その日、厄介者が迷い込んできました。
こんにちは、ルナティックと人間いう種族を超えたアイドル・いやしけいです。
あ、もう私の紹介とかご主人の紹介とか、人間関係ルナティック関係なんかの説明は省かせていただきますよ。
はぁ…アイドルなのに最近人気が少ないですね、私。
というか騎士さんとアサさんが人気なんですよね。
アブない大人の魅力ですか…確かにあの二人の色気には私も毎晩ご馳走になっておりますが…ジュルリ。
…あ、お二人の為に弁解しておきますが、別に年がら年中盛っているわけではありませんよ。
まあ騎士さんとアサさんの性生活は置いておいて。
近頃の私とご主人の近況なんかを少し…。
「ん〜ぅ…」
実はただいま私は素っ裸のご主人とベッドの中で寄り添って朝を迎えております。
うふふ、昨晩は幸せでした。
ちょっと激しかったので汗をかいて寝苦しそうですか。
寝ている間におはようのキスでもと思い、彼のほっぺたにそっと手を伸ばし…
って今ルナティックじゃないか…!!!!
手がない手が!!
いや一応手はあるのですが、退化していてとてもご主人のほっぺたになんか届きません。
くそう…悔しい…。
いや、昨日の夜戻らなかっただけ幸いでしょうか。
あんなことこんなことしてる最中に人間からルナティックに戻ってしまったらご主人も私も生殺し状態ですからね!!
「…おはようございます、ご主人。」
といってもご主人はまだ夢の中で起きませんが、こうすることが私の日課です。
今キスすると前歯があたるかもしれないので、ご主人の頬に頬擦りしました。
…うーん、汗でくっつく。
さてこの姿では朝食の用意はできないな…。
昔は気にしませんでしたが、人間になってからルナティックになるとできることの少なさに気付いて暇になるんですよねぇ…。
と思ったら、テーブルに昨日読んで置きっぱなしだった雑誌を発見しました。
ちょうどいい、この姿でも本は読めますからね。
椅子に向かってジャンプ!
更にテーブルの上にジャンプ…おっとっと。
無事到着しました。
さてさて、今週の星座占い、ご主人の結果は……
「恋愛運最高。思わぬ拾い物。ラッキーカラーは白、ラッキーアイテムはやわ毛。古いものを処分すると運気アップ。」
ほう、なかなか好調といったところでしょうか。
あ、ちなみに私は誕生日分かりませんから占えません。
私とご主人は一心同体ですので相性占いなんかどおおおおでもいいですけどね!!!
それにしてもここ最近天気が悪いですね。
薄暗い空はなんとなく気分も暗くしてしまいそうです。
そして毛がしなってしまっていらだたしい。
おや?
ふと見た窓の縁に、白い物体が一つ。
灰色い雨雲に汚されたくすんだ白でした。
一瞬、なんだろうと思っただけで大して気にも止めずまた雑誌に視線を戻しました。
そこで私は苦しげな、助けを求める声を耳にしたのです。
改めて先程の白い塊をよく見てみました。
それは小さな一つの命だったのです。
「虐められたのか…可哀相になあ」
ご主人の腕の中に丸まっている塊は、先程私が見つけた猫でした。
怪我をしているのにこの雨に打たれ、窓辺で雨宿りしていたようです。
そしてそのまま行き倒れたか…。
猫にポーションは危ない気がしたので、ご主人がヒールクリップを付けてヒールをしたので傷は塞がっています。
結構勇ましい野良猫で、弛緩しながらも逞しい手足。
くぅっ…ルナティックの私はどれだけこれが欲しかったことか…
そうすりゃルナティックだってもうちょっと高レベルな魔物扱いされてノービスの一人や二人ぎっちょんぎっちょんにできるのに…!
