こんにちは。

ペットの定番は犬猫じゃなくてうさぎだと思う、いやしけいです。
ということで…



「今日からお世話になります。」

「そんな自ら嫁入りの荷造りをしてくるようなペットはいらん。」


ああう、大荷物を風呂敷に入れて背中にかけていたのがいけなかったのか。
騎士さんにすっぱり断られました。

でもこれはご主人宅に置いてくるのは憚られた
ご主人の隠し撮りと、騎士さんとアサさんの夜の性生活隠し撮りが…
まあ、そういうわけで僕は新たにペットとして入居しようとした騎士さんとアサさんのお宅にきています。

相変わらず優しいアサさんが「とりあえず入れ」と僕の大荷物まで持って招き入れてくれます。

大荷物の中身…バレませんように…



「で、何で家出してきたんだ。」

テーブルに座った私の前にはおいしそうなにんじんジュース。
これだからアサさん大好きだ!!!

ちなみにアサさんは向かいの椅子に座ってコーヒーを飲んでいるようです。
私、コーヒーというのは泥の化身か悪魔の飲み物だと思います。

騎士さんは広くないワンルームの端にあるベッドに座って本を読んでいます。



………先生。

何故ベッドサイドに使いかけのバーサークポーションの瓶があるのでしょうか。




「っ…っ…」

「だからさっきから何を興奮してるんだお前は。」



おおっと、楽しんでいる場合ではない。

「その…ご主人がどうやらペットの世代交代をするようで…」

「はあ?」

「今朝のあの猫畜生と一緒にお風呂入って私のブラシでブラッシングしておめかしさせてSS撮りまくってて…!!!」

「はあ。」

「私以外の毛玉に触れるご主人なんて見たくなくて、飛び出してきた次第です…!」

「はあー」

「きっと私はもう用済みになって卵に戻されて市場に出回る運命だと思うんです…でもそんなの嫌だから、アサさん、ここに置いてください…!」

「帰れウサ公。」

「返事早っ!!」


ズキッときた!!
でもその「帰れウサ公。」という返事はアサさんじゃなくて、後ろから騎士さんが口出ししてきたものでした。

よかった、アサさんに断られたわけではなかったようで…

「そうだな、帰れいやしけい」

「アサさんまで!?」

ど、どちらにも拒否られたっ!!!

しかしグサッときた私の心をなだめるように、アサさんが私の大好きな耳裏を撫でてくれます。
見上げれば、ぶっきらぼうにしてるけど実は優しげな青い瞳が微笑んでくれます。



「半月前もお前がしょげてたことがあっただろ。その時もつまらない誤解だったし、どうせ今回もそんなものだ。」

「でもっ、ご主人ったら私にするみたいにあの猫畜生のこと…!!」

「まあ、アイツはもともと動物好きだ。だがここまでルナティックに入れ込んでこだわってるのはお前だからだろう。」


私がうつむこうとするのを押さえ込むように、おでこを後ろへぐいぐいと押すように撫ででくれるアサさん。
男前が少し呆れ気味に苦笑いしていますが、でもいつでも私の話をよく聞いてくれます。

ルナティックだろうと、ネジのぶっ飛んだ友達のローグだろうと、変態で恋人の騎士だろうと、この人はちゃんと正面から向き合ってくれます。

ああ、だから私も何かあるとこの人のところへ来てしまうのですね。
そういえばご主人も、私とちょっといざこざがあるとアサさんのところへ逃げてきているようでした。


と、考えてみるとアサさん、やっぱりお姑さんっぽい…。
口にしたら怒られそうなので何もいいません。


「あいつのことだから、猫はすぐに里親探しでもし始めると思うが…だがペットだろうと何だろうと、その猫や他の生き物がお前以上になることはないと思うぞ。」

アサさんはそう言いながら「少なくとも今のところは」とあとから付け足してきます。
それがむしろちょっと信憑性を足してきている気がします。

「そう、ですかね…」

「少なくとも、一番あいつと付き合い長い俺からみると間違いないな。」

さも当然と言ってくれるアサさんに、励まされています。
なんだか、ちょっと前向きになれそうです。

「ですよねっ!ご主人が私に一番似合うって言ってくれた赤いフリルエプロンとリボンも、ちょっとあの猫畜生に貸してやろうって気まぐれですよねっ!!」

「そのエプロンってこれか?」



そう言って騎士さんがどこかからかノートくらいのサイズの紙を取り出しました。

そこにはSSが貼ってあって、私のフリルエプロンとリボンをつけたあの猫畜生が、見違えるような可愛らしい顔つきと小綺麗な毛並みで写っていました。





…えええ!!?何事!!?



人間にはわからないかも知れないですが、同じ獣の視点だとものすごい変わり様です!!

クホグレンがモロクの案内人になったくらいの出世だと思います!
…あれ、立場的には別に出世してない?

