『いい子だ…。お前は、俺のモノだから、な…』
痛い、父さん…やめて…
『愛してるよ。母さんの分まで、愛してるからな…』
やめて、やめて、痛い、痛い
『だから、絶対に逃げるなよ…あの女みたいに』
痛い、助けて、母さん
−−−−−*−−−−−*−−−−−*−−−−−*
冒険者達がモンスターと戦うのは当然の事。
そして、ここにもその当然のように戦う、アサシンとプリーストのペアがいた。そんなに深くもないが、風変わりな植物が生い茂る森。
「ヒール!」
治療して貰うまでもないかすり傷を治して貰い、アサシンはシャツを着た恐竜という、妙なモンスターと戦っていた。
相手は一匹。そのアサシンにとっては楽に勝てる。
彼に支援してくれているプリーストが殴っても、なんとか倒せる相手だ。
それでも、獅子は兎を狩るにも全力を尽くす。アサシンは慎重に相手の動きをじっと見て、確実にそれの命を奪っていった。
整った顔立ちが戦いに殺気立ち、眼孔が鋭く光る。
揺れる深海のように深い碧の髪が、彼の動きに乱れ、揺れる。
その姿は死神のようだ。
戦いの間は喜怒哀楽を一切見せない彼。
その髪の中に光るのは、可愛らしい花のヘアバンド。
さっきのモンスターから数分程、何にも遭遇せずに、2人はてくてく歩いていた。
「おい」
不意に、アサシンがやや前を歩くプリーストに声をかけた。
短く大雑把にカットされた銀髪。その両脇からこれまた可愛らしくネコミミが垂れている。
この2人が可愛らしいものを頭につけているのは、そもそもこのプリーストの趣味だ。
「何だ」
彼はこっちを見もせずに返事をした。その目は地図から離せずにいるからだ。
「…あまり余計なことでヒールを使うなよ。」
「さっきのことか?」
「そう。あれくらいで使ってたら勿体ないだろ」
「俺には対して苦じゃないから大丈夫だって。」
「そうじゃなくて…」
アサシンはプリーストとの距離をやや詰める。
「……そうゆう細かいこともキッチリ管理してろってことだこの大雑把野人が」
いきなり低い声で囁く。
「…わ、わかりましたスイマセン…。」
やたら丁寧に謝るのは、このアサシンの怒りに触れると、その先が長いのと、小言が果てしなく続くからだ。
既にやや怒りに触れている。
何故彼がこんなことで怒っているのかというと、プリーストが地図をよく見ていないのにズンズン進んでしまって、迷ったかも知れないというのに「なんとかなる」とズンズン進み、最終的に完璧にモロクの位置も、目的地であるコモドの位置も分からなくなったからだ。いきなり、2人の動きが同時に止まった。
気配がする。モンスターか?
近くの丈の低い草がごそごそと揺れた。それもなかなか多い。一匹ではなさそうだ。
2人は戦闘態勢を保ち、それが姿を現すのを待った。それがこちらを獲物と認識したようだ。
一斉に飛び出してきた。
「ワイルドローズか」
それは見た目は可愛らしい猫のマスコットのようなモンスターである。
アサシンが叫んで、飛びかかってきたそれに斬りかかる。
相手は複数でも、手こずる相手ではない。
「よせ!!」
それを、プリーストが突然、アサシンに飛びかかって止めた。
襲いかかってきたワイルドローズと襲いかかろうとするアサシンに間に出て、彼を押し倒した。
「コラ、何で止めるんだ!!」
「だって、アレと戦うつもりか!?」
「…は?」
プリーストは眉根を寄せて、今にも泣き出しそうな表情でアサシンを見つめた。
「あんなめっちゃ可愛いヤツを切るつもりなのか!!?」…。
……。
………。
「アホかお前は!!てか背中めっちゃ切り裂かれてるぞおい!!!どけって!!」
「嫌だ!!アレを切るくらいなら俺が死ぬ!!!」
「勝手に死んでろ大馬鹿者!!てか増えてる!!敵増えてるから!!!」結局、プリーストが大量のワイルドローズに襲われて弱ったところを突き飛ばし、彼の泣き声と、それでも条件反射でしてしまう支援魔法の声をバックに、全て切り倒していった。
「畜生…あんなに可愛かったのに…なんて酷いヤツだ…あぁ、もぉ可哀想に…」
「………………。」
