「はい、毎度ありがとうございます!」

普通の消耗品や戦利品を売る露店なのに、やたら女の人が群がる。
売っているブラックスミスさんが…こう言ったら失礼だけど、すごい可愛いから。

大人の男の人なのに背は小さくて、ほわほわした白い髪と赤い目がうさぎみたい。
僕も、その人の隣に座りながら、実はずっと見とれてる。

何故か彼は露店を開くとき、僕の大好きなレモンの蜂蜜漬けを持っている。
それで、僕はそれをちょっと食べにいって、そのまま彼の露店に座り込む。
そんな流れが定着して、彼の露店の隣で蜂蜜レモンを食べるのが日課になっていた。


始めは、ほわほわしてて、蜂蜜レモンをくれて、話がちょっと下手で、人付き合いがあまりよくない人…
そんなイメージばかり定着してた。
でもずっと彼を見ていて、一緒に話していて…

笑顔で来るお客さんにその倍の笑顔で挨拶する時や
自分の作った武器が売れて嬉しそうにしている時のその顔に


僕は恋をした。

でも同性だから無理…
そう思っていた僕を後押ししてしまったのはつい最近のこと。




「強いファイアダマスカスとアイスダマスカスを、作りたいな。」

ある日、彼は突然そう言った。
彼は製造をするブラックスミスだけど、鈍器やナックルを作るのを一番得意としていた。
彼の銘のいろんな武器を見てきたけど、ダマスカスどころかスティレットも見たことはない。

「君は火の魔法を使うマジシャンだよね?ファイアダマスカスなら気休めだけどお守りになりそうじゃない?
アイスダマスカスも、普段いけないところに行く助けになるかもしれないし。」

なんだか、優しくしてもらって、気にかけてもらえるのがすごく嬉しかった。


僕の友達は皆、「お前といると疲れる」って言って僕のことを嫌いになったみたいだった。
でも僕が好きな人はそんなこと言わないで、やっぱり疲れた様子でいるけど、僕とずっと一緒にいてくれた。

ブラックスミスの彼はマジシャンの僕と背は同じくらいで…平均的に言えば小さい部類にはいるけど(涙)
彼はレベルはうんと高くて、綺麗な顔をしてる。

それに比べて僕は……ただ小さいだけの弱いやつで…。


なんで僕の遺伝子は長身の母と短身の父の間で優勢遺伝してくれなかったんだろう。
自分の身長をごまかすためにおっきな帽子をしてるけど、逆に子供っぽい、って彼に言われた。

すごくショックだったからはずそうと思ったけど、その後に彼は笑顔で「すごく可愛い」って言ったから、なんだかはずせなくなった。


そんな彼は今、忙しそうに自分の剣をお客さんに売り込んでいる。
剣が売れて満足げにしているブラックスミスを10分くらいじーっと見つめたあと、床に突っ伏して唸った。

「…………うー………。」
「………。」

「………うううー………。」
「何をさっきから唸ってるの…?」

「………いきづまってるの。」
「大丈夫?トイレいってきなよ。」

誰が排泄物が詰まってるって言った。


「考えが、いきづまってるだけ…。」
「あ、そっか。」

僕が何を悩んでいるかなんて彼はぜんぜん興味が無いみたい。
ただ頑張ってねって言って笑ってくれたけど。

そして大した反応もなくて、荷物の整理を始めている。
ちょっと寂しかったけど「何を悩んでるの?」なんて聞かれたらちょっと困る。

僕は半年前から一生懸命、このブラックスミスと……恋人になれる方法を一生懸命考えてる。
僕も彼も男で、でもそうゆう人たちもいるって知ってるけど、やっぱり普通じゃないからすごく悩む。
でも僕には彼しか好きな人はいないから、諦めようなんて思ってない。
なんとかして彼にも、僕を好きになって貰いたいなぁ…。

だから僕は毎日彼の家に泊まってる。
まずは近くに行かなきゃ何も始まらないし!
それで、僕は一生懸命、僕のいいところを見てもらおうとしてる。

だけど、何をやってもだめな僕は彼の近くにいても迷惑をかけるばかりで………

「ちょっと、何やってるの。」

いつの間にか近寄ってきた彼が、僕の目の前で聞いてきた。

顔を見ると……なんか、怒ってる?
その視線をたどって、僕は自分の手元を見た。

「……うあああ!ごめん!考え事してたらつい!!」

僕は無意識のうちに“ブラスミさんとらぶらぶになるぞ作戦”のメモ帳の脇のニンジンを爪で引っかいて傷だらけにしていた。
僕は何してるんだ…っ!

