【There are no meanU】
『お前のとこのギルドにいるローグ、僕がもらっていい?』
テーブルまで持っていくのが面倒でキッチンで作りそのまま飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。
流し場が目の前でよかった……
唐突なWISで俺にクリティカルヒットを食らわせたのは騎士団を同じ頃に抜けた幼馴染とも言える友人だ。
『お前、そっちの気があったのか』
『真っ先に聞くのがそれかい。ていうかまさかとは思ったけど、アレクってば男だらけの騎士団でよくもまぁ潔癖で通したよねえ。』
つまりYesか。
それにしてもローグ?ゲートか。
そういえば俺と一緒に狩りをしてるときとかギルドでつるんでいた時に数回見かけたくらいだが、この男とゲートの面識は無いといえなくもない。
『それは俺にお伺い立てることじゃないだろう。』
『いんやあ、酒場で飲んでるとこ声かけて一緒に飲んでるんだけどさ。』
『気に入った、と?』
『うん。可愛いねえ、片思いとか言いながらあんたの惚気してるよこの子。よく見てるねえ。』
『………。』
そういえばアイツ、酒が入るとかなり口が軽くなるんだったな。
GvGギルドには絶対に入れないな、と思ったことがある。
『ほら、ブレイクハートに優しさは結構強力じゃん。今ならこのローグ落とせる自信があるんだけど!』
『俺のギルドメンバーに変なことするな。』
『えー、恋人じゃないんだろー?しかもお前はフッたんだろー?』
正面切ってフッた記憶はないしつもりもないが、ゲートに応えるつもりもない。
俺は完全ノーマルだ。
だが、だからと言って俺の友人とギルドメンバーがごたごた起したりしたら気分いいものでもない。
『あ、このローグ君、なんて名前だっけ??』
『名前も分からない相手を口説くつもりか。』
『直接聞いてもいいけど、えっ、知ってたの?ていうほうがドキッとしない?』
これくらいの計算高さと軽さがないと恋人なんて出来るもんでもないのかな。
だからといってこうなりたくは無いものだが。
『ゲートだ』
『おっけー!優しい親友に感謝する!』
『おい、変なことするなよ』
『大丈夫大丈夫、こんな可愛い子に酷いことなんて出来ないって。』
……不安だ……
だがまあ、知人とはいえ人の色恋に口出しをするほど野暮じゃない。
信用はできないが大して気にかけず、明日の狩りの準備をすることにした。
明かりも消して小型のランプのみを残し、薄暗い中でぼんやりと剣の手入れをしていた。
明日は使わない分だが、なんとなくまだ眠たくもなかった。
黙々と作業するとあれこれと思考を巡らせるようになるのは当然のことだろう。
それがゲートのことになるのは最近では当たり前の流れになっていた。
まったく惹かれないといえば嘘になる。
人の良さと愛嬌の良さで仲間がたくさんいて、人を笑顔にさせる力がある。
女が嫌いと言いながら、女に言い寄られても真剣に告白されても、傷つけないように紳士的にかわしているし。
俺に対しても無理強いもせず、思いを打ち明けた直後は俺が少し気まずくしているのを察して自然と離れてくれていた。
そして気持ちが落ち着いた頃には以前と変わらず悪ふざけにも狩りにも誘ってくる。
本当にそれ以上の関係は望んでいない、これで満足だと顔に書いてあったから自然に接することができた。
だがその気遣いの裏で、いかにあいつが俺のことを考えてくれているのか分かったことがある。
今夜はまだ…というか俺の友人に会ってるから、今夜は聞こえてこないだろうが。
『今日も一人酒してるぜこのやろー!!』
『うがああ!!姐さん寂しいィイイイ!!!』
とか、毎晩のようにギルドチャットに酔ったゲートのわめきが響くようになったからだ。
だからといって俺の名前を出すこともなく、ただ『失恋したから』とだけ。