アサシンに切られた子らの形見の戦利品を大事に抱きしめながら泣きはらしているプリーストを引っ張り、アサシンはなんとか目的地のコモドへ向かっていた。
地図を見ながら、情けない姿のプリーストを引っ張りながら、アサシンはなんでこの男と旅をしているのか分からなくなった。
「…なぁ」
急に聞いてみたくなった。
「なんでお前は俺と旅をしてるんだ…?」
「…ぇ」
プリーストは、何を今更、なんて言いたげな目をしてきた。
確かに、今更だ。こうして世界各地を一緒に旅するようになってもう3年くらい経つか…。
「…てかそもそも、なんで俺はお前みたいなヤツと旅をしてるんだ…」
「お前みたいなやつ、って失礼だな…。」
プリーストはぷぅと頬をふくらませる。
そんな様子にアサシンはため息をついて前を歩き出す。
「……。」
頬に溜めた空気を、フッと吐き出し、プリーストはアサシンと距離を詰める。
そして後ろから抱きしめた。
その体はプリーストより割合細い。
華奢なんじゃなくて、無駄な脂肪も筋肉も絞って、締まっているからだ。
急に…昨夜も見たその情事の時の彼の姿を思い出して、抱きしめている彼の方が頬を赤らめてしまった。
それを振り切って、彼の耳元で囁く。
「アンタは、どうでもいいんだろうけどさ…俺は、アンタと一緒にいれてかなり幸せだから。」…幸せ?…俺なんかといて?
「…本当に?」
アサシンは俯いたまま小さく問う。
「本当。」
それに、プリーストはいつもと同じようにそう応え、腕の中にいるアサシンの耳の裏に口づける。
そして口づけたそこを舌先でそっとなぞる。
「…ッ!思い上がるなこの色モノエロプリ!!」
後ろのプリーストの顎にアッパーを食らわせて、アサシンはまたさっさと先に進んでしまった。
その後ろ姿は……耳が真っ赤。
でも、顎をさするプリーストは、今言った言葉がどれだけ彼にとってどれだけ嬉しいものだったかを知っている。
アサシンの過去の知っているから。
やっと2人はコモドに着いた。
コモドの話はプリーストに少し聞いただけだった。『眠らない町』だと。
その理由がよく分かった。
コモドは洞窟の中にある町で、太陽が見えない。
今は昼のはずなのに、コモドは夜昼がない。町全体を、淡い紫の光が覆っている。
港町のような造りだから、洞窟の中とは思えなくて、それがまたなんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
「……。」
この町はプリーストも思った通り、好奇心の鬼のアサシンのハートに火をつけた。
彼の目が輝いていた。
「気に入っただろ?」
「ああ」
「一緒に見て回ろうか」
「ああ」
こんな子供のような彼を見るのがとにかく好きで、そのために世界を回っているプリーストだ。
今回もなかなかの成果に満足だった。海が綺麗だった。けれど不思議と塩臭くなく、肌にまとわりつくような湿気もない。
穏やかな風が水面を揺らして、それに映る光が揺れているのが神秘的だ。
アサシンはしばらくそれに見入る。
プリーストはそうしたアサシンに見入っているが、相手は気付かない。
この深海のような蒼の髪は、どんな景色にも自然に溶け込む。
女っぽいわけではないがどこか中性的な彼は、どんな景色よりも美しいと思う。
……激しくノロケだが。このままでは野外でも構わずアサシンに襲いかかってしまいそうだ…、と一応自制したプリーストは、視線を彼から反らした。
…そして、反らしてしまった先で…禁断のエデンの林檎を見た。「おい!!あそこ行くぞあそこ!!!」
いきなりプリーストが大声で呼びかけてきたので、心臓が飛び出るかと思った。
「な…、ど、どこだよ」
「あれ!あそこ!!」
プリーストが喜々として指さす先には……
「…………却っk」
「よっしゃーーーーー!!!!ギャンブルが俺を待ってるぜーーーーー!!!!」
「人の話を聞けぇええええーーー!!!!!#」
アサシンの制止も聞かず、プリーストは彼を抱えて走り出した。
カジノへ来たはイイが、財布の紐はアサシンが固く縛っている。
プリーストは何度も何度も拝み倒す。
