「アァ……んっ……」

甘い声を漏らす男の腕が、きゅっと首元を締め付けてくる。
それと同時に、荒く熱い息遣いが、汗で濡れた首筋にかかってくる。

 

「頼むからこんな灼熱地獄の中で誘惑しないでくれ…」

背中に背負った相方の色っぽい声に、心臓がばっくんばっくん言っていて
かなり無駄な熱量を消費していると思われる。
「してない…ぅ、ん…あ、つい…」
いつもは魔法を紡ぐウィザードの低い声。
燃えるような赤い髪にマントを外した赤いウィザードの法衣。
そして中世的とも取れる整った顔立ちとそれに合う透き通った声。
それと一緒に身をすこしよじって、落ちてしまわないようにとさらに負ぶってくれている騎士にしっかりしがみつく。
背中にいるウィザードは男であるが、おぶっている騎士にとって恋人なのでそんな動作で理性が刺激されてしまう。
「俺にはアンタが確信犯に思えてならない…」
「こんな…とこ、で…んな、余裕ッ、ない…」
苦しそうに唸るウィザード。
耳にかかる吐息。

………だ、誰か、助けてくれ…。

もう理性が限界の騎士は、涙を流しながら心の中で助けを求めた。

 

場所はソグラト砂漠。
二人はモロクへ向かっていた。
ウィザードが青箱が欲しいと言い出したからだ。
急ぐ旅ではないので、ポタではなくのんびり歩いていく予定だったのだが…。

砂漠をなめていた。

言いだしっぺが即行バテた。
それをずっとおぶってあるく騎士だが、生憎と体力よりも力と速さが自慢の攻め特化なので、そろそろ限界だった。
…その限界になってきているのは、背中のウィザードがあえぎ声で彼の心臓に無駄な運動をさせているせいもある。
むしろそのせいだ。
白い乱雑にきられた髪の間を汗が流れ、自黒に加え少し日に焼けていた肌が更にこの砂漠の太陽に焼かれて赤くなり、汗がにじんで流れている。

「や、やっとついた…」
剣士時代にもこの砂漠で地獄をみたことがあったが、今回ほど大変ではなかった気がする。
「おめでとう…じゃあ、まず宿屋にいこう…」
背中でへばっているウィザードは弱弱しい声で仕切っている。
「それよりも、お前は俺の上から降りる気は無いのか」
「ん…お前の背中、気持ちいいから…」
そう言って、きゅっとしがみつかれると…大分熱いが、嫌な気はしなかった。
長年ただの友人として付き合ってきたが、先日に騎士が恋人であったプリーストの女性にフラれて、自分の思いはずっと恋人よりも親友の彼にあったと気づいた。
ウィザードの方はといえば他人のことにも自分のことにも鋭いため、とっくに自分の思いを確立して騎士を思っていた。
そして互いに思いは交差して、晴れて両思いになれた。
騎士にとって、相手はずっと何かと遠慮していたので、最近それがなくなりわがままになってきたのは逆にいいことだと思っている。
なので、そのままもう少しだけおぶってやることにした。

「やっぱ後ろから背中を眺めながらヤるってのもよさそうだな」
「降りろ。今すぐ速やかに降りろ。」
「冗談だ」
「絶対に冗談じゃなかったぞ、今の声は…!!」

街中に入り、それでもウィザードは騎士の背から降りようとしない。
「……。」
VIT型ではないとはいえ、基礎体力はなかなかあるため、そう簡単にこの騎士は疲れはしないだろう。
だから、首筋を流れる汗は暑さのため。
…自分の腕に抱かれているときも、この首筋にはこんなふうに汗が流れていたのだろうか。
「……うおおおお!!!!!!!!?????」
急に人通りの多い路地に叫び声が響く。
「あ、お、おお、おまっ…なにしてッ…」
「ああ、悪い。つい。」
というのは、ウィザードが汗に滲んだ騎士の首下を舐めたから。
「び、びっくりしたぞこら!!」
「これくらい、いいだろう。」
「いいだろう、って、お前な…!」
耳まで真っ赤にして、首筋に気をつけながら、それでも彼はウィザードを下ろさず、宿を探す。
少しウィザードが動くたびに、ビクビクふるえる背中が可愛くて仕方がない。
そんなに不安なら、さっさと下ろしてしまえばいいのに。
「………あ。」
不意に背中のウィザードが声を漏らした。
「どうした。」
聞いて、彼が指差す先には…親子や、恋人たちが手に持っている、アイスクリーム。
「お、なんだ、食」
「食いたい」
言い切る前に先に言われて、口元がほころんだ。
「じゃあ、買ってくる。このへんの日陰で待ってろ。」
騎士がそう言い、へばったウィザードを細い路地に降ろした。
そしてすたこらさっさと大通りに出て行ってしまう。

