ひどいことをしていた、けど
罪を犯した人にだって、心に思うことはあると思うんだ
彼女も、苦しそうに見えた
傷の痛みではなく、心が痛んでいるように見えたから…
「んなこと俺らも許さねぇぜシェイディ!」
ゲートの声がしたと思ったら、体がふわりと宙に浮いた。
トンネルドライブで地中から近寄っていた彼に抱え込まれ、その場をバックステップで離脱させられたらしい。
「グリムトゥース!!!」
ヒショウの声が、地中からして…騎士の周りの地面が割れて、鋭い巨針が突き出してきた。
それに騎士がバランスを崩し、すかさずデュアが弓を連続で射る。
「ダブルストレイフィング!!」
「ボウリングバッシュ!」
ユリカからの速度増加を受けて、アレクがすばやく走り寄り激しい剣戟を加えた。
それに吹き飛ばされた体を、マナがカートで殴りつけた。「っく…!」
騎士が短い詠唱を行う。けれど、何も起こらない。
騎士の姿はまだそこにあるし、周りの誰にも影響はない。
その事実に、当人も目を丸くした。「探し物はこれかよ」
シェイディを脇に抱えたまま、ゲートが首飾りを差し出した。
見たこともないアクセサリーだった。
恐らく騎士からスティールした、謎の力を得るアイテム。
「ば、馬鹿な…っ!」
騎士が呆然とそれを見詰めていた。
けれど、立ち上がろうとしない。
もうその力も残っていないようだった。
「はは、ドンピシャだ。よくこれだって分かったな、イレク。」
「…そうゆうのを見つけるのは得意だ。」
ゲートはそれが奪い返されることのないように、上着の奥へそれをしまいこんだ。形勢逆転だ、とデュアが近寄る。
「…近寄るな!」
けれど、騎士が背につけていた槍を取り出した。
「これでそこにいるアコライトくらいは確実に殺れる…動くな…」
思わず、皆体を硬くした。「…ルナを殺しても、アンタは重犯罪人。本当の管理者に裁かれるだろう。」
静寂を、ヒショウが破った。
「けどもう、アンタがシェイディの前に現れないと約束して、その槍を下げるなら、見逃す。」
それは、犯罪人を逃すということ…。
けれど、その場にいる全員異議はなかった。
無責任かもしれないが、全体的なことよりも、身近な人の安息を願っていたから。「…断る。管理者からも、逃げてみせるさ…。」
騎士の答えは、NO。
苦しそうに見えた。
傷の痛みではなく、心が痛んでいる顔。
今、自分が一番の命の危機にさらされているというのに…
ルナティスは動かない体で、あの騎士のもとへ駆け寄って
抱きしめてやりたいと思った。
あの人は、泣いている。
全て失って、捨てられた子犬のように…「もうやめろ、姉さん…!!!」
シェイディが、唐突に叫んだ。
彼が叫ぶ先は…もちろん、あの騎士。
『は?!』
皆、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、それはこの二人の“姉弟”には見えていないし聞こえていないらしい。「なんで…こんな馬鹿なことばかりするんだ!アンタは俺から…親の愛とか、友達とか、跡継ぎの地位とか…
全部奪って、手に入れたはずだろ!!アンタはあそこへ帰って暮らすのが、一番幸せなはずじゃないか!!」
シェイディが泣きそうな顔をして叫ぶ。
それは、昔のことを思い出して泣きそうになっているのか…。いや、そうではない。そんな気がした。
「あれが幸せなものか…!あそこにあるのは無責任な壊れた親と、町人に恨まれる地位だけ!!
それに…ずっと昔から、欲しいのは一つだけだったのに、それは逃げ出してしまった。」ずっと昔から欲しかったもの
それはシェイディのことだと、なんとなく分かった。
そして、今までの行いは、彼への歪んだ愛であるということも同時に分かった。「あんたがあそこにいさせなくしたんだろ…俺の、居場所をなくしたんだろうが…」
「…そうすれば、私を最後の頼りにしてくれると、泣きついてくると、思ったんだよ…」
投げやりに笑う。
その騎士は初めて、感情を顔に出していた。
自分の心中を、ずっと求めていた弟に打ち明けてしまったからか
弟が初めて、自分と向き合ってくれている気がしたからか
「げっ!!自警団が来たぞ!!?」
ゲートがそういって、水路にかかる橋の向こうを指差した。
確かに、ペコペコに乗った騎士やクルセイダー達が走ってくるのが見える。
この騒ぎを誰かが通報して、駆けつけたのだろう。「ワープポータル!!!」
突然ルナティスが青石を砕いて、空間移動の扉を開いた。
「ちょっ、ルナティス…別に逃げなくても…」
「いいから乗って!!!」
ヒショウが言うのに、焦った様子で怒鳴り返した。
それにつられて、皆慌てて青い光の中へ飛び込んでいく。「あんたもだよ!!!」
その場にまだ残っていた騎士を光に押し込もうと、ルナティスが背を押す。
「な…けど、私は…」
犯罪者。
そして、彼らに負けた。
道は、断罪しかないのに。「せっかくシェイディに近づけたのに、いいのか!」
ルナティスの言葉に、目を丸くした。
「どんなヤツでも、シェイディにとってアンタは姉弟なんだから、そんな簡単にケリつけるんじゃない!!