そのニンジンは責任をとって買い取るって言ったのに、彼が夕飯の材料に使うと言って買い取らせてくれなかった。
…また、迷惑かけて終わっちゃった…。




思えば僕はまともな恋愛をしたことがない。
女の人と付き合ったことはあるけど、なんだか迫られて迫られて気がついたら付き合ってたって感じで…。
結局捨てられちゃったけど。

いつだってそうだ。
僕は一生懸命やってるつもりだけど、友達も恋人もみんな僕のダメさ加減に呆れて僕から離れていく。
今度またそうなったら…そう思うと、すごく怖い。

彼が僕の同居を許してくれてから一緒に暮らしてきた期間は、今までの中で最長記録だ。

「…ぅー…」
「何を悩んでるんだか…。誰かに相談したら?」

僕の葛藤を見かねて、彼がポロリとそんなことを口にする。
でも僕の恋の相談にのってくれる人なんているのかなぁ…。
でも一人でうんうんうなってるよりそっちの方がいいよね。

「ねえ、相談にのってくれそうな人いないかなぁ。」

彼は紅茶に入れたミルクから目を離して、僕の方を何か言いたげに見る。
…え、僕また何か失敗した?

「…副ギルマス」
「え、なんで?」
「……なんとなく。」
「…うーん、でも副ギルマスは…女の人だよなぁ…。」

男同士の恋愛ってあんまりあるもんじゃない気がするし。
女の人に相談していいのかなぁ。
そりゃあ副ギルマスは美人だし大人だし恋愛事も多そうだけど。

「いいから行ってきなよ。ダメだったら片っ端から相談すればいいんじゃない。」
「…うん、そうだね。行ってくる!」

僕はその言葉を信じて、ギルドハウスに向かうことにした。



「……俺には相談しないんだ。」

残されたブラックスミスは思わず口にした言葉を紅茶と一緒に飲み込んだ。



「副マスター!」

朝ごはんを食べ終わったらしいギルドの皆は僕を見るなり目を反らした。
…やっぱり嫌われてるのかな。

「…ちょっと、こっちにいらっしゃい。」

すごく美人のウィザードの副マスターはにっこり笑いながら手招きをする。
そして僕の手を掴むと誰かの部屋に引っ張り込んだ。

「アナタねえ、自分の今の姿を自覚しなさい!!」
「え!?」

いきなり怒られた。
今のすがたって…普通にマジシャンの格好だと思うけど。

「マントはつける!ノースリーブは着ない!おへそを出さない!」
「え、でも暑いし、皆こう」
「そうゆうのはウィザードになってからになさい!」
「うぅ…ごめんなさい…」

よく分からないけど、また僕は失敗したのかな。

「できればその帽子もはずしなさい。」
「それはだめ!」

副マスには悪いけど、これだけははずせない!

「…それでよく今まで襲われなかったわねぇ全く…。」
「ん?」
「なんでもないわ。」

副マスはため息をつきながら「で、何の用?」と聞いてくれた。

「あの!僕好きな人ができたんです!」
「そう、それで。」

なんか全然驚かれなかった…。

「でも、その人…男の人で。」
「ああ、そうね。それで。」

…全然驚かれなかった。
…呆れてるのかもしれない。
副マスはなんか俯いてちょっと震えてるし。

でも、僕も必死だから…呆れられても、聞いて欲しい。



「僕、一生懸命どうすればいいか考えたんですけど…全然わからなくて。
それで副マスに相談したくて…うわっ」

急に肩を掴んでくる副マス。
なんか怖い…!お、怒らせちゃったかな!?



「もう、なんで早く相談してくれなかったのよ」
「え」

「おねえさんいつでも親切に相談に載ってあげたのに」
「…ほ、ほんとうにいいんですか?相手男だし…こんな僕のことだし…呆れてませんか?」

僕が聞くと、副マスは見たこともないくらい優しく微笑んで、僕の頭を撫でてくれた。
…男なのに副マスよりも小さいの、ちょっとコンプレックスだなぁ…。

「私が知る限りの知識を貴方に教えてあげるわ!」

僕の気も知らずに副マスはなんかノリノリで荷物を漁り出した。
なんだかよくわからないけど、これでマジ君に好きになってもらえるようになるかな!?





