湿った空気が篭る室内に、異質な音とくぐもったあえぎ声が響く。
白いシーツが乱れたベッドの上で身を蠢かせているヒショウはあまりに淫らで滑稽な格好だった。
片手はベッドに繋がれて、片手は自らの足の間に埋まっているものに縛られている。

「…っ…う、ぅ…はっ…」
熱くて、焦れて息ができない。
先にルナティスに指で達するギリギリまで追い詰められて疼いた熱が収まらない。
なのに代わりに無機質な玩具を入れられて、それで自分で慰めろとばかりに縛られて、悔しさと羞恥で何もできない。

睨み半分、懇願半分でルナティスを見ても、薄暗くて顔がよく見えない。
しかし目を凝らせば無表情とも微笑とも言えぬ顔をしているのがわかった。
思わず何もいえなくなる。
人の感情が読めないというのは得体の知れない恐怖がある。
ルナティスはヒショウにそんな不安を感じさせることはしない筈なのに、そんな彼だからこそ不気味で恐ろしく思えた。

「ヒショウ、早くイかないと。辛いだろ?」
こんな醜態を晒させて、それを言う彼が心底憎くなった。
「いつも僕にどんな風に動かれたらよかったか、覚えてるだろ。」
覚えている。
でもそれは中にいたのがルナティスだったから。
彼が抱きしめていてくれたから。
こんなモノでいける筈が無い。

「…っ、い…加減に…しろ…」
「なんだよ、気持ちよくなってほしいだけだろ…?」
ルナティスが反省の色零で、ヒショウの中途半端に開いた腿に触れる。
「こんな力んだらお前が痛いだろ。力抜いて、手を動かせばいい。」
「…ふ、ざける、なよ…もう、放せ…」
「手伝ってやるよ。」
そんなことを言いながら、笑ってヒショウの動かせずにいる片手に添える。
嫌な予感がして、一瞬涙が滲みかける。
そして予想通り、腹の奥まで響くような鈍痛。

「や、め…っあ、うあっ!」
「力、抜けって。」
「ひっ、ぐ…やめ…!いっ…!!」

いつもどおりのどこか明るい声と裏腹に、手は多少乱暴に緊張した中を硬い玩具で犯させる。
痛みに呻いて目を見開き手足が無様に震えさせるヒショウを見下ろすが何も言わない。
しばらく抵抗する彼を無視してぐちゃぐちゃと音がする中を犯す。
ヒショウは顔を背けて、頬を枕に埋めながらただ呻いていた。
手錠の鎖が乾いた音を立てている。

「ヒショウ」

身体を寄せるようにしてルナティスが耳元でささやく。
だが手はやはり玩具から放してはくれていない。
それでも半身に感じる体温と間近で聞く声に、少なからず安心感を与えられる。

「力、抜いて。一回イケたら、すぐに終わりにしてやるから。」

耳に唇が触れて、あやす様に髪を撫でられる。
やっていることは異常なのに、けれどその様子はいつものルナティスらしくて
矛盾を感じながらも今は開放されたくて、あえてその笑顔にだまされることにした。
浅くでもゆっくり呼吸をして、体の力を抜いていく。

「っう!ぅ…っ」

ヒショウが脱力したのを見計らってルナティスが押し込んでくる。
今まで受け入れたのはルナティスのものだけで、これだけの大きさを受け入れたことはない。
腰が壊される、中が破れる、そんな不安に取り付かれる。

「大丈夫。」

ルナティスの無責任な囁きを信じて、必死に力を抜くことだけに専念する。
3回、4回、5回、何度か抜き差しを繰り返されるうちに、スムーズに動くようになっているのが分かる。
挿れる前に目の前に出されたときには寒気がするほど太い物に見えたのに、それでさえ人間の身体は受け入れられるのか。

「…っあ…う…」

次第に苦痛の中に甘い声も混じりだして、ルナティスがヒショウの手を動かすのを止め始める。
彼は気づいてないかもしれないが、すでに自分の手でも動かすように力を入れていたのだ。
けれどルナティスがやめるとすぐにその手も止めようとしていた。

