―――ご主人、大好きです。

最愛のペットが、人間になってから…話すようになってから、何度も囁かれた。
ソイツが毎回、ベッドの中で抱きしめながら…艶っぽく囁くもんだから、何度俺の理性がぶっ飛びそうになったことか…。
人間になってから、あの毛並みや瞳の美しさをそのままに、色っぽい体(男だが俺はそのへんは気にしない!!ゲイじゃない寛大なだけだ!!!)も加わって…
夜になるたびに何度、彼にストリップアーマーしてあんなことやこんなことをしたいと思ったことか…!!
着てるのはいつも俺の私服か、お古のシーフ服だから脱がし方なんて研究しなくても分かるさ!!

 

ローグギルドさん、こんなことにスキル使おうとしてごめんなさい。
まだ使ってないけど。

 

それはそうと、なんと言うか
そう、俺はちょっと現実逃避しようとしていた。
この現状、現実逃避しなくてはやっていられない。
冷静になんてなれません。
助けて誰か…
俺このままだとケダモノ化しそうです…

「…ご主人、ぶっちゃけ起きてますね?」

うっ…

「…ぐー、ぐー、ぐー」
「ご主人いつもいびきなんかかかないでしょう。てか今更かいても無駄ですよ。」

うっ…見破られた。

目を開けると、なんだかちょっと気まずそうないやしけい…もとい、俺のペットのルナティック(現在人間)が。
彼の顔が赤い。
…赤くなりたいのは俺だっつーの。

彼に狸寝入りを見破られてちょっと冷静になれたところで、さっきまでの状態を説明すると…
はじめはかるーくキスされてた。
目をつぶってたけど、あの感触は多分唇。
なんとなくその前から狸寝入りをしていた俺は、思わずドッキドキの狸寝入り続行。

その後、いやしけいは唇だけじゃなくて、頬とか額とか首筋とか、いろいろなところに唇を押し付けてきた。
これって、ペットにするみたいな軽いキスなのでは…と、ちょっと期待を裏切られた。

けれど、その柔らかい唇がとても気持ちよくて、愛しくて…

ドキドキしまくっていたら鼻息も荒くなっていたらしく、気づかれた。

俺たちはしばらく言葉を失って見詰め合っていた。

 

「あ、の…ごめんなさい、つい…」
ついってナンデスカ。
俺がペットみたいにかわいかったとか…?

「謝るなよ、いやしけい…」
馬乗りにされて目の前にいやしけいの顔がある。
髪が白い滝のように俺の方に流れてきて、すごく綺麗だった。
それを梳くと、サラリと指の間を流れてとても気持ちいい。

酔いつぶれる前に決心したことは、忘れてない。
『今しか、お前の気持ちをしっかり伝えられる時はないと思う』
今しか、俺の気持ちは伝えられない。
親友の言葉が俺を後押ししてくれた。

「あの…ご主人…」
「お、ぉう?」
口を開こうとしたら、いやしけいの方から先に口を開いた。
言葉をあわてて飲み込んで、変な声が出た。
「もう、一度、キスしていいですか?」

 

あの、えっと。
俺はどうすればいいでしょうか…。
あぁ、もう先のことは考えないで、
「お、うん、い、いいけど…」

いいけどじゃない、いいんだ。
もうどんどこい!!大歓迎!!!

目の前であの綺麗な瞳がゆっくりと閉じられて
躊躇いがちに、いやしけいが俺と唇を重ねてきた。
俺は心臓が踊りまくって、はたまたアサシンのソニックブローを食らってバシュバシュターンしてるみたいに大暴れしていた。
けれど、彼の瞼を見て、まつげも白くて、でも長くて綺麗だと思っていた。

「…ご主人、目ぎんぎんに開いてますね」
「えっ…ぬあっ!すまん、なんか緊張しちゃって…アハハーw」
笑ってごまかせ。
キスは初めてじゃないぞ。
ディープもちゃんとしたことはあるんだ。

けど、なんか、いやしけいのは目を閉じるのがもったいなくて、雰囲気考えずにギンギンにあけてしまった。

「ご主人…その…」
「ん、なんだ?」
いやしけいは困ったような顔をしてばかりで…
俺よりも、緊張しているように思えた。

 

もしかして、いやしけいも…

 

「ご主人にとって、私は何ですか…?」
小さく、いやしけいはつぶやいた。
そのとき俺は彼に心から感謝した。
きっかけを与えてくれた。
俺に言わざるを得ない状況を作ってくれたことを感謝した。

