初めて胸に咲いた思いだったから
少し焦ってしまって…
今度こそ
もっと大切に育てて生きたいんです


 

何のために、ここにいるのだろう。
自分の望みなんて分からなくて
ただ、ヒショウを守って、ルナティスを守ってきた。
それで、確かに自分は満たされていた。
いた、はずなのに。
欲しいものが得られない虚無感。
許されないことが多すぎて
私は、許されない人間なのだと実感する。

そう、許されていない。
生きることも許されていない。
何かを望むことも許されていない。
なら、何故
私は今、ここに生きているのか

 

「大丈夫だよ、僕が傍にいるから。」
「……っ」
息が詰まりそうな絶望の中で、ルナティスの声が聞こえた。
いつも苦しい夜には、彼の声が聞こえてきた。
ボンヤリとした視界の中が、彼のアコライトの法衣の色に染まる。
頭を抱きしめられて、血すら流れていなかった気がする脳が、段々と覚醒してくる。

「みんな、いるからね。」
いつも2人だったけれど、室内にあるたくさんの人の気配。
「独りじゃないよ。みんないつでも応えてくれるから。」
感じたことがなかった、“孤独”とは相反するもの。
頬が暖かくなった。
なんて、幸福なことだろう。

「だから、僕を置いていかないで…」
不意に、ルナティスのそんな泣きそうな声がした。

大丈夫。
ルナを置いていったりしない。
誰も、置いていったりしない。
…もう、置いていかない。

目の奥が暖かくなるのを感じながら
心地よい眠気に意識が攫われた。

 

 

「わ、わ!!」
人形のように力の抜けたヒショウの体を、ルナティスが慌てて受け止めた。
もともと抱きしめていたから、踏ん張るだけでなんとか持ちこたえられた。
みんなが、またわたわたと慌てだす。

「お、おい!大丈夫なのか!?」
「あーノープロ〜。日常茶飯事です。」
人一倍慌てているデュアに、ルナティスがへらへらと笑いかける。
よっこいしょ、と声をかけて、ヒショウの腕を首に回して、彼を担ぐ。
「じゃあ、ちょっとヒショウをベッドに寝っ転がせてきますね」
「え、あ…」

呆然としている一同を置いて、ルナティスはヒショウを抱え、彼の部屋に引っ込んでしまった。
取り残されたシェイディを含めるインビシブルメンバーは、しばらく沈黙が走る。

「な、んか、彼も大変なようだが…」
不意に、デュアが口を開き、ユリカの方を見た。
「でも、良い人だったな。」
ユリカが、頬を赤らめ、頷いた。
会ったのが一目でも、ずっと彼女が思い描いてきた“ヒショウ”道理だったのだろう。

「でも、私…彼のことを、全然知らないし、何も理解していないから…きっと、まだ早かったと思います。」
ユリカが、微笑みながらも、少し困惑した表情を浮かべた。
「…気持ちを伝えるのが?」
「彼を、好きだ、と決め付けるのがです。」
デュアにそう答える彼女は、とても大人っぽくて、頭がいいとシェイディは思った。
自分よりも年下の少女が、みんなのお守り(?)をしたり、自分や他人のことにも気を配れたりして、立派だと思った。

「ユリカさん、ってなんか、すごく大人ですねぇ」
「うおっ!」
いつの間に戻ってきたのか、ルナティスがしみじみ頷いていた。
「い、いえ、そんな…」
「いや、お若いのにしっかりしてるしね」

「みなさんほど若くないですよ、あと何年かで三十路になっちゃいますし。」
困ったような表情をして、ユリカはそう言った。

「…ミソジ?」
ルナティスとシェイディが、目を点にしてうわごとのようにつぶやいた。
その2人の反応をみて、デュアとマナとイレクシスは楽しそうに、お互いの顔を見合わせていた。
ユリカ自身も、どこか楽しそうに見えた。
「…ユリカさん、って…その、失礼ですけど…」
ルナティスが恐る恐る聞く。
彼女は微笑みながら頷いた。
「26です。」

「「(゜Д゜|||)」」
ショックだった。
多いにショックを受けた。
ルナティスとシェイディはパカッと口を開けて、魂がどこか別の世界をさまよっていた。
その間、みんなそれを面白そうに眺めていた。

「…ほ、ホントに?」
「ですよ」
「冗談じゃ…」
「ないですよ」
「…だってどう見ても…」
「童顔だって言われますね」
「…………。」
「みんなにしょっちゅう“嫁いきそびれるぞ”って言われます」

ユリカ自身もなんだか楽しそうに話していた。

「まあ、だからって恋愛事を焦ってなんかいませんし
これから少しずつあの人に近づけたらいいな、って思います。」
確かに、こうしてみれば
彼女は“少女”というより“母性豊かな女性”に見えてしまう。

これをヒショウが知ったら、彼女はどんな反応をするのだろう、と
ルナティスとシェイディは思い、なんだか面白くなってきた。