俺の周りはかなり変な奴が多い。
そういう俺も、普通とは言いがたいのかもしれないが…
「ごしゅじーーーーん。いい加減諦めてブッ込まれてくださいよーーー」
「嫌だって怖いって!!しかもそんな変な言い方するな
そしてなんか怪しい道具を持つなああああああああ!!!!!!!!!」
…少なくともコイツらよりはまともだと確信している。
初めまして…だろうか?
俺は何の変哲も無いアサシンだ。多分。
脇役のくせに目立ちすぎだとよく言われる…好きで目立ってるんじゃない。
俺には腐れ縁のシーフ時代からの親友がいる。
この男はとにかくルナティックというモンスター(ペット可)が好きで、人間よりも好きだという、我が道をゆくローグだ。
彼は昔から人の良さと見目の良さと明るさでモテてはいたが、その性癖のせいで恋人をことごとく失っている。
そんな男が心を決めた相手が…
今、俺の部屋でロープやら怪しい瓶やら棒みたいなものを抱えて追いかけている青年。
長くてやわらかい真っ白の髪によく似合ううさみみがあり、瞳は赤く
俺も時々見惚れる人間離れした美しさだ。
そんな彼には秘密がある。
彼は人の格好をしているが実はルナティックなのだ。
…知ってる人にはいまさらだが、知らない人には「はァ?」ってカンジだろう。
彼はルティエ産のよく焼いたクッキーを食べると3日間人間に変身するのだ。
というか、食べさせてみたら変身してしまった。
…あほらしい話かもしれないが。
ちなみに名前はいやしけい。もっと他に浮かばなかったのか
そして雄だと気づかずにテイムしたらしいがまぁ飼い主本人はどちらでもいいようだ。
「ふはははは!!!私から逃げようなんて無理な話なのですよ!!速度増加!!!」
「だからなんでお前はプリーストのスキルが使えるんだああああああ!!!!!???」
室内を必死に駆け回るローグを、いやしけいがすさまじい速さで追いつき押さえつけた。
当然のことながら彼はプリーストの法衣を着てはプリーストではない。
プリーストの服が似合うとローグが言ったら、どこからか服を手に入れて、しかもスキルまで覚え始めた。
最近ヒルクリなしでヒールが唱えられるし、ブレスと速度増加も微弱ではあるが習得したようだ。
…いつだったか、大聖堂のプリーストが通り魔に会って法衣を剥ぎ取られたという事件があったが
まぁ、関係ない…と、信じよう。
「ご主人〜そんなに嫌なんですか?」
「だ、だって…なあ!?」
「俺に話を振るな。」
お前らのいちゃつきに俺を巻き込むな。
いつも夜になるとこんなやりとりをしている二人だが
ローグは強引に迫られれば嫌とは言えなくなる人間だ。
それをこのルナティックも分かっているだろう。
それでも二人がまだ結ばれてないということは、いやしけいも多少なりとも気遣っているようだ。
…毎日毎日俺の部屋をそんなやりとりで荒らすくらいならさっさとローグを犯してしまえと思う今日この頃だが
まぁ人のことには口は出さないでおく。
いつものように、二人ともいちゃつき疲れたようで、おとなしく寝室へ二人で入っていった。
そして明日の夜も俺の部屋で暴れるのだろう。
退屈はしないが、勘弁してほしい…。
朝、もそもそと起きだし居間に出ると
いやしけいがソファの上で丸くなって眠っていた。
まだ人の姿だが、やはり本性はルナティックなので寝る時間が多い。
起こさないようにソファに歩み寄り、覗き込んできた。
本当に、黙っていれば綺麗だ。
肌も白く、髪はもっと純白で目を覆うまつげも白い。
丸くなったまま、夢を見ているのか、時折ピクリと体を振るわせる。
物音がすると、頭から生えた耳がそちらにひょこっと動く。
そんな彼の様子は見ていて飽きない。
白い頬を指先でつついてみた。
「んきゅっ…」
――― ………。
妙な鳴き声をあげた。
んきゅってなんだ、んきゅって…。
俺はいやしけいを起こさないように、腹を抱えて笑い声を上げるのを抑えていた。
「ん、くぅ……んれ??」
いやしけいがもそりと顔を上げて、赤い瞳でこちらを見た。
「悪い、起こしたか。」
彼は薄めでこちらを見ている、が、視点が定まっていない。
「…ごしゅじーん…」
ソファからずり落ちるのもかまわず、俺に抱きついてきた。
寝ぼけてるな。
