はじめまして。
ルナティックをやっているいやしけいと言います。
あ、やっているというのは少し可笑しいですね。
あと変な名前とか言わないでください。ご主人のネーミングセンスを攻めて下さい。

でも、わたしはそんなご主人が大好きです。

わたしとご主人の出会いは半年前。
わたしは、一人のローグが拾った虹色のにんじん食べようとしているのを見つけました。

虹色のにんじんは普通のにんじんとは違って、ルナティックにはとっても貴重で幻の珍味と言われるほどの食べ物です。
けれど、それは人間にとっては、べと液よりもまずいものなのです。べと液食べたこと無いけど。

わたしはとっさに、彼の服をひっぱって、それを止めさせました。

「お、お前も食いたいのか?」

彼はそう言って、ニンジンを半分に折って、わたしの前においてくれました。
すごく嬉しいんだけど、わたしが言いたいのはそうじゃなくて…。

 

 

「ぎぃにゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

時すでに遅し。
ローグの青年は虹色にんじんをかじった瞬間、ものすごい悲鳴をあげて倒れました。

わたしはしばし呆然とした後
リンゴを取ってきて、倒れてヒクヒクしている彼の口元に押し付けました。

「うう、り、りんご……!!」

彼は口直しとばかりに慌ててリンゴにかじりつきました。
うん、なんか必死にかじりついてる彼はなかなか可愛かったです。

「あーありがとうな。死ぬかと思ったよ〜」
それはどうも。

「よかったらコレ食うか?お前らは好物なんだろ?」

じつはそれを狙って助けたんですけどね。

わたしは二つに割れたニンジンに噛りつきました。
うん、美味しい!!

「お前、いい毛してるなぁ。」
そう言って、彼はニンジンを食べているわたしの背中を撫でてきました。
その手は暖かくて、そっと撫でてくれて、なんだか気持ちよかったです。

不意に見上げると、ローグはボサボサだけど赤い綺麗な髪をしていて
顔はわたしにはどうなのか判別は出来なかったけど
なんだか可愛いです。
ペットにしたい感じでした。

「よかったら俺のペットになってくれないか?お前綺麗だから、気に入っちゃったよ。」

しばらくニンジンを食べながら考えて

この人のペットにならなってもいいかな、と思いました。
最近、ノービス君たちが増えて、狩られてしまうルナティックが増えてきたので…
ペットになれば、その辺の危険は一安心かと思います。

わたしはにんじんを食べ終わって、返事の変わりに彼の膝の上に飛び乗りました。

「よろしくな!」

ご主人は優しくわたしの体を撫でてくれました。

 

 

 

お日様が昇り始めて、すずめが鳴きだすとご主人様は目を開けます。

「ん………」

超至近距離で、ご主人と目が合いました。

けれど、ご主人は動きません。何も言いません。
ご主人は朝に弱いので、目を覚ますのは早いけれど、活動しだすのはそれから1,2時間後。
わたし達は、朝の一時間弱を、熱い視線を交わしてすごします。

ご主人の瞳の赤は、とても綺麗です。
それを朝一番に眺めるのが、わたしの日課なのです。

 

 

「おっはよういやしけい!!!!今日はスフィンクスダンジョンに青箱とりにいくんだ、付いてくるかい?!!」

ずっと無言でどろんとした瞳をしていたのに、覚醒はいきなりでめっちゃハイテンションなのです。
かなりビビります。

スフィンクスダンジョン…
そういえばご主人は週に二回くらいそこへ行っています。
そしてとても運のいい彼は大抵青箱も取れます。
しかし、今のところ開けたものはほとんど…ニンジンジュースだったのです。
それ以外は普通のにんじんとか、シルクのリボンとか…

わたしへの愛でしょうかね。

そんなこんなで、ご主人は、今度こそ別の高価なものを…
と狙っているのではなくて、ルナティックグッズがどれだけ続くかを試しているのです。

あんた、それどれだけもったいないことをしてるんだ。なんて言う無かれ。
彼は別に強くなりたいわけでも、金が欲しいわけでもないんです。
ただ、自由人で、楽しく過ごしたいだけなんです。

そうしてすごしているご主人を眺めているのが、わたしは大好きです。

 

こうしてご主人の着替えをじっくり眺めるのも好きですが。
なかなかイイ体してるわ、この男……ジュルリ。

 

ハッ。
失礼、ちょっと最近変な妄想が。

 

いつもの格好をして、腰にいろいろとつけて、ゴーグルを被って
「うっしゃー行くぞいやしけい!あ、でも途中のオアシスで朝ごはん食べような。」

…ご主人、オアシスがあるのはSDじゃなくてピラですが…。
SDこの水辺は急で座れませんよ。それに、砂もけっこう飛んでいます。

 

「あっれ〜また間違えたか…?」
ご主人はSDの前に立って、頭をポリポリ掻いていました。
そこにオアシスはありません。当然のことながら。
わたしは彼の肩の上に乗って、わからないように小さくため息。

「まぁいいや。」

いいや、ってわたしのご飯は…?

