夜は魔を孕んでいる。
気が狂わされるから…なんとか気をそらせて夜を凌ぐ。
けれど朝の光も眩しすぎて怖いから、夜の闇の方が自分には心地よい。
「新顔がいますね」
そっと歩み寄ってきてそう言ったプリーストの顔を見るなり、アサシンはあからさまに嫌そうな顔をした。
人が苦手だが嫌な顔はしない筈の彼が、自分だけには嫌悪を現す。
それが少し楽しいとは決して口に出さないプリーストだ。
「大聖堂の司祭様が、こんなところにいていいのか」
闇を纏うような黒いショートカットの髪、蒼の瞳のアサシンが追い払うように言う。
「大切な恋人がいるくせに、こんなところにいていいんですか」
月光を紡いだような銀のロングヘアーの髪、銀灰の瞳のプリーストがそう言いながら親しげにその隣の席に腰かけた。
「…一人で飲みたかっただけだ。」
「本当にそれだけですか?」
皮肉げな目を向けてから、彼はカウンターに注文をする。
相手の言わんとすることをすぐに悟り、アサシンは溜息をついた。
「…入ってから気付いた。」
「ご愁傷様。まあ、ここは大して裏通りでもありませんしね。」
ここは特定のカクテルを持つ人の間で一夜の相手を探す場だ。
アサシンの手元にあるのがその対象ではない東の民族酒であるのに気付き、プリーストも彼の失敗をすぐに悟った。
「…酒は、うまいんだがな…」
「特定のカクテルに手を出さければいいだけのこと。
…貴方の場合、偏見だらけでここを嫌悪しそうですがね。」
「……。」
アサシンの沈黙は肯定だ。
酒を煽り、揺れる白い喉もとを見てプリーストはひそかに「勿体ない」と思った。
イイ男はたいてい潔癖かどうしようもない遊び人。
彼は前者で、同性愛に偏見はないが性交渉には偏見だらけ。
最愛の恋人ともあまりしたがらないらしい。
「…貴方は寂しいくないんですか?」
プリーストが漏らす言葉を、アサシンは酒を飲みながら耳だけ傾ける。
「恋人がいるのに一人で酒を飲みにきて、誰とも体を重ねようとはせず、誰かと時間を共有することも望まないで。」
「…アンタは寂しいのか。」
ほてった体を冷ますように背筋を延ばし、天井を仰ぐアサシンが聞き返す。
そんな彼の方を見て、プリーストはにっこりと笑む。
「ただ流れる時間に翻弄されて、自分が分からなくなる。
混乱して気持ち悪くなる。一人でいればただ深みにはまる。
だから誰かに傍にいて忘れさせて欲しい…そう思います。」
「…俺は混乱する自分を誰にも見られたくない性格なだけだ。」
アサシンは視線を反らしたままで、プリーストは視線を彼に向けている。
その行動自体にも二人の性格が出ていて、二人とも小さく苦笑いした。
人を拒む男と、人を求める男。
「似ているようで似ていないんですね…私達は。」
「似てないようで少し似てた、じゃないか…?」
「そうですね。ま、貴方の気持ちはよーく分かってしまいました。
…誰にも見られたくない、そうゆう時もあります。」
「…相方に恵まれたから、余裕も少しあるが…な。」
「貴方の恋人ですか。さっぱりして理解がいいからと油断しないほうがいいですよ。」
そう言いながらアサシンが持っていた酒をその手からとり、プリーストは悪戯っぽく笑う。
「彼は貴方に対して貪欲だ。自分をいつまでも隠し過ぎていたら骨まで貧り喰われますよ。」
プリーストは杯から酒を軽く啜り、口に合ったらしくぐっと煽った。
「知ってる。だから安心して一人酒して酔って帰れる。」
「…仕事疲れの商売扶みたいな。」
クスクス笑うプリーストの頬は強いとはいえ酒一口でほのかに赤い。
「弱いのか」
「赤くなりやすいだけで酔いはしませんよ。」
「…いつも酔っているようなものだしな。」
「貴方みたいにいつも沈んでいるよりましですよ。」
笑うプリーストから杯を奪い返す。
空になった彼の手元に調度入ったのは、ダークチェリーが沿えられた透明な黄色いカクテル。
さっき周りを観察していたアサシンはなんとなくそれの意味を察した。
相手を求める女性が多く傍らに置いている。
男性でも先程一人いてかかったらしい男と連れだってでていっていた。
抱かれることを望む者用のカクテルなのだろう。
プリーストはそれのチェリーをとってすぐに食べ、種をペーパーに包んで置く。
「…今夜は貴方と話して、少し気が紛れました。」
彼はグラスのカクテルを一気に飲み干し、息をついた。
アサシンはその様子を見て、唇の端を吊り上げ杯に残った酒を飲み干した。
「アンタと飲むのも、思ったより悪くない。」
「それは光栄ですね。」
プリーストは今度はカクテルを二人分カウンターに頼んだ。
アサシンがそれに眉を潜めると、笑い掛けた。
「カクテルはチェリーが添えられていなければ、その意味は成しませんよ。」
「…そうか。」
それなら、とアサシンは一安心してカウンターからカクテルを受け取った。
