昔から口下手で、何を考えているのか分からなくて気味が悪いと言われていた。
そのせいか、今こうしてなったアサシンという職業が型にはまっているといわれる。
…一部の友人は、ただの天然ボケだというが。

そんなものだから友人と呼べるのはごく小数だったし、ギルドに入っていることはよく驚かれた。
だがそのギルドも暇だったから入ってみただけで、メンバーと親しいわけでもないし、そんなに話すことはない。

はずだったのだが、最近異様に話しかけられる。



「ねえ、君は結構料理得意?」

前触れもなく話しかけてきたのは副マスターのハンター。
よく気を使ってくれる優しい女性だ。
ちなみにこのギルドのマスターの妻だ。

「別に。1人暮らしが長かったから…」
「苦手ではないのね?」
なんとなく嫌な予感がしたが、うそをついてもしかたがなのでうなずいた。
彼女は「うっし!」とか言って嬉しそうに手を叩いた。

「お願いがあるの!女の子に頼もうと思ったんだけど、皆駄目だったから…」
その言葉の先は用意に想像出来た。
なぜなら明日は…

「チョコとお菓子の作り方教えて…!!」

バレンタイン・デーである。




とくに用があるわけではなかったので、副マスターの頼みを聞き入れた。
DEX豊富なハンターでありながら彼女の殺人的な料理センスは噂で聞いていた。
マスターの命のためにも、チョコをしっかり完成させてやろう。

そう思い、ギルド宿舎の台所に来たのだが…

「まぁ、男前アサシンの料理教室、って感じですねぇ〜」
そんなことを俺の後ろで言っているのはダンサーの少女。
副マスターと彼女の他に、ギルドメンバーの女性2人
計4人が台所内で俺を取り囲んでいる。

4人一斉というなれない視線を感じながら、俺は材料と道具の確認をしていた。
「…ん、カカオが一個分多いな」
当初の予定の1人当たりのチョコの量でいくと、5人分あった。
でも必要なのは4人だし、残すのも勿体無いので、頭の中で1人当たりの量を計算しなおしていた。

「え、君の分入れて5人分でいいんじゃない?」
計算中に副マスターにそう言われて、それを中断した。
「…俺は別にいらないが。」
「え、だってーあの新入り君に作ってあげるんじゃないの?」

新入り、と言われて誰のことか理解するのに少し時間がかかった。
このギルドに最近入り、いろいろあっていつの間にか俺と恋人同士になってしまった騎士。
ちなみに男なのだが、俺は昔敵対していたあの騎士にキズモノにされたし、親友と勢いで付き合っていたこともあったので同性同士ということにあまり抵抗がない。

「…男だから意味がないと思う。というか副マス、誰に俺達のことを聞いたんだ?」
そう聞くと、女4人がいっせいに黄色い歓声をあげた。
「「「「キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!!!」」」」
「?!」
息の合った4人の声に、少し驚いてカカオを腕ではじいてしまった。

「ああ、ごめん。いや、誰に聞いたってわけじゃないけど。二人結構よく話してたし、あの新入り君やたら君にべったりでしょ?
それにピアスもなんか似てたし…もしかしたらそうゆう関係かなぁって思ってたの。」
「それにあの騎士さんがうちのギルドに入ったのは貴方が目当てっぽいことを言っていたので。」

やたら鼻息荒い女性四人に囲まれて、なるほどと納得していた。
女の勘、というやつか?
俺達がくっついたことでギルド内のカップル率が100%になるくらいこのギルドメンバーは色恋沙汰が好きだから、その勘も鋭いのだろう。

「とにかく、いつも何かと貢がれているし、お返しとしてチョコ作りましょうよ。」
副マスターが荒い鼻息を抑えつつ俺に詰め寄ってそういう。
俺が貢がれた品物は足していけば1千万ゼニーは軽く超える。
それのお返しというなら相応の価値のあるものの方がいいと思う。それだけの品を俺が軽く用意できるとも思えないが。
だが、いつだったかにせめてもの礼にとエルニウムをいくつか渡したら即付き返された。