そんな姿は周りの目をちょっぴり引いていた。だが周りのざわめきで、他人が2人の会話を聞くことはない。
「だから駄目だっていってるだろ!遊びなんかに大事な金が使えるか!」
「遊びじゃない!ギャンブルは男の人生だぞ!浪漫だ!!」
「訳分からないこと言ってないで、諦めろ。聖職者がこんないかがわしいところにいるのも問題だぞ」
「外見は聖職者でも心は少年なんだ!!」
「少年もこんなところには来ない。さあ帰るぞ。宿とらないと」
「えぇー!!せっかくコモドに来たのにー!!絶対に金倍にするからッ!!」
「信用できるか、毎年おみくじ末吉くんが。」
さっさと出て行こうとするアサシンに抱きつくように引き留めた。
どうしても引く気はないらしい。
「じゃあ、もし俺がお前に損をさせたら、今夜は特別に俺が下になってやr」
「ますますやらせるかド阿呆!!!!」
「なんでだよ!!俺ってこれでも受けってすっげー嫌いなんだぜ!?そこを引いてやってるんだぞすっごい勇気だぞ!!」
「そんな勇気はいらん!!てゆーか、お前が相手じゃ勃つ気がしない。」
「なんだと!いつも俺相手にヒィヒィ言ってるくせに」
「…てゆーかいい加減腹立ってきたんだけど…もう殺っていいか?てか殺るぞ?」
「う゛……でもでもでもでも〜〜〜」
一度は引いたが、またしつこいプリーストは涙目ですがりついてくる。「…………ハァ」
アサシンは心底深いため息をついて、荷物の中から財布を出して、紙幣を数枚渡した。
「それ以上は渡さないからな。」
とたんにプリーストの表情がぱあっと明るくなり、ありがとうー!と叫びながら抱きついてきた。
それを渡し、自分は宿屋へ行こうとしたのだが…
プリーストに思いっきり腕を引かれ、人混みの中に引き込まれた。
「お、おい!!俺も行く必要はないだろ!?」
「せっかくだからアンタにもギャンブルの楽しさを叩き込んでやる〜♪」
「………」
文句の1つでも言おうとしたのだが、うさ耳の後ろ姿から喜びの花が飛び交っていたので、思わずナニも言えなくなってしまった。
仕方なく大人しく付いていった。「あぁ…金が飛んでいく…」
まだ始めて10分も経っていないし、お小遣いの1/3も使っていないのだが、それでも金が目の前で消えていくのはアサシンには拷問だった。
「まだまだ勝負はこれからだってーの!」
プリーストにはまだまだ余裕がある。
スロットの前に座り、じっと回る台を見つめている。
しばらくしてから、プリーストはポンポンとボタン2つを続けて押した。
「お前そうゆうのは一個づつ絵をよく見て押せよ!!」
思わずアサシンが叫ぶが、プリーストは気にしない。
…そして、スロットは…1番2番、ともに“7”の絵を出した。
「リーチきたッ!!」
「本当か!!」
2人は台に見入った。というか食いついた。
「……うわあああなんか超緊張する!!最後アンタ押して!!」
「なっ!俺はギャンブルなんてやったことないんだから押しつけるなよ!!」
「ギャンブルの基本は運なんだよ!!いいから……あ」
アサシンに席を譲ろうとして慌てて立ち上がった瞬間、プリーストの肘が、最後のスロットを止めるボタンにぶつかってしまった。
ピコン、という音が立って、スロットのスピードが遅くなる。
2人は事故のことなど気にせず、最後のスロットを凝視しする。『(*>▽<*)キタァアア────!!!!!!!!』
2つの叫び声が響いた。
周りの人々はその声に引かれて、その台をのぞき込み、おおっ、と声を上げた。
「うわ!ラッキーセヴン!すげぇー!俺ってすげー!!w」
「いろいろ腹立つこと多いけどよくやった!!w」
「てかラッキーセヴンだぞ!?何分の一の確率だ?!えと、三十分の…?」
「千分の一だ阿呆!w」
「千分の一!よくわかんねぇけどスゲー!!w」
2人が騒いでるうちに、台からコインがジャラジャラと出てきて、2人の持ち金は最初の3倍近くまで跳ね上がった。
「よし!次はカードゲーム行くぞー!!」
スロット台を後にし、さらに奥へと入っていくプリーストに、アサシンはぎょっとした。
「おい!せっかく儲かったのに…」
「何言ってるんだよ!もっと跳ね上げるんだよ!!いくぞ!」「っしゃー!」