『あー今日も酔ってるねー。』
そういわれればギルドメンバーの誰も文句は言わず、むしろ哀れみ半分面白半分でゲートに慰めの声をかける。
そしてゲートがやたらに副マスターに絡むのは、だからといってゲートに応えることはないと本人が分かっているからだろう。
“寂しい”てのは本当だろう。
片思いを分かりきってる相手に気持ちを伝えて拒否されて、元々の空しさも倍増するというものだ。
『いい加減立ち直れよ。お前ならもっといい奴見つかるさ。』
応えられないが慰めの言葉はかけておいてやる。
俺が言っても余計空しくなるだけかもしれないが、早くいい奴を見つけてくれとも思う。
『うっさいわー!わかっとるわああ!!立ち直るために飲んでるんじゃああ!!でもほんとにいい奴だったんだあああ!!』
本人を前に言うか、それ。
意識してみれば、如何にゲートが気遣いや優しさがある男かが分かる。
きっと恋人になった相手は女にせよ男にせよ上手くいくだろうし幸せ者だとも、思うようになった。
同時に、ゲートか女だったら…そう思わなくも無い。
気持ちがあっても身体が伴わなければ付き合う、ってのは無理だろう。
「……また…馬鹿か俺は。」
少し切なくもなっている自分を心底阿呆臭いと思って一人で苦笑いすることが多くなった。
ゲートという人間を好きになれても、やっぱり男を好きになるってのは難しい。
表向き仲良く出来てもキスだのセックスだの絶対無理だ。
『いい加減立ち直れ』とは、いつの間にか俺自身にも向かう言葉になりつつあった。
『たあああすけてえええええ!!!!!』
ザクッ
『痛ぇええ!!!』
先に響いた悲鳴がゲート、後に響いたのがゲートのギルチャに驚いて持っていた剣で手を切ってしまった俺の叫び声だ。
ギルドメンバーがそれに驚いて何事かと騒ぎ出す。
『どうした!ゲート!アレク!!』
滅多に聞かない真面目なマスターの声に、こっちが逆に焦る。
とりあえず俺からは『なんでもない、ゲートの声に驚いただけだ』と返す。
『ちょっ、なんか俺今襲われてるー!!犯されるーー!!!』
あまりの事態に脱力してテーブルに突っ伏した。
変なことするなと言ったのに…あの馬鹿は…!!
まさか男を、しかも俺の友人と分かってる奴を力ずくで手篭めにする輩とは思わなかった。
『え、なんか、イマイチわかんないんだけど。相手は男か?女か?』
『女だったらこんな危機にならんわ!』
『男相手なら遠慮なくぶっ飛ばしてくればいいだろ。』
『それができるならこんな情けないことでギルドにヘルプ出さない!めっちゃ縛られてます!!』
いよいよあの友人を斬ったほうがいい気がしてきた。
『わ、わかったわかった、助けに行くから。何処にいる。』
『目隠しされててわからない!』
『それで助けに行けるか!!』
………。
ゲートは毎回酒が抜けると酔っていたときのことを思い出せなくなるといっていたな。
なら酔った勢いで相手についていって、今やっと酒が抜けて必死に助けを求めてきてるといったところか。
目隠しされて拘束されたまま連れ込まれた、というわけじゃないとしてもどこにいるかのヒントは聞き出せないだろう。
こうなったら恐らく俺しか助けには行けないだろう。
おそらく今ゲートを襲っているであろう友人にWISをする。
『この外道めが、何してやがる。』
『ア、アレク…』
慌てたような声。
できればこれで説得できればいいんだが。
やっと眠くなってきたところだったのに、今から剣持って出掛けたくは無い。
『ごめん、ここまでするつもりじゃなかったんだよ…』
『なら悪ふざけはやめろ。』
『…我慢できないんだ。』
どこか必死そうな声に、思わず硬直した。
『僕、本気だから。』
『は!?ちょ、お前…!』
WISが、通じなくなった。
本格的に
『ひぎゃああああああ!!!!いやああああああ!!!!!』
まずい……!!