――― こんなものが欲しくて貢いでるわけじゃないぜ

一緒に付き返された言葉。
だったら何が欲しいんだ。高価なものは受け取らない、日用品も受け取らない。
…あの男なら“お前が欲しい”とかふざけたことを言いそうだが、別に体の関係もあるし恋人という枠組みの内だ。

「…そうだな。」
一応チョコも高価なもののひとつだ。
受け取らない気がするが試しに作って渡してみるか、と手の中のカカオを転がした。





マスター、副マスターを中心にメンバーの半分が住んでいる、ギルドハウスでの料理教室を終えて、恋人と同居している宿へ戻ってきた。
薄暗い夕暮れ、部屋にはランプが灯してあって例の騎士が帰ってきているとすぐに分かった。
「お帰り。」
「…ただいま。」
この男に呆れたり、殺意を持ったりしたこともあった。
それなのにこうして生活を共にしてお帰りなどと言われるなんて、なんて可笑しな展開なのかと思う。
昔は当然思いもしなかった。
けれど、誰かが出迎えてくれる、誰かが帰ってくる、というのはこんなにも心地よいものだと知った。
こうゆう時だけ、彼が居てくれてよかったと思う。

彼は部屋の灯り以外のランプをテーブルの上に置いて、何かをしている。
数歩近づくとすぐに生臭いような血の匂いがした。
「…怪我をしたのか。」
「ああ、蝶の羽を忘れて、回復財無しで歩いて帰ってたらやられた。」
回り込んでみれば処置が遅れて少し膿んでいる傷が見えた。
ポーションで傷は塞がり痕しか残っていないが、その皮膚の下に水が溜まっている膨らみがところどころにプツプツある。
それを抜くのにまたナイフで薄く切ったらしい。

彼の処置の様子を見ていると大分大雑把で、先の処置で汚れた1枚の小さな布を何度も何度も使い続けている。
「布1つを横着するな。せっかく膿みを切り出してもまた出てくるぞ。」
「腹が減ってるんだ。早く終わらせて飯食おうと」
「馬鹿か。そんな理由で傷を酷くするな。」
予備の布を持って、イスを引き寄せて彼の隣に座り、テーブルに肘掛けた彼の腕を掴む。
親友がよく怪我をする奴で、何度も治療させられたため慣れてはいる。

「…腹が減った。これは自分でやるから、アンタは夕飯作ってくれ。」
「また大雑把にやるんだろう、いつまでも治らんぞ。」
ふと先程作ってきたチョコレートを思い出して、荷物鞄から可愛いラッピングのされた箱をだして、中にある柔らかいチョコレートの玉の一つを彼の口に押し付けた。
目を丸くしたものの、彼はそれを大人しく食べた。

「甘いものを食べれば少しは収まるだろう。それで我慢しろ。」
また治療を再開する。
今度は騎士も文句を言わずに大人しくしていた。
膿みも出して消毒をして綺麗な包帯できっちりと巻き終わり、道具を片付ける。
「…上手いもんだな。」
治療痕を見て彼はなにやら関心したように頷いていた。
「長い間一人で暮らしていれば、嫌でも慣れるだろう。」
「…あのローグは?」
「俺が留守を預かっていただけだ。別に一緒に暮らしてはいない。」
「ふぅん…?」

彼は意味ありげにこちらを見ながら唇の端をあげている。
「…何をにやけてる。」
「いや、俺が初めての同棲人ってことでいいのかって思ったらな。」
薄暗い部屋の中でこちらを見据える黒い瞳、白い髪に青い瞳の俺とはどこか正反対に思える、とよく言われているそれに寒気がする。
俺はもう彼に嫌悪感を抱いてなどいないが、彼の髪と瞳の漆黒を見る度に…体が熱くなり背筋だけが冷たくなるような感覚に見回れることがある。
目をそらして救急箱を元あった棚へ戻す。