プリーストの声と同時に、群がる露出度の高いドレスを着た女達が拍手をした。
「お兄さん強ーいw」
プリーストはずっと勝ち続きだった。
カードゲームはなかなか調子が良くて、何度か負けたがそれ以上に勝ちが多く、かなりの黒字だ。
そして気が済んだプリーストは、今度は数字当てに着ていた。
こちらでもプリーストの勘が冴えていて、チップはどんどん貯まっていった。
「おい、ここらでもうやめろ。もう十分だろ」
「せっかくここまできたんだぞ?もうちょっと」
「……もう夜だ。宿の受付が閉まるぞ。」
それを言うと、さすがにプリーストは思いとどまった。
「そうか。じゃあ俺はここらでお暇するぜ」
プリーストが席を立つと、女達が一斉に声を上げた。
「もうちょっとやって行きましょうよ〜」
「せっかくだもの、最後の大勝負してみたら?」
「もう少し一緒に遊びましょうよ」
プリーストはまいったなぁ、とまんざらでもなくにやけてため息をつく。
「じゃあ、エレガントなお嬢さん達のお誘いに乗って…」
「ぇ、ちょっとマテ…」
「最後の大博打だ!!」
プリーストは今までに無いくらいの大量のチップを出した。
「ああ、もーお前ホント馬鹿…」
青い光を受けて輝く水面に指先で触れながら、アサシンはため息をついた。
持っていたチップの大半を出してしまった賭は、敗退。
その結果、わずかだが損。
財布のダメージは少ないが、精神的ダメージは多いようだ。
「畜生〜アレが当たってれば…」
「お前があそこであんなことしなければ…」
プリーストとアサシンは同時にため息をついた。「まぁ、本当の目的はギャンブルじゃないからな。」
澄んだ水が冷たくて気持ちいいのか、そう言って手を突っ込んだままのアサシンの隣に座った。
そんなアサシンと同じように体の一部を水に浸からせているヒトデが、まるでこちらを見ているようだった。
純粋に喜んでくれているアサシンに、よくない妄想を重ねている自分を軽蔑しているかのようだった。
「ハァ……」
彼は思わずため息をついてしまう。アサシンが何かと見てくるが、それは目に入らなかった。
自分はただ、彼に喜んで欲しいだけと、そう思っているのだが…何かとすぐに、色気づいてしまう。
今日言われた“色モノエロプリ”は、自分でもかなり同感だ。
アサシンの方を見たら、目があった。
大きくもないのにいつもどこか潤んでいて、奥が深い色をした瞳が、快楽に歪んで涙を流すのを見たくなる。
白い肌が、汗ばんで赤く染まるのを見たくなる。
その整った唇が、濡れて荒い息づかいになり、甘い声を漏らすのが聞きたい。
いつもと変わらない彼なのに、突然こんな感情に襲われる。しかもほぼ毎日。
できることなら、毎晩、2人とも壊れるまで抱いていたいと思う。
そんな自分の変態さ加減に呆れてしまう。
いろんな思いを振り切るように、アサシンの首に抱きついた。
「な、なんだ…?」
「…ったく…お前のせいでもあるんだぞ…お前がそんなに…」
色っぽいから、というと斬られかねないので言葉を濁らせた。「…おい、どうしたんだ?…気分でも悪いのか?」
こっちの気も知らずに、アサシンはそんなこといって耳元で囁いている。
「違う…。なんて言うか…」
「うん?」
「俺、今…すっごいお前を強制連行してベッドインしちゃいたい思いを耐えてるんだよ。」
なんだか腹立たしげな声で言われた意味がなかなか浮かばなくて…
理解してから、彼は顔を真っ赤にした。
「ばっ、…お前な!!てか放せ!!」
「……やっぱ無理だ。今キレました。」
「は!?」
かなり強引に、押し倒されて、体半分が水に思い切り濡れた。
「ッ!待てよ!またこんな所で…てか昨日散々やったばっかだろ!」
「足りねー」
かなり手慣れた手つきでアサシン装束を引きはがしていく。
帯や防具を砂の上に放り出して、食うような口づけをしながらはだけた躯に手のひらを滑らせる。水に濡れて、汗に濡れた体を撫でているようだ。彼の体温が少しずつ上がってくるのが分かる。彼が藻掻いて、水がパシャパシャと音を立てている。
アサシンはなんとか顔だけは動かして、プリーストのキスを逃れた。