これを言って…
関係が壊れたりするだろうか…。
それでも、俺はこのルナティックが一番好きだから…

「最愛の…」
ヒト?
じゃないな。だってルナティックじゃん。
最愛のルナティック?
…それこそペット扱いじゃないか!!
俺はいざとなって言葉に詰まった。

目の前で縮こまってうーうー唸っている俺は、いやしけいからしたらさぞ笑えたことだろう。
けれど彼は笑わずに、真剣にじっと俺を見ていた。

「最愛…私は、ご主人の…一番になれますか?」

不意に彼がそう呟いた。
覆いかぶさってきているいやしけいを見上げれば
どこまでも透き通って紅い瞳。
白銀に輝く髪。

俺が心を奪われた小さな魔物と変わらず、綺麗だ。

「お前が一番だよ」
俺を縋る様な目で見ている彼にとても心癒されていた。
彼ってこんなに慕われているんだなァと、感動してみる。
俺がほしいのはそんなものじゃないけれど。
でも、とても贅沢だと思う。

 

「ご主人、今の私の言葉…けっこう軽くとってませんか?」
「へ?」
いやしけいがこっちをちょっと睨んできた。

「私は今、とても大事なことを言ってるんです。」
「大事なこと…?」
「ご主人の一番になりたい。」
「うん。」
「私はご主人以外の誰にもつきたくないし、ご主人も他の誰にもつかせたくないんです。」
分かってますか?と説教のようにようにいやしけいが俺の鼻先に指をあてて言う。

いやしけい自身も、受身になって思いを告げるより
少しえらそうに威張っている方が言いやすいな、などと思っていた。

「ぇ…あ、うん…」
その言葉を頭に入れてから、俺はまたうなずいた。
それを見ていやしけいは…なぜかまたため息をついた。

「じゃあ、それを踏まえてもう一度言います。」

 

 

 

何度も聴いた言葉だったのに
心臓を掴まれた思いがしたのは…その真意を今度こそ受け止められたからか。

涙が出そうになった。
さっき口付けをされた唇と頬が、熱い。
そこから感染するように、熱が全身に回る。

―――なんだ、俺…馬鹿みたいだ。

 

俺の乾いた笑いを見て
いやしけいは目を丸くした。

そんな目をするなよ。

少し曲がっていたみたいだけど
いやしけいも俺と同じ気持ちだったってことでいいんだよな?

コイビトにしていいんだよな?

 

「俺はさ…なんだか、人間が好きになれないんだ。人間嫌いってわけじゃなくて…」
「ルナティックマニアって、アサシンさんに聞きました。」
いやしけいが突然そんなことを言って、噴出しかけた。
そうだよな、まぁ、間違ってないけど…マニアってなぁ…いやほんと間違ってないんだが。
「まぁ…でも、それでも…いやしけいを見たときにな、今までルナティック可愛いーっ!って思ってたのと少し違ったんだ。」

頭は冴えていて
けれど胸はひどく脈打っていた。

「ルナティックをペットにするのって好きじゃないんだ。自然から離すのが可哀想な気がして。」

でもいやしけいは…
「でも私は…?」
いやしけいが体を上から重ねてきて、顔を寄せた。

俺は微笑みながら
「欲しかった。」
いやしけいの頭を抱きこんで、口元でささやいた。
まさかいやしけいと、こんな風に近づいて…思いをこんな風に語れると思わなかった。

「いやしけいしかいないと思ったんだ。どうしても…」
欲しかった。
その言葉は少し聞こえが悪い気がしたが、それしか言い様が無いから、言った。

でも、いやしけいは気を悪くした様子は無くて
涙を溜めて微笑んでいた。

 

 

なんというか…
彼が人間の姿でなければ、こんなこと言っても説得力も何もなかっただろう。
青箱の神に超感謝だっw

 

 

いつもの、ちっちゃくて、もさもさして、ふわふわないやしけいじゃないけど…
やっぱいやしけいならどんなでも好きだ。

俺に気持いいくらいの体重をかけてきて、ぎゅっと抱き締めてくる彼の髪を撫でた。
なんだか今日はいやしけいにばかり頼っていたというか
ずっと彼が気持ちをぶつけてきて、俺が答えるという形だった気がする。
それを思うと少し自分が情けない。

俺はちょっと決心して
「…いやしけい」
「はい?」
呼ばれて顔を上げたいやしけいの頭を引き寄せて、こっちからキスをした。
いやしけいが一瞬ビクッとして可愛らしかったが、すぐにおとなしくしてくれた。