―――…元気なヤツだ。
そう思って、ウィザードは口元を緩めた。
―――あの体力を夜にも持っていてくれればいいのになぁ…
そう思って、ウィザードの口元がにやける。
「お兄さぁん?何一人で楽しそうに笑ってるんだい?」
いつの間にかすぐ傍にブラックスミスがいた。
疲れと脱水と熱で勘が鈍くなって、その存在に気づかなかったようだ。
象牙のような色の髪は短く乱雑に切られているが、日に焼けた黒い肌や優しそうな顔に似合う。
見たところやたら筋肉質で、STR型の戦闘BSと見れた。
「あぁ?別に恋人の顔思い出してただけだよ。」
「へぇ〜、恋人いるんだ?」
「まぁな」
ウィザードはまた目を細め、ニッと唇の端を上げて笑う。
「お兄さん、いいねぇ。」
「あん?」
人がよさそうに微笑んでいた彼が、そのままの表情で乱暴にウィザードの腕を掴んだ。
けれど、彼は動揺しなかった。
こんなことだろうと感づいていたから。
「おっと!」
ブラックスミスが不意に髪を指で梳いてくる。
そのまま引っかかったクリップごと梳いて、それを弾き飛ばした。
「フェンクリでジャマなんかさせないぜ?」
「頭悪そうなくせして用心深いじゃないか…」
「こちとら一応商売人でね、ミスはしたくないんだよ。とくに…」
こんな上玉で失敗なんかしたくないんでね。
と、さっきとは違ういやらしい笑みを浮かべた。

暑さのせいでだらけたウィザードの体が持ち上げられ、壁に押し付けられる。
「やめろ、暑苦しい。」
熱っぽくない、ドスの聞いた声でめいっぱい嫌そうに言ってやった。
だがかまわず相手は服をたくし上げて、ゴツゴツした指先で彼の肌をなぞる。
「もっと熱くなれば、気持ちよくなれるぜ?」
首筋からうなじまで、じっとりと舐められた。寒気がする。
「こんなとこではじめたら、うちの相方がくるぞ?」
「安心しな。俺の仲間が見張ってる。」
「…マジで慎重だな。それとも…常習犯か?」
「アイツもお前さんの相方を片付けたらくるはずさ。そしたら乱交でも楽しもうぜ」
「…なるほど…そうゆう手順か…」
ウィザードは少しの間、上着が脱がされ、胸元を舌が這うのに気づかないような様子でいた。
何も言わずに、ボーっと何かを考えていた。
ブラックスミスは少し不満に思ったがかまわず手を進める。
ウィザードのベルトに手がかけられた。

 

 

 

目を覚ました。
だが、目を開けたはずなのに視界は真っ暗だ。
遅れて目元を圧迫する何かに気づいた。
目隠しをされている。
起きようとしたら、頭の上で交差していた両腕が拘束されていた。
動かすと、カチャリ、と無機質な音がした。
―――…手錠か。
唇を噛んで、腕を動かすが、頭の上にしっかり固定されて動かない。
体の下には心地よいシーツがあるので、ベッドの柵に腕を縛られているのだろうと推測できた。
そして空気がカラッとしていて…肌寒い。
プロンテラやそのほかとは少し違う、モロクの夜の空気だ。

「……。」
目隠しの下で目を閉じて、記憶を整理する。
相方が暑さにばてて、彼の為にアイスクリームを買って
彼の待つ小道に戻ろうとした。
けれど、小道に入った瞬間に
何者かに攻撃された。
全身を一瞬で切りつけられ、首の後ろを殴られた。
ハイディングで隠れていたアサシンに奇襲されたのだった。