「ほら、自分で動かせよ。」
「っ!」

羞恥に手を止めて睨むヒショウに、ルナティスはまったく動じない。

「せっかく気持ちよくなってきて、前も元気になってたのに。」

ずっと熱を持っていたものの、痛みに少し萎えていたはずの性器に手を伸ばして指先だけで触れてみせる。
萎えていたはずなのに、さっきまで苦痛でしかなかったものが快感になり始めてまた熱を帯びていた。

「ほら…?」
「っう、あ…っ!!あっ…」

先端を指で擦られて、情けない声を漏らしながらヒショウは自力で玩具の挿入をし始める。
いっそ舌を噛み切ってしまいたいほどの羞恥。
だがじれったい、玩具に縛られた手さえ開放されれば、自分の手で終わらせられるのに。
それでもとにかく、達して終わりにしてほしい。
歯を食いしばって、玩具を動かす。

中が擦れる、腰の中を異質な物体が潜り込んでくる。

「っあ…はぁっ…!っい…」

それでも、手を止めれば快感の波も薄れて終わりは遠くなる。
ひたすら耐えて、快感を追って手を動かす。

「んっ、ん…うっ…ぐ…」

歯を食いしばって、もう羞恥すら感じるのも嫌になった。
どうせ見ているのはルナティスだけ、醜態を晒す自分を嗤いたければ嗤えばいい。
それでも、ルナティスならいいという思いは確かにある。

「っふ、ぁ…あっ!あ…」

不意に、腕がしびれておかしな方向に玩具が反れて押し込まれてしまった。
けれど瞬間に背筋までしびれるような感覚に襲われた。
今まで何度も何度もルナティスに抱かれて、感じてきた痺れ。

(…ここ、イイだろ?)

ツボ、のようなところで、幾度と無くその快感に囚われた。前立腺が刺激されているからだとルナティスに説明されたことがある。
ルナティスに攻められては泣いて嫌だと、けれど内心ではもっとと懇願していた。
ぐちゅぐちゅと激しい音が立つ。
ただイキたい一心でそこを意識しながら抜き差しを繰り返す。

「っはあっ!!ああっ、うあ!」

できることなら、顔を隠したい、上がる声をつぶしたい、震える足を切り落としたい。
それでも、もう焦らされたくなくて必死に震える手で中を擦る。
そして次第に頭の中が真っ白になってくる。
ただ、狂ったように腕を動かして、快感を追うことしかできない。
自分でも半分は無意識に、身体が震えた。

「っく!…あああっ!っ、はあっ…!うぁ…っ」

自分が達したという事実に気づくのにしばらくかかった。
ドクドクと脈打つ腰の熱が開放されるのを他人事のように感じて、脱力した。
そして熱が下がってくれば、こんな猥褻で無機質な道具で自分が達してしまったという情けなさと背徳感に襲われる。
早く抜いてしまいたいが、達した後の脱力感と敏感な身体が多少の刺激も拒否していた。

「お疲れ様。」
「っっ!!あああっ!」

それなのに、ルナティスがそう言いながら無遠慮に引き抜く。
ジンジンと刺激に疼いてしまった腰が辛い。

「かわいかったよ。」

そんなことを言われてもまったくうれしくないが、怒る気力もなくてただ荒い息で返事も霞む。
ルナティスに手と玩具を放されてもその手で殴りかかる気力も無い。

「じゃあ、次は僕の番。」
ルナティスがヒショウにまたがり、彼が自分でしていたときのように足をまた開かせる。
大きいモノを受け入れていたそこは赤く腫れてそれでも微かに口を開けて痙攣していた。
惨めで生々しい。
けれどそこに早く自分も入りたいと、先走って股間に熱が集まった。
先ほどから淫らな姿を目の前で散々繰り広げられて十分に勃起しているのに。

「っ、まて…さっき、終わりに…するって…」
「玩具はね?こんな興奮した僕をどう収めろっていうんだよ。」
「…っあ…っ」

舐めて湿った指で胸の突起を弄びながら、ことさらゆっくりと腰を推し進めていく。
流石に先ほどまで一回り大きいものを受け入れていただけあってすんなりと入っていく。

「うあ、あ、あっ…ふ、っく…」

先ほどまでとはちがって入ってくるのは熱い生身、けれど先ほどのように硬い。
けれどルナティスの身体であると感じれば、安心感や自分からの欲求もある。
身体を重ねてきていたルナティスの背に腕を回し、抱きしめる。

