「シェイディ…いっちゃった…ろくに見送りできなかった…」
「……。」
ルナティスはシェイディとの別れを早朝に終えて、泣き崩れている。
そんな彼にヒショウは突っ込みを入れたいことがいろいろあった。

子供のように俺の膝で泣き崩れるなとか。
故人になったみたいな言い方をするなとか。
あれだけレイやシェイディやシンリァに泣きついていたくせにとか。
息子を送るお袋のように選別を大量に押し付けていたくせにとか。
選別は大量の収集品で、せめて換金してからにしろとか。

「…すぐにあっちから連絡くるだろ。」
「わからないじゃないか〜WISやギルドチャットは管理されてるかもしれないからってできないし、他にどう連絡取ればいいのか…」
弱気な言葉を連ねるルナティスにしばらく困惑していた…というより、珍しくて目を丸くしていた。
ずっと他人を励ましてばかりで、プラス思考だった彼が…と。

もしかして、ずっと彼の周りの人間―特にヒショウが―不安に駆られ弱気であったりしたから、彼はプラスにいようと気張っていたのではないか。
そう思うとかなり彼に負担をかけてばかりだったと後悔した。

「レイもシンリァも頼りになる。シェイディだって弱くない。何かあるはずが無い。」
とにかく彼を励まそうと言葉を並べる。
自分だって彼らのことは心配だと思っている。それなのに上辺だけの様なこの言葉に意味があるのか、と思う。

「…だよね、そうだよね、うん…」
彼はぼそぼそと呟きながら言い聞かせて立ち上がった。

「よっしおっけー!!僕もグズグズしてられないね、プリーストに転職してくる!!」
「またいきなり転職か」
ノービス、アコライトといきなり転職してくると言い出されてきた為、また呆れたため息をつくばかりのヒショウだ。
「ちゃんと規定レベル超えてもがんばってたんだよ!さすがに最高値にまでする余裕は無いけど。」

自室から装備を持ってきてテキパキと装備し、ちょっと買い物に行ってくるというような雰囲気で「じゃあ!」と手を振る。
「待て」
「ん?」
「……。」

待て、といいながら口ごもるヒショウの様子に、思わず吹き出しかけた。
彼の様子はまるで言いたいことが上手く言葉にできないで今にもいじけそうな子供のようだった。
転職に付き合うと言おうとしたが、寸でのところで聖職者の集まりの場にシーフ系の職が入って行くのは好ましくないと思い至ったのだろう。

ルナティスは言われなくともそれを察し、ヒショウの腕を掴んで引っ張った。
「んじゃあ行こうか。」
「…っ」
有無を言わせずぐいぐいと引っ張って行くが、それにヒショウは文句を言わない。そうしたかったから。



「…いい天気だねぇ」
大聖堂までの人気の少ない通りを歩きながら、ルナティスの言葉に立ち止まり二人で空を見上げた。
どこまでも青く広く、飾りのようにポツポツと綿菓子のような雲が浮かんでいる。

「……。」
よくある空、けれどヒショウにはそれが始めての空かと思えた。
今まで靄がかかっていた視界が開けたようだった。

「…シェイディも…」
「…ん?」
ヒショウがどこか呆然と呟いた。
「シェイディも今頃、この空のどこかを歩いてるんだろうな。」

おかしなことを話しているな、と思いながら隣の友人を見た。
「…うんっ」
やたら嬉しそうに笑って頷いている。
この友人は、こんなに笑う人間だっただろうか。

「…ルナティス」
「うん?」
「旅に出ないか?」
「いいよー」
遊びに行かないか、のようなのりでヒショウの誘いもルナティスの承諾も流れた。
互いに見合って思わず笑った。

「今の家、売るか。」
「だねー、これから宿代かかりそうだし。」
「マナはどうするか。」
「一応聞いてみる?彼女もミニインビシブルのメンバーだし」
「…ミニなのか。」
「じゃない?本家はデュアさんのだし。」

大聖堂への道を歩き出しながら、淡々と準備の話は進む。

「とりあえず、シェイディの連絡を待ってからになるけどな。」
「あ、そっか。うちに何か送られてきたら困るしねぇ。」
「まあ、まず何よりもお前が転職してこい。」
「はいよー!」



「……。」
ヒショウは大聖堂の外壁の日陰に座り、ぼんやりと空を眺めていた。
青い空に白い雲が急く様に流れている。
正午を告げる鐘の音が街に響き渡った。

不意に感じた人の気配に、視線だけ向けると見慣れた姿があった。
相変わらず薄着のマナで、なぜかその肩には銀色のすこし変わった鷹がいる。デュアの雄雄しい鷹ではない。
「あれ、ヒショウ中に入らないのか?」
挨拶や、何故そこにいるのか、という質問ではないところから、ルナティスからWISで事情は聞いているのだろう。

