子供を産む前に乗り越えなくてはいけない困難

 

久しく訪れたヴァル・ヴァヌスのアステリア邸で、飛成達と話が弾んでいたのだが…。

その中でも、瑠美那の口数が少ない気がするのは気のせいではないだろう。

鈍い飛成でもやっと気付き、何気なく話しかける。

飛成「瑠美?なんか元気なくない?」

瑠美那「あー、そぉかぁ?」

飛成「なんかだるそう、っていうか、顔色も良くないし…具合悪い?」

瑠美那「んーなぁんかさぁ…」

飛成「うん」

瑠美那「具合が悪いって言うか…なんかおかしいんだ…体が、最近」

飛成「どんな風に…?」

瑠美那「とりあえず、だるくて…ちょっと気持ち悪いこともあるけど、なんか食欲無かったり…体温高かったり……」

飛成「風邪じゃないの?近頃の風邪は馬鹿でもなるらしいよ」

瑠美那「それは意外と遠回しにでもなく私が馬鹿だと言いたいんだな?」

飛成「いいぇ〜?」

羅希「飛、私の奥さんに向かって何を言うんだ君は」

瑠美那「結婚してねぇ

羅希「そのうちする

瑠美那「そんな願望捨てろ

羅希「もうずっと同棲してラブラブじゃないか

瑠美那「勘違いするな。お前はヒモだ。

静かな言い合いに負けた羅希は項垂れて紅茶に手を伸ばす。

 

羅希「酸っぱ!!何入れたんだこれ…!」

瑠美那「あ、ごめん。さっき間違えてレモン入れたかも…。私のこっちか」

羅希「瑠美、こんな酸っぱいの好きだっけ?」

瑠美那「最近好き。」

そう言って。彼女はその強烈に酸っぱいのを飲んで、満足げに息をつく。

羅希は逆に、瑠美那の酸っぱくない方の紅茶を飲む。

紅茶を飲んでまったりしている彼は、少し遅れて、飛成の蒼白の顔に気付いた。

羅希「な、なに、飛…?どうした??」

飛成「いや!!気にしないで…!うん、もう君たちそうゆう仲だよね!!ってか羅って顔によらず手が早…いや、なんでもない!!

羅希「なんなんだよ!!!

 

それからしばらく、飛成はあからさまにふさぎ込んでいた。

そして、飛成が意を決したように言う。

飛成「…羅」

羅希「何?」

飛成「…その…気付いてなかっ……たりする?」

羅希「何が」

飛成「その…瑠美のこと…」

瑠美那「私?」

羅希「…いや、そんな飛が思い詰めるようなことは思い当たらない…ケド…」

飛成は再度沈むが、また顔を上げ、言った。

飛成「知ってたらいいんだけど…!」

羅希「うん」

飛成「瑠美、妊娠してると思うんだけど…!!!

 

 

羅希にヒビが入った。

だがそれ以上に固まったのは、瑠美那本人だ。

 

羅希「瑠美ぃいいいい!!!!!君というヤツはーーー!!!!何人男を食えば気が済むんだあああ!!!??あまつさえ妊娠だぁああ!!!??お父さんは許さーーーーーーーーーん!!!!!!!

瑠美那「知らねぇ!!食ってねぇ!!!!お父さんじゃねぇ!!!!壊れるんじゃねぇええええええ!!!!!!!

2人の混乱は深夜まで続いた。

 

 

アステリア「……やたら騒がしいと思ったら、お前達が来てたのか。」

あくびをかみ殺しながら、執務室から出てきたのはアステリアだ。ソファに座り、項垂れてる3人を見回す。心底疲れ切っているようだ。

飛成「アッフー…お疲いぇはま……」

アステリア「お前がな」

ぐったりした様子で、飛成はアステリアの膝枕に倒れる。

飛成「ぁー…久しく戦闘した気分…」

アステリア「…何があったんだ?」

飛成「あのねー…羅が手が早くて、心当たり無いのに瑠美が男食いつぶして、酸っぱいのやたら飲むし気分悪いから、赤ちゃんができたって騒いでたのー…」

羅希「別に手が早いなんて一言も言ってないから

瑠美那「なんで私が男食いつぶしてることになってるんだよ

アステリア「…結局の所、2人には心当たりがないんだな?」

不思議にもアステリアは、あの説明で大体の内容が把握できたらしい。

羅希&瑠美那「無い。」

アステリア「だが、事実、瑠美那は妊娠していると」

羅希&瑠美那「かもしれない」

アステリア「だったら瑠美那の浮気に決まっているだろうが。」

 

羅希「ほら〜!!!!