「おーい」

どこかからあのブラスミさんの声が聞こえた気がした。
ドキッとしてあたりをきょろきょろ見回してしまった。
でも誰もいない。

こんな僕を、彼が追いかけてきてくれるなんて…

「みっけ」
「ぷぎゃああああああ!!!」

ぼんやりしてあの人のことを忘れようとしてたら、いきなり目の前に沸いてでた。
ハイドクリップ!?なんでハイドしてるんだよう!!

驚いて調子を崩しちゃったけど、僕はすぐに彼に背を向けた。

…本当にきてくれたのは嬉しい。
本当に嬉しい。
でも僕は……

「…嫌なことでもあったの?」

僕は俯いたまま首を横に振った。

「…やっぱ、僕じゃだめなんだっ…」
「何が?」

副マスターにいろいろ教えて貰って…僕には彼に好きになってもらうなんて無理だって分かった。

「どうせ、僕なんか…」
「僕なんか、なんて言わないで。君は凄いよ、僕や皆にないものをいっぱい持ってるじゃないか。」

優しい言葉が、胸にしみた。

「…でも…副マスに相談して…現実がよく分かった…。」
「現実って…?」

うう…
どうせ…どうせ…



「どうせ僕なんか美味しいお尻も持ってないヘタレショタなんだああああ!!!!!!」
「ちょ、まっ…!!!一体何を吹き込まれた!!!??」

走って逃げようとする僕を彼は必死に追いかけてくる。

「待てって!」
「来ないで!もう、僕なんか!僕なんか…っ!!」
「だから待てって言って…っハンマーフォール!!!!」

僕は脳天を直撃した衝撃に昏倒した。


…そこまでするかな。





「はい、で。副マスに何を吹き込まれたの?」

いつものレモンの蜂蜜漬けを差し出してきて、彼は僕の隣に座った。
逃がさない、って肩に手を回してきてるんだろうけど、僕はそれに動揺しちゃって小さいお弁当箱を持つ手が震える。

「…副マス、なんだかいつもと違ってすごい剣幕で、何を言ってるかよく分からなかった…。」
「…まったく、あの人は…。」

「それでね、『その人を落としたければ色仕掛けすれば一発よ』って言われて…そんなわけないと思ったんだけどね。」
「…いや、イケると思うよ。その人なら大歓迎だと思うよ。」

「え!?そうなの?!」

彼もそう思うってことは皆そう思うのかな。
色仕掛けってそんなにすごいのかな。
でも僕がしたってどうしようもないと思うし、そもそも僕はできる自信ないし…。

「はい、それで?それからどうしたの。」
「あ、うん。…その…ど、どうやって誘えばいいとか、でも、なんか恥ずかしいことばかりで…」
「…普通の人は色仕掛け自体できないよね。」

やっぱりそう思うんだ!
僕がおかしいわけじゃないんだ!
よかった…。

「で、さっきの問題発言の原因は?」
「あ、いや…それは…。」


思い返せば僕、すごい恥ずかしいことを口走った気がする…。
だって副マスが

「あなたのおいしそうなお尻で誘えばイッパツよ!…あら下品なこと言っちゃった」

とか、ずっと僕がもじもじしてたら

「このヘタレショタ!!」

って怒られたり…

…でもヘタレショタって何?
とりあえず、すっごい怒られたから悪口なような気がするけど。

「…副マスに怒られて、ああ、やっぱ僕はだめなんだ、って思った。それで悲しくなってただけなんだ。」

恥ずかしい発言については、触れないでおこう。


「ねえ、だめって何がだめなんだよ。」
「え…?」

突然聞かれても…いつも思ってることだから、改めて言葉にしようとすると上手くできない。

「…僕と違って一人でたくさん狩りができる。魔法が使えるってだけでもすごい。」

沈んでいたのに、ちょっと誉められただけで嬉しくなる。
…喜んでる場合じゃない。
今は質問されてるんだから。

「でもそれは…僕が勝手にやってることだもの。」
「誰かの為に何かをしたいのか。」
「……僕、いつも捨てられてきたんだ…それって、だめなやつだからじゃないの…?」

捨てられた…。
そうだ、僕は…捨てられてきたんだ。

ゴミ箱に放られるみたいに。
道端に置いていかれるみたいに。
一人にされたんだ…。



「…捨てられたんだ?」
「……っ…」
「じゃあ、僕も捨てられたってこと?」

…え?