手入れしたばかりの剣を持って、夜着のまま家を飛び出した。
『よ、よし、プロンテラからは出てないみたいだ?!正確な位置は特定できないが、とにかく皆で町中走りまわってみるから!』
必死そうなマスターに対し
『みんなで「green river」歌いながら探すから聞こえたら合図しろよー?』
副マスは絶対どうでもいいとか思ってるだろうな。
確か最近人気の歌手の「知らない男に犯されて自害した女の歌」だった気がする。
歌声が綺麗なのだが歌詞はエグい。
『そんな歌で救助待ちたくないー!!』
俺も救助したくない。
しかしゲートの叫びの最中にブチッとギルドチャットが途切れ、微かにあったギルドエンブレムの気配が途絶えた。
ギルドメンバーに助けを求めてるのがバレたのか、服を脱がされて体から離れたのか。
仕方ないからとにかく俺だけが知ってる友人騎士の家へ向かう。
まあ、残念なことに俺の家は家賃激安の町外れ、奴の家は結構立地がいいところだった気がする。
つまりけっこう距離がある。
くそ…こんなことならテレポクリップ持ってくればよかった。
「ん、あれ…」
気がつくと、目の前には全裸で両腕を縛り上げられているゲートがいた。
何故か俺がそれをまたがって首の脇のベットに剣を突き立てて……
ベッドの脇には、俺が切ろうとした騎士が……
ああ、そうか。
奴を刺そうとして、避けられてベッドに剣が刺さったのか。
「っ、ちょ…アレク、俺を、殺す気か…っ!!!」
その号泣は俺の剣が怖かったのか、それとも貞操の危機だったのか怖かったのか。
じたばたするゲートはとりあえず置いておいて、暴漢に成り下がった友人を横目に見る。
「…おい、俺が言いたいことは分かってるだろうな?」
「………。」
睨みつけながら剣先を床に転がって呆然と見上げてくる男の首に当てる。
「……わ、悪かった…」
「謝る前に股間のものをしまえこの変態が!!」
謝罪を掻き消して怒鳴ると、後ろから「そっちかよ!」とツッコミがくる。
なにやらもう事後だったのか元々なのか、嫌なにおいがするんだよここ。
「とにかく消えろ。」
「…アレク、俺…」
「本気だってのは分かった、お前は馬鹿じゃないからこんなことすると思ってなかったからな。
だからと言ってギルドメンバー売れるほど俺は外道じゃない。」
「………。」
やっとズボンを上げて立ち上がり、衣服を整え、自分の荷物を持って部屋を出て行く。
自分でやっておきながら、それでも去り際にゲートを振り返って「ごめん」と謝っていった。
アイツのあんな顔も見たことがなかった。
なんとなく、どれだけ必死だったか分かってしまったのが辛いところだ。
「おい、大丈夫か」
ゲートを振り返って、一瞬心臓が止まった。
「……わ、るい……」
何が悪いというのか。
此処まで走らせたことか?
だったら、謝るのはむしろ俺だ。
お前を襲った犯人の友人なのに、事前に聞いていたのに
あと駆け付けるのが遅れた。
家にいなかったから、近くの連れ込み宿を探すのに手間取って…
言いたいことがあるのに、言葉にならない。
やっと口を開けたと思いきや
「……気持ちよかったのか?」
そんなわけの分からないことを聞いていた。
まだ涙を流している目を丸くして、自分の身体を見ながら赤い頬を更に紅潮させて
「っん、なわけねえ…っ!薬も使われて触られりゃ、誰もこうなるっつーの!」
股間のものそそり立たせて、汗ばんだ胸をまだ荒く上下させて
だが手が使えずに隠そうとしても身をよじることくらいしか出来ない様子。
「…っ、アレク、腕、解いてくれ…そんでちょっと、出てってくれ」
「……。」
「あとは、自分で帰れるから…」
薬、ってのはまだ効いてるのか平気そうな声してるが、見た目はどうみても平気そうじゃない。
今現在コトの最中、と言われてもおかしくない様子だ。
表情だってなんとか平気な顔を作ろうとして頬が震えている。
「…手伝ってやる。」
平静な自分が、ここにいなかった。
ネジが外れた俺はあろうことかゲートの足をまたいで、反り返らんばかりに立ち上がっているモノに手を這わせる。
ゲートが驚愕し、取り繕っていた余裕の表情を崩した。
「っや、あ!…っあん、た…やめろ、ふざけんっ、な…」
「ふざけてない。」
「なん、で…だって、こん…な…」
なんで?その答え、俺は知りたくなかったがもうここまできたら自覚せざるを得ない。
俺にとって「何故ゲートを選べないのか」という問いの答えは『男は女の代わりになれないから』だった。
仲良くつるめても、触れたいと思えなければ男を恋人にはできない。
だが、乱れた姿に欲情してしまえばもうゲートを好きにならない理由は無い。
他の男に組み敷かれ挿入されていてその姿に逆上してしまえばただの友人と思っているだけではすまない。
少しづつ、少しづつ引きずり込まれていた。