「あ、ついな…」
最愛の人の中で、粘膜に締め付けられて惚けた顔でルナティスが呟く。
奥まで貫かれて、息絶え絶えになっていたヒショウも必死に呼吸を整える。
これで終わりではないと、嫌というほど抱かれて感じさせられてきた。

「っ、う…待て…も、少し…」
「ん…。」

足を抱えられ、もう動かされると思って慌てて静止した。
さっきまでルナティスらしくなくヒショウの嫌がることを強要していたから、また懇願を無視されるのかと思ったが、今度は彼もおとなしくしてくれた。
息が整うのをじっと待ってくれていた。
中で、ルナティスの方が息苦しそうに脈打っているのが分かるくらいなのに。

「っ…は…っは…」
手を彼の首に回し、引き寄せて、小さく頷いた。
途端に体内で何かがはじけた。

「うあっ!!」

飢えた獣が食いつくように、遠慮なしに激しく突き上げ続ける。
ベッドがいつも以上に軋んだ音を立てている。
先に解されていたせいで、いつも以上に耳障りな結合部の粘膜の音。
既に先走りさえ溢れて犬の交尾の様で、獰猛な交わり。
達したばかりで敏感なヒショウにも辛く、喘ぎながらルナティスの背中に血の滲む爪あとを残しながら堪えた。

「ああ、ああ!!っあ、う!っな、なん、で…あああ!!」

疑問は正確に口に出すことも思い浮かべることもできず、悪戯に喘ぎに混じる。
何でルナティスはヒショウが嫌がることもさせたのか。
何でこんなにも獰猛に食いついてくるのか。
何で、怒っていたのか。
今聞くことではないだろうが、内臓を突き上げられこのまま息絶えてしまいそうだから。
全身しびれる快感に取り殺されそうだから。
そうなる前に、最後に知っておきたいと思ったから。

「い、あ!!ああ!る、ナ…!なんで!あ、ああっ、ああ!」

ルナティスは応えず、ただ雄の荒い息をついてヒショウを攻めたてるだけ。
同じ男のはずなのに、こんなにも翻弄される。
捕食されていく。
いつもあんなに優しい、ただ優しいルナティスのはずなのに。

腕を背から引き剥がされ、手錠も鍵で開けられて開放される。
けれど貫かれたまま、無理矢理身体を反転させられ、シーツにうつぶせられる。
もっと荒く、突き立てられる体勢。

「うああ、あ!っくあ、あ!!」

中を荒される、もう半ば痺れて衝撃とイイところを痛いほどに攻められる。
まだ、彼に入れられて1発目だというのに、もう気が狂いそうで、苦しい。
分かりたく無かったが、普段は彼なりに手加減してくれていた、ということはよく分かった。

「ああああ!や、やめ!!ああっ、あ!あ!」

もうどうなってしまっているのか分からない。
自然と逃げようとする足を押さえ込み、腰を掴んでつきこまれ続ける。
有無を言わさない刺激、衝撃、圧迫、きっと狂っても尚攻められる。
こんなの、あの玩具の方がよかった、まだ優しかった。
レイプされている、そんな気さえして足が震える。
「うう!っる、な…!ルナティ、す…!」
顎も噛み合わず、頬を擦りつけさせられていたシーツをかき集め、顔を埋める。
ここに、ルナティスはいない。
自分は彼ではないものに尻を犯されて啼いているのか。
情けなくて、悔しくて、気が狂う。

不意に、中で熱が脈打つのを感じた。
そして尻に腰を叩きつけられる音も加速して…

「や、めぇ!!中、は…出すな!ぁ…!嫌だ!!」

朦朧としたヒショウの頭の中では後ろにいるのはルナティスではないと変換されている。
それなのに、中に精を放たれるのは許しがたかった。
男同士では意味はない、けれど中で放たれた熱を感じてしまえば、それで何かの契約のように、交わった証を残されてしまう気がするから。
髪を振り乱して、嫌だと懇願するがまたルナティスは彼の声を無視し続けた。
そして、遠慮なく絶頂に達っして最奥まで貫く。

