「……………」

木陰で誰かが本を読んでいる。読んでいるのは分厚い魔導書だ。
木の幹の脇から、長い、燃える様な赤い髪と、その赤に合ったウィザードの衣の色。
それを見つけた騎士は、あえて自分の存在を強調するかのように、鎧の音を立ててその人物に歩み寄った。
「よぅ。」
誰かが近寄ってくるのも、それが誰なのかも分かっていたウィザードは、そちらを見もせずに同じ言葉で返事をした。
「あいかわらずガリ勉か。よくやるな。」
「お前もチャンバラだろう。よくやるよ。」
普段は敵を焼き尽くす魔法を唱える綺麗な声が、明らかな皮肉をもらした。
騎士はちょっとムッとして、さっきまで激しく打ち合っていた剣を地面にドスッと刺した。
「後輩への剣の稽古といってくれ。」
「…どうもいいが、汗臭い。」
「なにっ!!」
騎士はちょっと遠慮してしまったのか、ウィザードから数歩退いてしまった。
そこで、首元を扇いで、自分の匂いを嗅ぎだす。
「……っ…」
そんな様子に、ウィザードは声を押し殺し、肩を揺らして笑っていた。
「…おい、笑ってるんじゃねーよ。結構気になるか?匂い…」
ウィザードはまだしばらく笑っていたが、それが収まると、スッと騎士の方を見た。
体が細めで、可愛い、カッコイイというよりは綺麗な容姿。
だが美人ではあるが顔立ちは男らしいし、細い切れ目は冷たい印象を与えそうだ。
赤い燃える様な髪も妖艶で、白い頬に流れ片目を覆っている。
それでも、男なら誰もが羨み、女なら胸をときめかせそうだ。
「っ…安心しろ、そんな気にならない。」
「おう、それならいいんだけどな…」

ウィザードが、座れよ、と騎士を促す。
「………」
さっき言った「汗臭い」のせいか、相棒の騎士は距離を置いて座った。
妙なところで真面目なその騎士は、ウィザードとは対照的だ。
白い髪は生まれつきではなく、染められたもので、乱雑に切られた髪に似合っていた。
騎士の鎧で見えにくいが、意外と細い。
細いというかしっかり締まっていて鍛え抜かれていて、戦いになれば速さと力強さを最大限に発揮する武器になる。
いつも口元には笑みを浮かべていて、歯をだしてよく笑う男だ。
顔立ちは特に人目を引くわけでもない、普通だ。けれど表情がコロコロ変わって面白い。
「で、どうした?」
ウィザードが問う。
「ん、なにが。」
「…俺に何か相談したくてここに来たんじゃないのか。…声が落ち込んでるぞ」
ウィザードはそう言いながら、背まである長い髪を、結い紐で適当に結った。
「…みんなには気づかれなかったのに、なんでお前にはすぐに気づかれるんだろうな…」
騎士はさっきまで笑っていたが、今度は泣きそうな顔をしてため息をつき出した。
この男は感情を隠すのが微妙に苦手で、傍目にはいつも笑っているように見えても、何かあると何かしら顔に現れているのだ。
初対面の人間は騙せるが、親しい人間は騙せない。とくに、このウィザードは。
さっきも、口元は笑っていたし、目元も笑っていたが、時々微妙に泣きそうな目をしていた。

「愚痴ってもいいか〜?」
「聞き流していいなら、どうぞ。」
そう言いながら、ウィザードは本に目を落として、想いっきり聞き流しの体勢に入る。
そんなことを気にせず、騎士は話し出す。
「カノジョにヤリ逃げされた」
「ぶっ!!」
たまらずウィザードは吹き出した。
「っ、…っんの…唾が本に飛んだじゃねぇかアホンダラ」
「アンタの唾だろ!!俺のせいにすんなよ!!!」
「お前がいきなり面白いこというからだ」
「面白くねぇよ!!こっちは深刻なんだぞ!!」
「俺には笑い話にしか聞こえない。」
「ぁんだと!?」
「で、どうしたんだ?」
「…そのままだ。昨日迫られて、まぁ、ヤって、朝になったらベッドに『もう別れましょう』って書置きあったんだよ…」

 

騎士はもう泣きそうになりながらため息をつくのだが
ウィザードは口元を手で押さえて、想いっきり笑うのを堪えていた。
「なあ!俺のどこがいけないんだと思う?!そりゃあ俺は顔もあんまよくないし要領だって悪いしズバ抜けて強いわけでもないし…って笑ってんなようぉらー!!!!!」
口と腹を押さえて肩を震わせていたウィザードの肩を掴み、ガックンガックン揺さぶった。
「いや、なんかあまりにもお前にふさわしい終幕だったんでな…」
「ッ、終幕とか言うんじゃねぇえええ!!!」
ついに騎士は泣き出し、服装のせいか一回り小さく見えるウィザードの肩に顔を埋めて泣き出した。
それをウィザードはまだ腹筋がヒクヒクしているのを感じながら、騎士の白い頭をポンポン叩いていた。
じつは、そんなに汗臭くない。

 

思わず相方に泣きついてしまったが、別に突き飛ばされたりしないので泣きついておいた。
想いっきり飛びつこうとしたが、目の前にあった体が思った以上に細かったので、勢いは崩れて肩に額を押し付けるだけの妙な形になった。
なんだか気分が沈んで沈んで沈みすぎて、ちょっとした破壊衝動に駆られる…。
この細い体に想いっきりシャーマンスープレックスをかましたい…。
きっと殴られて終わるが。
このモヤモヤをどこかにぶちまけたい…。
ああ、それにしてもなんかいい匂いがする。
甘いような、すーっとするような、心地よい香り。

