こんにちは、はじめまして。
僕の名前はフィートといいます。
今八歳です。
みんなにマセたガキだなといわれます。両親でさえもそういいます。ほっとけ。出身はヴァル・ヴァヌスです。
正式な名前は『ろうしぇん・フィート・ロキア』といいます。かっこいいでしょう?
一番初めの名前の発音が妙なのは、お父さんが異国の人だからだそうです。
実はお父さんだけではなくお母さんも異国の人です。
でも、二人ともヴァル・ヴァヌスにずっと住むことにしたので、僕の名前はヴァル・ヴァヌス式にしたそうです。
だから僕の髪は、みんなみたいな茶色や栗色とは違ってまっ金金です。
でもみんなは優しいからいぢめたりはしません。
時々、学校のガキ大将がいぢめるけど、毎日返り討ちにしてやっています。
それはそうと、今日
僕はとってもスリリングな目に遭っています。
場所は町の大通りの一角。
お店の壁ぎわ。
ごっついおじさんが、僕の首に刃物を当てて、怒鳴っています。
いわゆるひとぢちというやつですね。初体験です。どきどきです。
そしてちょっとこのおじさん、息が臭いです。
昨日の夕飯は南蛮のギョーザだと思われます。
「近寄んな!!コイツの首掻っ切るぞ!!」
そういえば、この前、お母さんと一緒に鶏を初めてシメました。
殺してしまうのはとってもかわいそうだけど、自然の摂理だとお母さんは言っていました。
難しくてよく分かりません。
そして首を切られた鶏は、そのまま走っていました。
グロかったです。怖かったです。
お母さんにちゃんと押さえてろって言われてたけど
まさか首を切っても元気に走り出すなんて思わないじゃないですか。
うちの庭を一周ほどして、やっと疲れたように止まって、動かなくなりました。
思わず怖くて泣いてしまったけど
その後にお父さんが作ってくれたグリルはとってもおいしかったです。
ありがとうトリさん。
なんて余裕で考えていられる僕は意外と落ち着いています。
だって、このおじさんが怒鳴っているいる相手は、僕のお母さんです。
お母さんは普通じゃありません。とっても強いんです。
この前、僕の親戚のおじさんのうちに殴りこみにきた悪いやつらをボコボコにしてました。
ええ、とってもいっぱい。
それ以来、僕はお母さんみたいな男になろうと思いました。
お母さんは女だけど、そのへんは気にしない。
だから、このおじさんが僕をひとぢちにしているからって、お母さんにかなうわけがないと思っています。
「いちおー条件きくけどぉ、何がしたいの?」
お母さんも全然あせっていません。さすがです。
そしていい歳してコギャルっぽいです。
むしろ、このおじさんのほうがあせっています。
そして息が臭いです。おじさん、ぶれすけあは大事ですよ?
「金を出せ!1000000Gだ!あとお前らが捕まえた俺たちの仲間を解放しろ!それから、お前らは俺たちにかかわるな!」
「あー無理。最近うちの家計余裕ないし。あと、アンタらって殺人にも手出しただろ?だからお仲間はみんな領主サマのところの地下牢だし、もう私らが手を出せる範囲じゃないし〜。」
お母さん、わがままです。
1000000Gってゆーのがどれくらいのお金かは知りませんが
お母さんがベッドの裏にいっぱいお金を貯めているのを、僕は知っています。
何に使うでもなく、ただお母さんはお金が大好きなだけなので、貯められるだけ貯めているようです。
「…っふ、ふざけんなぁあああ!!!!!」
おじさん、声が大きいです。耳が痛いです。
ちょっと怖いです。
「ふざけてねぇ。お前らみたいな人の道外したヤツらのことなんか聞く気は無い。大人しくその子を放せ。」
お母さんがものすごい顔で一歩近寄りました。
おじさんの後ろは壁、逃げ場はありません。
おじさんが僕を押さえつける腕に力を込めました。…苦しいです。
「その子にちょっとでも傷を付けてみろ、地獄に叩き落してやる。」
お母さん。僕の為に怒ってくれているのは分かるけど
すごく怖いです。
僕まで怖いです。
ちょっと涙がでてきます。
パンパンパン!!!
いきなり大きな音が連続で鳴りました。
びっくりしてにじんでいた涙がちょっとこぼれました。
でもこの音は聞いたことがあります。僕の親戚のおじさんとおばさんがよく使う銃という武器の音です。
でも今討ったのはお母さんです。いつの間に出したんだろう?早業です、びっくりです。
それで腕をうたれたらしいおじさんが僕を放しました。
「うわあ!!」
その隙に逃げようとしたけど、おじさんに足を掴まれて転びました。顔が痛いです。
「げぶっ!!」
けど、その手はすぐに離れました。
僕の上にはお母さんがいて、おじさんの顔を蹴り飛ばしていました。
そのままおじさんの服を掴み上げて、お腹とか顔とかいっぱい殴っています。
すごく嫌な音がいっぱいして、おじさんが苦しそうな声をあげて、すごく痛そうです。
おじさんはわるものみたいだけど、ちょっとこれは可哀そうです。
「こら、子供の目の前でそうゆうことをするんじゃない。」
また僕の上で暴れているお母さんに、そう言って抱きついたのは、僕のお父さんです。
今日は学校の先生の仕事なのに、途中で抜け出してきたのでしょうか。
「…っ、だって…」
凶暴なお母さんでも、お父さんには弱いです。
なんだかもごもごして、もう暴れるのをやめてしまいました。
「怪我とか、してない?」
「っまえ…そうゆうのはフィートに聞けよ。人質にされてたんだぞ?」
「でも、君がフィートを守るだろう?」
どうでもいいけど、僕の上でいちゃつかないで下さい。
そして周りに人がいっぱいいるんです。恥を知ってください。
「お父さん、僕、起きたいんだけど…」
「ああ、ごめんねフィート」
やっとお父さんとお母さんが退いてくれました。
でもまだお父さんはお母さんを後ろから抱きしめています。
お母さんは真っ赤になっているけど何も言いません。恥ずかしいなら何か言えばいいのに。
しばらくして、町の警団の人たちが来て、おじさんを連れて行ってしまいました。
お父さんは学校を早引きしてきたらしいので、みんなで買い物をしてから帰ることにしました。
「あの男、一昨日の集団の残りか。」
「ああ…すまない、ちゃんと私が一人残らず捕まえていられれば…」
どうやらあのおじさんは、前にお母さんがやっつけたわるものだったようです。
今日来たのは逆恨みというヤツでしょうか。
お母さんが僕の隣にしゃがみこんで、そっと頭を撫でてきました。
「すまない、フィート。怖くなかったか?」
お母さんはとっても怖かったり、厳しかったりするけど
僕のことが大好きだっていうのはよく分かります。
そんなお母さんが、僕は大好きです。
「お母さんがいたから、大丈夫だよ。」
ちょっと泣いたけど、それはお母さんが怖くて泣いただけだから。
「そうか。いい子だ。」
お母さんが僕の手を掴んで、また歩き出しました。
お母さんの手はお父さんの手とは違って、ちょっとゴツゴツしてるけど、温かいです。
お父さん、これがカッコイイ男の手なんだよ?
やっぱり男はこうじゃなくっちゃ!!
お母さんは女だけど、そのへんは気にしない。
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