「………」

PvPでは、いつも隠れて忍び寄り、不意打ちで大人数のパーティーも仕留めていた。
だが今回は相手が一枚上手。標的のパーティーにはさらにハンターが隠れていた。
ハンターに足を撃たれ、やむを得ず撤退してきた。

「………」
マスクを外して足下に投げ出す。冷たい空気が肺に入り込んできた。心地よい。
暗紫の装束に伝う紅い血をボンヤリと眺めていた。おもむろに手のひらで拭い、舐める。
鉄の味。
ここ最近自分の血なんて見ていなかった。悔しいとも何とも感じない。ただ、自分にも血が流れているのがおかしかった。
ポーションは持っていない。2日前に来た時から食料と装備以外は何も持っていなかった。
何故そんな状態で来たのか、考えることも面倒だ。
今まで何となく強くなり、何となく戦い、何となくここまで来てしまった。
そんな目的も無い自分の人生を見返る事すら億劫で仕方ない。
細身だが鍛えられた体にピッタリとした皮の装束。一般的なアサシンの格好だ。
だが彼は人形のようにじっと動かず、息をしているのかも分からぬほど静かにそこにいる。
眼帯のされていない方の目は死んだように光も灯っていない。

「………!」
そんな人形も、人の気配には敏感に反応した。
音もなく動き、岩陰に潜む人間を引きずり出した。
「なっ…わっ!?」
引きずり出した相手が、躓いて倒れてきた。アサシンはそれを避けて、倒れた人物に馬乗りになる。
相手は端整な顔立ちのプリーストだった。少し長めで深海のような藍の髪が地面に散らばった。
むき出しになっている首筋にくないを当てた。

「ちょ、ちょっと待ってください!!僕の話を聞いて下さい〜っ!」
「………話せ」

小さく答えてやったらプリーストは意外そうな表情をした。
(あんな死人みたいなんだから、てっきりしゃべらないかと思った…)
じっとこちらを見ているアサシンは、本当に人形のようだった。
人形のように、創られたように整った顔立ち。男なのか女なのかと言われれば男だが、それでも中性的な雰囲気だ。
何処を見ているのかと思う瞳も、顔を覆ってくるように垂れ下がる髪も、長い睫毛までも漆黒で、人間ではないの者を見たようだ。

「………」
「………」
「………」
「………ああっ!!ごめんなさい!!つい見とれてましたっ!!!」
「………」
「あの、一応ここのルールは分かってるんですけど、僕ってPvPに来たばっかりなんで…なんていうか、油断してて、貴方が流したんだろう血の後を見て、ついつい治療してやろうと血の後を辿って来ちゃったんです。」

足の傷治してあげるから見逃してくれません?wと小首を傾げて可愛く頼み込んでくるプリーストを見ても、アサシンは相変わらず無表情。
どうしようか悩んでいるのか、何も考えていないのか、アサシンはくないを切り込んでこないが引きもしない。

「てか、貴方は1人?ここって普通は数人で来るもんじゃないですか?そんなに腕に自信有りなんで?」
話題転換をしつつ、プリーストは思い切ってくないを押しのけて起きあがる。
アサシンはそれと同時にくないをしまった。彼はそれを見てホッと息をついた。

「………見逃してやる。お前を倒しても得はなさそうだ」
「まぁ、そりゃ確かに。アイテムたいして持ってないしレベル50だし〜?」
「………命が惜しければさっさと帰れ」
間髪おかずにそう言って、アサシンはプリーストに背を向けた。
足の治療を、と彼を引き留める前に、アサシンは走り去ってしまった。

 

 

食料は底をついた。補充に戻るのも面倒くさい。
空腹を感じながら、また標的を見つけて、狩った。
脇腹に傷を負い、SPは底をついた。少しだけ休もうと死体が転がる中に座り込む。

「………」
小さく、いくつもの悲鳴が聞こえた。轟音が鳴り響き、時には刄の打ち合う金属音。女の悲鳴は一段とよく聞こえた。
数人のパーティー同士が戦っているのだろうか。
だが、それにしては妙なところがあった。アサシン自身にもそれはハッキリとは分からない。
危険だと分かっていながらアサシンはそちらに向かって歩き始める。
否、危険だから歩き始めた。

 