「あー、お前なんかいい匂いするー」
「香水使ってるからな」
「うわ、女みてぇー」
「分かってないな、そんなだから女に逃げられるんだぞ。」
「なんだよなんだよ偉そうに〜、女引き寄せまくる磁石男め」

 

ふとウィザードの白い首筋に目が行った。
そして開き放たれた襟元。奥に暖かく、柔らかそうな肌が覗いている。

胸が、なんだか苦しくなった。

あらぬ妄想が浮かぶ。
その服の中に手を差し込んで、柔らかそうな肌に触れたい。
その白い肌を唇でなぞって

赤く

汚し たい 。

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
「!!!!!!???」

突然、騎士は悲鳴を上げて逃げ出した。
心臓が口から出るんじゃないかと思うほど驚かされたウィザードは、あっという間に静寂の中に取り残された。
「……ら、乱心したか…?」

 

「(やべぇ俺…乱心したかも…。)」
今は誰もいない宿屋の一室で、彼は鎧を着たまま布団の中に潜り込んで蹲っていた。
何を血迷ったか、相方の肌を見てあらぬ妄想を抱いてしまった。
本当に一瞬、数秒だったが、欲情した。
しかも男。
男なのに可愛い、とか、女の子っぽい、とかならともかく…
いや、確かに美人ではあるが、どうみても男、なヤツに。
あの甘い香りでなんだか夢心地になり、その延長で彼の肌を見て、それを…

「うわあああああ!!!!!思い出すな!!!思い出すんじゃない!!俺ー!!!」

ベッドから飛び出し、壁にや床にドンドンと頭を打ち付けた。
はたから見ると間違いなく乱心しているようだ。

 

いくら暴れても落ち着かない。
もう打ちつけまくった額はうっすら血が滲んでしまった。
彼女にフラれて傷心しているのに
フラれたその日に友人に欲情するなんて
節操ないぞ、俺。てゆーか最低…。

 

 

 

「ヒール…」

聞き覚えのある癒しの魔法の詠唱。
ずっとヒリヒリしていた額がホッと暖かくなって、痛みは吹き飛んだ。
彼女によく癒してもらっていた、懐かしい暖かい光。
体がだるくて、眠い…あのまま気絶でもしたのだろうか。
「…ん…帰ってきて、くれたのか…」
額に柔らかいものが触れてきた。ちゃんと直ったかを確認するキスのように。
「ごめんな…悪いところ、あったら…俺が、直すから…だから…」

よりを戻そう。

そう言えなかった。
分かれたその日に、友人に欲情した。しかも男。
その事実が彼を戒めていた。

「甘いな。直せる程度の原因だったら、別れたりせずに矯正させるさ。少なくとも俺はな。」
いきなり聞こえたその声に、寝ぼけていた脳みそは大覚醒した。
てっきり別れさせられてしまった彼女のヒールだと思ったのに
そこにいたのは相棒のウィザード。
そういえば彼はヒルクリを持っていた。

それよりも、起きて驚いたのは

 

「なんで裸で俺の隣に寝てるんだお前はーーーーーーーー!!!!!!!???」

あのあられもない妄想を浮かばせた肌が、全開で隣にあった。
いつのまにか鎧は脱がされて、軽いアンダーだけの騎士は叫びながらベッドから飛び出した。
「なんでとは失礼だな。お前が部屋の中で死に掛けていたから介抱して寝かせてやっていたというのに。」
「だ、か、ら、って!なんで隣に寝ている必要があるんだよ!!」
「お前があまりにも気持ちよさそうに寝ているから、添い寝させてもらったまでだ。」
さも当然のように彼は答えてくる。
「だからって何故裸!?」
「俺は寝るときは脱ぐんだ。」
また普通に答えてくる。
「他人の部屋で勝手に寝てしかも脱ぐな!」
「男同士なんだから問題ないだろう。しかもお前の部屋だし。」
彼はあっけらかんと言って、あくびをした。
もう疲れてしまって言い返す気になれなくなった騎士は、小さくため息をついた。
そうなんだ、コイツにとってはただの友人同士で、男同士なのだから、俺みたいに変な気を起こすことなんて無いんだ…

「…もういいから、服を着ろ。せめて服を着て寝てくれ。」
「…なんだ、赤くなって。ひょっとしてお前、そっちの気でもあるのか?」
そういわれて、冷めかけていた顔の熱が、また沸騰しそうなくらいに熱くなった。
心臓がばっくんばっくんうるさくて仕方が無い。
「なっ!!!んなわけないだろ!!!!」
「ムキになって否定するところが怪しいな。」
ウィザードはニヤニヤ笑っていて、すべてを見透かしているようだった。
騎士はどんどん追い詰められる気分になって、何も言い返せなくなってしまった。

男を好きになったりしたことはない。
だが事実、彼に欲情した。
ひょっとしたら、少しだけ…あるのかもしれない。
だんだんと自分のことが分からなくなってきた。

「まあ、別にいいけどな。俺はないとも言えないし。」
ウィザードがポツリと言った一言に、騎士の思考能力は一瞬で奪われた。
「え…そうなのか?」
「まぁ、否定しきることはできないな。別に男が好きってわけじゃないぞ。
やっぱ女のほうを意識するし。けど、好きになったヤツはたまたま男だったってだけだ。」
そう言って、彼はため息をついて目を伏せた。

そんな憂いを帯びた横顔にドキッとしてしまう騎士。
そしてまた自己嫌悪に陥る。

「お前の愚痴聞いてやったんだ。俺のも聞いてくれ。」
ウィザードは苦笑いを浮かべて、さっきまで騎士が寝ていたスペースをポンポンと叩く。
戻ってこい、の意だろうが……
そのあられもない姿の隣に戻ったら、確実に俺はケダモノになる。
てかもっと布団で体を隠してくれ。それか全部とってしまえ。
裸の上半身だけが見えてると、下も脱いでそうで楽しみ…じゃなくて、怖いんだ。
あぁ、てか女みたいに胸の膨らみとかあるわけじゃないんだけど、白くて乳首とかイイ色して、そそるぞ。
腰だって、なんでそんなに細いんだ。
ああ、もう本格的にやばい。変態だ俺はッ!!

