「ッう…ァ…」
喉に引っ掛かりがある。
体は仰向けに倒れたまま動かせなくて、息はできないまま。「ヒッ…ア、ぁック…」
もう助からないと分かっていながら、必死に息をしようと胸を動かす。体を横にできれば楽になるかもしれない。
けれど、少しでも動けば、バッサリ切り裂かれた腹が悲鳴をあげる。「ア、ァ…」
何とか動いた右腕を腹辺りに寄せた。
静寂の中に響いた嫌な音と、血が巡らなくなってきた手に伝わった生々しい感触。内臓が、はみ出ている。
自分でも、信じられなかった。
「ア、ガァ!!…はぁっ!」
そのうち痛みよりも苦しさが勝って、死に物狂いで腹の傷を押さえながら体を横にした。少しして、喉に溜まった血の塊が吐き出せた。
やっと喉に空気が通った。
それは苦しみを長引かせるだけだと、分かっているのに…痛みと、苦しみと、恐怖。
涙がとめどなく溢れる。死にたく、なかった。
やりたいことが、まだたくさんあった。
助かろうと思えば、助かったのだ。
相方のプリーストが逃げるためにワープポータルを開いてくれたのに彼にモンスターが食いついた瞬間、どうしようもない恐怖に駆られた。
自分の死より、彼の死の方が、何千倍も怖かった。
だから、気が付けば彼に襲い掛かるモンスターに斬りかかり、それでもまだ群がってくるモンスターがいたから
彼を消えかけたポータルに押し込んだ。馬鹿なことに、それが確実に自分の死を意味することに気づいたのは
最後の一匹に、腸を抉られてから。
―――い、てぇ…!!
もう、声も出なくて
ひたすら涙を流して、呻くこともできない妙な呼吸をするだけ。けれど、痛みの奥で
死という怪物が食らいついてくるのを感じる。
残酷なことに、一気に食い殺してはくれないらしい。
早く、早く殺せ、と、心の中で叫ぶ。
「っ、見ィつけた…」
相方の声が聞こえた。
幻聴だと思った。それなのに、視線の先に、人影があった。
赤と黒の、プリーストの法衣。何で戻ってきたんだ、と怒鳴りたかったが、生憎、声が出ない。
彼が、ズルズルと妙な音を立てて近づいてきた。
「…ッ」
このダンジョンに戻ってきたという愚行に対する怒りが、彼の姿を見て吹き飛んだ。
ポータルに入る直前に噛み付かれた肩の傷が、改めて見ると、すごく深い。
引きずられた片足も、血がこぼれている様に床に落ちて、線ができている。
顔半分も、真っ赤。「…ぁ、おせ…」
声が出たことが、自分で信じられなかった。
その傷を治せ、と言いたかったが、言葉にはならなかった。
それでも相手は理解してくれたらしい。
「…無理。もう精神力切れたし…」
彼はにやにやしながら、隣にドカリと倒れてきた。「お前が、助かりそうにないから、俺も助からねぇ。」
彼の言っていることが、訳がわからなくて、腹が立った。
「ま、だっ…間に、ぁ…」
「間に合う、間に合わないの…問題じゃない…」
彼が、傷ついていないほうの腕を伸ばして
手をそっと握ってきた。「ずっと、お前といたい。」
近くで見れば
ずっとにやにや笑っていたと思った彼は、涙を流していた。
はじめてみた。
涙を流しながら、幸せそうに…微笑んでいた。「どっちかだけ生きてるなんて、真っ平だ。
お前に先にポタに乗せられたときの俺の絶望が分かるか?
お前に恨まれても良かったから…
馬鹿だと罵られようと
お前の死を無駄にしようと死ぬのはお前の傍がよかったんだよ…」
だから、死ぬ為にここまで戻ってきた。
アサシンは、ぎゅっとプリーストの腕を握りかえした。
今できるだけ精一杯の力で。
痛い。
苦しい。
けれど怖くない。
「あの世でも、一緒にいたい。」
―――ああ。
「来世でも、ずっと…さ。」
―――…ああ。
落ちていた、アサシンのグラディウスを拾う。
今尚アサシンを苦しめるその激痛から、解放するために。
「俺も、すぐにいく。」アサシンは、微笑んで、重い瞼を下ろした。
「俺、お前のこと…ずっと好きだった。戦友とか、そんな生易しいものじゃなくて…」
「…?」
「今は、ちょっと言いづらいから、あとで…たっぷり、語ってやる。」
やりたいことは、たくさんあった。
けれど、なによりやりたかったのはお前の傍にいることだから
カモン マイ ディア 鬱!!(ディアかよ)
とりあえず苦しんでグハグハ言ってるアサシンが書きたかっただけですy=ー(|´Д`)・∵. ターン