もう、戦いは終わっていた。十体近くの死体が無残に転がっている。
全員相討ちかと思っていたら、血の海に一人だけ生存者が浮いていた。
プリーストだ。歩み寄ったら血溜りを踏んだ足音に気付き、プリーストが振り返る。
まさかと思ったが、やはり先日のプリーストだった。
「昨日の綺麗なアサシンさん……」
皮肉ではなく、哀しげに、壊れたように笑んでプリーストは言った。
プリーストはパーティーでは大事な回復役。庇われて、彼は1人生き残ったのだろう。
プリーストはブラックスミスの側に座り込んでいた。ブラックスミスはまだ息絶えてはいない。
顔半分が真っ赤に染まり、プリーストに助けを求めて手を差し出している。

「……助けてやらないのか」
「ん、と、僕、回復…できないから…」
「………」

彼はブラックスミスの手を取ることなく、彼の死を看取った。
そしてすぐに、プリーストは立ち上がる。だがそれからその場を動きはしない。
「………お前のパーティーか?」
プリーストは頷いた。
「………リザレクションを使えるプリーストに助けを請うといい」
それだけ言って彼はプリーストに背を向ける。
が、彼に腕を捕まれてすぐに立ち止まった。
「1人は、嫌です…」
そう言われたところで、彼の為にプリーストを探し歩く気なんか毛頭ない。
だがプリーストはこちらの腕を振るえる手で掴んで放さない。
どうにかならないものか、としばらく悩んでみる。

「………」
「………」
「………」
「………」
「………あのぅ?」
「………」
アサシンはプリーストを見たまま固まっている。
沈黙の長さにプリーストが声をかけるが、アサシンはボーっとしたままで反応を示さない。

思い切ってプリーストはアサシンの肩を揺さぶった。
「………なんだ」
「うわっ!いや、なんか固まったまま反応しないから…」
「………ああ…いつものことだ。気にするな」

(いや、気にするなって…………もしかして、この人………)
アサシンの顔をまじまじと見つめる。肌は白く、髪や目は対照的に黒い。何度見ても綺麗だと思う。
これが夜にアサシン“暗殺者”として自分を殺しに来たら、自分の命を風のように攫っていったら…おかしな想像をしてうっとりとしてしまうプリーストだ。
アサシンはその能力上、本当に暗殺者として人を狩ることもあるという。だから、そんな状況にあるアサシンは人との接触を拒み、独りで闇に紛れて戦うことが多いと聞いた。
この人が無口で、たった1人でPvPを徘徊しているのは、その類のアサシンだからだと思っていた。
けれど、本当は…………
ただ単に変人なだけではなかろうか。

「……あの、貴方は何で1人でPvPに?」
「………覚えてない」
変人である可能性30%

「また怪我してるけど…ポーションとか使い切ったんですか?」
「………持ってきていない」
変人である可能性50%

「なんか全然荷物持ってないけど、食料とかは」
「………昨日底をついた」
「補充に戻らないんですか?」
「………面倒くさい」
変人である確率70%

「何の為にPvPに」

………何の為に?
戦う為だ。では何の為に戦う?
戦いたいから。どうして戦いを望む?

「………分からない」
「うわぁ…ついに100%だよこの人…完全に変人だぁ…」
つぶやくプリーストを余所に、アサシンはまた固まって考え込む。

なんでこんなところにいるんだ…?
戦ってどうするんだ…?
分からない。
ただ、
戦ってる時が
何も考えなくて済むから……
何も考えなくて済む
何も考えたくない
考えたくない
何も

思い出したくない

 

「…あ、ちょっと!?」
また固まっていたと思ったら、アサシンがいきなり倒れ込んできた。
プリーストは訳が分からぬまま、アサシンを抱き込んでいっしょにしゃがむ。
「…?」
アサシンの背中が小さく震えていた。
「どうかしました?」
アサシンの手がプリーストの背中に回る。
子供にすがりつかれているような気がして、プリーストは口元がゆるむ、が。

「………………………………………………………………………っ……?………ッ!!!」
しがみついてくる力が半端ではない。
だんだんと息が詰まってきて、しまいには背骨が悲鳴を上げてくる。
「あ、アサシンさん!!?く、苦しいって……し、死ぬ死ぬーーー!!!!」

「何で…俺だけ…」
「な、なに…」

 

 