私が写真を見てから口をあけて固まっていると、アサさんが「あー」と言いながら小さく咳払いをしました。

「まあ、いやしけいの気が済みそうなところだっだから言うが、実はさっきあの馬鹿が来たばっかりだったんだ。」
「うちのペットが来たら保護してくれとか、所属ギルドにこの写真配ってくれとかあれこれ言ってダッシュしてったな。」

アサさんと騎士さんはそれぞれそんなことを言っています。
ああ、まあ今私はルナティックの姿だし大荷物だし、そりゃあご主人より足は遅いからありえない話ではないです。

アサさんは小さくため息をつきつつ、騎士さんの持っている写真を指差します。


「ちなみにそれは“飼い主募集”のポスターだ。アイツは捨てられたペットを見ると放っておかないが、自身は飼わないから毎回ポスターを作ってばら撒きまくるんだ。」

「……っ…」


誤解?
誤解でいいのでしょうか…?

「他人の目から見て、どう考えてもお前の誤解だからさっさと帰れウサ公。」

猫畜生のチラシを放り投げて、騎士さんは苛立たしげな声で言ってきます。
なんでこの人こんなに不機嫌なんでしょう。
案外こざっぱりして人当たり悪くない方なんですけど…

あっ

「もしかしてこれからアサさんとバーサークポーション盛ってにゃんにゃんするところでしたか!!!

思わず思いついた妄想を口にすれば、アサさんが思いっきり睨みつけてきて、騎士さんは思いっきり眉根をひそめていました。
そんな騎士さんからはベッドサイドのバーサークポーションを指先でつつきながら「狩りで半分しか飲まなかっただけだ」と残念な回答を頂きました。

「ていうか腹減ってんだよ、お前を丸焼きにして食うぞ。」

あっ、アサさんが私の相手をしているせいで夕飯作りに入れないと、そういうことでしたか。

なんだそっちか
………チッ

「のろのろしてないでさっさと帰れ。あと5秒で帰らないと斬って焼くぞ。」
「んなっ」
「はい1,2」




ザシュッ!!!!


ってこの人3秒で斬りつけてきてるし!!!


私は以前身につけたバックステップで彼の斬撃をすれすれでかわしました。
この人…今本気で斬ろうとしてたような。


「うわああああああん!!騎士さんの馬鹿あああああ!!!ドメスティックバイオレンスーーー!!!」
「おう、帰れ帰れ、二度と来んな変態ウサギ」

バクバクなる心臓を抱え、私はお二人の家から逃げ帰ることになりました。
お礼もいえないままでした、アサさんにも、騎士さんにも…。


部屋を出て少しのところで立ち止まり、気づきました。
あれも、騎士さんなりの気遣いだったんじゃないかな…私が迷わず家に帰れるように。

慰めてくれたのはアサさんだけど、私が迷わず帰るように促してくれたのは騎士さん。
お二人とも、優しくていい友達です。






肌寒い夜道を帰る途中、石畳にぽつぽつとある街灯の下にご主人を見つけました。
いつも通りのローグのジャケットではなくて、ミンクのコートを来ています。
雪は降らないものの、息も白く凍るこの季節ですからね。
しかし短くてツンツンと立っている赤髪はわかりやすいです。

私の足音に気づいてご主人はこちらを見てきました。

「………。」

怒るか、心配したと泣き出すか…。
しかしご主人は目を合うとにっこり微笑んできました。

「おかえり、いやしけい。」

ご主人は意外にも、普通でした。
氷も溶けそうなやわらかな微笑みで迎えてくれました。

「……ただいまです、ご主人。」

ご主人の足元までよって行くと、そっと抱き上げられました。
そして寒いだろうと言いながらコートの胸元に私を入れてくれました。
私の毛皮が既にコートみたいなものなので寒くはないんですが…。

あの猫と一緒にお風呂にはいっていたので、ほんのり石鹸の香りがします。

「…ご主人…ごめんなさい。」

振り返るようにしてご主人の顔を見上げると、寒くて真っ赤になった頬が目に付きます。
寒さのせいもあるでしょうが、恐らく知り合いに猫のポスターを配りに走り回っていたのでしょう。
鼻水をすすりながら、ご主人はにっこり笑います。

「謝ることなんかないだろ?」
「でも…」

「ちょっと誤解があっただけだ。」
「……。」

コートの上からぎゅっと抱きしめられました。

「じゃあ、いやしけい。ちょっとでも俺のこと嫌いになったか?」
「いえそんなまさか!!」

私は首がもげるんじゃないかというくらい、首を横に振りました。



そうですよ!!!
さっきからこの石鹸の香りがたまらなくて、押し倒してたまらなくなってるのに…!!!

なんで昨日は人型クッキーを食べておかなかったのか…!!!