と思っていたわけです。
「あっ」
ご主人が突然声を上げたので何かと私がご主人の視線の先を見ると
あ、猫が起きました。
野良猫らしく、自分が人間の手の中にいると知るや抵抗しようとしましたが、何せ大怪我をして体力も底をついていたのです、力が抜けたようにのろのろと手足を動かすだけでした。
ご主人の指に爪を立てましたがそんなのへっちゃらでご主人は笑いながら「大丈夫か〜?」と声をかけています。
「なあ、いやしけい?おまえ猫の言葉とか分からないか?」
「それを言ったらご主人はウンバラ人と話せますか?」
「ん。無理だな。悪い。」
同じ動物だからっていきなり意思疎通ができるわけもない。
人間やポリンに関しては、テイムされるまで野性ながらもプロンテラ付近にいて人語をよく聞いていたから多少わかりましたが、でも理解できていたのは一部のルナティックだけでしたね。
ふふふ、つまり私は天才でした。
自慢です。
「てめえ…俺をどうする気だ…くそう…」
ん?
「お、俺は…仲間みたいにならない、ぞ…何かしてみろ…てめえの喉かっ切ってやる」
んんん?
聞きなれないこのガラガラ声。
お酒飲み過ぎた翌日の寝起きのおっさんみたいな声は…間違いなくご主人の膝の上の毛玉からするものですね。
私とご主人以外に生き物はこの猫しかいないし。
「ご主人」
「どうした、いやしけい。」
「前言撤回します。なんかわかりますね、猫の言葉。」
「まじかよ!すげーないやしけい!!」
「うぐあ…でけー声出すんじゃねえこの畜生がァ!!!」
「お黙りこの猫畜生!!!」
あらいけない。
猫がご主人に向かって畜生とか言うものだからカッとなって毛玉アタックをかましてしまいました。
「お、おい!いやしけい、何するんだよっ」
「だって、この猫畜生がご主人に失礼な口を聞くものですから。」
「誰が猫畜生だ毛玉のくせに!!!」
「お黙り同じ毛玉のくせに!!!」
猫が牙と爪を剥き出しに反撃してきたので私もそれに応じ、再び毛玉アタックです!!
…くそぅ、技名からして自分を毛玉と主張しているようで悔しい。
「おいこら、怪我猫なんだからおとなしく…」
ゴスッ!!!!
猫の牙と爪をかいくぐり、私の回転タックルは猫の額に命中。
…勝った……!!
「こら、いやしけい!いくら酷いこと猫が言ったからってそれはないだろっ!」
ご主人が眉を潜めて私を猫の傍から引き剥がして、テーブルの端っこに置きました。
…くっ、なんか悔しい。
そもそもあの猫が座ってるご主人の膝の上は私の場所なのに…!!!
「だって…」
「だってじゃない。暴力は駄目だ。」
ご主人に睨まれてしまいました…。
仕方ない、ここは猫がご主人に対してどんな暴言を吐こうと「ツンデレ」だと思って我慢しましょう。
世の中、ツンデレなら何言っても許されますからね。
「あ、首の後ろ血がでてるな。可哀相に…すぐに消毒して」
「い、いてえええ!!!触るんじゃねえこのデコ!!!」
「ご主人をデコ呼ばわりするなこのツンデレがああああ!!!!」
再度毛玉アタック!!!
やっぱり我慢できない!!!!
猫は遺言として「ひでぶっ」と叫んでついに還らぬ猫となり…
「うわああああああ!!!!!だ、大丈夫か猫!!!しっかりしろ!!!傷は浅いぞおおおお!!!!」
チッ…浅いのか。
あのあとに、私は猫に暴力を振るったことをご主人にこっぴどくしかられました。
そして散々説教されたあとに、留守番を言いつけられました。
なにやら猫用のペットフードを買いにいってしまいました。
「このウサ公が!!耳引きちぎれやがれ!!」
「あいだだだ!!!」
猫に引っ張られ耳の付け根が限界を訴える。
こ、このやろーっ、私が手を出せないのを良い事に!!
「こっ、こうなったら…!!必殺、魔王召喚!!!」
「むっ?!」
私の闘気に反応して奴は後ろへ下がった。
『騎士さん騎士さん大変です!!貴女の愛しのアサさんがあられもない姿にぃ〜!!!』
『そのアサシンなら今まさに隣で寝てるが?』
うわっ、計算ミス
今の時間なら狩りかと思ったのに!