「このチョコ、あんたが作ったのか?俺に?」
治療中に開けてそのままにしてあるチョコの箱を指差して彼が言う。
軽食程度のものだが、夕飯を作っている間も食べないでそのままにしておいたらしい。
「…副マスターが、チョコの作り方を教えろというから作りに行ったら材料が俺の分も用意されていたから。」
「なんでそんなムキになって言い訳するんだ?」
別に言い訳のつもりはなかった。けれど素直にお前の為に作ったとは言いにくくて言葉を濁そうとしたのは確かかもしれない。
返す言葉が見つからず、苦し紛れに黙って手元の食事に手をつける。

突然横から腕を強く引かれた。
「っ…」
座っていた椅子から引き離され、座った騎士の足の間に挟まれて抱き寄せられる。
立てひざのような体勢なのに上半身だけ抱きかかえられて膝が浮いている、少し苦しい体勢。
「っん」
そのまま唇を相手のモノでふさがれる。
騎士の唇は重なり合うという生易しいものではなく、俺に拘束するように強く押し付け、声も息さえも飲み込もうとしている。

酷く強く抱きしめられているのもあって暫くして酸欠気味になり、離せと身を捩って腕を動かした。
そうすれば少し不満げではあったが相手は腕を緩め、唇を離した。
やっと膝が着いて、呼吸が楽になる。
この男のキスもセックスも、強引で荒すぎて好きではない。

ホッとしたのもつかの間、彼はまた俺の顎を掴み顔を上げさせて再び口を塞ぐ。
互い口の間に感じる異物。
それが味ですぐに俺が作ったチョコだと知れた。

「…んっ、う…っく、ん…」
俺の口の中で、彼が舌先でチョコを転がし、広がる味を喉のほうまで追いかけんとする。
甘い中を掻き乱して、深く侵入してくる。
その行為が初めての感覚で、首を動かして拒む。
だが頭をがっちりと掴まれた。
「っ、はっ!…はぁ、んっ!…っふ、んぅ!」
何度も何度も唇を離させようとするが、やっと開放されたと思えばまた追いかけられてむさぼられる。

唾液に混じったチョコレートが口の端からこぼれそうになるのに気づいて、それを口の中に留めておくために彼の舌も受け入れる。
唇を塞がせて、少しづつ飲んでいった。
そうすれば抵抗するよりは楽だった。

「…お前のためにつくってやったチョコだというのに。」
「こうやって食った方が美味い。」
また顎を持ち上げられて、唇を汚しているチョコを舐め取られる。
まだ息苦しい、けれど抵抗すればどうせもっと苦しくなる。
なるべく応えるように入り込む舌を受け入れる。
舌を絡め取られ、歯列をなぞって、頬の裏の柔らかいところも、舌の付け根も、全て蹂躙される。

「…っ、…ぅ…」
大分長い時間口付けされているのは俺の気のせいではないだろう。
酸欠気味で頭がクラクラして、もうやめろと首を振って逃れようとした。
満足していたのか、頬を押さえつけられたままだったが名残惜しそうに彼は離れた。

「…したい。」

強請る様に率直に言われて、眩暈がした。
返事を欠片もしていないのに、我慢できないと言いたげに既にアサシン装束を肌蹴られる。
慌てて首元に埋められようとしていた彼の顔を押さえつけた。
「…少し、休ませろ…」
拒むつもりは無い。
拒んでそのツケが後に回り、ボロボロにされて後悔するのは俺だ。

一息ついてから胴や胸を押さえる帯を外して、そのまま座る彼の下にしゃがんだ。
足の間に体を入れてベルトを外しにかかると彼に止められた。
「先にお前のを抜かせないと、慣らしもしないで入れるだろう。」
いつも我慢できないと、後孔を慣らしもせずに突き入れられていた。
前回もそうされて、次は先に抜かせてやろうと思っていた。