『死にはしないさ。少しアンタの恋人で遊ばせて貰うだけだからな。そこで少し寝てろ。』

グラつく視界の中で見た、モロクのアサシンの後姿。
その言葉の意味するものは、落ちていく思考でもハッキリと理解できた。
アサシンの狙いは、相方のウィザードの方。
モロクはあまり治安がよくないと聞いていた、もっと警戒すべきだった。
あの時、どうにかして起きたかったが
何も出来ずアッサリと意識を手放してしまった。

そして起きてからの状態がコレ。

「っ、誰か…!!いねぇのかよ!!誰か来い!!相方を…、ウィザードをどこに…ッ!」
どうやら、呼ばずとも隣にいたらしい。
口をふさがれた。
その手を振り解こうと首をブンブンと振り、その手に食いつこうとした。
だが気づかれ、相手は手を引いてしまった。
「てめぇあのときのアサシンか…!?」
「……」
騎士の言葉に、相手は答えない。
「ウィザードをどこにやった!!アイツにあわせろ!!」
「……」
またも相手は無言だった。
それに騎士は憤りを増してくる。
「答えろよ…!アイツになにかしてみろ!100回殺してやるからな!!!」
相手が鼻で笑った気がしたのが気配で分かり、怒りで全身が総毛だった。
そして、ベッドに乗り上げてくるのがスプリングで分かった。
それに気づき、騎士は息を呑む。
まさか、自分まで手籠めにされるのか。
そんなことを考えるのは、あのウィザードくらいのものだと思っていたのに。
それとも殺されるのか。
「何、する気だ…」
暗闇の中で発した声に、脅えの色が見えてしまった。
自分でそれに気づき、脅えてはダメだと自分に言い聞かす。
相手の指先が、するりと頬に落ち、顎のラインをなぞり、首筋、鎖骨へと順に辿っていく。
その手は荒れているのか、ガサガサした感触があった。

「俺のことは…好きにしていい…」
もうさっきとは違い、声に恐れはない。
必死だったから。
「けど…っ、あのウィザードには手を出すな。もう、何かしたっていうなら…」
それを思うと、心にともる憎しみが抑えられなくなる。
けれど、あえてそれを飲む。
「…もう、アイツに手を出すな…もうあいつに近づくな…!」
「……。」
相手はまた答えないまま、けれどクスクス笑う声が聞こえそうな気がして…
「答えろ!!」
また、答えはない。
けれど、問答無用で服を脱がされ、ジャマなアンダーは容赦なく破り捨てられた。
しろい肌に浮かぶ胸の突起を、相手が指先で玩んでいる。
眉根を寄せて、唇を噛んだ。
不快だった。あのウィザード以外の者に触られるのがこんなに不快だなんて思いもしなかった。
けれど、快感を感じてしまいそうな危機感があるのも事実で、ただ唇を噛んだ。
触れられた後の肌が腐って落ちていきそうと思う程に、相手の手の感触がおぞましい。

鎧を引き剥がされ、アンダーもどかされて、日中とは違うひんやりとした外気に肌が触れて
これからされることを思い浮かべる。
あのもっとも親しく、愛しいと思うウィザードが相手でも、不安だった。
やや強引に推し進められながらで、一度も自らOKと言ったことはない。
それなのに、どこの誰かも分からないやつに…
触れられて、肌を晒されて、体を貪られようとしている。
泣きたくなった。
せめて、アイツの声が聞きたい。
自分がこの恐怖に耐えている意味があると、耐える糧になる理由が欲しかった。
アイツを護りたいから、穢されるのだと。
体が震えた。
恐怖か、不安か、嫌悪か。
女のものではないのに、肌を手のひらで舐めるようにゆっくりと撫でられる。
吐き気がした。
体の震えは止まらない。
目の前が真っ暗なせいで、人間ではない者に犯されていく気さえする。

ただ、そんな絶望的な気分の中で
その相手の手のひらがさっきと違っていることを頭の端で認識した。
さっきガサガサした手だと思ったのは、手袋か何かだったらしい。
今ある手のひらは、温かくて細くて繊細で

“彼”のような。

震える声で名を呼んだ。
こんな俺を好きだと言ってくれた、そのことでずっと悩んで苦しんでくれた彼の。
なのに、今どこの誰だが分からない薄汚い野郎に俺は…
すまない。
こんな俺でも、アンタは好きだといってくれるのだろうか。
ごめん。
ごめん。