プリーストは先程と同じ、ただしダークチェリーの添えられていないカクテル。
アサシンは皮付きの葡萄が添えられた、透明な紫カクテルだ。
カクテルはあまり飲まないが、口をつければジュースのようだったがアルコールも強くて悪くなかった。
「私も沈んだ時貴方に縋り付くのも悪くないと思いましたよ。」
「勘弁する。」
プリーストは笑いなから「美人にはいつもフラれる」と笑いながらちゃかす。
アサシンはどこまで本気だったのか計りかねた。
「…俺は慰めなんか出来ないぞ。」
「分かってますよ。でも貴方には分かるでしょう…?」
薄暗い明かりの中、プリーストの笑みは妖しく映る。
アサシンはそう言われば納得した。
あまりに心が廃れ沈んだ時、慰めや癒しは望まない。
光は眩しすぎることもあった。
薄っぺらな嘘に思えて嫌になることもあった。
アサシンには、今となっては心の許せる恋人がいる。
いつでもそっと寄り添うだけの確かな光がある。
プリーストにはまだそれがなく、さ迷っているのだろう…それを思えば急に彼が可哀相になった。
「…飲むなら、付き合ってやる。」
「それはどうも。」
クスクスと笑うプリーストに、自分の同情に似た心境の変化を悟られた気がしてアサシンは少し不安になった。
無表情の人間以上に、闇雲に笑みを見せる人間の方が心は読めない。
プリーストはやはり影など見せないで、笑んでカクテルグラスをアサシンのグラスにぶつけた。
チィンと鈴のような涼しい音が心地よく響いた。
「思わぬ発見もあったし、フラれもしたことですし、今日はさっさと帰ります。」
そう言ってプリーストはまたカクテルをあっという間に飲み干した。
「そうだ。今日、給料日だったんです。頂いたお酒とそのカクテルの分、払っておきますよ。」
「…なら今度奢ろう。」
プリーストは笑んでカウンターに金を置き、店を出ていった。
『そうそう、言っていませんでしたが』
去った筈の相手の声がWISを通して聞こえたのはそれから数分後。
耳元でクスッとくすぐるような笑い声がした。
『紫のカクテルはサディスティックでハードなセックスをする人、グレープはタチもネコも受け入れる人の意味ですよ』
突然言われてアサシンはしばしポカンといていた。
だが自分の手元にあるものがそれに当て嵌まるのに気付いた。
『!?…なっ…お前っ!』
『早く片付けないと、下手したらベッドに連れ込まれてハードプレイさせられますよ?』
怒鳴りつけたかったが、慌ててカクテルを一気に飲み干した。
二粒のグレープも皮を剥くのも忘れて口にほうり込んだ。
怒鳴りつけた時には相手はWISの拒否設定をしていた。
…やっぱり絶対に飲んでやらない、そう呟きながらアサシンも足早に店を出た。
後日、なんだか気に入られたらしくセクハラしてくるプリーストと
それに耐えかねたアサシンの喧嘩が絶えなくなったという。
なんとなくアダルティックな雰囲気を目指してみました。
…黒背景とみにくい黄色の字だけでもアダルティックにしてみました。(謎
モデルは自キャラなので名前は伏せたものの
裏設定(他プリースト×アサシン←プリースト)が見え隠れして読みにくくなっていたやも…。
すいませんでした(つД`;)
でもなんとなくイメージ持ちたかったので新キャラにはしませんでした。
要は『鬱仲間、同類相憐れむの図』y=-( ゜Д゜)゛・:'.ターン
夜に気分沈んで寝酒煽りながら思いついた話でしたw
バーに行きたいなぁ…。
カクテル設定なんとなく作ってました。
役割はフルーツで(相手を求めない場合はフルーツがない。)
異性求む=チェリー 両刀=グレープフルーツ
同性受け=ダークチェリー どちらも=葡萄 攻め=レモン (「甘い←→酸っぱい」で区別)
タイプは色で
普通=緑
黄色→オレンジ→赤 といくほど当者サディスト
水色→青→紫 と行くほど当者マゾヒスト
内容は透明度で
不透明なほどノーマル
透明なほどアブノーマル
この設定いつか使いたいな!(爆
オマケ?
(無いほうがいいかもと思ったのでなんとなく隠し)
ずっとよく思っていなかった、むしろ少し嫌っていたけれど。
同属であるアサシンに少し惹かれた。
自分の性分で、恋人のいる人間に手出しはしない…こともない。
ただ、抱く側の男ならその人を抱くし、抱かれる側の男ならその人に抱かれることにしている。
自分と恋人を同じに見て欲しくない、自分なんかと比べられる恋人に失礼と思うから。
そうなると、あのアサシンの場合は後者なのだが…。
「死んでも抱いてくれそうにはないしなぁ…」
酒でほてった体を夜風で覚ましながらあれこれと思案する。
一人。
浸りきれていない中途半端な酒気。
物足りない。
不満から気分が沈んでいく。
彼と話していたときは気がまぎれたのに、やはりダメだった。
彼が来ないような、もっと裏通りで相手を探そう。
今夜は、あのアサシンに似た男がいい。