ちゃんとシェイディにも謝って、罪を償って、貴方は彼の姉としてやり直さなくちゃいけないんだ!」
ルナティスの開いたポータルの出口はプロンテラ、ヒショウ・シェイディ・ルナティスの家の前。
「おい、ルナティス…なんで逃げってえええ!!!!???」
少し遅れて帰ってきたルナティスに詰め寄ろうとしたデュアが、隣にいる騎士を見て飛び上がった。
皆、一斉に武器を構える。
「下ろしてください。」
武器を下ろせ、そう言ったのは、騎士の隣にいるルナティスだった。
それに、一同と、騎士本人も目を丸くした。「ちょっとこれからこの人に話があるので、二人きりにさせてください」
『え…』
この危険人物とマンツーマンは危険なのでは…と思うのだが
ルナティスの笑顔から、なにやら『口出しすんじゃねぇ』オーラが漂っていて、誰も何も言えなかった。
「…何話してるんだろうなァ」
デュアの、もう何度目かというつぶやき。
「てゆーか、変なことされてねぇかな…」
ゲートの、もう何度目かというつぶやき。
「ルナティスさん、修道院でもしっかりしている人でしたから、大丈夫でしょう。」
彼らへのユリカの返事。これももう何度目だろうか。ルナティスが、シェイディの…姉と部屋に篭り、もう一時間ほど経つ。
ヒショウはユリカの治療を受けたが、精神的な疲れの為に寝込んでしまった。
『ヒショウ、君の為にずっとがんばってたよ。
昔のアイツからは信じられないほど前向きで、自分の中に逃げようとしなかった。
ずっと、何かをしなきゃって、ココロの苦痛にも耐えてたよ。
シェイディがいてくれてよかった。君を守ろうとしてあいつも少し強くなれた。
…後でヒショウのこと褒めてあげてよ。』
第二人格のヒショウが、眠る前にシェイディに言った言葉。
シェイディが、自分を責めないようにと言った意味もあるだろう。
ヒショウと皆への申し訳なさは消えないが
その言葉は温かく胸に染みる。「にしても、アレ…じゃなくて、あの騎士…なんで、こんなことしたんだろうな…」
そんなこと、誰にも分からない。
分かるとすればそれはシェイディで…
嫌でも、つい彼に目が行ってしまう。
さっき、ヒショウを横にさせて戻ってきた彼は、疲れた顔でココアを飲んでいた。
今日一日いろいろとあった。日頃から大きい狩りに慣れているインビシブルメンバーでも疲れてしまったのだ、シェイディはもう倒れたいほど疲れてるのではないだろうか。「あの人は…昔から、そうゆう人でしたから…」
シェイディはボソリという。
それってどうゆうこと?とマナが首をかしげた。「タダの変態でしたから。」
「シェイディ…君、今、さらりとスゴイこと言わなかったかい?」
デュアがにこにこ笑いながら、でも何故か手を震わせて、そう聞いてくる。
彼のその反応がなんだか一同分かる気がして、うんうん頷いた。
「そうとしか言い様がない…」
「じゃあ何か?君のねーさんが変態だからシェイディはねーさんを怖がったり、逃げまくったりして、ねーさんが変態だからヒショウが攫われたり殺されそうな目にあったり、みんな怪我を負わされたりしたのか…」
マナが何ともいえない、怒っているような呆れているようなでも表面上笑っているような顔をして、シェイディに聞き返した。「なんか、俺の声が好きらしくて…昔、いろいろとされて泣かされてた…から…」
言ってるうちに思い出してきてしまったらしいシェイディの表情は曇り
今にも死にそうな顔になってきたので、なんとなくユリカがヒールを連発しまくった。当然無意味だ。
さっきからシェイディがやたらふさぎこんでいたのは、ルナティスも少し姉と同じ属性がある気がしていたから…
あの部屋の中で共感してそうで怖かった。「俺たちは昔から外見だけは似ていて…
双子だけど性別が違うから一卵性ってことはないだろうけど…それでも本当に似ていた。
けれど、姉さんは昔から異常で…いつも冷静で物静かで、でも裏では暴力的で、
でも頭が良いから誰もそんなこと知らなかった。
…優等生だったけど、裏では俺や、俺の友達にずっと酷いことをしてうさ晴らしして…
俺の友達はみんな、俺を避けた。
姉さんを怖がったのもあるし、姉さんと同じ顔をしてる俺のことも、怖がって…」
だんだんと、シェイディの目がうつろになっていく。それに焦って、マナが彼の隣に椅子を寄せて座り、抱きしめた。
彼は話したいから話している。それを「話すな」と言うのが言いにくくて…
でもこのまま話させて、思い出させて。彼の心を沈ませるのも嫌だった。
どうすればいいのか、分からない。