 

 

 

「…そんなそそる声で呼ぶな。本気でめちゃくちゃにするぞ。」

その声は真上から降ってきた。
「…えっ……」
まさか。
さっきまで嫌悪を感じていた指が、もうなんともない。
ただ暖かいだけ。
ただ皇かなだけ。
その指が頬をなぞって、唇を撫ぜて
相手がその唇を重ねてくる。
抵抗せず、唖然とした頭で
ただ与えられるものを味わう。

その濃厚なキスはあの彼のもの。
ただ熱く、柔らかな凶暴性を湛えて、すべてを奪っていこうとする。
この髄を走り、脳細胞を侵食していく。
きっとこの目隠しの向こうでは、燃えるような赤い髪と、整った美しい容貌のウィザードが満足そうにこちらを見おろしているのだろう。
相手が友であると悟ったとき、安堵で全身を強張らせ縛り付けていたものは消え去った。
「っ、の…馬鹿!なん、で…」
涙が出そうになって、声が震える。
幸い、泣き顔は目隠しのおかげで、公にされることはなさそうだった。
「…お前が可愛くて…いじめたくなっただけだ。」
「あんた、な…!…それより、何も、されなかったか…?」
こんな目に合わされながらも、彼の身を案じてくる騎士に、ウィザードはどうしようもない愛しさを感じた。
「ああ、ヤツら、俺からフェンクリップを外したと思って油断していたからな。」
「…ぇ、じゃあ、なん、で…?…ッア!やっ…」
ウィザードはベルトを引き剥がし、彼のズボンのチャックを開けて、彼の服の中から、すでに猛りだした熱を探りだす。
「俺はもともとフェンクリップなんか持っていない。」
「な、ぁ…ッ、じゃあ…ど、して…」
取り出した騎士の熱を、慰めるようにそっと愛撫する。
彼はビクリと身を縮めた。が、その耳元でまだ説明を続けてやった。
「フェンカードはベルトにつけていたからな。」
「なんてもったいないことを…」

ウィザードは自慢げに笑って、既に先走りで濡れだした彼のモノに、唇を寄せた。
「っ、あ、ァ…」
ちゅっと口付けるようにして先端を吸ってやってから、先端を一気に口に含んで、陰茎を激しくこすってやった。
途端に、騎士は甲高い声を漏らす。
さっきまで、強情に唇をかみ締めて堪えていた者とは思えないほどに。
「…っ、相手が俺と分かった途端にこれだからな…可愛い。」
「ふっ、ア!はぁっ!!あ、ヤアァ!!うあっ!ヤダッダメだっ!!」
「何がだめ、だ。イキたいなら、遠慮なくイケよ…」
「やっ、いや!!いやだっつって…!ぅあ……っ!」
張り詰めていたものが解放されたせいもあり、血の、熱のめぐりが早く、あっという間に絶頂に導かれた。

「毎度思うがテンパりすぎだ。」
「ああもう五月蝿い五月蝿いーーー!!!!!」
自分でも、異様なほど上がってしまう声を恥ずかしく思っている。
分かっているから指摘するなと、心中で涙を流した。
体の芯が、熱を開放した余韻にドクドクと脈打っている。
「ぬお…な、何っ!」
まだ束縛されたままで余韻に浸っていた騎士の足を持ち上げた。
「俺の為にカラダ投げ出してくれる気持ちは嬉しいが行為自体は許せんな。」
「…っ!!」
自分よりも華奢な相手にいとも簡単に組み敷かれる自分が情けない、と騎士は思った。
けれどそれは決して自分が劣っているからではなく、どこかで恋人になら何をされてもいいと思ってしまっているからと自覚している。
「心配かけたな、すまない。」
上から降ってくる、やっていることに似合わず深刻そうなウィザードの低い声。
「こっちこそ、ちゃんと助けにいけなくて悪い…。」
そう返してきた騎士を慰めるかのようにその頬を指でそっと撫ぜる。
目隠しをされたままだが、そのはっきりとした相手の手の感触が心地よくて、少しだけ甘えるように頬を押し付けた。