「そうやって額をぶつけるのは何かの儀式なのか?」
散々部屋のいたるところに額を打ちつけまくって倒れ、結局ベッドの上で介抱されている。
そして隣にはやはり上半身裸のウィザードだが、頭がガンガンして妄想するどころではないのが救いだ。
「あー、で、お前の愚痴、聞くよ…今なら聞けるから。」
そう騎士がいうと、ウィザードは隣にポスッと横になり、騎士と同じように天井を向いた。

「…さっき言った、好きなやつが男だったってやつ。」
「うんうん。それじゃ悩むだろうな」
「…始めはなんとも思ってなかったんだ。ただの同じ冒険者、ただの戦友、ただの友達。
ずっといたらそいつのいいところとか、悪いところとか、心配なところとか、少しずつ知って、一緒にいるのが楽しくなって…
そこまではよかったんだ。
ある日俺に告白してきた子がいて…
すごい可愛くて、俺好みだったんだけど、なんとなく断った。
その、戦友の顔が浮かんだから。つい、OKできなかったんだ。」
「その戦友の方が好きだったから?」
「だな。けど、普通、それと女は別物だろ?」
「だろうな。」
「それでも、俺はそのとき、その男と、告白してきた女の子を頭の中で切り離せなかった。
それで、その女の子につい『俺には別に好きな人がいる』って言っちまった。
…それでも、俺がソイツのことを恋愛視してるなんて自覚はなかったさ。
けど、それから異様に気になりだしたんだ。
そいつと一緒にいるときが一番楽しくて
戦うときだっていつもそいつのことを一番見てて
そいつが笑っていても、泣いていても、怒っていても、傍にいたいと思ったんだ。
それで、それがずっと前からだってことにも気づいた。」
「お前も、まじめな恋してるんだなぁ。意外だ。」
そう言うと、隣でウィザードが小さく笑ったような気配がした。

「けど、最近そいつに彼女ができた。」

自分のことではないのに、ウィザードのその言葉を聞いて、胸がきしんだ。
それを知ったとき、この男は何を思ったのだろう。どれだけ…悔しかっただろう。
そう思うと、胸が苦しくなった。
「思えば当然だ。そいつは立派に男だし、俺のことはただの戦友。
それ以外に思ってるはずが無いんだ。
普通に彼女だって作るだろうさ。」
ウィザードがどれだけ悲しかったか、騎士には分からない。
けれど、自分のことのように、騎士は悔しさで胸がいっぱいになり、思わず唇を噛んで眉間に皺をよせていた。

「その時、どうしてだか苦しくて、ずっと泣いてたんだ。ひたすら泣いて…」
騎士の胸の中でまだ話す彼の言葉が、そこで途切れた。
騎士は思わず見まいとしていた彼の顔を見た。

彼と目が合う。

彼は、驚くほど綺麗に見えた。
そして、フッと微笑んだ。

「そいつが、迎えに来たんだ。」

「…え?」
ウィザードの顔は、そのときを思い出しているのか、喜びに満ちている気がした。
「二日家に閉じこもっていただけなのに、そいつは俺を心配して迎えに来てくれたんだ。
『風邪でも引いたのか?もし具合がよくなったら、一緒に炭鉱にでも行こう』って。
相変わらず戦友だけど、それでも、しっかり俺のことを気にしてくれてて…嬉しかった。
それで、もっと好きになったけど…今度は素直にそいつの幸せを願えたんだ。
俺はただ、そいつのイイ友人で、たまに相談に乗ったり、遊んでやったり、一緒に戦ったり…
それだけで、俺は十分幸せだと思えたんだ。」

今までの彼のイメージを粉々に打ち砕くような健気な話に、騎士はどうしようもなく胸が苦しかった。
このウィザードが、その戦友をすごく好きなのは痛いほど分かった。
けれど、その人の傍にいるだけでいいという気持ちは分からなかった。
自分だったらそんなのは耐えられない。
自分だけを見てくれないといやだと思う。
彼だって本当はそう思っていて、本当は…気持ちが伝わらないのはつらいんじゃないかと思う。

思わず、彼をもっと強く抱きしめた。

やっぱりいい匂いがした。
肌はすべすべで、やっぱり男の体でしっかりしているが、やはり細いと思った。
けれど、さっきのように欲情したりはしない。
思いつめるものがあったから。
「俺じゃあ、そいつの代わりにはなれないけどな…俺だってお前の友達…いや、相方だろ…?
辛かったらすぐに言えよ?!」
そう言って、彼の体をぎゅっと抱きしめる。

 

「…辛いよ…」
腕の中の彼は、しばらく黙っていたと思ったら、ポツリと呟いた。
「いつも俺は胸を軋ませてたのに、そいつは楽しそうに彼女の話をするんだ…」
「うん…」
「しかもその彼女に尻に敷かれてるみたいで…俺としてはあんまり楽しくない…」
「うわー」
「終いにはその彼女に逃げられたとか言って俺に泣きついてくるんだ…」
「……ん?」
「それで、何気なく俺のそんな気持ちを話してみても、全っ然気づかないにぶちんで…」
「…んぁ?」
「自分のことだってゆうのにまるで俺の気持ちを他人のことのように聞いてるあふぉなんだ。」
「…んにぇ?」