唇を重ねるだけではもの足りない。
それを舌で割って、歯列にも割り入って
顔の角度を変えて、もっと彼の中を味わおうとした。
今度は彼もおとなしく体を預けてくれた。

静かな部屋に、ピチャピチャという音だけが響く。
モロクにいた間では一度も聞かなかった雨音があったが、俺達の耳には入らなかった。
苦しくなってきたところで、彼から離れた。

「…いやしけい…」
自分の声が、自分のものではないように聞こえた。
ひどく…熱かった。

「…にんじんの味」
いやしけいがムッと頬を膨らませた。
「それはすいませんねぇ」
「いや、悪くないけどな。いやしけいの味だし?」

額を合わせて、小さく笑った。
長年寄り添ってきた恋人のように…

上にいたいやしけいが俺の手に指を絡めて
ベッドに縫いつけて、仕返しとばかりにまたキスをしてくる。

 

――前に、友人とこうした時があったんだ。
そう、あのアサシン…
でも…今みたいに熱かったけど
それは今のとはどこか違った。
こんなに意識が飛んでしまいそうな熱じゃないし
こんな、苦しいほどの幸せは感じたことなかった…

その夜は…苦しくて熱かった
目がくらむようなシアワセ

 

 

 

朝起きたら、友人のローグが俺の上にいた。

体全体を乗せてきている為そんなに苦しくはないが
成人男性、重いもんは重い。

「ウギャア!!!」

俺が半分寝惚けながら、彼をソファの下に投げ落とした
寝ていたらしい彼が気持ちの良い悲鳴をあげた。
体が少し寒くなかったが、構わずに続いて堕眠を貪る。

「おい!!それが親友に対する態度か!?」
寝起きに耳打ちならともかく、こいつの生の肉声がこんなにも耳にくるとは思わなかった。
思い切り眉間に皺を寄せて、上半身をむくりと起こした。

友人は目の下にクマを作っていた。
さっきのは、やっと眠れたのか、それともまだ寝ようと頑張っていたのか…

どっちにしろ、俺の上の方が寝にくいだろうに

「ベッドはどうした」
「……」
彼は返事をしない。
何かあったのかと聞こうと覗き込んでぎょっとした。

少し切れ目な瞳がみっぱいうるうるしていた。
キモいとおもうのは俺だけか…?

「まさか、告白失敗か?」
間違い無く両思いだったはずなのに…
俺が唖然としていると、彼はぶんぶんと首を左右に振った。
「…うまくいった、けどさ…」

ホッとしたのと、心配させやがってという思いが入り混じって、溜め息が漏れた。
「…じゃあなんだ。」
「…いやしけいが…」
「彼が?」

「…俺のこと襲おうとした」

 

…もう…誰かこいつを埋めてくれ。

「…そうか、良かったな」
「よくねぇよ!!!」
ローグにがしっと服を掴まれて引っ張られた。
…伸びる。アサシン装束は生地が薄いんだぞ…

「だって俺、挿れられる側なんてヤダし…」
お前に挿れられた俺の立場はどうなる。
「…恋人になったんだろ、それくらい乗り越えろ。」
「えええええええ…」
「いやしけいにしてみてもそれは同じことだろ。」
とりあえずかなり自分勝手なことを言うローグの腕を、装束から引き剥がした。

「そうですよご主人〜」
いつの間にかソファの後ろに、いやしけいが立っていた。
なにやら昨日よりも表情が晴れていて、印象が違った。
彼の声を聴いた瞬間、ローグがびくっと震えた。
…主人とペットの立場が逆転しているように見えるのは気のせいだろうか。

「まぁ、私はご主人ならいいですけど、それでも上の方がいいですし?」
「っ、っ、っ、っ…」
昨日何をされたのかは分からないが、そう言ういやしけいを見上げて、彼は言葉に詰まっている。
真っ赤になった顔が見える。

「で、でもな…ほら!両思いになってからすぐにいきなりヤッちゃうってのも…な?!」
「ヤるっていうか、ご主人がキスで勃っちゃったから抜い」「ぬあーーー!!!!うわあああーーーー!!!!!」

俺のこと気にしてか、それとも恥ずかしくてか、友人のローグは飛び上がって恋人の口をふさいだ。
まぁ、あれだけやりたいとか溜まってるとか言ってたしな…

「私はご主人のそんな可愛いところがすごく好きだから、抱く側になっていぢめたいなぁとか思ってたんですよー」
彼は笑顔でさらりとそんなことを言う。
どうやら友人の選んだ恋人はけっこうな性格の持ち主のようだ。