「っああ…っやめ…、頼む…」

懇願虚しく、腹の中で開放され続ける熱い体液。
零させるものかとばかりに腰を密着させられて、押し付けられ、ひたすら奥に放たれる。
それでもまだ足りないとばかりに揺らされ突きこまれて。
そして最後の一滴迄奥に放ち、引き抜かれる。

ルナティス…
声にならない声で彼を呼ぶ。
後ろにいるはずなのに、いつもの優しい彼はどこに。
まるで犬のように激しく犯され、こんなに精を内に放たれて、背徳に押し潰されそうだ。

「っう…?」

引き抜かれた相手の性器。
だがすぐ入れ代わりにヒショウの肛門に硬いモノが宛がわれる。
それはさっきヒショウが自慰に使わせられた大きいディルド。

「…っ!!」

まだ、さっき出された精液が中にたっぷり残っているのに…。

「…っ、っ…」

内は解れている筈なのに裂かれるような痛みが走ったのは荒らされて腫れ上がっているせいか。
なのに無遠慮に栓が押し込められる。
痛みと、されていることの非常さに震えながら呻いた。

「こんなに辛い思いしてるんだからさ…妊娠できたらいいのに、ねえ?」
辛いと分かっているのに、笑いながらそんなふざけたことを言う。

「…っな、んで…こん、な…
さっきから浮つきながら何度も繰り返した問い。

「ヒショウ、中に出されるの嫌いだよな。一応、恋人の僕のなのに?」
一応、と言うのがなんだか嫌味のように含むものがある気がした。

「そ、れは…後で、面倒、だから…」
「…僕とするのも、やっぱ面倒なんだ?」

処理が面倒だというだけで他意のない発言なのに、ルナティスに悪い様に取られてしまう。
いや、自分の発言が無責任なのか。

「というか、さっきの中出しされる時の嫌がり方、尋常じゃないよな。そんなに嫌だったのか。」

次に「ルナティスにされている気がしなかった」と言えば、また悪くとられるのだろうか。
そう思うと何も言えない。
けれどその沈黙という答えも誤りと分かっているのに。

「…ぉ、こって…るの、か…」
「さあ、どうだろうな…?僕も、もう分からなくなっちゃった。」

怒っているならきっと顔に出す、こんな回りくどい責め方もしない。
分からなくなったというのも嘘ではないだろう。
ただ、不安不満が蓄積してしまっただけ。
こんな天気で憂鬱にもなって。

「…ルナ、ティス」
「何?」
「……か、お…」

俯せにさせられ、情けない姿を見下ろされているのが嫌だったし、それ以上にルナティスの顔が見えないのも嫌だった。

「顔が、みたい…。」
「ん…」

不満もなく彼はヒショウの身体を放して、反転させるのに手を貸す。

「っは…!」

動いて内を塞いできているものから刺激を受けて痺れてしまう。
広げられた箇所の腹に掛かってくる苦痛に歯を食いしばる。

「……。」

ルナティスがしばし目を丸くしていた。
子供のように泣きはらし充血した目が、呆然とルナティスを見上げてくる。
憔悴しながらも彼の方に手を伸ばす。

触れたルナティスの頬が温かかったのはこちらの指先が冷たいからだろう。
荒された、今尚荒されている体内は焼けた様に熱いのに。
震える手で彼を抱きしめる。
全身にかかる彼の体重が心地よいと思った。

「…アスカ?」

ああ、久々にそう呼ばれた気がする。
いつも二人きりになるとそう呼ぶのに、今日は呼ばなかった。

返事をする気力もなくて、抱きしめた肩を軽く叩いた。

「っう…」

ルナティスに強く抱きしめられて、ヒショウが呻く。
まだ中をディルドに穿たれているのに。
ただ次第に力は抜けていって、いつものように優しく抱きしめられる。
何をするでもなくただ寄り添うだけのような抱擁が、そういえば彼の体温を感じるのも久々だったと思い出させる。
暖かさといつも感じていたルナティスの匂いに全身の痺れも事後の余韻も薄れてただ心地よさだけが残っていく。

まだ、犯してくる冷たい道具を抜かれることは無いけれど。