『あられもない姿ですか?(*´д`*)』
『ああ…って何がしたいんだお前は。』
ま、まさかの肯定!
思わず息が荒くなって内股になりそうになっている私を、猫畜生が気味悪そうに見ています。
ルナティックなので内股できませんがね。
『まあ、単刀直入に言いますと、申し訳ないですがうちに侵入した暴れん坊を騎士さんに何とかして頂きたい』
『ゴキブリ駆除なら余所をあたれ』
『いえ。獣なので是非騎士さんがいいんです!!』
『…何故、獣だと俺がいいんだ?』
ああっ、WIS越しに「返答によっちゃ地獄を見ることになるぞ」というオーラわ感じます…
『だって騎士さん自体が獣っぽいじゃ…ああっ!そうか!アサさんにお願いすればいいんだ!騎士さんを手玉に取るアサさんならこの獣も従うに違いない!』
『オイコラ何勝手に』
『あわよくばこの獣に襲われて獣かn』
『お前いま家だよな、そこにいろ今からお前の耳を引き千切りに行く』
Σ(゜д゜;)こわっ
というか相手は猫なんでそんなアサさんが襲われるなんてことありえないんですが、まあそれは気にしない。
「おいこらウサ公」
「あぎゃあああああああ!!!!!!」
今度は尻尾を噛まれました!
も、盲点だった…付け根を噛まれたらとても痛いです。
「何が魔王だ、何も起きねーじゃねーか」
「魔王はちょっとお住まいが遠いんです〜!」
「はあ?まあいい、てめえは今のうちにボコボコにしちゃるわ!」
「何をー!返り討ちにしてくれるー!!」
私は後ろ足で床を蹴り、高く飛び上がる。
そして高速回転しながら生意気猫野郎に流星の如く追撃を…!!
ぼふんっ
「んぎゃあ!」
「なんだ、お前かウサ公」
何か、猫より先にぶつかったと思ったら騎士さんの手の平でした。
どうやらエグザクティブ毛玉アタックは騎士さんの手に妨害され、私はそのまま片手でつかみあげられていました。
っていうか騎士さん着くの早っ!?
そんなに早く私の耳を引き千切りたかったんですか!?
「ううう…騎士さんにまでウサ公って言われた…」
「おいウサ公、うさ耳の生えたプリースト見なかったか?」
………。
こ、この人…
まだ私の正体に気付いてなかったんですか。
「それよりも騎士さん、そこの猫を一発どついてやっちゃあくれませんか!!!」
「は?」
騎士さんは男らしい顔を歪めて、猫を見下ろす。
騎士さんに持ち上げられていることで高い位置から猫を見下ろすことになっています。
猫はやはり思ったとおり、騎士さんを見上げて固まっていました。
このお方は私でもちょっと鳥肌が立つくらい、猛獣じみた気配を感じるのです。
「ま、ま…魔王さま!!」
って、この猫本当に魔王とか言っちゃってるし…
「なんだこの子猫、にゃあにゃあ人懐っこい奴だな。」
猫は媚びを売るように騎士の足元に擦り寄ってなんか「ご機嫌うるわしゅう」とか「僕の名前は…」とか自己紹介してます。
長いものにはまかれろって奴ですか。
しかしまあ、騎士さんにはにゃあにゃあとしか聞こえてないようですね。
騎士さんが片手に私を、もう片手で猫を掴み上げてなんか見比べてきます!
僕の隣に並んだ猫は、猫らしく可愛い鳴き声をあげてます。
猫を被るぶりっ子ってこうゆうんですね!
「うさぎは美味いらしいが猫まで食うなよ」
いつの間にか騎士さんの後ろにはアサさんがいました。
気配消してたせいで騎士さんが少しびくりとしたのが手の振動で伝わりました。
「お前も俺を獣扱いかよ」
「獣扱いしたわけじゃないが、違いないだろ」
騎士さんは苦笑いして、やり場に困った僕らをアサさんに押し付けました。
何故だ!?
