誰でも自分の生き方に悩むんだよね。
けど、よーく考えて結論を出すよりも
自分の生き方をぐるりと変えてしまうような
衝撃的な出会いを待つのも、ひとつの手だよ。
「あ、俺もう転職だ。」
三人そろっての朝食の席で、シェイディが冒険者カードを見つめながら、ポツリと漏らした。
それを聞いて、今度はヒショウとルナティスが揃って「え」と声を漏らした。「おめでとうシェイディ!」
「おめでとう」
「ありがとう…」
二人からの祝福の言葉に、一応そう返すが…なんで自分よりもノービス暦が長いはずのルナティスが
まだ転職するレベルに達していないというのが腑に落ちない。
本人は気にしていないようなので口には出さなかったが。「何に転職するつもりなんだ?」
「…アーチャー(弓手)かな。」
ヒショウが普通に話しかけてきたことが少し気になったが、目が合うとまた口ごもるだろうから、とシェイディは視線を反らして応えた。
「じゃあ、将来はハンター?バード?」
ルナティスがよう聞くと、彼はじっと考え込んだ。「…考えていない。とりあえず、体力を使わない職がよかったから。」
「消極的ー!!夢がなぁい!!!」
ルナティスが突然叫んだ。
「そんな適当な理由じゃあそのうち飽きちゃうよ?!」
「そういわれてもな…」
とりあえず、稼げればいいと思っていた。
そして『外』に出たかったから、冒険者になった。
それ以外はまったく考えていなかった。「ルナは何になるんだ?」
「僕?アコライト(修道士)になって、最終的にプリースト(聖職者)。」
プリーストは知っている。
よくポリン相手にヘバっている俺に回復をしてくれたり、いろいろと魔法をかけてくれた。
彼らに助けられると、しばらく妙に体が早く動いたり、力強い攻撃ができたりしていたから
きっと戦闘の補助を担当するのだろう。正直、意外だった。
彼は見た目によらず戦いにおいては凶暴で、疲れていても目の端に入った敵には片っ端から襲い掛かる。
そして攻撃も豪快だ。
てっきり戦闘系になると思っていた。「あ、でも殴りだよ?」
「…殴り?」
「プリーストって本来は支援魔法に関する知識や技術をきわめて、補助役に回るんだけど
時々戦闘系も鍛えて、本とかメイスとかでガンガン殴りこむ人がいるんだよね。
僕もそれになるつもり。
そうすれば自分で回復できるし、それなりに補助魔法も使えて便利だしね。」
なるほど、確かに便利そうだ。「…ヒショウは?」
一瞬、目が合ってしまったが彼は意外にも平気そうで、じっと悩みこんだ。
…どうやら、シェイディに慣れたらしい。「悪いが、俺も消極的な理由だ。
一番の理由は、一人でもなんとか戦える職ならよかった。
あと、昔から力よりは速さと持久力に自身があったし
手先も器用だったから、シーフ(盗賊)になって
最終的にアサシン(暗殺者)になるつもりだ。」…アサシン?
……暗殺者?
………何でそんな危なそうな職業になんとなく、そこはつっこまないでおいた。
実際のアサシンをまじかで見たことはないが、なんだか怖そうだと思った。
ルナティスとヒショウの話を聞いても、イマイチ参考になった気がしない。
百聞は一見にしかず、ということで、実際にいろんな職業の人を見に町に出た。
「じゃあ、僕は転職試験に行ってくるよ」
「は?」
突然のルナティスの言葉に、ヒショウは眉をしかめた。
「…お前も転職できるレベルだったのか?」
「ん。もう一ヶ月くらい前から。」ヒショウの突っ込みは、シーフのスキルのおかげで高速の二連続。
それを脳天に食らって、ルナティスはテーブルに突っ伏していた。
「…なんで転職しなかったんだ馬鹿。」
「だって〜…ノービス(初心者)だといろんな人たちがいらないアイテムくれたり
辻支援してくれたりしたから、転職しちゃうのがもったいなくて…」
「アホか。時間を無駄にしやがって。」「ヒショウは今日は休み?」
「いや、急用ができた。」
支度をしながらそう言うヒショウを見ると、彼もいろいろと出かける準備をしているらしかった。
いつものシーフの戦闘服に着替えると、彼はルナティスよりも先に家を出て行ってしまった。「ヒショー、いってらっしゃーい。いってらっしゃーい。」
なぜか、ルナティスはいってらっしゃいとかを二回言う。
もう気にならないが、なんだか…ホッとする。「お前こそ、ちゃんとアコライトになって帰って来い。」
彼に言い放って、大通りに向かって歩き出した。