いつの間にか、彼はおかしそうにクスクス笑いながら話していた。
そんな彼の話を聞くたびに、騎士の頭の中には妙なひっかかりができる。

―――彼女ができた。
     ウィザードが家にこもっていて、それを迎えに行った。
     彼女の話を楽しそうにしていた。
     その彼女に尻に敷かれていた。
     そしてその彼女に逃げられ、ウィザードに泣きついた。

…全部、身に覚えがあった。つまり―――

 

「……俺?」

目を点にしたまま、腕の中の彼に問いかける。
胸の中に顔を埋めてきているので、彼の表情は見えなかったが、クスクスと笑っているのが聞こえた。
そして顔をだしてこちらを見てきた。
騎士が抱きしめていたので、二人の顔の距離は数センチほどで、思わず二人とも顔が赤くなる。

「……。」
ウィザードは何も答えずに、視線を反らす様に、また騎士の胸へ顔を埋めた。

「……気持ち悪いか?」
彼が珍しく弱気な声でそう聞いてきた。
そんなことは全然ない。
むしろ、嬉しいと思う方が強い。

「……俺、は…」
騎士がボソボソとつぶやく。
「……アンタのこと、多分…友達以上だと思ってる、し…
付き合うとか言われても…そんなに嫌じゃない。
事実…その、今日とか、今とか…なんか、お前見てて…」
そこから先の言葉がつまり、しばらく沈黙が流れた。

「ムラムラした?」
ウィザードのふざけたような代弁に噴き出しかけた。
けれど、否定できなくて、ちいさく頷いた。
「じゃあ、俺は一応…お前の中で少しはそうゆう対象になれたんだな…」
呼びかけではなく、つぶやきでそう言って、ウィザードは唇に小さく笑みを浮かべた。
「嬉しい…」

 

…なんで今日に限ってそんなに可愛いんですか。
確信犯ですか?卑怯ですよ?

騎士は思わず彼を抱く手に力を込めた。
「で、でもな…彼女に振られたその日に、そんな…ん、だからさ…
俺は本気であんたのこと好きなのか、分からない。
好きは好きだけど、そう…ちょっとムラムラしただけだしな…
あんたみたいに、真面目になれる自信が無い…」
あんなに苦しんでいた彼の気持ちに応えられるほど好きなのか分からない。
自分は欲情しただけ。
うかつに彼と付き合って、ただ体だけの関係になったりしてしまったら

あまりにも健気なこのウィザードが可哀想だ。

「…真剣に付き合って欲しいなんて思ってない。
ただ、俺には遠慮しないで…俺もお前に遠慮したくないだけなんだ。
それで、俺の気持ちを知ったお前が、俺のことを軽蔑するんじゃないか、って…
怖かっただけなんだ。」
「そんなことない!!」
思わずラウドボイスにも匹敵するような大声で否定した。
「俺はずっとあんたのこと尊敬していたし信頼していたし
一緒に狩りしてるときとか雑談している時だってすごく楽しかった!
軽蔑なんて全然してない!
むしろお前がそうやって自分をしっかり見て生きていることは
すごくいいことだから!」

今まで、彼は一人でどれだけ思い悩んできただろうか。
自分は、どれだけ彼を悩ませて、寂しい思いをさせてしまっただろうか。
そう思うと、どんどん胸にいろんなものが突き刺さってくる。
「だから、そんな…遠慮とか、謙遜とか…するなよ。
さっき…遠慮とかしたくないって言っただろ?
それでいいよ。いや、それがいい。
俺は、ずっとそうゆう関係だと思っていたから…」
なぜか、涙が溢れる。

ウィザードが乗り出して、そっと騎士の目元の涙の後を舌でなぞった。
それに思わずドキッとして、顔に血が集まるのを感じた。

「俺、お前のそうゆうところ…すごい好きだ。」
彼は、すごく良い顔をしていた。
今まで見たことが無いくらい、幸せそうにしていた。
「じゃあ…全然遠慮しなくていいんだな?」
「ああ。もちろん。お前の気持ちも…応えられるかはわからないけど、正面から受け止めたい。」
「……」
騎士の言葉に、ウィザードは柔らかい微笑を浮かべた。

 

 

…てゆーか。

なんでこんな状況になっているのだろう。

 

「…なぁ」
騎士は目が点になったまま、呆然と呼びかけた。
「…なんだ。」
いつものような偉そうなウィザードの態度。
彼は今、騎士にローグのものに比べてはゆっくりなストリップアーマーをかけているわけで…
それはつまり

「…まさか、ヤル気満々か?」
いやな予感がして、弱弱しく騎士が聞く。
当然だ。遠慮はするなと言ったのはどこのどいつだ?」

 

(゜Д゜|||)きゃああああああああああ!!!!!!!

「ま、待て!!心の準備が…ってゆーかそれ以前の問題っ!!」
「俺にムラムラしたんだ、問題ないだろう。」
「大有りだっ!!!」
「ほお、どんな問題だ?」
ウィザードが騎士の上に乗り上げたまま、見下ろしてくる。
やっぱり、綺麗だが迫力のある顔立ち…。
「それは…えっと…」
彼と目が合うと言葉がなくなってしまう。
男同士だから?
そんなことじゃない。

なんだか、身の危険を感じる。

「…あの……」
「なんだ」
「…一応確認したいんだけど…」
足の間に体を挟んできて、偉そうに見下ろしているウィザードに恐る恐る訪ねた。

「…俺が下なのか」
「当然だ」
( Д |||)
恐れていた回答内容に、金盥が頭に落ちてきたようなショックを受けた。
今まで思い描いてきた妄想は、当然のように自分が上だったから、いざと言うときに下にされるとは思っていなかった。
それ以前に……
「体格差的に俺が上だと思う」
「んなもん関係ない。要はできればいいんだ、できれば。それとも何か?俺に下でアンアンないてろって言うのか?」
「俺よりはお前の方がいいと思う…」
ウィザードの表情が苛立ちを帯びてきているせいで、どうにも強く反論できなくなる。
さっきまでの切実さはどこへ行ったのか。