抑えた内腿は騎士らしくガッチリとしていて、取り出した性器は行為になれたようで大きさも色も禍々しい。
自分から積極的に動くのは嫌いだが、仕方ないとそれを口に含んで竿を扱く。
そんなにしたこともないので勝手がいまいち分からない。
「っ、ふ…くっ!」
撫でるように髪に指を差し込まれたかと思えば、引き寄せられて彼も腰を動かして口の中を犯してくる。

要は一度イッてくれればいい。
後で俺が痛い思いをしないですむようにしてくれれば。
少し祈るような気持ちで、それにしゃぶりつくようにして愛撫した。

「んっ、んん……!」
また苦しくなって涙が滲み始めた頃、彼がやっと口内から自らそれを抜き出した。
「目ぇ閉じろよ…」
彼自身の手で搾り出すようにして促された吐精で、熱い体液が顔にかけられる。
腹が立つより、やっと一段落したと安堵した。
どうしてこの男は普通の恋人同士のように安心させてはくれないのか。
キスひとつにしても、こちらは苦しくないようにと気遣わなければいけない。

「早く…」
ボソリと呟かれた。何かと首をかしげるうちに引き倒され、うつ伏せにされたままズボンを下ろされる。
少し舐めただけの指が露出した臀部を、挿れる合図のように軽く撫でて、ズルズルと押し込まれる。
「っ…う…」
すべりが悪くても、無理矢理押し込まれる。
けれどたいした痛みは無しに指は埋って、すぐに中をかき回し始めた。

頭の上でするあの騎士の熱い呼吸。
気になって少し上半身を捻り後ろを見ると、俺の期待とは裏腹に彼のものはもう既に怒張している。
「…少しは萎えろよ…」
「お前がこんなことしてきて、無理言うなよ」
思惑は外れて、どうやら彼を煽ってしまっただけのようだ。悔いて唇を噛んだ。

結局、また軽く慣らされただけで腰を後ろから持ち上げられ、行為に及ばれる。
唇を噛んだままでは危ないと思い、口を閉じて奥歯を噛み締めた。
そして内臓まで突き込まれそうな彼の性器の動きを感じ、ビリビリと響く痛みに息をつめた。
この体が自ら相手のモノに慣れるまでの辛抱だと、呼吸無しで拳を握って耐える。
「っは、はぁ…、はぁっ…」
痺れたその内壁だが、経験上で全て入れ終わったと悟り、やっと深い呼吸をした。

入り口から直腸内をいっぱいに広げて体内にある凶器。
それを感じる度に、吐き気に近い快感が走る。
素直にそれを好いと感じられないのは、この騎士のやり方が過去に俺を無理矢理犯したのと変わっていないから。
それ以外のやり方を知らないのかもしれない。
いつも、殺されそうな気さえする。行為の後の反省した犬のような様子を思うと、それはないと安心できるからいいが。

脳内麻薬に侵されて床に這い蹲る俺を見下ろす彼の瞳はまた獣の殺意を黒く光らせているだろう。
今の体勢がうつ伏せでよかった。あれを見ないで済む。
あれを見るとどうしても萎縮して、この行為が一層恐ろしく思えるから。

「う、ぁ…っく……」
体を唐突に揺さぶられる。
もう何度も経験済みだから俺のが裂けるということは無いだろうが、それでも鈍い痛みと付き込まれ内臓に響く衝撃は何度味わっても苦しい。
何度も酸欠になりかけたのと、性的な感覚をなんども刺激されて血が上ったせいで、既に意識が混沌としてめまいがする。
優しくしろなどとこの男にとっての難題を押し付けるつもりはないが、せめて早く終わってくれることとこれで満足して暫く大人しくなってくれることを祈った。

