こんにちは、僕です。 とか意味不明なことをいってみました。
『ろうしぇん・フィート・ロキア』です。
じつは最近思ったんですが
僕って案外すごい子なのかもしれません。
僕のお母さんのいとこは、僕たちの住む町の領主さまなんです。
だから、僕は遠からず、領主さまの親戚なんです。
領主さまっていうのは、その土地の王様みたいな人のことなんだそうです。
それにお母さんとお父さんは、領主さまとその奥さんと仲がいいので
よくお屋敷に遊びに行ったりしています。
そんなわけで、今日は領主さまのお屋敷に遊びに来ています。
お屋敷は町からほんの少しだけ離れた草原に建っています。
だけどここらへんにたった一つの学校は、お屋敷のすぐ隣に建っているので
町から馬車が決まった時間に出ています。
だから意外とお屋敷も学校も孤立していません。
「いらっしゃーい!」
馬車がお屋敷の前に着くと、いつものように、領主さまの奥さんが待っていました。
彼女は僕の前にちょこんとしゃがみ込みました。
「こんにちわ。フィート君、おっきくなったね〜」
「こんにちわ。おばさんも相変わらず綺麗です。」
「ハッハッハ。綺麗ってのは嬉しいけどおばさんってのは訂正しろこんにゃろ」
「げふっ!!…お、おねぇ、さん…」
モ、モロにみぞおちを殴られました…。
おばさ…おねえさんは結構凶暴です。
でも僕が言ったとおり、美人なのは確かです。
本当に美人です。
高貴な人形のように肌は白くて綺麗で、髪は真っ黒で綺麗で、目は赤っぽくて綺麗で
こんな素敵な人はなかなかいないと思います。
でも性格…ってゆーか、頭のほうがアレなのが難点ですが。
ええ、かなりアレなんです。
お父さんとお母さんもバカップルだと思いますが
この人と領主様はそりゃもう究極のバカップルです。
昔、領主様の銀色で綺麗な髪の毛をいぢくってて、引っこ抜いちゃったら
この人に殺されかけました。
ええ、あと一息で死にました、あれは。
「こらこら、いい歳しておねえさんなんて呼ばせてどうするんだ。」
お父さんが、おねえさんの頭をポンポンと叩きます。
お父さんとおねえさんは、小さいときからのお友達だったそうです。
「フィート、この歳の人をおねえさんとは言わないからね?おばさんでいいよ。」
「あっ、ひどいっ!」
おねえさん、もといおばさんは、しくしくと泣き真似をしています。
確かにおばさんのこの行動は歳にそぐわないのですが
お父さんとお母さんも人のこと言えないと思います。
どうでもいいけど、僕は正直言って弟や妹は欲しくありません。
学校の友達が、「弟がいると、母さんも父さんも俺のこと無視しだすんだ」って言っていたからです。
僕はお父さんとお母さんのことが大好きだから、そんなことになってほしくありません。
それなのに、この二人のいちゃいちゃぶりは異常で…
下手したら妹や弟の一人や二人できちゃうかもしれません。恐怖です。
ん?子供はコウノトリさんが運んでくるんじゃないかって?
甘いですね。
近頃の八歳には、そんな子供だましは通じません。
いくら説明しにくいことだからって、そんなありえない嘘を教えちゃいけませんよ?ありえる嘘も大分いけませんが。
僕は知ってるんですよ、子供ってゆーのは夜にアレです。
お父さんとお母さんが軍縮会議をするんです。
軍縮会議というのがどんなものかは知りませんが。だって僕はまだ選挙権だってないし。
でも、世界各国でよく開かれていて、そして軍縮会議は世界中の為にいろいろなものを生み出すのです!!
けれど、お父さんとお母さんの開く軍縮会議には、夫婦の絆というものがありまして
そこには特別に、子供というものが生み出されるのだそうです。
お父さんがみっちり細かく教えてくれました。さすがはお父さん。
確かに、説明が難しいから、コウノトリさん伝説に任せたくなる気持ちも分かります。
ああ、大分話がそれました。
つまりはみんな、若々しいということで。
お父さんは、領主さまには礼儀正しいけど、おばさんにはふれんどりぃです。きっと、昔からの友達なのでしょう。
「そうそう、フィート。さっき丁度、おねえちゃんが剣の稽古開いてたんだよ」
「マジッスカ!!!!」
「こら、フィート。お母さんの真似をするんじゃない、はしたない。」
お父さんに怒られちゃった。おばさんはクスクスと綺麗に笑っています。
「マジッスよ。中庭にいるから、いってこいw」
「はーい!!」
僕は一目散にお屋敷の中に駆け込んでいきました。
だって、僕がここにくる一番の目的は“おねえちゃん”なんです。
おねえちゃんはすごい美人で、強くて、かっこいいんです。
僕は将来おねえちゃんを守れるような男になりたいです。
すごく遠い話ですが…だってまだおねえちゃんに守られてるようなものだし…。
おねえちゃんは、僕よりも10歳も年上です。
でもいいんです!愛に年齢は関係ありません!