「何言ってるんだ、俺は男だぞ?」
彼がよこしてきたのはあまりに当然な答え。
「俺だって男だろ」
「細かいことは気にするな。俺は男に突っ込まれて喜ぶ趣味はないんだ。」
「俺だってないわ!!!」
「ほお、俺にムラムラしてたくせに、俺にやられるのは嫌だって言うのか?」
「そうは言ってない!!ただ、お前が下の方が絵的にいいし、イイ顔しそう…」

「ユピテルサ」
「ぎゃああああああああ!!!!!」

彼の十八番の雷魔法を発動前に口をふさいで防いだ…つもりだったが、
どうやら発動せずとも雷は帯電していたらしく、彼に触れた瞬間、
超痺れた。

「まったく、おとなしくしていればいいものを…」
そんないつもの彼らしい様子に、なんだか虚しさを感じながらもホッとしていた。
「だ、って…よぉ…」
ウィザードにヒールをもらったものの、まだ痺れているらしい騎士がぼそぼそ文句を言う。
急に、ウィザードは彼に詰め寄る。

 

「ちゃんと、優しくしてやる」

多分、普通は女にするような甘い声が、唇に吹きかかる。
細くて長い指先が、頬から首筋をすっと撫でて通る。

不覚にも心臓が高鳴ってしまった。
そして、呆けている間に服の中にひんやりとした手が滑り込んできた。
「ぅ、っわ!…ちょっ…」
とっさに彼の手を掴んで止めた。
「…そ、その…順序とか、違うだろ。いきなり、こうゆうのって…」
これからされる事がありありと頭に浮かんで、顔に血が集まる。

 

「俺はメインを真っ先に食べるタイプだ。」
「俺を飯といっしょにするなあああああああ!!!!!(恥怒」

「じゃあ、キスなら…いいか?」
いきなり、またさっきの健気モードのウィザードになった。
不安そうな顔でそういわれると、どうにも嫌といえなくなる。
けれど、どっちにしろ…嫌ではない。
騎士はコクッと頷いた。
その瞬間、飛びつくように…いや、実際飛びついてきた。
唇を押し付けられる。

思った以上に柔らかい。そして暖かい。
前の彼女と、キスくらいしたことはある。
だけど、それよりも心地よくて……

「口、開けろ…」
言われて、ぼんやりした頭のままカパッと口を開けた。
そこにウィザードが舌を差し込んできて
騎士の舌を絡め取る。
唾液を相手に注ぎ込んで、相手のものを吸い取って、交わる。
体まで交わろうとするように顔をもっと押し付けて、体も押し付けて、足や腕を絡めた。

溺れるほどに心地よい。
ウィザードが、慣れているから…
そんなことではない。

ただ、本気で
彼が交わりたがっているから

唇も
指先も
体も
熱も
魂も

彼が奪おうと、むさぼってくる。
こんなにも熱くて…けれど心地よい侵略なら
このまま彼に奪われてもいいかと思う。

きっと、この美しい男は
自分を捨てたりしない。

 

 

 

彼が離れた。
「次は、口でしていいか?」

 

「……は?」

 

返事を待たずに、ウィザードは騎士の足の方へ下がった。
片足を体で押さえつけて、その騎士のモノを、服の上からそっと撫でた。

「うっ」
服の上から唇で、少し熱くなっているそれを撫でる。
騎士は今の状況から、嫌でも口でされる、ということを想像してしまい、一層欲情してしまう。
それは彼の体に忠実に現れる。

「…デカくなった。」
「(゜Д゜#)言わんでいい!!」
ウィザードが足の間でくすくす笑っている。
じれったかった。
早く、この熱を彼の舌でなぞって欲しいと…綺麗な唇で咥えて欲しいと…考えまいとしているのに、体が望む。
「して、いいか?」

そんなこと聞かないで欲しい。
これ以上煽らないで欲しい。
もう理性はボロボロで、ただ羞恥心が騎士を拒んでいるように見せていただけ。

「…嫌だ、っつっても…あんたはするん、だろ…」
「そんなことはない。お前が本気で嫌がっていたら、やめている。」

――本当は、嫌がってないんだろう?俺とヤリたいって思ってるくせに…

そういわれた気がした。
すべて見透かされている気がして、急に自分が情けなくなる。

「まあ、それで俺がやめられる確率はポリンがジルダスを倒せる位だ」
「ゼロだろそれ、ありえないだろ」
「何事も挑戦、そして諦めないことだぞ?」
「もうわけわかんねぇよ」

話していて、少し落ち着いたが
ベルトが外されたり、ジッパーが下ろされる音を聞けば
あまりの恥ずかしさに、眩暈がしてしまう。

「あっ…」
すでに熱を持ち始めた騎士のそれを舌先でなぞる。
騎士は思わず声を漏らして、足を閉じた。
だが、足の間にはしっかりとウィザードの頭があって、閉じることが出来ない。

「(こ、こいつ…慣れてやがる…ッ)」
内心、焦った。
何もかもが予想だにしない展開で
しかも…
「(…………ッ……)」
今まで何度か女を抱いたときよりも、ずっと興奮していて
激しい性的快感。
彼の柔らかい口内に含まれ、慣れた手つきで扱かれて
頭が真っ白になる。
息が出来ない。
心臓の音が
不規則な呼吸が
全身を駆け巡る血脈が
うるさい。

