不意に魔物にカタールを突き刺したときの感触を思い出す。
肉に食い込む感触、そしてそれを引き裂く。

魔物を殺すことに快感を覚えているわけではないが、この感触はあれに少し似ていると思った。

「っは…ア…アッ…」

白い傷跡が残る肩を掴まれて、後ろから尻を割って内臓まで食い込んでくるような熱い塊。
四つんばいになって開いた足の後ろには当然あの男がいる。


特に男に抱かれたいなんて思うことはないが、抱きたいと思うことはもっとない。
親友でかつて恋人だったローグとは何をしてもよかったと思うが、今相手にするならこの男以外にないとは思う。
それでも俺にとってもこの男にとっても、声、肌、抱き心地、女の方がよっぽど魅力的だろう。
それなのにこの男は毎日毎日…何を感じながら俺にこうしてるのか。

「なんか余計なこと、考えてねーか?」
「うあっ!…はっ…は…」

急に突き上げられて、直腸内から嫌な音がした気がする。
それからまだ強引に押し入ってくる。
腹の下が圧迫されて鈍い痛みがする。
もう少し慣らしてから、ゆっくりしてほしかった。

「…痛い。」
「いつもやってることだろ。」
「いつも痛い。」
「好きだろ、痛いの。」
「嫌いだと何度言わせる…っぅ…」

腹に手を回されて、上体を持ち上げられる。
中にある彼の熱をその動きで妙にリアルに体感した。
熱い、硬い。

「じゃあ、俺のことは?」

下半身の圧迫感の方が頭の中の大部分を占めているのに、そのささやきは背筋に響く。
返事も忘れた。

「あ、ぁ…」
「なあ、どうだよ。」

頭が彼の言葉を理解しない。
下から突きこまれてるモノが熱くて痛い、彼が囁く度に後ろのうなじにかかる息が熱い、そればかり。

俺の返答無しに苛立ったか、治療したばかりの脇腹に爪を立てた。
電流が走る。

「ッが…ぁっ!」
「どうだ?」

脇腹から走る電流に介添えするようにまた下から突き上げられ、身体が揺さぶられた。

「ッッ!あ、ぐ…やめろ、馬鹿が!」
「どうだ、って聞いてんだろ。」
「何が…!」
「俺のこと好きか、って。」

痛みで少し頭に上っていた熱が下ったようだ。
今度は少し冷静になれた。

「…子供みたいな、ことを…聞くな。」
「返事になってねーよ。」
「…もう何度も、その返事はした。」
「言えよ何度でも。俺の気が済むまで。」

呆れた俺の態度と返答は気に入らなかったようで、腹に回された手が離され、俺はベッドに逆戻りした。

「ふ、あっ…」

思わせぶりに中から彼が出ていく。
それでも異物感は残ったまま、熱も冷めない。
まだどちらもイッてないのだから当然だ。
不服。

うつ伏せで熱をもった部分に触れるシーツさえ、変に感じる。
体を起こそうとしたらまた体をつかまれ、仰向けに押し倒された。
ベッドがぎしぎし音を立てていると思ったら彼が俺の胸の上あたりまで乗り上げてきていた。

「……。」
「やれよ。」

彼が手にして目の前に差し出している自分の一物は既に濡れてる。
俺の粘液と彼の精液で。
……行為に至る前に中を洗浄したとはいえ、さっきまで自分の肛門に入ってたやつなんかくわえてたまるか。

「…洗ってこい。」
「ふーん…。」

なんだその不吉な笑いは。そう思いながら彼が行動を起こすのを見上げて待っていた。

彼は何も言わずにベッド脇の小棚に向かって手をのばした。
あの中から何を出すつもりだ。
潤滑油、コンドーム、痛み止め、化膿止め…その辺りなら別にいい。
玩具は正直嫌いだが、市販されるだけあってたいした危険はない。