───嫌だ、もう、殺して…殺して…みんなの後を…追わせて、よぉ…


「…何で、俺だけ…殺さなかったんだ………」
「!」


───もうやめて、殺して、もう嫌だ…助けて…も、やだ…っ



「思い出させるな…!俺に、考えさせるな!!俺はもうっ!!」
プリーストにではない、誰かに囁きながら腕に力を込める。
自分の中で何か壊れてしまいそうなのを必死に耐えている。
「………っ」
その様子を見たプリーストは痛いのを我慢して、アサシンの頭を撫でて、出来るだけ優しく囁いた。
「もう、終わったことでしょう…?もう、何も考えなくて…いいんです。」
「…何、も…?」
何も考えなくていい。
その言葉に、アサシンは毒気を抜かれたように脱力してしまった。プリーストはやっと冷たい空気を肺に流し込んだ。
プリーストにしがみついて、けれどもう肩は震えていない。
「………」
彼はアサシンの頭を抱いてやった。
この男を変人だとか思っていたが、そうではなかった。
心の傷に捕らわれ、壊れかけてしまった人なんだ。
アサシンの黒い髪を指で梳いて彼と同じ目線にしゃがんだ。
肩で息をしていて、いつものポーカーフェイスだが頬がわずかに紅潮している。
人形が、人形ではなくなっていた。

ゾクリとした。
いつも心の奥底で堪えているものが疼く。聖職者でありながら、許されないもの。

「貴方の名前は?僕は、アシュレイ=カーボン」
「クレス」
「クレス…そうか。よく似合う名だ。」
クレス、と小さく彼の名を呼んで、ついばむようなキスをした。
「……アシュ…っ?」
クレスが何かを言う前に、彼の頭を抱えて再度キスをする。今度は濃厚に。
何か考える前に、アシュレイの舌が言葉も理性も奪っていく。
しばらくそうしていて息が詰まってきた頃、地面に押し倒された。
背中や頭の後ろでピチャリと音がして、生臭い、鉄臭い、嫌な匂いがした。
思えばここは戦場跡で、死体がいくつも転がっている血の海の真ん中だ。服や体が押し倒されたせいで血に汚れる。
アシュレイも、クレスに体をピッタリつけるようにして重なったので、法衣が血に汚れた。
「…なんの、つもりだ」
激しく脈打つ自分の心臓の音を聞きながら、アシュレイにやっとそう返した。
「クレス、少しいい子にしてて下さいね。貴方なら悪いようにはしないから…」

 

「放せ…っ」
「………」
クレスの装備を外させて、装束に手をかけた瞬間、押し黙っていたクレスが低い声を震わせてつぶやいた。
無視して脱がせにかかろうとすると、クレスの顔にみるみる殺気が浮かぶ。
「放せぇ!!」
ぶち切れたようにクレスは、馬乗りになっているアシュレイに牙をむいた。

だが、アサシンの神速の手刀を、アシュレイは軽く受け止めて見せた。
「危ないですねぇ」
「……あ」
クレスの目が正気を取り戻す。その様子に、アシュレイは態度には見せないが、ホッとした。

彼はクレスの唇の上で囁いた。
「…昔に犯されたことでもあるんですか?」
「…っ」
アシュレイは、またクレスが過去を思い出し、その記憶に飲み込まれていく瞬間を見た。
クレスがまた過去の記憶に捕らわれる前に、キスをして彼を留めた。
「…ッ、やめろ…」
彼が見せる反抗は小さなものだ。元々彼があまり大きな動きをしないからだろうか。
「僕も、犯されたことはありますよ」
クレスは眉をひそめて小さな反抗をしたまま。アシュレイの話には興味なさそうな様子だ。
「だから、貴方を無理矢理犯すようなことはしないですよ。優しくしてあげます。」
アシュレイはクレスの視界を塞ぐように、彼の顔に自分の顔を寄せたまま、装束を脱がしていく。
クレスは見えずとも自分の体がどんどん露わになっていくのは分かっていた。


「………ッ…」
激しい目眩がした。
いつもこんな時は、現実から逃げて、悪夢に捕らわれて、過去に捕らわれて……
だが、そうなることが、目の前のプリーストの声が許さない。自分の名を、恋人のように、または母親のように優しく呼び続けている。
プリーストの声が自分をここに引き留める。

「ああ、綺麗だ…」
アシュレイがうっとりとした目でクレスを見て、つぶやいた。
もう彼の体を覆う物はなく、アシュレイ自身も法衣を脱いで上半身は風に曝されている。
血だまりに浮かぶ白くてしなやかな体。アシュレイは貪るようにその体の肩や胸や腹に吸い付き、舌を這わせた。
アシュレイに食われていく場所が熱い。
その熱い場所がだんだんと下に下がっていって、クレスのモノをしつこくついばみ始める。
「…っ!あ、…?やめっ、プリースト…!」
「ん、…アシュレイ、ですよ…?」
「ア、シュレ…やめろ…!」