「すげぇ、イイ顔」

ウィザードの低い声。
思わず顔を真っ赤にして、たじろいだ。
「逃げるなよ」
「…だ…や、やめ…」
「なんで。すごい気持ちよさそう。」

その通り、すごくよくて
今にもイッてしまいそう。
てゆーか、もうイク…

「は、なし…もぉ…い、イ…く…」
早くも切羽詰ってしまって、熱に瞳を潤ませて
彼は髪を振り乱す。
「イケよ。そのために、やってるんだから」
「ばっ…!お、前…よ、汚れる…」
騎士の方はもうアンダーと、ズボンは殆ど脱がされているが、
彼は、まだウィザードの法衣を着込んでいた。

「違うだろ。お前が俺で汚れるんだよ」

 

「ヒッ…ぁ…!」
熱かった全身が一瞬、寒気に見舞われて
ゆっくりと冷めていく感じがした。
彼は、自分がイッたということに少し遅れて気づき、
どうしようもなく自分を情けなく感じた。
顔を上げたウィザードの唇に白濁した液がついているのを見ると
どうしようもなく自分が情けなくなる。

「わ、悪い…」
「何がだよ、俺がやってるのに」
「だって、口の中に…入ってないか?」
「いや、全部飲んだから」

騎士は一瞬魂が抜けた。
そんなことをする彼が信じられなかった。
だって、他人の体液、を…

彼は考えることも苦しくなって、真っ赤になって顔を腕で覆って、なにやら唸っていた。
いつものように声を押し殺し、肩を揺らして…ウィザードは笑っていた。
いつもの彼。
いつも弱みを見せない
強気で、けれど繊細な…
ああ、こうしてみると
本当に綺麗だ。

 

「えっ…」
余韻に浸っている間に、騎士自身が放った体液で濡れた彼の指が
後ろの蕾に添えられた。
心臓が跳ね上がる。
この男に抱かれる。
この、綺麗なウィザードに…

 

注意:抱く側じゃなくて抱かれる側。

 

「待っ…やっぱ俺、下は無理…」
諦めろ。俺に口でやられた時点で運命は決まっていたんだ。」

 

(゜Д゜|||)!!!!!!!???

 

 

「あっ、ア…」

嘘だ。
これはありえない夢だ。

自分は今、何をされているんだろう。
…なんとなく分かってるけれど、ただ、信じられない。
脱がされて、組み敷かれて
あいつの綺麗な顔が、じっとこっちを見ている。
ああ、本当に綺麗だ…。
コイツを恋人にできる女は幸せ者だろう。
だけど、彼は今自分を欲していて…
自分の体の至るところに舌を這わせて…
下半身に響く、妙な異物感。

「や、め…汚い、だろっ」
「汚いなんて思ってるなら、こんなことしたりしない。」
彼の指が、足の間を這って…
なんと言っていいのか分からない。
ただ…体の中に、入っている。
体の中を、探るように動いている。
ものすごく妙な感覚。
だけど、これが親しいウィザードの指だと思えば、怖くないし
「っ…う、っく…」
眩暈がするほど快感。
こんなところに指突っ込まれて、気持ちいいなんて思っている自分は異常だろうか。
けれど、足が震えて
涙が滲んで
声が、抑えられない。
なんて、情けない格好。
彼が中で指を動かすたびに、曲げるたびに、体がピクンと反応する。
女を抱いて、いきなり突き上げたり、イクとかになるみたいに。
男でも、こんなことあるのか、とぼんやり思った。
押し殺された、苦しそうな、快楽を耐える声。
それと、粘膜が荒らされる、くちゃくちゃという音が
静寂に響く。

けれど、こんな自分なのに…
いつも馬鹿にしたような笑いを浮かべるはずのウィザードが…
何も言わず、真剣にこちらを見つめている。
その視線が痛い。
「っ…やめろ!!」
情けなくて、涙が滲んだ。
「大丈夫…」
「な、にがっ…ひっ!」
体に電気が走ったように、ピクンと反応した。
頭が、白くなる。
…まだ入れられていないのに。
まだ、抱かれていない。
指だけで、イカされる。
それがすごく情けない気がして…

「大丈夫…」
ウィザードが、低い声で何度も繰り返す。
「だ…から、何がっ…」

彼は苦笑いして騎士の手をとって自分の開いた襟の中へ導き
左胸にそっと手のひらを当てさせた。

激しく動く鼓動。

「…どうしていいのか、分からないくらいあせってるのは、俺も同じ…」
「あ……」
あの、いつも澄ましていた美しい顔は、朱が指していた。
ウィザードは唇をきゅっとひいて、困ったように無理矢理笑顔を作る。
「だから、やめろとか、いやとか…言われると…マジで苦しくなる…」
「あ…すま、ない……」
騎士が思わず謝ると、頭突きをするかのように、ちょっと強く、彼が額をコツンと当ててきた。
「お前、自分の立場分かってるのか?
俺に犯されそうになってるのになに謝ってるんだよ。
嫌だったら、もっと強気に…怒鳴ればいいんだ。」

お前なんか、好きじゃない。
俺に触るな。
そういえば、ウィザードは間違いなく退く。

 

「嫌じゃ、ない。お前を拒んだら…俺は、何を…受け入れられるっていうんだ…」

ウィザードは目を見開いた。
それは、ある意味最高の告白。
だが、騎士は体内にうずく熱に冒されて
自分が何を言っているのかわかっていなかった。

「…理性の続く限りは…優しくする。」
足の間に、彼が腰を割り入れてくる。
いつの間にか、騎士に負けないくらいに猛っていた欲の塊を、解された騎士の入り口に添えた。
心臓を掴まれた様にあせった。
多分、女が処女を失うときというのは…こんな感じなのだろうか。