自分に不都合なものはそこに入ってなかったか、思いだそうと苦難した。
とは言っても、たいして中を見る機会もないから思い出しようがなかった。

「……?」

彼が取り出したのは小瓶。
暗くて中が何かはわからなかった。
だがポーション系の形……
そこまで気付き、無駄に頭が回転して中身を察してしまった。
治療系ではない。
スピードポーションかハイスピードポーションか。
俺の胸の上辺りで、それを俺に舐めさせようとしていたものに垂らし、片手で擦りだす。

「…っ…」

胸に滴り落ちてきた液体が冷たく、危うく声を上げるところだった。
ただでさえ過敏になっている肌の上を滑り落ちるのが快感か不快か微妙だが、嫌で腕で拭った。

だがすぐ上から垂らされ続け、結局胸はビショビショに濡れる。
元々汗で濡れていたから特に不快には思わなかった。
だがそれの正体は何なのか。
ローション類ではないのは触って確かだと分かる。

「洗ってやったぜ?」
「…使ったのはスピードポーションか?それともハイスピードか?」
「スピードポーションなんかこのレベルで買うかよ。」

笑いながら空になった瓶を投げ捨てる。
少しでも効果の低いものを、なんて気が効くことをこいつがするはずない…か。
肘をつき身体を起こして、俺を跨いで膝を立てている男の股間に顔を寄せる。

汗や蛋白な臭いより薬臭がした、当然だが。
これは、何のポーションだっただろう。
ハイスピードとは少し違う気がする。
スピードポーションではないと彼が言うのだから、残るは1つ…。

嫌な予感を感じながらも舌を押し付けるように竿の裏筋を何度も舐める。
頭上で息を呑む声がして、後ろ髪を掴まれ撫でるふりをして顔を押し付けさせてくる。
こんな焦らすようにちまちまするのでは気にいらないって言うんだろう。

「ぐ…んっ…っ、う…ん…」

口で精一杯くわえてやっても足りないとばかりにまだ押し付けてくる。
…いっぺん噛み切ってやりたい。
そうすれば懲りるだろうか。
それ以上に俺が痛い目を見るのは分かっているけれど。

「ん、ふ…は、ん…」

えづきそうになるほど奥までくわえる。
また興奮して暴走し始めている男が頭を掴んでそうさせるのだから仕方ない。
唇の端が少し切れたが、それより苦しい。

早くこいつをイかせてしまおうと手も動かして性器を擦り、内股を爪で撫でるように軽く引っかく。

「サービスしてくれてンのか?意外と乗り気だな。」
勘違いも甚だしい。
苛立ちも込めて愛撫を性急にしたら、口の中に苦いものが滲みてきた。
内股への刺激は止めて、俺自身の方に手を出そうとしたら髪を鷲掴みにされて頭皮が痛んだ。

「自分のには触んな。」
「…っ…?」
「お前はイクなっつってんだよ。」

口で愛撫してやってる最中に自分のに触るなというのは少し辛いんだが、逆らわないが吉。
…いやどうせこの男との間に吉なんてないが。
…本当、何で俺はこいつと恋人なんだと疑問を感じざるを得なかった。

血が集まってるのを感じるが放置され、焦れながらさっさと彼をイかせることを優先する。
経験が同じ男なのもあってなんとなくそろそろ彼の限界を悟る。
上目に彼の様子を窺えば、俺の考えも分かってるらしく笑ってくる。

「っ、このまま、飲むか?」

疑問系ということは俺に拒否する余地はあるのだろうか。

「…っ……ん、っん…。」

返事は出来なかった。
だが口を離す必要はない、そのまま搾りだすように愛撫を強め続けた。

「……っく…」

うめき声を上げたのは俺じゃなく相手。
舌で血管が浮き出ているのが分かる程になっていたものから、キツイ味と臭いのそれが噴き出している。

吐き出さないように飲むのに必死で、喉がゴクゴクと鳴る。
飲めないことはなかったが、思ったより不快だ。
喉にまだ絡みついている感じがして、味も喉を過ぎていない。

「…よくもこんなものを毎回飲む気になれるな…お前は。」
「好きなやつのなら。」
「ガラじゃないことを。」

違いない、と鼻で笑いながら肩を押してきて、ベッドに仰向けに倒れこむ。
こちらはまだ熱い。
疼いて、イクなと言われるのがじれったいところまできている。
聞いてやる義理もないが、そうすると後が面倒だ。