血の匂い。
母と、父と、妹の血の匂い。
血の匂い。
あの吐き気のした匂い。
また、あれの中で、裸に剥かれて。

「ン、ぁ!アア…ッ!!」

けど、こんなのは初めてだ。
あの時されなかった。
熱くなったものを舐められながら、後ろに指が入り込み、そっと内部をほぐしていく。
痛みはない。あるのは激しい快感。

「ッ、はっ…結構、おっきいんですねぇ、クレス」

あの男はこんなに笑わなくて、自分の名前なんか呼ばなくて、ひたすらに引き裂いてくれた。
今はあの日じゃない。
あの悪夢の中ではない。
今、目の前にいるのは、自分を壊した男じゃない。

「…ア、シュレイ…?」
「なんですか?」
この男は、アシュレイ。

もうあの日は終わった。
あの悪魔はもう、ここにいない。
もう、全ては奪われた後。
もう、家族も、無垢だった自分も、失ったまま返ってこない。

「…ろ、して…」
「………」
クレスは子供のように、泣きそうな顔をしてアシュレイにすがる。

「殺して…」
「…クレスを?」
「そう、俺を…」
アシュレイはそれを聞いても動じない。眉一つ動かさずにいつもの穏やかな微笑みを浮かべている。

「ムリですよぉ、僕は聖職者ですよ?それに、貴方と力も随分違うし、殺すのにも一苦労しちゃいますもん。諦めてください」
「で、も…」
アシュレイは、彼と繋がろうと、クレスの足を持ち上げる。

クレスはそれよりも、自分の言葉を伝えることで頭がいっぱいだ。
「…こいつらを殺ったのは、お前だろう…」
こいつら、が誰の事かはアシュレイすぐに分かった。周りに転がっている十人近くの戦士達。
それには流石にアシュレイも驚いた。言われたことに驚いたのではなく、
事実を知られていたことに。

クレスが気付いたのはブラックスミスの死を看取った時。
初めて会ったアシュレイは「治療をしようと思って」といってクレスに近づいた。なのに、助けを求めるブラックスミスを「回復は出来ない」と言って見殺しにした。
そして、彼はたった1人生き残っていたから。
確信が持てたのは、クレスの一撃を受け止めた時。混乱したクレスは通常以上の力を発揮する。それをレベル50だというアシュレイが…しかもただのプリーストが受け止められるはずがない。

「あはは、あのパーティーのウィザードが気に入って、犯してたら彼の仲間に見つかっちゃって。仕方なく応戦しただけなんですけどねぇ。…あ、引きました?」
「…アンタを詮索する、つもりはない…。ただ、俺を殺してくれればいい…。俺は丸腰だ、訳ないだろう…?」
「そうもいかないんですよね。」
「何故」
「…僕、貴方のこと気に入っちゃったんで。」
「…なら犯してからでも殺せばいい。」
「……んー、まぁ、とりあえず“抱かせて”はもらいますけどね…。」

いつでも入れる体勢にいたアシュレイは、そっと自分の高ぶったモノをクレスに差し込んだ。
「ッア!!」
少し入っただけなのに、クレスは自分の体がミシッと音を立てたような感じがした。
亀頭を埋め込んでから一度止まる。
「痛く、ないですか…、クレス…」

また、名を呼ばれてクレスは現実世界に引き戻された。
「はや、く、もう…」
殺して、とすがるように何度も囁く。
だがアシュレイは何度もクレスの名前を呼んで、残酷にも彼を現実に引き留める。クレスの腰を引き寄せ、自分のモノをそっと彼の中へねじ込んだ。
「ぅ、アッ!!ハッ、ぁあ…!こんな、の…、もうっ、殺し…っ!!」
「そんなに、殺して欲しいなら…望み通りにしてあげますよ…?優しくするつもりだったけど、そう言うなら思いっきりやっていいですかね…?」
美しく歪んだクレスの頬を撫で、アシュレイは彼の体を深く貫いた。
「イッ、あ!…や、ぁあアア!!!」

埋まりきった瞬間、クレスの目の端から水が伝い落ちた。
体をビクンと反らした彼の脇腹に、大きな傷があるのに気がついた。
「ヒール」
ずっと鋭い痛みがしていたところが温かくなり、痛みが無くなった。
殺すのに、何故癒す。
クレスは眉をしかめた。
「やめろ…!殺せ…殺せぇ!!」
アシュレイの腕に爪を食い込ませて、彼は泣き叫んだ。そんな彼に顔を寄せてキスをした。
「…ッ」
少し触れた瞬間に、唇の端をかみ切られた。
「…何故殺さない…これだけ殺しておきながら…!」
「…それは、こっちが聞きたいですよ…。今までは“殺さずにはいられなかった”のに…」
つぶやいた彼はまた、クレスに激しく腰を叩きつけた。
「ッア!!あっ、ア…!!」
そのまま、抜ける寸前まで引き抜き、またゆっくりと差し込んでいく。その動きがだんだんと速くできるようになっていく。
その度にクレスの嬌声が甘くなっていく。