「…続く自信、全ッ然無いけどな。」
「おいっ…うあ!!」
いつものようなふざけたウィザードに、気分を少し解された瞬間
彼が入った。
妙な感覚が騎士の全身を電撃のように走り抜けた。
それは痛みと快感の交じり合ったもの。
他人と体を重ねることでも、初めて感じたもの。

「あ、ァ…痛ぅ…」
「ふっ…ッ…き、つ…」
誰にも…“男には”犯されたことの無い騎士の体は、ウィザードを容易には受け入れない。
けれど、拒もうとはしなかった。
力を入れまいとして
きつく締まっては、ゆっくりと力を抜いていく。
真面目に、受け止めようとしてくれる彼の姿勢が嬉しかった。
だから、自分の中の汚い欲望に支配されそうになりながらも
彼になるべく優しく応えたいと思う自分がいて
理性を保てた。

「痛い、か?」
酔ったように頬を染めて、涙を溜めているその表情は
確実にウィザードの理性をそぎ落としていってしまう。
「…これ、くらい…けどっ、動か、ないで…まだッ…」
「了解…」
とりあえず、彼が落ち着くまで、ウィザードは待つことにした。

 

たしか、どこかの国では同性愛はご法度だった。
それは子を成さない。何も生み出さない。
だから、神は意味の無いものを禁じた。
でも、こうして
同性の相手を抱いてみれば、抱かれてみれば
それが好きな相手ならば
意味がないなんて言えない。

こんなにも、相手を感じられる方法はないと思う。
それは、時にただの性欲処理に使われるのかもしれないが
ただ純粋に相手を感じることもできる。
キスをするように
抱擁をするように
相手を体の中まで感じられる。
こんなに、心の中まで見られる。

服で体が覆われていないのが恥ずかしい
相手に見られているのが恥ずかしい
体内まで入り込まれて感じられているのが恥ずかしい
体内で体を感じられているのが恥ずかしい

けれど、きっと受け入れられれば
その瞬間だけでも、二人は一つになれるのだと思う。

 

「アアッ!!ック…うあ、あ!!」
騎士からの許しが出た瞬間、ウィザードはおあずけをされていた犬のように
彼をむさぼり始めた。
けれど、なんとか痛みを与えてしまわないように気遣っているのが見える。
だから、痛いとか、やめろとか、言わないように
ただ声を上げた。
彼を、受け入れた。

ぎゅっと目をつぶって、痛みに耐えるようにしていた彼が
不意に濡れた視線を上げてきた。
苦痛や羞恥で濡れた瞳、染まった頬。
今まで見てきた彼ではなくて、脳内で幾度も夢見た彼の姿だった。
愛しい人を、自分で汚してしまった証。
ウィザードには今、言い切れない満足感があったが

「わ、るい…俺…ッ…」
けれど同時に、何故か、涙が込み上げるほどの罪悪感があった。
後で、呆れられるんじゃないかと、今更になって怖くなった。
けれど、もう後戻りは出来ないほどに
自分は高ぶっている。

「ひっ!っんぅ…うあっ…」
なるべく冷静であろうとしながら、
どこか投げやりに、彼と交わる。
ただ、彼を抱く。
もう、止めることは出来ないし
後戻りは出来ないから
今はただ、夢心地で前に進むだけ。

奥を突く度に、彼は声を上げた。
それは女を相手にしたときと同じだけど
その声はずっと耳から離れずにいて、聞き流せない。
その悶える表情から目を話すことも出来ずに
そうすれば感じてくれるか、探りながら抱いた。

部屋に響く二人分の息遣いは徐々に荒くなっていく。
それに比例して、ベッドの軋む音も大きくなる。

「ッア!んあ…!だ、め…イッ…!!」
突き上げられるままに快感を貪っていたら呆れるほど早く絶頂を感じた。
あの甘い声が、その訴えに応えた。
「分かった…いくぞ…?」
それの意味が。騎士は一瞬よく分からなかったが、聞くまでも無く
「ッァ…!!!!」
ウィザードがそれを抜けるギリギリまで引いて、一気に突き上げてきた。
騎士は声にならない悲鳴をあげる。
「ぅあっ…!あっ…あっ…」
朦朧とする意識の中で、情けない声をあげて
彼は熱を放った。

全身の血がどくどくと脈打って、熱を持っているのを感じながらぼんやり天井を見ていると
ウィザードが、ぽんと騎士の上に重なってきた。
甘えるかのように首筋に頬を寄せてくる。
ほんのり香水の香りがして、騎士もその赤い髪に頬を寄せた。
男を相手に前半無理矢理犯されたというのに
なんだか満たされた気分になっている自分に気が付いた。
けれど、何もかもが心地よい。

…猛烈な下半身の痛み以外は。

 

「…昨日ヤリ逃げされた割には溜まってたな」
「だから余韻をぶっ壊すようなことを言うなぁ!!!!」
心の底から悲しくなって、つっこんだ。

「余韻、感じてくれてたのか?」
ウィザードがちょっと意外そうに聞いてきた。
「…なんだよ、俺一人で感じてたのか。」
「いや…俺も感じたが…こうゆう雰囲気はどうもぶっ壊さないと気がすまない…」
「お前実はもててもすぐ分かれるタイプだろ…ッ?!」

体を動かそうとしたら…
さっきまでウィザードのモノが暴れていたところに、異物感が。
「……って、まだ、いれて…!?」
眩暈がした。
もう硬さは失われたウィザードのモノが、騎士の内に差し込まれたままで…

「すっごい気持ちいい。」
「ッ…!!わ、分かったから…もういいだろ…抜いてくれっ…」
「…もう、アンタを感じられるの、最期かもしれないだろ…」
「は?なんでだよ」

