まだやり直せるはずだから。
貴方の手の中にはまだ多くのものが残っている。
“自分”さえも失いかけている彼とは違って…
「同盟成功ーーーー!!!!!シェーイディー!!!!おめめ〜〜〜!!!!!」
いきなり部屋からルナティスが叫びながら飛び出してきたと思ったら、シェイディに後ろからガバッと抱き付いてきた。
ルナティスはいつもナイスタイミングで場をぶち壊してくれる。いい意味でだ。
だから、じつはかなりキレ者なんじゃないかと、マナは思っていた。
「な、なんだよ、ルナ…」
ルナティスに支援魔法で祝われているシェイディだが、混乱しているばかり。
いきなり同盟成功とかおめめとか言われても何のことだかわからない。「シェイディのお姉さんと約束したの。騎士団に突き出さないから、シェイディをいぢめないってことと、
僕らと友好関係をとるってことと、もう悪いことしないってこと。
まぁ、みんな始めのうちは慣れないと思うけど、ゆっくり慣れてw
いろいろ話したけど、お姉さん面白いイイ人だよ〜」
僕って、癒し系なのかな〜
なんて、ひそかに思ってみる。ずっとピリピリしていた騎士は、まるで全てが敵で、味方はシェイディだけ、そんな世界を心に作っていたようだった。
でもそれじゃ駄目だ。
その世界では味方のはずのシェイディは、現実では…彼女を受け入れていない。受け入れられるはずもない。「駄目だよ…それじゃあ。」
彼女は、五月蝿い、と言った。
「こうしよう。できるだけ、僕は貴方を守るよ。」
彼女は、馬鹿にしたように笑っていた。
お前のような弱小アコライトが?と。「貴方は強いけど、それは敵と戦う強さだろう?
僕は貴方を敵から守るよ。敵を作らないように努力する。
そうすれば、貴方は戦わずに済むだろ…?」彼女は驚いたように、僕を見ていた。
「それが普通だよ。みんな、そうやって庇いあって、守りあって生きていると思う。
僕は、ヒショウやシェイディにそうしてきた。彼らも僕にそうしてくれる。
それはすごく心地よくて、きっと皆が…世界が優しく見える。」何故…何のために、私にもそうするのか。聞かれて、僕は迷わず答える。
「僕のため。」
みんな自分の為に生きてる。僕はそう思う。
情けは人の為ならず。
すべてはじぶんの為なんだ。「みんなに優しくすれば、みんなそうやって返してくれるよ。
周りを傷つけて、一人になるのは苦しいよ。
誰かが笑っているのは、周りの人たちに笑い返して欲しくて、自分を安心させて欲しいからなんだ、って、僕は思う。
貴方にも、ゆっくりでいいから…感じて欲しい。」みんなに受け入れてもらえる温かさ。
「シェイディにも受け入れてもらえれば…貴方はもっと彼を近くに感じられるよ。」
僕がそうだった。
今、ヒショウと近くにいると感じられる。
僕を助けてくれた人。誰よりも一緒にいたいと思った人。「けれど…どうすればいいか、分からない。」
気がつけば、彼女は泣いていた。
それに、なんだか僕は安心してしまった。
彼女が、自分の本当の気持ちに気づいたんだと思う。
自分で見ないようにしてきた本当の気持ち。
このままではいけない、誰にも触れてもらえなくなる、という不安。
ずっとそれを、上辺の笑顔で覆い隠して
ひたすら狂ったように走り続けてきたのだと思う。「みんな、始めはそうですよ。」
僕はただ、笑った。
「ただ、一緒に狩りに行って守りあったり
いろいろ好きなことを話したり、遊んだりしてね
まぁ、あれです。」慣れですよ。
僕はそんな簡単な言葉で済ませた。けれど、一番分かりやすい言葉だと思う。
ただ、触れ続けていれば、いつかは…。
「シェイディの歌声、聴いたことある…?」
はじめて、彼女から話してきた。
ルナティスは目を丸くして首を横に振った。「すごく良い声してるんだ…透き通って…嫌なことも全て洗い流してしまうような…私とは、全然違う。」
「貴方も、いい声してますよ?シェイディに似てる。」
「…全然違うよ。」
「ええ、違いますね。」
ルナティスの妙なやり取りに、どっちだよ、と彼女は笑う。まだ、悲しそうに。
「似てるけど、やっぱり違うかなって。シェイディは確かに透き通った声ってゆうのがあってるけど、貴方は繊細な感じがあるなーって。」
「…そう、なんだ…。」
「そういえばヒショウもイイ声してるんですよぅ!」
何故かルナティスは拳をぎゅっと握って、反対の手をベッドにバンバン叩きつけてうれしそうに語る。
「ああ、確かに彼もいい声してた。」
ルナティスのはしゃぐ様子を微笑んで見ながら、彼女は頷いた。
「なんかこう…無理矢理に引きずり出したくなる声っていうか…」隣の部屋にいるヒショウにはその会話は聞こえていない、が
彼は突然襲った寒気に、布団の中にもぐりこんでいた。「でしょう〜?!」
その辺から妙に話が盛り上がりだして…
ルナティスとシェイディの姉の間に、妙な信頼関係が生まれていた。
外はもう暗い。
帰るマナと、シェイディの姉を見送ろうとしていたところ。
シェイディのギルドの皆も、マナ以外は先に帰って
シェイディ自身はまだ姉と顔を合わせにくくて
ヒショウは疲労困憊で飽きる気はない。
そんなで、ルナティスとシェイディの姉と、話が合ったマナとで話していたら夜になってしまった。「あ、アネさん」
いつの間にかルナティス(+マナ)にはこれが定着していた。
「名前、なんていうんですか?」
彼女は冒険者カードを見えるところに付けないようにしていたから冒険者登録名すら知らなかった。彼女は躊躇うことなく名乗った。
「フェアリ・アレイ。レイでいい」
レイはまだぎこちなく微笑む。
その名は“癒し”
「アレイ…レイ…いい名前だな」
マナが言うのに、ルナティスも頷いた。「じゃあ、レイさん、マナさん、おやすみなさい。」
「おやすみ」
「おやすみぃ〜」彼女らは別々の方向に歩いていった。
レイの後姿は闇にまぎれて小さくなっていくが、そのまま消えてしまいそうとは思わなかった。
闇の先でも、彼女は強く生きられる。
彼女はまだやり直せる。
家族も、故郷も、守るものもあるのだから。“自分”さえも。