昨日の自分を殴り倒して口に人型クッキーとバーサークポーションを放り込んできたい!!!




「俺もお前のこと大好きだから、それでいいよ。」

へへっと無邪気に笑うご主人。
いつも思うんですが、この人は笑うと童顔になります。
言うことも可愛いですが。



寒かったので途中からご主人がランニングを始めて、家にはすぐに着きました。
寒い寒いと体を震わせながら薄い鉄の扉を開けて部屋に入ると、すぐ足元に猫畜生がきました。

「おお、ただいま。お前も寒かっただろ、温めてやるからなー。」

まさか、私みたいに柔肌で温めるのでは…!!

と思ったら違いました。
普通に暖炉へ火を入れに行きました。

私はご主人の胸元からテーブルに飛び移り、即行でテーブルの片隅に置かれた籠に飛びつきました。

もちろん、人型クッキーを食べる為に!!!
もうこのルナティックの姿で同じ毛玉として猫畜生に見下されるのは我慢なりませんからね!!





「…っ、ん…んん…!」

すぐ耳元で聞こえるご主人の声は、いつもと違ってすごく苦しそうです。
声をとにかく抑えようとして苦しげなうめき声になっているから…でも、時々耐え切れなくて漏れる高い声がたまりません。

二人分の体温で十分に温まった布団の中で、うつ伏せたご主人の上に体をぴったり乗せるとじんわりと汗をかいていました。

「ッい…ぅ…!」

繋がった腰を押し付けるようにして奥まで入り、濡れた首元を舐める。
汗の塩気と香りに、体が一層熱くなった。

「ご主人…あっ、たかい、ですね」
「っ…ぅぁ…」

感じるご主人の中は、溶けそうなほど熱くて湿っているけれど。
動かすたびに頭の中も心臓も熱く脈打って、苦しいけれど気持ちがいい。
ご主人も、そうなのでしょう。

一番深くまで入り込むのがきつくて気持ちいいけれど、ご主人は浅いところを行き来されるのが好きなのを私は知っています。
ご主人の体を抱きしめて深く沈んでいると、ふと足元でごそっと動きました。

寒いだろうと重ねた布団に入れていた猫が、布団から這い出していました。
ベッド脇に回ってきて、こちらを見上げていました。

「っ…っあ、ぅ…」

それに気づいたご主人が、口を塞いでさっきまでと同じように枕に顔をうめました。
猫がおきるかも、というのでずっとご主人も声を抑えていたのですが…。

「大、丈夫…です、よ…どうせ、猫には、何してるか、わかりませんから。」

笑いながら耳元で言って、またピアスのはまった耳を舐めるとくすぐったさに小さな声があがりました。
ああもう、なんか可愛いなぁ。
横目で猫を見ると、状況が飲み込めずにおろおろとしています。

「…大人しく眠ってなさい。今いいところなんだから。」

そう言うと、猫は「誰だてめぇは!」とまた変に勇ましさを出してきます。
それにしてもこの猫、まだ私の正体に気づいていないのか…。

「ご主人…」

いらないところで起きだしてきた猫を無視してご主人を抱くことを優先します。
私は早く、ご主人の中に解放したいのです。
枕に埋めているご主人の顎を上げて、唇に指を差込みました。

「っぁ、ふァ!…ッハぁ!」

私の指を強く噛まないように唇を開いているせいで、抑えていた声が抑えきれなくなっています。

正直、自分、ご主人の声だけでイケます。
ごちそうさまです。

もう猫がベッドから降りたので遠慮なく腰を掴み、突き上げる。
熱はもう限界な程に高まって、布団の中にこもった熱はもうどちらのものか分からない。

熱い、溶ける
声が、意識が、体が

「ッア、ぅあ、くっ!」
「ん、っぅ…!」

溶けて、ご主人と溶け合えるような
この感覚が大好きで…
だから、誰にも邪魔なんか、させませんとも。

「ふ、ぁ…」

余熱は冷めなくて、解放できた気だるさが体に染みこみます。
奥に熱を吐き出しきり、繋がっていたものをゆっくりと抜きました。

「ちょ…も、と、ゆっくり…」

そんなこと言われると逆戻ししたくなるんですけどね。
ええ、全力で。

したいと思ったら速攻やりますよね、雄なら。

「ひぎゅ!?」

引き抜くと思われたモノを全力でまた突き立てれば、ご主人からなんかへんな鳴き声があがりました。
二人してジンジンとうずく快感にしばらく体を硬直させてだんまりになってしまいます。
でも私は背中からご主人を抱きしめるのは飽きたので、ご要望どおりゆっくりと抜いてあげました。