ウィザードは目を丸くして、騎士を見上げた。
「なんで、って…お前、また俺にヤられてもいいって思ってるのか?」

 

あ、そっか。

 

「あ…いや、その…なんて、ゆーか…ッ」
そう、思っている。
体を重ねて、調子に乗っているだけなのかもしれないが…
いや、そうではない。
彼と付き合ってもいいと思っている。
今までずっと一緒にいて
彼のものになら、なってもいいと思っている。
その気持ちに、今、はっきりと気が付いた。

「…お前が、そうしたいなら…そうして、いい…。」
…違う。
「俺が、そうしたいんだ…」
アンタと、一緒に生きていきたい。
アンタのものになりたい。
アンタが…欲しい…。

 

「なんだ、まだヤリたりなかったのか。そうならそう言え。」
「だから違うううううう!!!!!!!!!!」

その時。
ウィザードは涙を浮かべて、唇に笑みを浮かべていた。
どうしようもなく嬉しい。
嬉しいなんて簡単な言葉で済ませられない。
なんて幸福。
けれど、そう思っていることは
彼の首筋に顔をうずめて、隠してしまった。

 

 

翌朝。
自分で信じられないくらいズキズキする下半身を引きずり
宿の一階で遅い朝食をとろうとしていた。
そこで、思わぬ人物に遭遇してしまった。
「あっ…」
数人用のテーブルで、一人でサラダを食べている、気が強そうなプリーストの女性。
騎士が先日分かれさせられた元彼女だった。

「…座っていいかな」
「どうぞ?」
騎士の言葉に彼女はそっけなく答えた。
正面に座って、注文をとった。
「…な、あ…聞きたいことが、あるんだ」
「何?」
彼女の言葉から、どうもその感情は読み取れない。

「俺…何がいけなかったんだ?」
「…なんで、私が貴方をふったのか、ってこと?」
「あ、ああ…。」
「知って、どうするの?直すからよりを戻そうって?」
昨日、ウィザードに抱かれなければ…
彼の告白を聞かなければ、きっと騎士はそう言っただろう。
「いや…俺、他に…好きなヤツができた。
いや、いたんだ。ずっと前から…
それに、気づいて…
だから、もう同じ過ちはしたくないから、聞きたいんだ。」
それを聞いた彼女は、ふう、とため息をついた。
「それって、貴方の親友のウィザード?」
「え!!?」
何故それを知っているのか。
それはともかく…合っているので、正直にうなづいた。
もう、好きだと思ってしまえば、彼が男であることなんか気にならなかった。

「なら、問題ないわよ」
「え?」
彼女はイラだっているように眉根を寄せてため息をついていた。
「私のこと好きでもないのに付き合ってたから、分かれたのよ。
だって会う度にその男の話しててさ。
何見てもその男のこと話すじゃない?
こっちだって…腹が立ってくるのよ。
私なんかよりも、その男のことで頭がいっぱいのくせに。
それに、私に対してだって…
いっつも腫れ物を触るみたいにぎこちなくて
心からにっこり笑ってくれたこともないでしょう。だからよ!」
私が貴方を振ったんじゃなくて、貴方が私を振ったのよ。そう言い、
彼女はまた苛立たしげにサラダをついばむ。

 

 

ウィザードまた、いつもの木陰で本を読む。
ソロでの狩りはあまり好きではないから
“彼”と一緒に狩れる日以外はいつもここで暇をつぶしていた。

不意に、人の気配。
多分、いつもの騎士ではない。
彼は振り返った。
そこいたのは、彼のよく知るプリーストの女性。
騎士と数日前まで付き合っていた女性。
「…どうも。」
なんと挨拶していいのか分からず、そうとだけ答えた。

「で、昨日はどうだったの?」
彼女は隣に座り、いきなりそんなことを聞いてきた。
「まぁ、うまくいったな。」
「そう、よかったわ。」

実は、彼女は騎士を振る前に
このウィザードのもとへ来ていた。
『もう、あの男捨てるわ。アイツ、あんたのことで頭がいっぱいだから。
アイツに打ち明けるなら、明日にしなさい。』
彼女に、騎士への思いは打ち明けなかったが、感づかれたようだった。
女の勘は恐ろしい。

「…よかったのか、これで。」
ウィザードが聞く。
「…いいわよ。」
「…でも、あんたは本当にアイツのことが好きだったんだろ?」
「片思いをズルズル引きずるなんてごめんだわ。」
「…そうか。」
少し、気まずい風が流れる。

 

「まぁ、昨日のアンタらのヤッってるとこ、バッチリ撮ったから満足…おおっと、これは失言v」

「(゜Д゜|||)!!!!!!???」

ウィザードの口が人形のようにパカッと開いた。
「あら、アンタのそんな顔初めて見たわ〜w」
「待て!!!そんなのいつの間に!!!?」
「あぁ、もうやっぱりアイツってイイ声で啼くのよね〜
アンタのが聞きたかったけど、まぁいいわ!!」
「じゃなくて!本当に撮ったのか!?」
「当然!w溜まりに溜まってるアンタが昨日アイツを襲わないはずがないでしょう?
フフフ…どうしようかしら、とりあえずこれは私のおかずで、こっちは会報に…」
「なんの会報だ!!てか返せ!!」
「返すわけ無いじゃない!!てかこれなんか、すっごいアイツがエロく撮れてない?」
「あ、それ売ってくれ。」
「ぇ〜じゃあ100kでどう?」
「高い。50k」
「じゃあ大マケにマケて75k!」

 

 

「ふぇーっくしょ!!!!」

「わー!!!せんぱいの鼻水がついたぁあ!!!!」