「残念だが、お前の主人は出掛けてる。」
そう言って、彼の頭をポンポン叩いて引き剥がした。
「…ぁ、ども…おはようございますー」
まだ目が覚めていないようだが、俺が誰かは認識できたようだ。
「おはよう。…アイツは?」
「あ、ご主人は…私の餌を作りにフェイヨンに…」
「お前は行かなかったのか?」
「行くつもりだったんですが…寝入ってしまって。」
いやしけいは目をごしごし擦り、寝癖を撫で付けている。
「…にんじんジュースなら、俺が持っていたんだが」
「マジデスカ。」
「ブドウジュースを作るついでに作った。まぁ、アイツが帰ってきたら渡すか。」
「あ、一個もらえますか?」
「冷蔵庫に入ってる。」
いやしけいはありがとう、とエモを出して冷蔵庫のほうへ歩いていった。
最近、あの二人が羨ましくなることがある。
妬ましく思うことは無い。
むしろ二人の仲のよさを見ていると、こちらも微笑ましく思う。
同時に、独りである虚しさをどこかで感じている。
俺は武器を持たずに、荷物袋だけ持って家の扉をあけた。
「お買い物ですか?」
にんじんジュースを飲みながら、いやしけいに聞かれた。
「…昨日の収集品を売ってから、ギルドに顔をだしてくる。」
「はい、いってらっしゃい」
人懐っこい笑みを浮かべて彼は手を振ってくる。
思わず頬が緩んで、笑みを返してから家を出た。
ギルドに新メンバーが加わっていたらしい。
ずっとソロばかりで、ギルドチャットにも耳を傾けていなかったためそんな情報しらなかった。
そう言ったら皆に「このヒッキーが!」と突っ込みを入れられた。
…ヒッキー?
その新メンバーである騎士の紹介をされて、適当に挨拶をして
…その新メンバーにかなり人気のない路地裏に呼び出された。
用件は大体予想がつく。
「久しぶりだな。」
さっきまで『初めまして』と会話を交わしたのに、こちらへ来ていきなりそう言われた。
実は、彼とはすでに面識があった。
「…そうだな。」
「うわ凄まじく嫌そうな顔」
彼と会うにしろ話すにしろ、別に嫌とは思わない。むしろどーでもいい。
「何故うちのギルドに入ったんだ?」
彼が同じギルドにいるというのは、どうしても受け入れがたい。
「偶然だ、偶然。」
騎士はそう言って苦笑いを浮かべた。
それが本当か分からないが、まぁそうしておこうと頷いた。
「…例の彼とは、うまくいってるのか?」
わずかな沈黙の後、彼はそう切り出した。
…あのローグとのことだろう。
実は、彼はいやしけいを捕まえる前に、俺と付き合っていたことがあった。
だが遠の昔に終わっている。
「…また、懐かしい話だな。」
「うん…?そうか?」
あいつとの恋人関係がずっと続いていたら、懐かしいなんて感じないだろうが
付き合ってすぐに分かれたため、俺にとってはずいぶん昔の話だ。
「すぐに分かれた。まぁ、普通の友人でいる。」
騎士は少し目を丸くして、へぇと笑みを浮かべた。
「じゃあ、今はフリーか?」
いやな感じの笑みを浮かべる彼を見て、やはりそれが目的かと少しあきれた。
「まあ。だが誰とも付き合う気はないぞ。」
「付き合ってくれなんて言ってないさ。」
腕を強く引かれて、彼に抱き込まれた。
「またアンタを犯った時に、恨まれる奴がいないか気になっただけだ。」
人気の無いところへ連れてこられた時点で、こんなことだろうと思っていた。
まだシーフだったころ、臨時で彼に知り合って、その後何度か共に狩りにいったことがある。
話が合うわけでも、狩りの効率が上がるわけでもないのにすでに騎士だった彼は俺を誘い続けて
何の前触れも無く、静かな森の中で押し倒された。
「偶然なわけないだろ。アンタをおっかけてこのギルドに入ったんだよ。」
恋人を愛でるように髪をなでられる。
「ご苦労なことで…」
そういえば、そろそろ昼飯時だな…と場違いなことを考えた。
冷たい石の壁際に倒されて、馬乗りにされた。
あの時は抵抗しなかった。
助けを呼ぶ相手はいないし、遠くにいる知り合いを呼ぶのも面倒だし
抵抗したところで敵わないのは分かりきっていたから
抵抗しないで早く終わるのを待っていた記憶がある。
だが、苦痛で屈辱であったことには代わりない。
壁に手をついた。
「クロー…っ!」
