初めて出会い
月日を重ねるうちにお前は私の心に刺さる小さな棘になった
感じたことの無い苦しくもどこか甘い苦痛をくれた
それが私たちに禁じられた温かいものだったのだと
今なら分かる
「すまないな。…ルナティスとはしばらくお別れだから、もっと“私”で話をしたかったんだ。」
ランプだけの薄暗い部屋で、シンリァが部屋の鍵を閉めてベッドに歩み寄る。
もう目は見えないはずだが、目隠しをつけたままのイレクシスがぼんやりと顔をあげた。
「…それで、ずっと俺を置いておくということは、俺は連れて行ってくれるのか?」
「当然。」
シンリァの即答に、イレクシスは黙った。
彼の目が見えたなら、目を丸くしていることだろう。
彼女はベッドに腰掛けるイレクシスの前に膝をつき、彼の膝にそっともたれかかるように頭を寄せた。
昔は何にも興味を示さなかったシンリァに、イレクシスが甘えるようにそうしていた。
「ずっと、お前と一緒にいたいと思っていた。もう私は何にも縛られたくない、お前を諦めることもしたくない。」
イレクシスは身体を強張らせ、呆然とシンリァの黒い髪に触れて固まっていた。
異常なまでに彼女を渇望していたのに、それが突然コロリと手元に収まってしまった。
突然のことで現実とは思えなかった。
夢にしてもできすぎた夢だと思った。
呆然と彼女を呼べば、こちらを見上げてくる気配。
こんなにも自分に視力がないことを悔やんだことはない。
「…綺麗な目、だったのに。」
目隠しを外されても、イレクシスに見えているものは変わらない。目の前にいるシンリァの魂。
記憶にある彼女の美しい容姿と鋭い眼光によく似た、繊細で力強いもの。
彼の目が失われたことを勿体無いと思ったが、シンリァはそれを口にせずにただありがとうと言った。
それがあったからこそイレクシスは彼女を見つけ出せた。
「貴方にそう言わせるのだから、こうした甲斐があるというものだ。」
「…馬鹿なこと。」
そんな冗談で、小さくシンリァが笑う。
信じられないが、なんとも良い夢だと思った。
「さて…これから時間はたっぷりとある。デバガメも増えてることだし、そろそろ見せ付けるのも止めましょうか。」
「…見せ付けていたつもりはないが。」
シンリァが笑いながら、イレクシスから離れた。
デバガメというのは扉の向こうで聞き耳をたてているギルドメンバーの面々だ。
声が聞こえたのだろう、向こう側で強張る気配を感じ、二人は小さく笑った。
もともと一流の暗殺者と、他人を魂の気配で見る魔術師だ。扉を隔てていても、他人の存在に気づかないはずは無い。
シンリァが気配を殺して扉に近づき、勢いよくあけると雪崩のように見慣れた仲間が密度の高い将棋倒しのように倒れてきた。
「マスターさん、ちゃんとメンバーの覗きはしかってあげないと駄目ですよ、教育です。」
彼女がそう言いかけるギルドマスターのデュアは最前面に居る。
「風呂と着替えの覗きがいけないが、美人を覗き見るのは許す方針ですよ俺は!」
「うわ、マスターあほぃ」
マナがまるで他人事のようにつっこむが、彼女はデュアの隣に倒れている。
シンリァはそんな彼らを笑いながら見回して、視線を上げてふと気づく。
「あれ、シェイディがブラックスミスだ…。」
「「「「「「「え」」」」」」」
一同が同時に声をもらして、扉の向こうで呆れながらそれを見ていたシェイディを振り返る。
「うおおおお!!!マジダ!!!!」
「おいマスター!!はやくあのお祝いするぞ!!」
「あーそっか、忘れてた。久々のメンバー転職だったからなぁ」
「まずは列に並べ!!腹から声だせよー!!」
「え、え、え…あ、ルナティスさんとヒショウさんも手伝ってください!」
「…あれ、本気でやるのか…」
「はいはい、気合いれてお祝いー!!」
「私もやるーw」
「…俺もやらなきゃならんのだろうな。」
シェイディ以外の一同があれよあれよという間にシェイディの左右に列を作った。
そして一瞬しんとした後、デュアが声を上げた。
「はい、せーの!」
「シェ」
「イ」
「ディ」
「転」
「職」
「お」
「め」
「で」
「と」
ちなみに順番は、デュア、マナ、アレク、ゲート、ユリカ、イレクシス、ルナティス、ヒショウ、シンリァ。
入り口に並んで一文字づつの気合の入った激励の言葉。
ただし
「……メンバー足りてねぇし」
最後の「う」をいうメンバーがいなかった。
こんな阿呆な人達でも、温かさをくれた。
ユリカとルナティスが五月蝿く掻き鳴らす祝福の鐘と光の中で
みんな大好きだ、と心の中で呟いた。
皆へ告げた別れ。
それでも、誰一人止めはしなかった。
そして泣いてくれた。
頑張れ、と後押ししてくれた。
それだけで十分、自分の居場所はここにもあると感じられた。
マナさんにもらったエンペリウムを思い出しながら、もうギルド名は決めた。
この大切な場所と同じ名前にしよう。
ヒショウとルナティスはきっと、入ってくれるだろう。
繋がりは切れない。
ギルド創設
ギルド名 : 『†インビシブル†』
ギルドマスター : ブラックスミス・シェイディ
ギルド副マスター : ブラックスミス・マナ
新規加入者 : アサシン・ヒショウ
プリースト・ルナティス
あとがき
番外編のシェイディ×マナにリンクしているわけですが…
後からくっつけたので不都合なところがいっぱいです。
ルナティスがまだアコライトだとかアコライトだとかアコライトだとか(爆
(`Д´)私はそんな計画的に生きてませんからー!!!!