だがそれで少し安心した瞬間、足の間に彼が割り入ってきた。
「おい!やめろって…!ッあ…」
耳に舌が差し込まれて、その温く湿ったものがくすぐったくて、身体が震えた。
耳当たりをピチャピチャと音を立てて舐められて、それが甘い誘惑に感じる。
眉根を寄せる彼の頬に、濡れた髪が張り付く。
少し水に濡れただけなのに、それだけで彼の色っぽさは倍増した気がした。
彼の身体がこわばって、動きが鈍くなった。
ベルトを外して、手を差し込んで、彼のモノを強引に扱いた。なるべく、優しくしないで。
「ィ、あ…ッく…」
苦しそうなくぐもった声。
けれど時折声が裏返って、まるで女のような高い声が耳に届く。べつに、そうでなくてもコイツの声はイイんだけど。
「やっぱ、イイ声。俺、アンタの声だけでイケるかも…」
「なっ!何…あ、ぁ!や、やぁ…」
彼が足を閉じようとして、プリーストの腰を押してくるが、この体勢ではどう足掻いても足を閉じることは出来ない。
革生地の下で、アサシンのそれが息づいているのが分かる。
けど、多分プリーストの方が興奮している。けれど、そこは経験の差。なんとか自分のそれを抑制していた。プリーストはベルトを外し、彼のズボンを剥ぎ取ろうとした。
「……ッ!!ま、待て!!」
アサシンはもう、拒むのを諦めて、慌てて叫んだ。
するにしても、ここでしてしまうのは絶対に避けたかったからだ。
「わかった、から…外は、やめてくれ…」
「…室内ならいいのか?」
「…いい」
「…ここですぐにパッパとやらせてくれるのと、移動してそっちでじっくりやらせてくれるの、どっちがいい?」
プリーストにそうふられて、思わず悩み混む。
外で短い時間でするか、中で長い時間するか。
…外だと、岩陰ではあるが人に見つかる可能性があったし、やたら恥ずかしいし、砂浜なのでやってる時に砂が入ったりしそうでこわい…。
「…やっぱ、中…」
「OK」
プリーストはアサシンを片手で抱き留めながら起きあがり、もう片手で散乱した彼の装備や帯を拾う。
「早く行こう。俺、ちょっと限界だから…」
プリーストがそう言ってせかす。彼の頬が赤く染まっている。
やはり興奮していたのはアサシンよりもプリーストの方だった。
宿を取るには2人の格好は乱れすぎていた。
だから、点々と並んでいた空き家のひとつに転がり込む。
元の住人の生活の様子がわずかに残されたまま、それは置き去りにされたようだ。
コモド独特の雰囲気が漂っていた。
「ここで、いいだろ…」
プリーストは部屋の隅に敷かれた絨毯のホコリを軽く払い、アサシンを座らせた。「ひ、ぅ…」
そっと、少しづつアサシンのあかい窄みに、自分の猛ったモノを押し入れていく度、苦しげな声が上がった。
けれどそこは思った以上にキツくはない。
もう何度も荒らされたアサシンの、本来性器ではないところ。
男を受け入れるのに慣れたというよりは、このプリーストを受け入れるのに慣れた。
それでも、体の感じる快楽はいつまで経っても慣れることはできない。
体の奥へ、臓器をも突き破るように、奥へ、奥へと侵入してくる。
軽い危機感と恐怖。
けれど与えられるモノは心地よくて、どうしようもなくヨくて、求めざるを得ない。
耐えるように、同時に誘うように、プリーストの体に触れる。
仰向けになったアサシンを組み敷いてくる彼の腕にしがみつく。
「…気持ちいい?」
「聞く、なッ…」
苦しげな呼吸の合間に答えてくれた彼に、ニッと微笑んで唇を重ねた。深くキスをしながら、アサシンを突き上げるのが好きだった。
「…ッ!!ン、ゥ!!ンンッ!!」
唇の向こうで苦しそうに喘ぐ彼の顔が好きだった。
苦しくて、涙を浮かべて、それでも快楽を否定できずに腕をぎゅっと掴む彼が好きだった。
このアサシンは、なんて幸せなんだろう。
こんなに思ってくれる最高の恋人がいて。
彼の笑顔のためなら努力を惜しまない、傷付くことも、死ぬことも厭わぬプリーストがいる。
このアサシンは、なんて不幸せなんだろう。
こんなに醜くて不埒な恋人がいて。
彼に醜い欲望と歪んだ愛情をぶつける、サディストなプリーストがいる。