アサさんは律儀にも両手で僕らを受け止めてくれました。
「はっ…オイコラてめえ!俺様を気安く抱っこしてんじゃ」
アサさんの抱っこから逃げ出そうとした猫を私は顎で押さえました。
「よした方が良いですよ猫野郎。この方は魔王ご婦人ですから。」
「は?」
は?というのはアサさんから。
アサさんにも当然、猫は猫の鳴き声にしか聞こえないけど私の発言はばっちり分かるみたいですね。
不便な…
猫は動きをぴたりと止めてアサさんを羨望の眼差しで見上げます。
その身体は小さく震えています。
「じょ…女王様?!」
ぷっ
アサさんの腕の中で、私は笑いを堪えるのに必死になり、猫はまたごますりモードに突入しています。
「やけに人懐こい猫だな。こいつはどうしたんだ、いやしけい。」
「おはようございます、アサさん。」
「ああ、おはよう。」
「なんか朝、窓辺にボロボロになって捨てられてたんで痛っ!!!」
話してる途中で猫が私の耳に噛み付いてきました。
「ふぁれがふへへこはほー!」
「あ゛いたたたたたた!!!噛みながら喋るなこの猫畜生ー!!!」
私が頭や耳を振って抵抗しますが何しろルナティックと猫では起動力に差がありますわけで…!
そろそろ泣き出しそうになっていると、アサさんが軽く猫の顎を掴んで止めてくれました。
「大丈夫か、いやしけい」
アサさんの後ろに天使の羽がみえる…!
ついでに緩んだ装束の胸元にキスマーク発見…!
「っはぁ、はぁ…」
「…何を興奮してるんだお前は。」
貴方が昨晩どんな状況だったのかを想像して興奮してるのです、何か?!
「仲がいいな、小動物同士」
騎士さんの言葉に、私は震えながら顔を左右に振りました。
誰と誰が仲がいいですってぇ!?
頭大丈夫ですか騎士さん、その頭の中身はいつの間にか空気が半分脳が半分になってしまったんじゃないですか!!?
と、口に出すと今度こそ私の耳がなくなりそうなので堪えます。
「とりあえずそこの猫畜生、もう元気になったんですから魔王様と女王様のお叱りがくる前に故郷の山もしくは料亭裏のごみ箱にお帰りなさいな。」
「何をぅ!?室内飼いの毛玉風情が!」
「っ、おい、いやしけい…暴れるな…」
アサさんの腕の中で私と猫が暴れていると
「…っつ…」
猫の爪がアサさんの腕をかすりました。
…あ
「っくぎゃああああああ!!!!」「うぎゃああああああ!!!!」
私と猫の頭上を剣が掠めました。
それは抜刀した騎士さんの剣で、私達が床に落ちるように逃げなければ2匹の首を刎ねていたことでしょう。
床に転げ落ちた私達が恐る恐る見上げると、それこそ魔王のような殺気と迫力で騎士さんが剣を構えていました。
もちろん、アサさんを傷つけたことに激怒してのことでしょう。
思わず私達は狙われたもの同士互いに手を取ってガクガクと震えていました。
やばいこれはやばいこの人目が本気だうわあああ怖ええええええ!!!!!
「ただいまー…っておいいいい!!!何人ん家で剣抜いてんだあんた!!!」
「馬鹿が、剣を下げろ」
「……チッ」
家主が帰って来たのに加えアサさんにも宥められて、騎士さんは渋々剣を鞘に収めました。
…た、助かった…。
私と猫は互いに体重をかけあいながら床にずるずると崩れ落ちました。
あのあと、せっかくなので3人と2匹で朝食を食べることになったのですが
例の猫は騎士さんとアサさんの間から離れようとしませんでした。
それを見たご主人が「いっそ、あんたらが飼う?」と提案したのですが、お二人には「断る」と一蹴されました。
チッ
「よし、じゃあ…いやしけい、フリーズ!」
「はい?」
ご主人は私ににっこり笑いかけ
猫を抱えてお風呂に入っていきました。
なぬううううう!!!!????
「ちょっ、ご主人!ご主人!?」
「いやしけいは先に寝ててくれ〜」
そっ、そんな……
ご、ご主人が…
ご主人が私以外の毛玉と一緒にお風呂に入るなんて…!!!