「ならば侘びに目隠しプレイでもさせてもらおうか。」

「すまないと思ってるんじゃなかったのかあああああああ―――!!!!!!!!」



「思っているさ。だがお前も悪いと思っているんだろう。」
「思ってるけど…っうぉ!」
強引に肩を引かれてうつ伏せにひっくり返される。
このウィザードいつもは非力なくせに、夜になると異様に強いのは気のせいか?と口の中で小さく自問した。
剥き出しの下肢の前を見せるのもどうかと思うが、いつも抱かれる側なので尻を見られるのが異様に恥ずかしい。
以前に「男の尻なんて見ても面白くないだろ。」とに尋ねたら、即座に
「じゃあ俺の尻を見ても何も思わないのか。俺はお前のを見たら即座に突っ込みたくなるぞ。」と返された。
確かにこのウィザードのなら何かしら思うかもしれない。
それよりも今こうして見られているときに、相手はそんなことを思っているのかと思うと
「逃げるな。」
「いでっっ!!」
逃げたくなる。だが実行した瞬間眉間を激しく指で突かれた。

「お前が悪いと思っているから俺に目隠しプレイをさせる。
俺も悪いと思っているからお前にイイ思いをさせる。見事な清算だろう。

「アンタ一人でイイと思ってるだけだろうがああああああああああ!!!!!!!!!!」

クスクスと笑う声がすぐ目の前でして、下唇を舌先でなぞられる。
ハナから彼に逆らえるはずも、拒めるはずも無かった。
またゆっくりと…触れてくる手や唇や下や熱に理性を解かされる。
背中の筋肉のラインに沿って指先でそれを撫でてくる。
そしてそれは下へ、下へ。
尻のラインもなぞり、そこへ割り入って中へ侵入し始める。
精神的な内も肉体的な内も侵食されていく、心地よく。

「もう自分を投げ出すようなことをするな。俺のためだとしても。」
突然肩越しに囁かれたが、熱い肉の中を這い回り押し広げる相手の指の異物感と羞恥に耐えていて、返事など一切できなかった。
「じゃないと…お前を苦しめた奴を八つ裂きにする。PKで捕まっても。」
その声も、騎士の内を掻き乱した。
だが美人ではあるが顔立ちは男らしい顔立ち、それが目の前で冷たく目を薄めている。
それを見て本気で苛立っているなと思った。
あまり感情を激しく表に出すタイプではない彼がこんな冷たい表情をするのをはじめてみたのだ。
視界いっぱいに真剣な彼の顔が迫る。
こんなときでも、綺麗だなーと思う。
むしろそれ以外が考えられなくなって、自分が今いる状況も忘れた。
重なる唇の柔らかさや、抱きしめてくる体の温かさが心地よくて、目を瞑った。







「まぁ、分かっているとは思うが、苛立っていたんだ。」
「だからって八つ当たりするなよ…」
昨晩遅くに二人は眠りにつき、起きたときにはもう昼近く。
これから暑くなるだろうし、暑がりのうえ寝起きの二人が活動するには辛いだろうと、そのまま追加料金を払ってその連れ込み宿に居座り続けた。
日光がしのげるだけ外より暑くは無いだろうが、ここは砂漠の町だ。
時折交代でアイスを買ってきては室内でそれを食べつつ暑い暑いと唸っている。
「はぁ…地下のダンジョンに入れば暑くないのにな…。」
「…俺のせいじゃないぞ。散々ヤリまくって俺の腰を痛めたお前のせいだからな。」
「次バニラアイスじゃなくてチョコアイスにしよう。」
「…反省してねーなこんにゃろ」
「分かった分かった。今度は俺が買ってきてやるから。」
「…あた」

当たり前だろ、そう言おうとした瞬間に
胸倉を捕まれ引き寄せられて、キスをされた。
たったそれだけで、募ってイライラは離散する。

「じゃ、行ってくる。」
「あ、おい。」
日よけにマントを頭から被るという奇怪な格好で出て行く彼を呼び止めた。
まるで怨念でも漂っているかのようにゆっくりと疲れきった顔で振り返ってくる。
「…気をつけろよ。」
くたびれたウィザードは唇の端を上げて笑う。


「そうしたらまたお前で目隠しプレイをするだけだ。」

「だから反省しろよお前は!!!!!」



楽しそうな笑い声が扉の奥へ消えていった。