・気持ちを伝える

「……。」

私の目の前で、リクさんがリーダーに足蹴にされている。
全く朝からぎゃあぎゃあ五月蝿い人。

「サイー、おはようのキス…」
「ここは日本だ、欧米文化を持ち込むな。」
「僕、欧米育ちじゃないし。いたいいたいっ」

痛いことされるの分かってればそんな馬鹿な要望をリーダーにしなければいいのに。
リーダーが不憫でならないわ。

「チヒロ」

わっ!
びっくりした…Gさんか。
地を這うような低い声が怖いったら…

「蕎麦アレルギーはあるか?」

私が「何ですか?」と聞く言葉と重なって、一瞬何を言ってるかわからなかったわ…

「いいえ、大丈夫です。」
そう言ったらGさんはキッチンに戻っていった。


…今日のお昼ご飯は手打ち蕎麦ですか。

「チヒロ」
「はいぃっ!?」
ま、まだ何か!?

「サイに言いたいことがあるなら言え。」
「え…言いたいこと…?」
「リクみたいに。」

っ…、嫌に決まってるわ。
そうしたら私はリーダーの中で、リクさんと同じ位置付けになってしまうじゃないの。


「お前が思ってる程、サイは理解がないわけじゃない。」
「って…Gさん、さっきから何を言ってるんですか…。」
「あと、リクのことも見下してない。」

無視ですか。

「あと、お前の事を理解してない。」




それは


最後のは、胸にチクッと来たわ。

そりゃそうよね…
私、リーダーとはあまりお話しないし。
リクほど「好きだ」とか伝えてないし。


でもあなた、分かってるの?
私の感情の意味を。

ああ、さっき「理解がないわけじゃない」って言ってたし…分かっているのね。

「…気持ち悪いと思われるわ。リーダーに捨てられる。」
同性から、こんな感情を持たれてるなんて知れたら…
きっとリーダーは私が嫌になる。

「いや、男に好かれるよりは喜ぶだろ。」






それもそうね。




「捨てられはしないだろうが、カモにされてコキ使われるな。」





今のリクさんがまさにそれね。






「それを考慮した上で打ち明ければいい。嫌われるというのはお門違いだ。」

Gさんはやたらはっきりそう言い切って、またキッチンに引っ込んでいった。

そういえばいつだかリーダーが言ってたわね。
「悩んで迷ったら真っ先に俺に打ち明けろ」

あと
「俺がいなかったらGに言え」

GさんはFREE結成時からのメンバーで、リーダーは一目置いているみたい。
普段はただの家事手伝いだけど…
……お母さんみたいな役所なのかしら。

「ありがとう、お母さん?」
笑いながらそう言ったけれど、聞こえなかったのかもしくは聞こえないふりをしたか、彼からの反応はなかった。


「…さーて」

さっきみたいにリーダーにベタベタしようとするリクさんを見て、いらいらをじっと堪えるつもりは、もうなかった。





「私のリーダーに気休く触ってんじゃないわこんにゃろぉおおぉぉおお!!!!!!!!」
「ぃギャあああー!!!!チヒロが豹変したああー!!!!」


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