「…中、すげぇ気持ちイイ…」
「っぁ…かった…からっ!…早く、イけ…!ぁ…」
中の感じるところを擦りあげて、何度も打ち込まれる衝撃。
快感に煽られた血が全身を激しく流れどこもかしこも熱い。
背後の騎士に擦られている内から体内を激しく食われそうな恐怖で脳髄のどこか一角が寒気に震える。
けれどそれ以上に熱い。意識も感覚も熱に溶かされる。

撫でるように髪に指を差し込まれて、それから鷲掴みにされて顔をあげさせられた。
「っは…ァア…!…ん、あ…はぁっ!」
下を向いて声帯を押さえつけていたのに、仰け反る喉から喘ぎが開放され漏れる。
自分の情けない声を聞いて、涙も滲んできた。
「声、聞かせろ…」
「っ…ふ…っあ、く…」
漏れる声は抑えられないが、抑えようとしているのは彼にもわかってしまっただろう。
別に反抗するわけではないが、聞かせろといわれると自覚する羞恥心で聞かせたくないと思ってしまう。

「っ…!」
突然、彼に左足を跨がれ、右足の膝上辺りを掴まれ、持ち上げられる。
腰を上げていると股関節が悲鳴をあげていて、痛めないように自ら体を横倒しに床に預けた。
少し、ほんの少しだけ休めるかと思ったが、またも期待は裏切られ、彼の足の間にあった左足が抜かれ持ち上げられた。
うつ伏せであったはずなのに、いつの間にか見ているのは天井で、暗闇に彼の姿が浮かぶ。

「…ぁ…」
ランプを消すのを忘れていた。というより消す余裕が無かった。
あれを消していれば、まだ彼の姿は暗闇にぼやけてよかっただろうか、それとももっと…恐ろしく、妖艶に見えただろうか。
とても遠くに感じるテーブルの上の灯りで照らされる目の前の男の黒い髪に黒い瞳。
見たくないと思っていたのに。

過去に散々恐れていた騎士の姿を思い出す。
最近は穏やかになっていたと思っていたのに、抱かれている時にはそれが浮き出る。
心臓が止まってしまった気がした。
「っ…ん!」
彼がニヤリと笑んで、白い歯が少し見えた。それが牙にすら思えた。
そうした瞬間に心臓マッサージを受けたように、唐突に苦しくなって止まった心臓が激しく脈打ち始めた。

噛み付くように唇を押し付けてくる。
両手をそれぞれの手で押さえつけてきて、指を絡ませてくる。
足の間を貫くモノをまた激しく動かし、粘膜を荒らされ分泌を促された体液が湿った音を漏らす。
どこもかしこも行為は乱暴。

「っあ…ァア!…っく…いき、たい…っ」
「OK」
全身が痺れ始めて、感じ始めた限界。
開放を求めると、満足し始めていたらしい彼は素直に聞き入れてくれた。
運が悪いと拒まれて、こちらの射精無しでなんどもやらされるから、心から安堵した。

行き場の無い快感に苦しんで頭を擡げていた俺の性器に彼が指を絡める。
慣れた手つきで数秒扱かれただけで、もうそこが脈打ち排泄感に似た開放を腰から感じ始める。
体がビクンと痙攣して、背がおかしく反れそうになる。
「く、ぁ…ああっ!…っあ…ん…ッ!」
頭がもやがかかったように白く、視界的には黒くなる。
一層強く突きこまれて、それを引き金にこちらの熱は開放された。

「あっ!!く、ぁ!!!」
射精直後で敏感な体に、休み無しでまた数回激しく内をあらされる。
それだけでまた萎えた性器が熱を持ちそうになる。
けれどその前に、彼がなんとか動きを緩やかにしていた。
先程の衝撃に荒らされた内壁が痺れて、精液が既に注がれているのに気づかなかった。

熱くなったその交わるところに行為の終わりを感じて、眠気が襲ってきた。
「…おい…抜け。」
掠れた声で言うが、入れたままのモノを彼が抜く気配が無い。
抜かないまま2回目、2回と言わず何回も、というのは数え切れないほどある。
けれど、最近はちゃんと彼を飢えさせずにやらせていたから大丈夫だと
「我慢できん。」
思っていた。…思っていたかった。