なんだかお母さんと同じような仕事をしているらしく、なんだか雰囲気もお母さんに似ています。
おばさんと領主さまの娘らしいです。
僕が全然似てないと言ったら、おばさんが「血は繋がってないからね」といいました。
それじゃ娘じゃないじゃん、って思うけど…
まぁ、愛があれば親子関係も成り立つんですね、きっと。
おねえちゃんは中庭で、僕くらいの子達と、木の棒でチャンバラをやっていました。
未だに、僕たちの中でおねえちゃんに勝てる人はいません。
だから、お姉ちゃんは僕たちの憧れの的なんです。
それにしても、桃色のふんわりした髪に、水色のワンピースはとても似合っていていいけれど
その格好でチャンバラはどうかと思います。
駆け寄る僕に気づいたお姉ちゃんが、手を振ってきました。
「フィート。いらっしゃい。」
「おねえちゃん、お久しぶりです。」
「今、やめるところだったんだけど、最後にフィートもやる?」
やる、というのはおねえちゃんと剣の勝負をするということで…
無理です。
絶対勝てません。
「それよりも、久しぶりにおねえちゃんといろいろ話したいです。」
決して勝負を逃げたわけではありません。
ええ、決して!
「そう。じゃあ、部屋に行こうか。」
すかさず僕はおねえちゃんの手を握って、みんなから背を向けました。
だって、いつも僕にいじわるしてくるガキ大将がいたから。
おねえちゃんに近づくな、って感じです!!
みんなに手を振るおねえちゃんを引っ張るようにして、僕たちは中庭から出て行きました。
「背、伸びたね」
「はい。がんばって毎日牛乳飲んでますから!」
…だって、早くお姉ちゃんより長身になりたいから!
おねえちゃんはにっこり笑って、部屋のベッドに座りました。
…おねえちゃんはなんだか悲しそうに笑う人です。それはそれで影があってかっこいいのですが…。
なんでおねえちゃんは悲しそうに笑うのか、僕はしりません。
なんとなく、聞いてはいけないような気がしてしまうのです。
「最近、どう?」
「元気です!あ、そういえば」
僕はとっておきの話のネタを思い出しました。
「僕、この前、知らないおじさんに刃物突きつけられて、ひとじちにされたんです!」
「へぇ、貴重体験だね。」
さすがはおねえちゃん、驚いてません。
「で、お母さんがかっこよく助けてくれた?」
「はい!そりゃあもう!」
で、そのあと何故か転んでる僕の上でお父さんとお母さんがいちゃつきだしたのは、どうでもいい話ですね。
「フィートのお母さん、カッコイイよね。」
「はい!でも、お姉ちゃんもカッコイイです。」
僕が胸を張ってそういうと、お姉ちゃんはにっこり笑って、ありがとう、と言ってくれました。
やっぱり、お姉ちゃんはどこか悲しそうに笑います。
何か、悲しいことがあるのでしょうか。
「お姉ちゃん、何か悲しいことがあったんですか?」
「…なんで?」
そう聞いてくるおねえちゃんですが、顔は「悲しいことがあったんだよ」と言っています。
「いつも悲しそうに笑うから」
本当は、ずっと聞きたかったのです。
なんでおねえちゃんはいつも悲しそうなのか…。
「悲しくなんかないよ。ただ、寂しいだけ…」
ごめんなさい、お姉ちゃん。
僕にはどうも「悲しい」と「寂しい」の違いが分かりません。あぅ、まだまだ子供ということかっ!!
「えと、どうして寂しいんですか?」
「…大切な人に、会えなくなっちゃったから。」
僕はいろいろ考えていました。
会えなくなっちゃった、ということは、死んでしまったりした訳ではないのですね。
じゃあ、なんで会えないのでしょうか。
それにしても、大切な人って誰でしょう…?
「お父さんお父さん」
「うん?」
外にある大きなお風呂に、僕はお父さんと向かい合って浸かっていました。
「お姉ちゃんが会えなくなった大切な人って、誰か分かる?」
「…あー…」
お父さんは何故か、目をいろんなほうに向けて、何か考えてから「まぁね」と言いました。
「そ、その人って…まさか、おねえちゃんの恋人、とか…?」
それだったら、僕の恋は一気に破局です…!
「いや、まさか」
お父さんは『あの2人がなんてありえない』とでも言いたげに笑っています。
(ノT▽T)ノよ、よかった…。
「おねえちゃんの片思いだったよ。」
_| ̄|○|||破局だ…。
僕はお湯の中にぶくぶく沈んでいきましたが、すぐにお父さんに引き上げられました。
「フィート。“お姉ちゃんの大切な人”は、私達にとっても大切な人だったん だ。」
夜の空は静かで、どこかで虫の悲しそうな鳴き声がしています。
「けれど、あの人は自分の我侭で、お姉ちゃんも、私達も置いて、行ってしまった。」
行ってしまった?どこへ?
それを聞く暇は無く、お父さんはただ話し続けます。
「あの人はきっと、自分がどれだけみんなに必要とされていたか分かっていなかった。
だから、私達が…特にお姉ちゃんが、どれだけ悲しむか分かっていなかった。」
…要するに、人の気も知らずに家出したということでしょうか?
「だからね、フィート。僕たちはもう誰も失いたくないんだ。
フィートはちゃんと、自分を大切にしてね。僕らのために。
じゃないと、僕らの心が壊れてしまうから。」
なんだかよく分からないけど、胸が締め付けられました。
お父さんたちに、大切にされているんだなぁ、と思いました。
「はい。僕も、みんなと離れたくないから。」
僕がそう言うと、お父さんはにっこり笑って、僕の頭を撫でてきました。
「じゃあ、恒例の女湯覗きでもするかい?」
「お父さん、僕に見せるだけで見ないじゃないかぁ」
「私は、お母さんのだけで十分だからね。」
「僕だって、他の人の裸見たって…」
「でもほら、なんかお姉ちゃんの声が聞こえてるよ?」
「お父さん早く台になって!!早く!!!!!」
「よしきたっ!!」
僕は、お姉ちゃんにも、お父さんたちにも、寂しい思いをさせたくないから
ずっとみんなと一緒にいます。
BACK
|