 

 

ご主人はダンジョンの2階の階段の前に座りこんで、ニンジンジュースを出しました。
きたぁー!w

「待たせて悪かったな。ゆっくり飲んでろ。」

ちゃんとくれるんだから、いいんですよご主人。

「今度の青箱、虹色のニンジンがでるといいな」
それは最高ですね!

「おっと、沸いた沸いた!ちょっくら行ってくるよ。」

階段の下にでたレクイエムやゼロム数体を見つけるなり、ご主人は走っていきました。
ご主人の戦う姿はかっこいいです。
スティールというワザで敵からモノをあっという間に盗んで
短剣であっという間に倒してしまうのです。

それはある意味強盗に見えるの気にしない。
どうせ魔物なんだからいいんですよ。

 

「きゃ、ルナティックだw」
「リボンつけてる。…あのローグのペットか。」

階段から、女の人と男の人が降りてきました。
一人はペコペコというでっかい鳥に跨っていますが。

「可愛い!ニンジン食べるかな?」
「ルナティックはジュースじゃないと。それにしても毛並み綺麗だな。」
二人は口々に言って、わたしを見下ろしてきます。

「あーすいませーん。」
ご主人が一通り倒し終わったようで、走って戻ってきた。

「ジャマでしたか?すいませんねー。」
そう言ってご主人が抱き上げてくれます。
「いいえ〜あんまり可愛いからちょっとかまっちゃってただけですから」
そう言って、女の人はヒールをご主人にかけてくれます。
プリーストさんではなく、武装しているのでクルセイダーのようです。
ちなみに男はアサシンのようです。

「どもッス。」
「いいえ〜wところでその子、しゃべらないんですか?」
「ああ、なんかしゃべってくれないですね〜。愛情は注いでるんですけど」
ご主人が苦笑いしながらわたしの背中を撫でてくれます。

実は、わたしはもうすでにしゃべれるのです。
文だって覚えましたよ。
わたしをそこらのルナティックといっしょにしないでください。
でも、ご主人の買ったペット雑誌に「言葉が話せるようになってからペットが好きではなくなった」という人が多かった…
というのを見たので、しゃべらないようにしているだけなんです。

「いつかしゃべってくれるといいですね。」
「ですね〜」
こら、女!あんまりご主人に馴れ馴れしくするんじゃない。

「ではw」
「では〜」
二人はご主人に手を振り、ダンジョンの奥へと行きました。

 

「よし。」
ご主人も奥にいきますか!

テレポの光が一瞬光って
次の瞬間には

町の宿屋の前。

蝶の羽使っちゃったんですか?

でもご主人は宿屋に上がって、部屋に入りました。
わたしはベッドの上に乗せられて、ご主人も寝そべります。
ご主人の被っていたゴーグルが枕元に置かれました。

「さて、今日の青箱は何がでるかな〜?」

 

もう取ってたんですか!運良すぎですよあなた!

 

「えいっ!……あれ?」
箱の中を見つめて、ご主人は目をぱちぱちさせていました。

「…クッキーだ。」
ご主人は人型のクッキーを手にして、ぷぅ、と頬を膨らませた。
「虹色にんじんとか出なかったなぁ。残念だね、いやしけい」

いいえ。ご主人がいてくれれば、わたしは何かを「残念だ」なんて思うことは無いのですよ。

「俺、甘いのダメなんだよな…いやしけいはクッキー食べるか?」
食べたことはありませんが、食べ物を粗末にするのは気が引けますね。
わたしはご主人が差し出した人型のクッキーにかじりつきました。

あれ…

 

虹色ニンジンの味だ!!

ご主人!すごいですよ!
甘い以前にご主人が食べたら死にますよ!!

「そうかそうか、美味しいか。ならよかった〜」
わたしがクッキーに嬉しそうにかじりつくのを見て、ご主人は満足げな顔をしていました。

 

 

しかし、このクッキーが、私とご主人の運命を変えてしまうのです…。