「俺は可愛くないっ!」
「可愛いですよ」
…容姿は可愛くは無いが、知り合いの女アサシンが過虐心をそそるとか言っていたな。

「それはいやしけいの方だろっ」
「私のほうが可愛い系じゃないと思いますが」
カッコイイ系というか、綺麗系だろう。

「あーでもルナティックの時はめちゃ可愛いし」
「じゃあ今は可愛くないんですか?」
「あー、いや…なんつーか…」

 

 

どうでもいいが、
俺を挟んでいちゃつくなバカップル共が。

 

 

「ルナティックの姿の方を気に入られるほうが、私も嬉しいです。本当の姿だし…」
「っ…」
「でも、いつ元に戻ってしまうか分からないから、今のうちに…」
ローグの顎に指を当てて、キスをする寸前まで顔を近づけて

今のうちに、貴方を私で汚しておきたいんです…。

そう囁いた。

 

 

だから、
俺の上で危ない状況をつくるのはもっとやめろ。

 

 

ローグが顔を真っ赤にしてうつむいた。
そのうつむいた先には俺の呆れた顔があるのだが、この様子ではそれすらも見えていないだろう。

てゆーか、この様子だと昼までにでも荷物をまとめて俺のギルドの住処に移動したほうが良さそうだ。
すぐにでも荷物の整理をしたいが、俺を挟んで薔薇色世界を作っているこいつらが邪魔だ。
このままもう一眠りしてしまおうか…。

そう思ってちょっと目をつぶった瞬間。

「あ…うっ…」

突然、いやしけいが苦しげにうずくまった。
「どうしたいやしけい!!」
ローグが咄嗟にソファの後ろに回りこんで、彼の隣にしゃがみこんだ。
まさか…、と思いながら俺も起き上がってソファの後ろを覗くと

 

ボフン!!!

 

 

 

アニメで聞くような爆発音。
そしてさっきまでいやしけいが蹲っていた場所には、のびた白い毛玉。
ルナティックのいやしけいだ。
…ヤッパリナ。

「なるほど、人型クッキーの効果は3日間か。勉強になったな」
南無、と心の中でローグとルナティック両方に言いながら、彼らを見ていた。
少し目を丸くしていたが、すぐに微笑みを浮かべて、ルナティックを抱き上げた。
まぁ、彼の貞操の危機は一時回避か。

幸せそうな二人に、自分のことのように俺はホッとして。
荷物を整えようと、ソファから起き上がった。

 

 

 

軽快な音楽が流れ、明るい部屋にちらばるおもちゃたち。
そんなほほえましい光景の中に似付かず、なかなか手ごわいモンスターが徘徊する、ルティエのおもちゃ箱。

そこに、白く短い髪をしたアサシンと同じく白く、けれど長い髪プリーストのペアがいた。
アサシンはゴーグルを深くかぶり、プリーストは耳に髪と同じような白いうさみみ。

「・・・いつまで続ければいいんだ」
アサシンがため息をついて、袋に大量に溜まったクッキーと、ところどころに見えるキャンディを覗き込んで言った。
かれこれ4時間近くこの目が痛くなるようなダンジョンにこもっている。
「ご主人が照れてクッキーを取りにきてくれないんですよー。だから今のうちにいっぱいとっておきたいので…」
あと1周しましょう?と美しいプリーストが微笑む。

今更だが、プリーストはもちろん、言わずと知れたいやしけいだ。
ローグの見立てどおり、激しくプリースト法衣が似合っている。

「…というか、なんでわざわざプリーストの服なんか…というか、どこで手にいれたんだ。」
「まぁ、その辺は気にしない。ご主人がプリーストが似合うっていっていたのでついw」
いやしけいは、主人の友人と共に、おもちゃの積みあがった山をよじ登る。

「あ、クッキー!アサシンさんGO!!ヒール!ブレッシング!」

ヒルクリを持っているのはともかく、何故ブレッシングなんかできるんだろう…
などと思いながら、アサシンはクッキーに走りよってスティールする。

 

定期的に、ローグかアサシンを連れてクッキーを狩りまくる
謎の美男子プリーストは、一部でちょっとうわさになったとかならないとか。

 

 

-おわり-

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微妙な終わりですが、一応完結ですw
てゆーか、最終話前に旅行で新鮮な空気に触れてしまったせいで
邪なオーラが薄れて、エロが書けず下ネタどまりです(核爆)

再挑戦で、外伝としてエロシーンか
ローグとアサシンの青春時代の初体験(結局エロシーンか)を書きたいかと…!!
てゆーか自分で書いていて途中から激しくログアサに萌えだして(マテ)
本編にもそれがやたら強調されたような…?v

_| ̄|○お付き合いしてくださった方ありがとうございました。