「…………後の処理、全部やれよ。」
「分かった。」
先程のしばらく空白は、彼なりに葛藤があったのだろう。やめろ、やめたくないの。
その脳内の会議を思うとおかしくなってきて、もうどうでもいいと思い始めた。
どんなにこの男が乱暴者だろうが、こちらはもう妥協している。
こんな俺を求める限り、俺は彼に応えるしかないと。



それでも、少しは不満はあるし、腹は立つ。
「ニンジンのジュース、20個作っていやしけい呼んで来い。」
ベッドにぐったりとうつ伏せている俺に、彼が何かして欲しいことはないかとたずねてきたからそう応えた。
結局、俺の妥協をいいことに満足してもなお行為を続けた彼のおかげで、腰やら腿やら尻の痛みはもちろん、吐き気もおさまらない。

彼が何やら不満げに口を尖らせた。
「あのニンジン好きのプリーストか。」
そう言うのは俺がいやしけいと呼んだプリーストのこと。
人間離れした白い髪に赤い瞳の美しい青年だ。
何故かこの騎士は彼をあまり好いていないようだった。いやしけいを目の前にすればそれを表に出すことは無いが。

「なんでアイツなんだ?」
「…治療を受けたくても、一般のプリーストは俺の職業がら無理だろう。ギルメンに診せたくない、原因が原因だから。」
「20個も要るのか?」
「手数料と治療費だ。彼の場合、金よりそっちのほうが喜ぶだろう。」
それに、作る手間がこの騎士へのちょっとした仕返しだ。

質問はもうなくなったようだが、彼はなにやら不満げだった。
俺の望みなら頼みもしないのに平気で寝ずにダンジョンに篭る彼が不満げにしているというのはおかしい。
「何が、不満だ。」
聞くと応えにくそうに彼は頭を掻いた。
「…アンタが…あのプリーストには心を許してるカンジが、してな。前々から思ってたんだが。」
ばつが悪そうに言ったそれの意味が分からず、目を丸くした。
つまりは…俺がいやしけいに気があるとでも?

ため息をついた。
呆れた。ここまで彼を甘やかしていて、ずっと傍に居て、それでも俺が他に気があるとでも思っていたのか。
呆れを通り越して少し腹が立つ。
「…俺は、こんなだからな。抑制効かない欲だらけ、だし。昔お前に酷いことをした。」
「昨晩もしただろうが。」
「………すまん。」

朝のこの男は面白い。
すでに出かける支度をして騎士の甲冑をまとい、強い容貌をしているのに今にも子犬のように縮こまりそうに反省している。
彼なりに自分の性質を嫌っているのだろう。そして俺に見限られないかとどこかで怯えている。
そういえば可愛いものだが正確に言えば、やっと定めた獲物が手中に入り渇きが癒され始めているのに、今逃したらこれから何も手にできなくなるのでは、と恐れている。
この男の場合、獲物である俺を逃せばそれへの愛しさは憎悪に変わる。
それは今まで一緒にいてよく分かっていた。

それに怯えて一緒にいるわけではない。
純粋に彼が俺を望むのなら満たしてやりたいと思っただけだ。
欲望は果てなく、例えいつか憎悪に変わってしまうものだったとしても、付き合ってやりたいと思った。
この騎士は温かい愛情を受けたことが無いだろう。俺にそんなものはないし、俺もまたそれを知らない。
ならば互いに無いもの強請りをして寄り添ってみたいと。

だから、捨てられるとか、逃げられるとか、そんな心配など無用なのに。
恋情や愛情は移ろいやすいというが、俺達には端からそんなものは無い。
変わらない、欲望や切望や孤独からの逃れを互いに押し付けあっているだけ。