瑠美那「そこで勝ち誇ったように言うなよ!!!!

飛成「瑠美、本当に浮気してない?」

瑠美那「するかよ!!!こんな血生臭い汗くさい小娘に近寄る物好きがいると思うか!!?

飛成「思わない

瑠美那「ほら〜!!!!

羅希「…瑠美、なにげに凄い自分を責め立ててない?」

 

アステリア「…どうでもいいことかもしれないが」

どうしようかとやや混乱気味な3人のをしばらく見ていて、不意にアステリアが口を挟んだ。

アステリア「…龍黄に報告した方がいいんじゃないか?」

その言葉を聞いた瞬間、そこにいた誰もが固まった。

確かに、それは正論だ。彼女のたった1人の身内だし、時々文をよこして彼女の身を案じている姿もみられる。

こんな一大事を、知らせずにはいられないだろう。

だが

飛成「…龍の怒り狂う姿が目に見える…」

瑠美那「私としても…ちょっと……」

羅希「龍…魔王になってからキレ方が激しくなったしね…」

3人は更にふさぎ込み、静寂が流れた。

アステリア「…後で知られて、キレられるよりはいいと思うが…?」

ギクリ、と3人は震え上がった。

 

結局、3人は嫌々ながら、魔界当ての文を書く。

 

 

文を送り、数分後。

瑠美那「だから毎回何かと液体の中から出てくるのやめろよ…」

酸っぱい紅茶の中から龍黄が現れた。

龍黄「仕方ないだろ。出やすいんだから。」

犬のように頭をブンブンと振ると、水がはじけ飛んだかのように、一瞬で彼の体についた紅茶が乾いた。

龍黄「あー、で、瑠美が妊娠だっけ?」

瑠美那「まぁ、正確かは分からないけどな」

龍黄「相手は?」

瑠美那「全く身に覚えがない」

龍黄「……ちょっと失礼。」

龍黄は瑠美那の前に膝をついて、ソファに座る彼女の腹辺りに手で触れる。
しばらく沈黙が流れた。

龍黄「………いるね」

羅希「……やっぱり………?」

羅希が項垂れた。

瑠美那「てか私、本当に子供できるようなことしてないし!!!」

瑠美那がそう言っても、妊娠してるんだから説得力がない。
そう思っていた一同だったが…
龍黄がおもむろに通信機のようなものを取り出して、どこかへ電話を掛ける。

龍黄「……あ、もしもし、セナート?ちょっと来て。…そう大至急。」

どうやらセナートを呼ぶらしい。龍黄以外の一同は顔を見合わせた。

龍黄「ん、忙しい…?……っせぇな、んなもんほっといてさっさと来い。」

彼の声のトーンがぐんと下がって、みんなギクリと震え上がった。

羅希「……で、でた…ブチ切れ龍……」

飛成「…でもなんで精霊王相手にキレ出すんだろ?」

龍黄「こっちはそれどころじゃねぇんだよ!!
てかお前のせいで瑠美が妊娠とかなんてんだぞタコ!!!
……ああ、そうだよ!アレだよ!!
分かったらさっさとこっち来い!!今来い早く来い死んでも来い!!!」

龍黄は叫んで通信を切った。

…セナートのせいで瑠美那が妊娠?
アレだよ、ってなんだ……?

みんなそんなことを疑問に思っていたが、激しく不機嫌な龍黄には誰にも口を出せなかった。

 

 

そして、更に数分後。
龍黄の怒りも静まって、ぼーっとした調子に戻ってきた頃。
セナートが項垂れて飛んできた。

セナート「ちわぁ〜…てか龍ちゃん、瑠美ちゃん…マジでごめん…!」

いきなり謝られても…、瑠美那は首を傾げた。

瑠美那「あーいや、てか、なんでお前のせいで私が妊娠なのか、説明して欲しいんだけど…」

セナート「ぅ………、わ、わかった………」

何故か言葉に詰まりつつ、彼は話し始める。

セナート「あのな、冥王死んでしもて、まだ次の冥王が決まらんから、うちと龍ちゃんでしばらく冥界の仕事手伝ってたんや。
でな、2、3ヶ月くらい前に、ある神族の魂を、人間界にちょっと置いておく…というか、一時的に人間に転生させることになったんや。
それを、うちがちょっとお使いで人間界に持ってきたんやけど……」