「…っ」
両手首を握り潰されそうな握力で締め付けられ、頭上に押さえ込まれる。
そして右足が彼の右肩に…

『It's a fucking time.』

歌うような楽しげな声で、不可解なことを囁く。



「…!!!」

思わず目を見開いて、身体が硬直した。
和姦とは思えない暴力的な手つきで、さっきまで犯されそして放置されていたところを探られる。
暴かれる。

「っ、っ!!」
止めろという声も出せずに、咄嗟にしたことは足をばたつかせることで。
けれど片足を担がれていてもう片足を振り上げてもコイツに優位な体勢になるだけだった。

「ぐ、あ…!やめろ、馬鹿!!」
入ってくる、というより抉じ開けてくるのは彼の性器ではなく、手。
ただでさえ意味のない同性の交配なのに、それ以上に意味が無い。
彼の不条理と言い様の無い激痛に思考が混乱する。

「あ、ああ!あああ!!」
どこが痛いか分からない、強いて言うなら下半身。
腹の中にまで硬い石がねじ込まれるように、ただ激痛。

思い切り彼に爪を立てたい、その皮膚掻き破ってやりたい。
けれど腕は頭上にまとめられているせいでどうにもできない。
頭の裏側まで響き渡る激痛。

先程彼のものを濡らしていたポーションのせいか。
過剰に痛みを感じる、全身が熱い。
痛みと熱に溶かされる。

やめろ、あまりに不条理。
こんなこと、意味が無い。
俺が何をした…

「っ、ぁああ!!った、ぅ…け…」

助けてくれ
誰にともなく叫ぶ。
今目の前にいるのは恋人な筈なのに、害を与えてくるのはその恋人本人。

他に誰を頼るっていうんだ。
そもそも助けてもらう?あいつに?
一瞬想像し、自分の不甲斐無さに腹が立ってくる。
助けてくれなんて、思ったことは無い。

無かったのに。
掠れて言葉にならずとも、声にしてしまった。
ずっと誰かが隣にいる生活に、俺の心が弱くなったのだと実感してしまった。

さっきと変わらぬ激痛の中でも、段々と怒りと悔しさが湧き出てきて叫びをかみ締めることができた。
強く擦れあう奥歯が嫌な音を立てた。

助け合い?
甘い生活?
そんなもの、この鬼畜騎士と一緒にいて望める筈が無い。
もとより望んでなんかいなかった。

騎士の肩口を手探りで掴み、思い切り爪を立てた。
肉に爪が食い込む感触、そして指先に濡れた感触。
騎士が一度呻き、手を止めたのが分かった。

「貴、様…後で…覚え、てろ…!!」

腹の底から、地を這うような声を絞り出して告げる。
それを聴いた瞬間、一瞬目を丸くした彼だったが

「お前の漏らす悲鳴も殺気も、逐一忘れるわけがないだろ。」
そう言った次には彼は凶暴な笑みを浮かべていた。

いつも、剣を交える時にするような、笑み。
それを見た瞬間、俺の中の恐怖かなんかは吹き飛んで、胸に浮かぶのは…期待と押し殺した狂気。
ベッドの中のはずなのに、一気に戦場のようになってしまう。

ああ、結局、俺達が最後に望むのはこれなのだ。
俺達の本能と欲望が求める快楽は、これであって、馴れ合いや性行為はその代用品でしかない。


しかし、まるでまな板の上のマグロのように無様な姿で、内臓を突き上げるように一気に体内を貫かれて、
そんなことで喜べるほどに自分は狂っていない。

ふと気が遠くなってしまった俺には、ぐちゃりと水音を立てたのは俺の内か、変態騎士の肩かは分からなかった。



こいつらは「や、やりすぎた・・・!」と思うくらいがちょうどいいんだと
開き直ってみる。(爆死)