「だってそうだろ。君が捨てられてここにいる。じゃあ僕がいるここは人が捨てられる場所?」
「そ、そうじゃない…!」
「だろ?そもそも、君は誰かの所有物だった?その人が捨てて、もうゴミになるようなものなの?」

違うだろ、と彼にしては怖い顔をして言ってくる。
…怒ってる?
やっぱり、僕が頭が悪いから…。

君も捨てたれた、なんてふざけたことを言ったから?
いや、僕が言ったわけじゃないけど…。



「誰かが、誰かのものになるなんてことはないんだよ…。
もしお金を出してても、君は君だよ、誰のものになれない。
誰かに嫌われて、離れられても大丈夫。
またこうやって僕達やギルドの皆と新しく会えてるじゃないか。」


「……っう…」

息が詰まってきた。

「捨てられてるんじゃない、気が合わなかっただけだ。
だからもっと気が合う人に会うために、少し他にね、人との繋がりを探しに来ただけ。」

息が震えて、もう普段の顔ができなくなってきた。
ゆがんだ顔を見られたくなくて、口を鼻を手で覆った。

それでも、彼を見ていたかったから眼は塞がなかった。
そんな彼は、笑いながら何か思いついたように声を上げた。

そしてカートから、レモンをつけた蜂蜜の入ってる小さな壷を取り出した。

「ひょっとしたら、僕のところにこれを食べに来たのかもね。」

その優しいブラックスミスは、白い髪やうさみみみたいに柔らかい笑顔をしていた。
押し付けるように渡された壺を抱えて、僕は彼の言葉を思い返して泣いていた。

嫌われたのは事実かもしれないけど。
でも捨てられたんじゃない、その言葉は僕には大きかった。
いつも「次に捨てられたら終わりだ」「僕はもう捨てられたくない」と唱え続けてきたから。


「そんなに泣くほど蜂蜜レモンが好きなの?」

優しい笑顔はちょっと皮肉っぽくなっていた。

…違うもん。




「さて、明日の武器作りの材料を買いにいってくるね。」

泣いてたせいで、蜂蜜レモンはまだ食べていない。
僕に壺を渡したまま、彼は立ち上がってカートのストッパーを外した。

何か手伝ってあげられたらいいんだけど、できることはないって分かってるから。
せめて、家に帰ったときにすぐに休めるように、お風呂を沸かしておこう。

…料理は、できません。
彼の方が上手いです。
なにせ包丁から作る人だもの。


「…もし、君が誰かと特別に仲良くなろうと旅をしてるなら。」

僕に聞こえるように言ってるんだけど、小さい声で後ろを向いて呟いていた。

「その蜂蜜レモンで、テイムできたらいいのにな。」





そう言ってちょっと振り返った彼のほっぺたが、赤かった。
…耳まで赤い。

「……それって…」

僕が何か言う前に、彼はカートをごろごろ引いて行ってしまった。
…どういうことだろう?



頭の悪い僕には、よくわからなかった。

でも、いろいろ考えて、いろいろ悩んだ末に出した結論は
僕の為にいつも蜂蜜レモンを作ってくれて、
テイムしたいって思ってくれるってことは、嫌ってはいない。

それだけで、今の僕には十分嬉しかった。

そして“ブラスミさんとらぶらぶになるぞ作戦”のと一緒に作ってるメモ帳“ブラスミさんのデータ”に
「照れるとうさみみも赤くなるらしい?」という項目が追加された。




ちなみに、副マスはまだ僕に色仕掛けを教えようとしてくるので
ブラスミさんが僕を守ろうといつも一緒にいてくれました。

…うん、災いを転じて福にする?…っていうのは、こういうことなのかな。



受BS×受マジ
遥か昔に受けたリクだったりしました!
悩みに悩んでこんな風になってしまいました。

受け=ショタ=ヘタレ=エロなし=進展なし(?

アヴォーン