全身で温かい毛布の感触を感じて目覚めた。
しばらく呆けていたが、昨夜のことをすぐに思い出した。
どこで達したのか、どこで気絶したのかも覚えていない。
ただ…
「……………っ!!」
生きている。
そのことがショックだった。
思わずあのプリーストを起きあがって探す。と、彼は目の前にちょこんと膝を折ってしゃがんでいた。
「………」
「………」
「………」
「………おはよう」
思わず言葉を失い、続いた沈黙を破ったのは、アシュレイだった。

「何故殺さなかった。」
「またその話か。貴方もしつこいねー。蠍座?」
「茶化すな!何故だ!」

「じゃあ聞くけど、そんなに殺せ殺せ言うなら、何故自害しない?」
「自害は許されないからだ!」
「………はぁ?」
思わず変な声が漏れた。
「許されない、って…そんなこと、アサシンの間であったっけ?」
「俺はプリーストだ」
「………ぅえ?」
更に変な声が漏れた。
どこからどう見てもアサシン。カタールや装束も着ている。どこがプリーストだろう。

「八年前、家族を何者かに殺され、俺1人が殺されずに済んだ。その時から俺はそいつを殺す為に必死に腕を磨いてきた。殺す為だけに…。手っ取り早く殺しをするならアサシンがいいと…知り合いに鍛えてもらったのさ。」
「…で、結局そいつは、殺せたわけ?」
「ああ。あの顔は忘れなかった。見た瞬間にわかったよ…。」
無表情のクレスの目から、涙がただの水のように流れ落ちる。
「よりによってプリーストさ…。俺を狙って…そのために家族を殺したんだとさ…」

毎晩思い出す。
何かを殺さないと思い出さずにはいられなかった。
血だまりに転がる家族も
その隣で犯されたことも
鮮明に思い出せてしまう。

その悪夢から逃れたくて、ヤツを殺そうと死にものぐるいでやってきた。
だが、ヤツを殺した瞬間から、自分はなんの意味も持たない存在になってしまった。
自分の存在意義がなくなって、
あとは死に場所を求めるのみと、ここへ導かれた。

「さぁ…殺してくれ…もう、いいだろう……」
綺麗な片目が、涙を流してすがりついてくる。
それを見た瞬間、アシュレイは彼を抱きしめていた。

「貴方は殺されにここへやってきて…僕は殺すためにここへやってきた…」
「殺せ…」
「でも、貴方は殺されはしないし、僕は殺しもしない」
「………」
「僕たちは、出会う為にここへきたからですよ…」
「……むちゃくちゃな言い分だな…」
「でも、その証拠に、貴方は“人間”になってますよ…?」
そう言いながら、クレスの頬を両手で包んだ。
「僕と出会うまでは“人形”だったのに…」
「………」

 

なんとなく、視線を辺りに回した。
ここは、こんなに草木のあるところだったか。
空は薄暗い。
自分は今、世界を見ていることに気が付いた。
昨日まで、何も見えなかったのに。
“人間”になった…?
ああ、そうか……

「神様は、僕たちのことを見放してなかったんですね。クレスに会わせてくれた。僕がこれ以上罪を犯さないように。
なんて血に濡れた2人かも知れないけど、きっと2人なら…」
綺麗になれる。
甘い声で、そう囁く。
「流石プリースト。説教臭い口説き文句だな」
「クレスもプリーストのくせに」
2人で乾いた笑いを交わして、どちらからともなくキスをした。

 

ぐきゅるるぅぅぅ・・・・・・

「…………」
「…………」
クレスの腹の虫。
そういえば、彼はずっと何も食べていなかった。
「……PvP、出ますか」
「………だな。ここ臭いし」
「向こう行ったらまずお風呂入りましょうね」
「の前に、飯…」
「じゃあ、そのあとで。」
「当然だろ」
「で、それから第2ラウンド突入で」
「はぁ?」
「だって、綺麗なクレスとやってみたいから。まぁ、血に濡れてるのも綺麗だったけどv」
「なんか上手いこと言って、結局体が目的か…」
「ぇ、そんなことない!!」
「どうだかな……」
「そんなぁ〜誤解だー!」

 

全身血まみれの2人は明るい声をあげながら死体の溜まり場を後にした。