「なぁ…アンタが俺をこんな風に変えちまったんだよ…」
俺をこんなに醜くしてくれた…。
ゆっくりだが強い突き上げを止めずに、低く囁く。
アサシンは今にもイキそうで、意識はもうろうとしているのが見て取れた。中で動いてやる度に喘いで、イク、と譫言のように声を上げた。
プリーストの言葉は聞こえていないかもしれない。
「…この落とし前、きっちりつけてくれよ…」
ひときわアサシンの悲鳴が高く、大きくなり、体が仰け反る。
「俺のモンに、なれよ…!」
「…ぅ、ぁあア───!!!」
彼の蒼い髪を鷲掴みにして、奥まで思い切り突き上げた。
枯れた声を上げて、アサシンはプリーストの手の中に、プリーストはアサシンの体の中に、熱いモノを放った。
しばらくの余韻。
全身に甘い痺れが走る。
まだアサシンの無駄のない美しい体の中に埋もれたまま、プリーストは体を寄せた。
「いつまでも、昔のことなんて引きずってないで…。俺はずっとアンタの傍にいるから」
『いい子だ…お前は、俺のモノだから、な…』
痛い、父さん…やめて…
『愛してるよ。母さんの分まで、愛してるからな…』
やめて、やめて、痛い、痛い
『だから、絶対に逃げるなよ…あの女みたいに』
痛い、助けて、母さん『お前に母さんはいない!俺だけだ!お前は俺だけのだ!!』
嫌、嫌ァ!
『誰もお前を見ない!お前を愛してるのは俺だけだ!』
嫌!嫌ァア!!
『汚いお前なんか、あの女の血が流れてるお前なんか…!!』
「…俺は、アンタと一緒にいれてかなり幸せだから。」
「俺はずっとアンタの傍にいるから」
目が覚めた。
涙に濡れた頬。
いつものことだ。「おはよう。っつってももー昼だけどな。時間的に」
隣から、いつものあの声がする。
そちらを見なくても、プリーストの存在は確認できる。
絨毯の上に毛布に2人寄り添ってくるまって眠っていた。
となりのプリーストは早くから起きていたのか、アサシンのように寝起きの様子は見られない。
「…やっぱり、まだ、夢見るのか…?」
アサシンはスッと目をつぶった。
無言の肯定。
「いつか、俺が忘れさせてやるよ…」
隣でプリーストが囁いた、強い意志を持った言葉。ああ、俺はなんて幸せなんだろう。
こんな自分を思ってくれる、自分のためになら努力を惜しまない、優しさを惜しみなく与えてくれる、最高のプリーストがいる。
彼なら、その束縛も心地良いのに。「アレは、事実。忘れることなんて、できない、よ…」
昨晩の名残か、声がかすれていた。
「けど…“今”がよければ…“昔”なんてどうでも、よくなる時がくる…。」
だから、お前は十分俺を守ってくれているんだ。
言葉を漏らすようにそう言って、彼は気怠げに息をついた。
「なあ、今度は雪でも見に行こうか。」
いつものプリーストの、新しい世界への誘いの言葉。
「…ああ、見たことない…」
その言葉に、どれだけ救われているか。
「…一面真っ白で、綺麗だけど、冷たくて、どこか怖くて…それでも、綺麗なんだ。」
彼の言う言葉にそって、自分の中でその情景を浮かべる。
「それでもって、朝日や夕日にあたると、所々その色に染まって、キラキラ金や銀に光って…」
こうして、新しい世界を想像するのが好きだ。
また、浮かんだのは幻想的で美しい世界。
「…ああ、凄く、綺麗そうだ…」
「けど、またその中で、アンタが一番綺麗なんだよ。」
全く照れもせずにくっさいセリフを吐いたプリーストだったが、気が付けばとなりの恋人はまた夢の中に引きずり込まれていた。
最後のセリフは、届いていたのだろうか。それよりも、きっと彼は今、良い夢を見ている。
白銀の新世界の夢を夢を見ている。
そっと毛布の中で彼の手を掴み、目を閉じた。
一緒の夢の中にいられるように……。
ちなみにこの小屋の主は旅が大好きで、
久しぶりに帰ってきたらあまりにビックリな光景に出会してしまった。
が、そこは長旅の機転。
スクリーンショットで隠し撮りをしまくって、裏に流して大もうけしたりしたが…コモドに出回った頃には、彼らは北の国に旅立っていたので
どうでもいい話だったりする。