なんで!?しかも鍵までしっかり掛かってるし!!
いや別にそんな、ご主人が実はうさぎより猫派だとか、私に飽きてしまったとかそんなこと思ったりしませんよ?!
けれどやはりこう、寂しいというか…心配というか…
いや、でも別にたかが猫とお風呂、お風呂というかあの猫野郎が汚いから洗ってあげてるだけでしょう、うん。
なんで鍵までかけるのか分からないけど。
まあ、ここは平常心平常心。
私は余裕の鼻歌を歌いながらもなんだか冷や汗が…。
なんだかこう…私は何か大事なことを忘れているような気がするのです。
悶々としながら私はテーブルに飛び乗りました。
そういえば私は朝、良からぬものを見ていたような…。
何かがこう、胸の奥につっかえているのですが……。
テーブルに広げられっぱなしになっていた雑誌を、不安を紛らわせるように無意識の内に眺めていました。
あ、この雑記はそういえば朝に見ましたね。
本日のご主人の運勢は…
「恋愛運最高。思わぬ拾い物。ラッキーカラーは白、ラッキーアイテムはやわ毛。古いものを処分すると運気アップ。」
「………。」
恋愛運最高
思わぬ拾い物(猫)
ラッキーカラーは白(猫)
ラッキーアイテムはやわ毛(猫)
古いもの(ペット)を処分すると運気アップ
…………。
「…………っっっっっくあああああwせdrftgyふじこlp;@:「!!!!!」
「ほらほら、動くなよ〜」
どうやらご主人が猫と共にお風呂から出てきたようです。
元々血筋が良かったのか、薄汚れた野良猫は綺麗に表れると見違えたような美猫になりました…。
「うう〜っ、何だよ…あいてて!いてててて!」
お風呂に入ったので疲れた顔をしている猫に、優しくブラシを入れているご主人…って、そのブラシ、私のじゃないですか…。
「なんだ、おとなしくていい子じゃないか。ほら、綺麗にしてやるからなー。」
ほわほわと可愛い笑みを浮かべながら優しく話しかけています。
どうせその猫、ご主人の言ってることなんか分からないんですよ…?
会話だって出来ないんですよ?
いつだったかご主人、私がずっとしゃべれないふりをしていたら「話せなくて寂しかった」って言ってたじゃないですか…。
猫は丁寧にブラッシングされて、しかもご主人が私にくれた花の耳飾りを付けられています。
あっという間に大切に可愛がられている金持ちの家の美猫のようです。
着々と…ペットの世代交代の準備が進められている……
「………。」
寝室の扉からリビングを覗き込んで、悲哀の視線を送る私に気づかず…
ご主人はとても楽しそうに猫と戯れています…。
「ん〜…と…よし、SS撮影オッケー。…こんなもんか。」
「……。」
「あー…でもこいつならもっとワイルドにしたほうがいいのか…?」
「……。」
「でもやっぱ毛並みもいいし、かわいらしくしてた方がいいよなぁ。」
「ご主人」
「よし!じゃあ両方撮影して…」
「ご主人」
1回目の呼びかけは完全スルーされ、2回目の呼びかけで、ご主人はこちらに気づいて小首をかしげてきました。
「どうした、いやしけい?」
どうした?じゃないです…。
分かってくださいというのも無理な話かもしれません。
でも…けれど…私の心はもう傷付き廃れているのですよ…。
「ご主人の馬鹿ぁああああああ!!!!!!」
「えっ、ちょ!?いやしけい!?」
私は泣きながらその場から走り去りました。
背後からは追いかけてくるご主人の足音。
これではルナティックの鈍足ではすぐに追いつかれてしまう…
「う、うわああああああああん!!!!」
思わず耳コプター(耳をプロペラのように高速して空中を飛行する方法)を駆使してご主人の俊足から逃れます。
「ってお前はいつからそんなに高速飛行が出来るようになったんだああああ!!!!?」
ご主人の叫びを背後に、私は速やかにその場を飛び去るのでした。
つづく