「ああ、アサシンだから入りにくいか。」
答える前に勝手に納得するマナに肯定の苦笑いで返した。
彼女は歩み寄ってくるなり、隣にどっかりと腰掛けた。

「まぁ、そんな付き合い長くも無いが、ガキだガキだと思ってたお前らも遂に皆二次職かぁ…」
「…ガキだと思われてたのか。」
「私からしたら経験も歳もガキだしな。」
「……。」
そう言うマナの歳が気になったが、女性に年齢を聞くのはよくないと口をつぐんだ。

「ヒショウ、お前って夢とかあるのか?」
「は?」
突然振られた話に目を丸くした。
「いろいろ大変だっただろ、将来のこととか考える余裕も無かったんじゃないか?」
「まあ、確かに…」
彼女の言いたいことは分かるが、久々に会っていきなり話すことではないと思った。

「むしろ今からじゃ将来も何もないと思うがな」
「んなこと言うな若造。私だってまだ夢追いかけてんだよ。」
隣からガッシャガッシャと髪の毛をかき混ぜるように頭を撫でられる。
「っ…夢?」
手を払って崩れた髪を撫で付けながらマナを見た。

「そ。あんま誉められたもんじゃないけどな。その為に生きてるっつっても過言じゃない。」
「…まだ、叶ってないのか?」
「まぁな。一生かかっても叶うかわからん。」
「マナなら、できそうだ。」

マナはフッを頬を緩めて、ニッと歯を出して笑う。
その笑顔になんとなくルナティスを思い出した。
「サンキュ」
「……。」
何故だか顔がカァッと赤くなって、胸が締め付けられる気がした。
子供のようだと思いながら、それを誤魔化す様に空に視線を移した。

旅立つには良い日和だと思った。
今からでも遠くへ歩いて行きたい。

「…シェイディと連絡取れたら、あの家を売り払って流れようと思うんだ。」
「ルナティスもか?」
ヒショウは頷く。
「んじゃあ私も旅立つ用意しなきゃな。」
あっさりと言う彼女をまた見た。

「なんだよ、私は邪魔者扱いか?」
「そうじゃない。いいのか、デュアさん達の方は…」
「…どうでもいいが、私は呼び捨てなのにデュアはさん付けか。」
思わず、あ、と声を漏らした。
年上だし、冒険者としてもレベルは上なのに、よくなかったかと思った。

「まあ、ちょっとは親密度増したってことだろ。
デュアも早く呼び捨てにしてやれ。あいつも大してお前と歳変わんないし。」
人があれこれ考えているとそれをひっくり返すような言動に、またルナティスを思い出した。
今まで気づかなかったが、多少色の違いはあるが金髪にエメラルドグリーンの瞳という共通点があるし
ルナティスが女になって男らしくなるとマナになるんじゃないかと思った。

「あっちにゃ立派な保護者がいるし、皆それぞれしっかりしてるからな。子供ばっかのこっちのほうが心配だ。」
「誰が子供ですかー誰がー!」
マナと反対からルナティスの声。
振り返れば見慣れない姿に一瞬誰だ、と思ってしまった。

黒と赤の法衣。
落ち着いた風貌に、大聖堂でもらったらしい聖書がプリーストらしくて似合っている。
「お、転職おめー」
「…おめでとう。」
「あり〜」

「転職祝いのハンマーフォール!!!」
「はうぁあ!!!ピヨってるピヨってる〜」
「…」
じゃれあう二人と傍目から見て、本当によく似た二人だと思うヒショウだった。

(…ってことは、俺はルナティスを2匹抱えて旅することになるのか…?!)





「ところでマナぁ〜その鷹は?」
混乱から回復したルナティスがマナの肩に留まっている変わった鷹を指差す。
ああ、と思い出したように言って、マナはポシェットから白い花を出して鷹の前でひょこひょこ揺らしてみせる。
「シェイディからの連絡線。」
「「え」」

マナはその花を鷹に咥えさせる。
そしてポシェットから小さいメモとペンを出して、何かを書いてその足に括り付ける。
ピィ、と鳴いて、鷹は花とメモを持って青空へ飛び立っていった。

「ってわけで『旅立つ』って書いて送ったから。いつでも出発できるぞ。」



ルナティスが吹き出して、ヒショウも思わず苦笑いを浮かべた。

提案、相談、決断までずいぶんとトントン拍子に進んできた。
3人は笑いながらその日のうちにヒショウ達の家を売り払い、出発した。





「とりあえずどこ行く〜?」
「暑くなるから北がいいな…。」
「いいや!ココモビーチで焼くぞ!」

「暑いのに更に海は…」
「マナはそんな薄着なんだからどこいても焼けるだろー!」
「分かってないな!こんなビキニ焼けみたいになってたまるか!全裸で真っ黒に焼く!!」

「「ちょっと待った。」」

   

 

終わってみました。
アッサリです。
(つД`;)ラスト1話にやたら時間かけたのにたいした終わりじゃなくてスミマセッ
お付き合いくださった方、ありがとうございました。

MOEもEROも無しのシリーズでした。y=ー( ゚д゚)・∵.