当然のように惚れ始めていた。
ああ、そういえば…ゲートが俺に惚れた理由は無いと言っていたな。
少しづつ、けれど確実に深みに嵌って…気がつけば溺れていたと。
好きになった明確な理由が無いから、なかなか嫌いになれないと。
俺も、それと同じ状態になったのかもしれない
「……やめ、ないと…う、ぁ…後悔、する、ぞ…」
「何がだ?」
「おれ、が……」
腕を強く握り締め、更に泣きながら睨みつけてくる。
「あんたの、こと…忘れられなく、なる…」
「……。」
「わすれよう、と…我慢、して、たんだ…っ触られたら、もう忘れられなくなるだろ…!!」
「……。」
「だからやめてくれ、頼むから…」
いつも、この男は必死だ。
酷い過去に捕らわれながらも笑い、やっと誰かのことを好きになったのに忘れようとして。
「……?」
子供にしてやるように、頭を撫でる。
縛られながらも必死に暴れたせいで、ぐしゃぐしゃになっている髪を撫で付ける。
まだ泣きながら、目を丸くする。
「ほんと、俺でよかったよ。」
「…なに、が…っ!!」
お前が好きになった相手が。
俺なら、お前が俺の知らないところで傷つけられることもない。
必死に「大事にしたい」と思いながら守ってもらえる。
お前のことを、好きになってやれる。
手をゆるゆると動かすと、ゲートが唇をかみ締めながら身体を少しばたつかせる。
抵抗したいのと、したくない気持ちが半々で大して俺の邪魔ができていない。
だが俺を押し上げようとして曲げた膝が、丁度俺の脚の間に当たる。
そしてぎょっとして身体を強張らせた。
俺のが、熱と硬さを持っていることに気づいたんだろう。
「……アレク…なん、で」
「なんでも何も、理由なんか一つしかないだろ。」
「だ、って…あんた、男は」
「お前なら、大丈夫みたいだな。」
飄々と答えて見せるが、実は少ししんどい。
別にサディストじゃないが、何故かゲートの泣き顔ってのもくるし。
「アレク…いいの、なら」
「ん…」
「腕、解いてくれ」
ベッドサイドに転がっていた剣を取り、頭上のベッド飾りに縛り上げられていた腕の間を縫うように、縄を切る。
ゲートは力が入らないのか気だるげに上半身を起してくる。
俺はまた剣をベッドサイドの放り投げた。
…剣は騎士の魂、それを投げる俺はどうかしている。
目の前のゲートが更に近寄ってきて、足を広げた状態で俺の前に座る。
足を絡めるように密着して、顔を寄せてくる。
「あんたの、ことだから…半端な気持ちでとか、遊び半分で、こんなことしないよな…」
「お前のように真面目で一途な奴をからかえる程堕ちてもいない。」
「う、ん…」
座高が同じくらいだから、キスは容易にできた。
そのまま俺の夜着の布ごしに、立ち上がっている雄が重なる。
それでなんとなく、ゲートが何をしようとしているのかが分かった。
「っ…ふ……」
舌を絡めて少し喘いだのは、俺とゲートどちらだろう。
男だからと一度は気持ちを断っていたのが嘘のように抵抗もなく、むしろ高揚している自分がいる。
積極的に舌を絡め入れてくるゲートを受け入れて、キスの主導権は譲ることにする。
熱さに溶けそうな頭や頬以上に熱い箇所を、夜着と下着をずり落として取り出す。
びくっと震えたのは、嫌だからではないはずだ。
快感を期待して、キスは深く激しくなる。
それに応え、先ほどから布越しだったのをそれを取り払って直に触れ合わせ、片手で二本を同時に擦る。
「っ、ん、ん…ッ!」
俺が身震いする以上に身体を震わせ、ゲートが腕を首に回して抱きついてくる。
余計に身体が密着し、互いの体温で熱くなる。
ただしばらく、上と下で黙々と快感を求めて交わる。
「っは、あ、あ…!」
息が荒くなってキスをしているのが辛くなってきた頃、相手もそうだったらしく口が解放された。
どちらのものか分からない唾液で濡れた唇を舌で舐める。
「っ、くしょ…やべ…もうっ…」
出そうになるのを堪えてるのか、俺の肩に額を押し付けてそんなことを呟いている。
「出せよ…その、ために…やってんだ…」
「嫌、だ!くやし、っだろ…!」
だが俺自身も危なくなってきて、呆然と裸の背中を見下ろしながら息の荒い口は開けっ放しだ。
「っあ、ん…ああ!…っうあ、あ!」
俺自身の煩い鼓動と呼吸音に、オクターブ高いゲートの喘ぎが混じる。
その声にあわせるように、俺も限界をおとなしく受け入れようと擦る手を激しくして先端をくじる。
「っひ、アァ、あーっ!」
背中に回した手で服を掴んで、腕の中の身体が震えて背を逸らす。
耳元でその声を聞きながら、腰を震わせて相手に合わせて射精する。
なんとなく、目の前にあった首筋に唇を寄せた。
「っ、は…ぁ…はぁ…」
「んん…ふ…」
二人分の熱い精を受け止めた手を握り、ベッドのシーツに擦り付ける。