「こっちを向け。」
そう命じて、従った彼の首に手をまわし、引き寄せながらこちらも状態を反って起こし、軽く唇を重ねさせた。
すぐにまた白いベッドにうつ伏せて、息をついた。
「互いに困った恋人を持つもの同士で、アイツとは話が合うだけだ。俺にはお前しかいないって、分かってるだろう。」
何か、こちらから慰めのような、恋人らしいようなことを言ったときの、彼の驚いた顔は好きだった。
腹のそこから笑いがこみ上げる。

それを噛み殺して、口元に笑みを浮かべるだけでとどまらせた。
「お前に心底あきれ返るか、恐怖してるなら、さっさと逃げ出してる。一緒に暮らしたりなどしていない。それに…」
それに、と続けたのは、彼の肩越しに昨晩食べたままのテーブルの上に、俺が作ったチョコの箱が置かれているのに気づいたから。
「あんなもの、作っていない。」
それでハッを目を見開いて、テーブルを振り返る彼の姿にまた笑いがこみ上げる。
過去にあんなに憎く思い、また恐ろしく思った男のこんな姿が目の前に見えるなんて、なんて滑稽な話。

「とりあえず、ニンジンのジュース。即効で頼む。」
「…わかった。」
手袋のまま枕に頬を埋めた俺の髪を梳くように撫でて、彼は剣を抱えて出て行く。
颯爽としたその後姿は勇ましいものだと思う。

けれど、あれがこれからルナティックやポリンを追いかけてニンジンと空き瓶を拾い集め、大量にジュースを作るのだろう。
彼がいなくなったのを気配で確認してから、耐え切れずに吹きだして小さく声を出して笑った。



ちなみにホワイトデーにもらったのは丁度欲しかったテレポクリップ。
未だに彼が何が欲しくて俺に貢ぐのか、ハッキリとは分からない。
けれど、俺が何か言ったときに驚くあの表情。あれが最近彼の望むものなのではないかと思い始めた。
俺のバレンタインチョコの礼のテレポクリップを渡すとき、彼はどこか満足げだった。そのチョコが彼の欲しいものに近かったからではないか。

多分、彼が俺に求めるのは…俺から彼を求めること。
俺が彼へ向ける気持ちなのではないか。
そう思った瞬間、少しこの騎士に近づいた気がした。









(・∀・)毎度!終わり微妙です!!
orz スイマセンスイマセン駄作と思いつつも、どれがウケがいいのかとか、萌えってなんなのか、エロってなんなのか(それは要るのか)
勉強すべく作品を書いてみてます。
妄想を物質化してみています。

バレンタインの意味はほぼ皆無です。
ただチョコをお口に入れてくちゅくちゅとかやらせたかっただけでy=ー( ゚д゚)・∵.
体に塗って舐めとか王道は避けてみる(妙なこだわり)
(´ω`)読むのはいいけど、ありがちなシチュエーションを書くと誰かのをパクッている気分になって土下座したくなるのです。

それはともかく、久々にエロを書いた気がします。
(゚Д゚;)昔はあんなにエロ一色だったのに!!(躍起になるところではない)
Σ(゚Д゚;三(;゚Д゚)エロくなったのかちょっと心配だったり。
ラブラブでもなく対立するでもなく、微妙な均衡の元に成り立つ二人という関係は大好きです。
どちらも折れないで長々と続いて欲しいとか個人的に思ったり。

最近文章に理想を求めすぎて、途中挫折が多い日々です。
(*´ェ`*)もうあぷろだ様に投下されるのとか、訪れるサイトのブツが素敵過ぎて…w
萌えの勉強という名目で遊びまわってまs y=ー(゚∀゚)・∵. ターン

OTZ 私もイイモン作れるようになるためにがんばってます、がんばります。






WEB拍手

気に入って貰えたらドウゾ。感想やアドバイスもお待ちしてます。
小説でるけどキニシナイでスクロールお願いしますy=ー(゚∀゚)・∵. ターン