それから仰向けにさせてぎゅっと抱きしめました。
ツンツンに立てているご主人の髪は乱れていて、ぺったりとしています。

髪を下ろすとさらに童顔に見えて可愛いです。
童顔と言うか、人懐っこい顔つきが少し幼く見えるんですよね。

そういえば前に、髪のセットが面倒臭いからと髪をおろしたまま外にでようとしていたことがありました。
もちろん、どこぞの馬の骨に私の可愛いご主人を見られないように、ご主人の顔面にへばりついて半日仮面がわりになったことがありました。
あれは疲れた。
生のルナティックを仮面にする人なんていないから、逆に悪目立ちしましたね。

そんな可愛いらしいご主人のデコにキスをすると、「お前が主人みたいじゃないか」と笑いながら私の額にもキスをくれました。
二人とも、心臓の音も呼吸も激しくて
でも体を寄せ合って静まるのを待っているのは何ともいえない幸福な時間です。


「やっぱり、ご主人と一緒が幸せです。」
「ん。そうだな、俺も。」

笑いながら私の頭を撫でてきてくれたご主人ですが、ふと表情を少し固くしました。

「……あいつも」

ご主人の視線は横にそれて、まだおろおろしている猫に向けられてました。

「俺とお前みたいに、一緒にいて幸せになれる主人が見つかるといいな…」

ご主人が微笑んで猫の方に指先を差し出すと、少し安心したらしい猫はおずおずとベッドの方に戻ってきました。


私とご主人みたいに、幸せに?
正直、それは無いと思いました。
だって私たちの関係は飼い主とペットの関係ではないです。
きっかけはそれでも、今はそれよりもずっとずっと親密で、深く深く想い合っていると思うのです。

それはきっと、私たちだけです。
私たちより想い合っている人は、例え同じ種族同士だろうといないでしょう。




「ちっくしょぅ、あのウサ公どこだよぉぉ…主人がなんか変な奴にいじめられてるじゃねえかああ…」

不意にどこからか聞こえた猫の声。
酷く震えていて、今にも泣き出しそうな声でした。

声のする方を見ると、私を探して椅子の裏とかベッドの下を歩き回っているようです。

「うううっ…こ、こうなったら…お、俺が…!!」

そしてやつの、何か固く覚悟を決めたような声とセリフ。


…って…まさか



「シギャアアアアア!!!!くたばれ白頭ァアアア!!!

そいつぁ俺の下僕だああああ!!!!!




爪が痛ァアアアア!!!!

猫がものすごい声で喚きながら襲いかかってきました。

「って誰が貴様の下僕だ猫畜生があああああ!!!!」

ご主人が慌てふためく前で、私は猫畜生と取っ組み合いで夜を明かすこととなったのでした。







「おはようございます。」

もう昼近くになるが、そう挨拶して知り合いのギルドのたまり場にお邪魔した。
ちなみに友達のアサシンと騎士が所属してるギルドで、前も犬を2匹引き取ってもらったしたまに遊びにくるから面識はある。

「あら、お久しぶり〜」

確か副マスターだったかな。
筋肉ってより細身なハンターの女の人が少し移動して座る場所を空けてくれた。

「あ、ちょっと今、座ると痛いんでいいです。」
「痛いって…怪我でもしたの?」
「まあ、そんなところで。」

ものすごく苦笑いになったけど、適当に誤魔化した。
昨日の夜にいやしけいと、その、ヤッてたわけだが
いやしけいが「猫に邪魔されて一回しかできなかった!」というから朝また押し倒されたわけで…

もう、やられたあとの痛みがダイレクトに残ってて、正直歩いてくるのもきつかった…。

「また引き取ってくれて、ありがとうございます!毎回すいませんねー」
「いいえ、うちのギルド動物好き多いから嬉しいわ。」

俺はコートの中に潜り込んでた白い小さな猫を引っ張り出した。
すると驚いて少しわたわた慌てている。

「なんか寒がりみたいなんで、コートの中に入れてやるとおとなしくなりますよ。」
「あら、本当だ〜。野良猫だから引っかかれるの覚悟してたんだけど。」

まあ、昨日までものすごい暴れん坊だったけど
なにやら明け方に猫に説教し始めて、その説教が効いたみたいで結構おとなしくなった。
何を話してたのかよく覚えてないけど…

確か
『人間をひっかくと、魔王様に生きたまま毛皮を剥ぎ取られてお肉をゆっくりゆっくり食べられてしまうんですよ』とかちょっと訳のわからない話をしてたような気がする。


「じゃあ、大事にしてやってください。」
「うん、大事に可愛いがるわね。」

ハンターさんのコートの中で、温かくなって眠くなってきたらしい白猫に手を振った。
挨拶がわかったのか、小さくにゃあと鳴かれたら、ちょっと涙ぐみそうになる。

ハンターさんとあの猫も、俺といやしけいみたいな幸せ全開になれたらいいな。




まあ、俺達より幸せなのは居やしないだろうけどな。