龍黄「落として無くしたんだ、このお馬鹿は」

セナートが口ごもり書けた先を、龍黄がスパッと続けた。
その展開に、一同の肩の力が抜けた。

セナート「ま、まぁ、そんなとこ。で、多分それが偶然にも瑠美ちゃんに憑依した…と。」

瑠美那「じゃ、これ神族?」

彼女はそう言って自分の腹を指さす。

龍黄「まぁね。もう人間としてある程度加工してあるけど。」

彼女は何故か感心したように頷く。

瑠美那「あのさー…産みたくないんだけど、取り出すって出来ないのか?」

セナート「できるよー!取り出すならうちが責任を持って」

瑠美那「龍黄、頼む

龍黄「はいよ」

セナート「_| ̄|○|||」

 

羅希「……龍」

ちょっと気分の悪そうな羅希が、控えめに話に割って入った。

羅希「ちょっと…聞きたいことがあるんだけど…」

龍黄「なに?」

羅希「…最近ね、なんだか嫌な予感がしてて…
でもなんだか懐かしいような気分でもあったんだ。
瑠美の側にいる時は特に…。」

龍黄「…………」

羅希「…で、思ったんだけど…もしかして…瑠美の中にいる、元・神族って………」

龍黄「………」

羅希「………」

龍黄「………」

羅希「………もしかしなくとも…?」

彼は頷いた。

龍黄「…………カルネシア

 

 

瑠美那「さっきのなし!!やっぱ産む!!!!

羅希「“面白そうだから”ってだけでそんな大事なこと決めないでくれるかな瑠美ぃぃぃ!!!!???

龍黄「カルネシアさんの伯父さんになるのか、俺……ヤダな

羅希「てゆーかそこ止めろよ!!!納得とか覚悟とかするなよ!!!

瑠美那「てか産まれたらまずオカミさんとこに連れてって“カルネシア調教法”を習わなきゃな!!

羅希「不吉な教育計画立てないでくれぇえええーーーー!!!!!

 

 

龍黄「…じゃあ、結局取り出すのでいいんだね?」

羅希が首をブンブンと縦に振った。
その隣で瑠美那は唇をとがらせている。

龍黄「じゃあ、瑠美、横になって。」

彼女はその辺のソファに仰向けになって横になった。

龍黄「ちょっと痛いけど我慢してね」

瑠美那「ぇ………」

おもむろに、龍黄は自分の大鎌を掲げた。
それで、一同が石になった。

瑠美那「…ちょ…ろ、龍黄!!まさかッ!!!!」

羅希「龍!!!やっぱちょっとタンマ!!!!」

龍黄「言い訳は聞かない。

瑠美那「言い訳って何だよ!!てかなんか楽しんでるだろ!!!魔王光臨!?」

飛成「きゃああああ!!!!龍やめてえええ───!!!!」(/Д\)

龍黄「大丈夫、すぐに塞いであげるから。」(*゚∀゚)w

セナート「ろ、龍ちゃん…!!ちょと待ちぃ!!魔界に行けばちゃんと……」

龍黄「てゆーか、瑠美を妊娠させるなんざ許されないことだからね…今の俺猛烈にハラワタが煮えくりかえってるんだよね…フフフ………

セナート「ヒイイィィィ!!!!!!」(゚Д゚|||)

瑠美那「その怒りを私にぶつけるのはやめろ!!!!
てか切るのか!!?
やっぱ切るのか!!!?切るんだな!!!!!????

羅希「龍、止せえええええ─────!!!!

龍黄「はい、せぇのぉ〜」(*´▽`)/

瑠美那「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!

 

サクッ

 

血だらけの客間。
項垂れる羅希と飛成と瑠美那。

瑠美那「私、もう絶対に子供作らない……」

飛成「……子供ができるって、怖いね……」

羅希「…………」(;´д`)

子供を産む前に乗り越えなくてはならない困難…
それは身内の了承を得ること。



何故かいきなり思いついたネタ。
勢いで書き上げてみました(´・ω・`)
ちょっといやらしい表現があると思うのは
私がやましいからでしょうか(ぇ)
とりあえずギャグなので軽く見逃してくだつぁい

 

 

 

 

 

 

 

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