先ほど、俺の友人とゲートがしていた現場を見たので、男同士での性交方法は分かった。
このまま押し倒してそこまで縺れ込むかと一瞬思案したが、丁度ゲートのすぐ後ろのシーツに血らしきしみがついているのを見つけた。
あいつにどこまでやられたのか、もう既に深く交わっていたのかは分からないが、その時に切れて出血したのだろう。
それを思うと、そこまでするのはこいつに酷だろう。
「…イッ、た…か?」
「ああ」
「そ、か…あんた、おれでもイケるんか…」
「らしい。」
顔は見えないが、声が嬉しそうだ。
「この、まま…するか…?」
「出血してるだろう。」
「大丈夫だ…」
「無理すると痔とかになるんじゃないか?」
俺が口にした生々しい語に、思わず硬直する。
そして弱弱しい声で「やっぱやめようかな…」と呟く声がした。
「でも、さ…明日、になって…気が変わるとか…ないか…」
「安心しろ、そんな優柔不断なつもりはない。」
「な、ら…いいんだけど…」
その証拠に、ともう一度顔を上向かせてキスをしてやる。
「もう、お前を諦める理由が無い。安心しろ。」
「諦める理由…?」
「お前が女だったら、と思っていたが、男でも問題ないことがわかったからな。」
背中に手を回してやると、甘えるように強く抱きついてくる。
『くっそー!ゲートみつからねえー!!』
『誰かー!見つけてないか?!』
『こちらまったく反応なしです〜』
『同じくー!聞き込みも反応無しーていうか時間が時間で人がいません!』
………あ。
他のギルメンが探してたの、忘れてた。
「避けれんなら前に出るなこの草!邪魔だ!」
「はあ!?何が草!?どこが草!!?」
俺の忠告を素直に聞かずばんばん前に出て行くゲートに堪忍袋の緒が切れた。
少し声を荒げて言うと、ものすごい「草」に食いついてきたゲートが額がつかんばかりに顔を寄せて睨みつけてくる。
「大して避けられもしないくせにひらひら動いて無駄な動きをしてる無様な様がだ、いいからもっと後衛に下がれ!」
「むっかー!!あんたな!ふざけんなよ!?草をナメんなよ!?大抵のアサシンのソニックブロー避けられるんだぞ!!」
「うるさい、うざい、はなれろ」
というか、食いつくのはそこか。
あくまで「草」なのか。
「なんか、最近急にアレクとゲート、喧嘩が増えたな。」
「喧嘩するほど仲がいい……とは言うが、アレクがやたらに苛々してるしな。」
俺達を遠目に見ていたマスターと副マスの後衛チームから、支援プリーストの女性が近づいてくる。
彼女はゲートの腕に手を当てると、そこにあった切り傷をヒールで癒す。
「まあまあ、アレクさんはゲート君を心配してるんですよ。
ずっとゲート君より前に行こうとして、ゲート君がターゲット抱えてるとすぐに戻ってきてモンスターの群れを背中にしますからね。」
……さすが支援、よく動きを見ているな。
「っはぁ?!あんた、何、マジギレかと思いきやただのツンデレっすか!?」
「ツンデレとか言うな、キモい。」
色恋、というのは厄介だ。
ゲートも前衛職だというのに、自分の役割も忘れて動いてしまうのが…
「でもね、アレクさん。」
彼女はにっこり笑って俺に一歩近づいてくる。
…その様子に、何故か重圧があるのは気のせいか…?
「ゲート君が心配なのはいいですけど、いつも彼の近くでしかも奥に隠れられるととても支援がしづらいので、 と り あ え ず 狩り中はゲート君に近づかないでくださいね。」
「…りょ、了解した。」
近づいてる、と思われるのは心外なのだが、どうもそう口にし辛い雰囲気で閉口するしかなかった。
満足げに頷いた彼女が後衛に戻っていくのを見送り、俺も前衛最前列に戻る。
『ありがとな。』
ゲートからのWIS。
『……そう思うのなら少し下がってタゲ取りを控えろ。
…一昨日した怪我も治りきっていないんだろう。』
『前衛狩りは楽しいからそれは聞けないな!!!!!!』
ゲートの短剣と俺の剣が交差して耳に痛い金属音をかき鳴らした。
「だから近づくなって言ったばかりでしょうがああーーー!!!またブレスが重なったぁあああ!!!」
今度は得物を持ち出して喧嘩を始めようとしていた俺達に、ホーリーライトの光が見事なアッパーをくれた。
俺達は自分の正直な気持ちをお互いに晒しだせるようになった、故に衝突や喧嘩も増えた。
だがいずれにせよ本気ではないし、それが楽しいところでもあるからまったく問題ない。
さして理由もなく、好きになって結ばれた。
やはりそれは必然だったからで…
「でもさ、アレクの奴ってよく笑うようになったよな。」
「ゲートのペースに巻き込まれてりゃあねえ…」
だから今は毎日が楽しく、愛しくて仕方が無い。
Fin
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