭皮は痛ぇが耳は痛くねぇな。」
「ただの付け耳のはずなんですけど…ちょっとお店の人に聞いて」

やつが聞いてみようといい終わる前に、店を振り返った俺達は固まった。
そこには誰もいない、ぽっかり空いた露店スペースだけ。
俺らがごちゃごちゃやってるうちに帰ったか、それとも…逃げたか。

「…そして、誰もいなくなった。」
「訳の分からんこと言って誤魔化すな。」
グキッと音がなりそうなほどに、俺はやつの耳を捻じ曲げてやった。





「…ってわけだ。」
苛々してる俺はソファでぐったりしながら、ことのいきさつを話した。
話してる間中、ずっと俺の頭上を見ては笑いに震えている3人が腹立たしくてならない。

「まぁ、びっくりしたなぁ。俺はてっきり、アンタの正体がコボルドだったとかそーゆーことかと。」
ふざけたこと言ってるローグに呆れたため息をついた。
んなふざけた童話みたいなことがあってたまるか。

じっと隣に座って、俺の恋人がじっと見てくる。
…珍しく食いついてるな。
やたらあのうさ耳プリーストがなついてるし、ひょっとしてこーゆーの好きなのか…?

「この耳。」
「なんだ、気に入ったのか?」
「キモい。」
ま、アンタならそう言うだろうな。
にしてはものすごい凝視してるが。

「…痛覚は通ってないんだよな。」
「力づくでもぎ取ったら頭皮も持っていかれそうな気がするがな。」
最終手段として、買った金が勿体無いが耳の根元から切断だろうな。

アサシンは俺の頭上を見たまま、思わぬことを口走った。
「…お前に合わせて動いてるぞ。」
「…は?」

は、と呟いたら頭上でピクッと何かが動いた。
…思わずそれを抑えた。
「いって…」
思わずベシャッとそれを潰したら…痛んだ。

…“痛い”?
くにゃりと折れ曲がっている耳の先を試しに摘んでみた。

「……………。」

ぐにぐに。

ぐいぐい。



「…痛くないと思い込もうとしても耳が真っ赤になってるぞ。」
隣から言われて、仕方なく俺は観念して呆然と呟いた。
「…どーなってんだ。」

「ひょっとしたら徐々に同化してるのかもな。」
そんな怖いことがあってたまるか。

「……。」
俺は無言で、あのウサギプリに詰め寄った。
奴は怯えて後退しているが、遠慮なく全力で睨んで奴に掴みかかった。

「まぁお前は知らなかったことだ、これはトラブルだ、その辺は勘弁してやろう。」
「は、はひ…」
赤い瞳を目いっぱい潤ませている様子はまるで小動物だ。
加虐心を擽られる。

「ただし、貸した金と慰謝料はきっちり返してもらうぞ。」
「…い、いしゃりょう…」
殺気を込めて、奴ににーっこりと笑いかけてやった。

「…さあ、体でも内臓でも売っ払って金作って来い。」
「きゃあああああああああああ!!!!!」
首根っこ掴んでバタバタ暴れる奴を引きずって部屋を出ようとした。

「やめてええええ私の内臓はルナティック仕様なんですよおぉぉぉ!!」
ルナティック仕様ってどうゆうことだ。

恋人の危機に助けて入ろうとしたローグを全力で睨みつけた。
長年悪事をしていると人をビビらせる方法だの、竦ませる睨み方だのが分かってくるもんで
久々にそれをやってやると、ローグはしばし硬直した。

「アサさん〜!!」
「…そいつはやると言ったら本当にやるからな。頑張れよ。」
プリーストの救助要請もむなしく、俺の恋人は彼にそんなことを言って手を振っている。
まぁ、自業自得に違いない。

これが赤の他人だったらマジでやってやるところだが、まぁ縁のある相手だ、手加減はしてやる。
…知り合いのオカマ・バーに放り込む程度にしておいてやろう。

「コイツを始末したら、この耳引っぺがすの手伝ってくれ。」
「…カタールと素手、どっちがいい。」
こいつも、こうゆうことをマジでやる人間だ。
まぁそう思い切りがいいところも惚れた点だが。
「素手でダメならカタールで。ハゲたくはねーからな。」
「了解。よく研いでおいてやる。」





耳は無事に頭から引っぺがせたが、案の定髪もブチブチいきやがった。
どーやら市場にいくらか出回ったパチモンで、どっかの阿呆が神経繋げて動かせないかと試行錯誤して違法製作したもんだったらしい。
痛えのを怖がってすぐに取らなかった奴の中には、一生犬っ子として暮らさなければならない哀れな奴もいたようだ。

ああ、で。
あのプリーストはどうなったかというと

「お帰りなさいませ、ご主人様ぁ。お夕飯できてますよぉ。」
猫なで声で、どこから持ってきたのかカプラの制服着て、恋人のローグとベタベタしてやがる。


…俺が放り込んだ先で新境地を見付けちまったらしい。
ま、そんな感じで。
また一山超えて、平和な日が過ぎていく。




久々にいやしけいたちを書きたいなぁと。
騎士アサにしたいなぁと思って騎士視点から始まったのですが
もうカプは全然関係なしになりました。
パロディな方向で!