油断している隙に、クローキングでさっさと逃げようと思ったが
相手は油断していなかったようで、即座に鳩尾を殴られた。
痛みより、めまいがした。
その後にひどく咳き込んで、そうするたびに腹に痛みがじわじわと広まった。
「あの時も、おとなしくヤラれてる振りして、ずっと逃げる方法を考えてただろ…?」
騎士はニヤニヤして、こちらを満足げに見ていた。
口に指を突っ込まれて、布を押し込められた。
「縛られて辛い体勢でやるのも嫌だろ?おとなしくしてろよ。」
薄いアサシン装束を簡単に脱がされる。
…シーフ時代のほうがそういえば厚着だな、とまた場違いなことを考えた。
それはある意味現実逃避しようとしているのかもしれなかった。
「ちぇええすとおおおおぅ!!!!!!!!!」
「うおぉ!!!???」
「んぐ!!!???」
どこからか聞き覚えのある奇声がして
のしかかって来ていた騎士がサイドに吹っ飛んだ。
「私のご主人の親友に手を出すなど無礼千万!!成敗っ!!!!」
そんなことを言いながら自分に精一杯の支援をかけている白髪のうさ耳プリーストは…もちろん、いやしけいだ。
何故ここにいるのか分からず、俺は寒い格好のまま彼を呆然と見ていた。
「ぅ〜あたたたたたたたたたたたたた!!!!!!!!!!!!!」
妙な声を出しながら凄まじい速さで困惑していた騎士を殴りまくるいやしけいだ。
…強いな、ルナティックのくせに。
とどめに彼のあごを綺麗に蹴り上げて、同時に俺に速度増加をかけてきた。
…反撃される前に逃げるぞ、ということだろう。
俺はすぐに立ち上がり、服も直さないままいやしけいと路地裏から走り出た。
「あー、びっくりしたー」
こっちもある意味びっくりした。
息を切らせたいやしけいは、大丈夫ですか、と聞きながら俺の服を調える。
「まったく、お散歩してたら路地裏からアヤシイ雰囲気の二人がいるから強姦かと思って
ドキドキワクワク覗き見してたらアサシンさんなんですもん、何事かと思いましたよー。」
…やっぱりいい趣味してるな、お前は。
「助かった、ありがとう」
「いえいえー。怪しい人に付いていっちゃだめですよー!
路地裏なんてもってのほかです!あーゆーことのためにあるような場所なんですから!」
「…ああ、気をつける。」
妙なことをいういやしけいが可笑しくて、笑っていたら笑い事じゃないですー、と突付かれた。
「もー!危ないときは、ご主人とか、私でもいいですから呼んでくださいよ!」
「…わかった。そうしよう。」
さっきからそうですが、全然緊張感のないアサシンさんと別れて
そのあとまたお散歩続行です。
さっきのあたりはあの騎士にまた遭うと面倒なので、離れた路地裏(また)ヲ・・・
「…?」
いきなり、後ろから手をつかまれた。
びっくりして振り返ると
撒いたと思ったさっきの騎士が
にっこりと笑って…
ご主人の声が聞きたい。
WISって、どうやってやるんだろう…。
冒険者じゃないと、できないんですよね。
ご主人、と何度も心で呼んだけど
それだけでWISになるはずもなく
虚しいだけでした。
「ふ、うえ…っ…」
気持ち悪い。
体がオカシイ。
具合が悪いとかじゃなくて、完全な拒絶反応。
不安だったり、具合が悪かったり…
こんなときは、ご主人に抱きしめていてほしいと思うけれど
今、私に触っているのは全然知らない男で…
『いやだ!!!いやだああああ!!!!!!』
情けないくらい泣きはらしながら叫んだけれど、それは猿轡のせいで音にはなるけど声にはなりませんでした。
首を切られる鶏みたいに肩を下に押し付けられて、大分苦しいです。
下は少し固いベッドで何も着ていないせいでシーツの冷たさが肌に直に伝わります。
鳥肌がたっているのはその冷たさだけではないでしょう。
なんでこんな痛くて、気持ち悪い思いをしなければならないのか分からない…
ただ、ずっと“最後”まで、ご主人に優しく抱きしめられることを夢見ていました。
つづきます。
またまた脇役のアサシンが出張ってます。
アサシンの初体験ってのは大抵犯されてると思うんですよ!!(ナニガダ)
(*゚Д゚)てかなまえがないと不便と思う今日この頃。
でも下手につけたくないですねー…
コノシリーズはやっぱ無名でGO!!