俺の将来はいい加減で
あらかじめ敷かれたレールの上を走るよう。
だからせめて、自由に走り回ろうとするお前達の後押しをしたい。
いつかきっとそれが、俺自身の勇気になるから。
『シェイディへ。
ひょっとしたら僕はしばらく帰れないかもしれません。
ヒショウもどこかへ出かけました。
お留守番よろしくお願いします。
ご飯作っておいたので食べてください。
あと、ギルドの人たちはどうでしたか?
帰ってきたらいろいろ聞かせてください。
何かあったらすぐに耳打ちしてね。ルナティス』
「お袋か?あいつは…」
テーブルの上の置手紙を見て、思わず苦笑いを浮かべた。
とりあえず、作られた食事を食べておこう。
『シェイディ。』
「うわ?!」
ずっとシーンとしていた室内に、いきなりヒショウの声が聞こえて驚いた。
ヒショウからの耳打ちのようだ。『だ?』
『今、家か?』
『ああ。』
『ギルドを見てきたのか?』
『ああ。』
声のトーンを変えずに転々と聞いてくるヒショウに、同じく転々と返す。
『じゃあ、何に転職するか決まったのか?』
『……』「インビシブル」のみんなはいろいろ話してくれて、軽く狩りにも連れて行ってくれた。
けれど、そんなことをしなくても
シェイディは心の奥で、何になるか決めていたのだ。『ブラックスミスを目指そうかと思う。』
狩りの中で、シェイディはずっとマナを見ていた。
鍛冶屋なだけあって彼女は腕力があり、戦闘としてもなかなか役に立っていた。
けれどずっと荷物もち状態でなかなか大変そうではあった。
そして狩りの終わり、戦利品を売りにいくのも彼女の役目で
そのあと、弓ローグのゲートが彼女に武器の製造を依頼していた。
ずっと、面倒くさそうな仕事だと思った。けれど、彼女は終始楽しそうだった。
解散してから、彼女に聞いた。
「何故そんな面倒くさそうな仕事を引き受けているんだ」と。
彼女は笑って答えた。
『だって楽しいし。私にしかできないことだからみんな頼ってくれるし
武器を作って、それがいい出来で、依頼人が喜んでくれれば最高に嬉しいだろ。
まぁ、リスクもあるけど、ギャンブルみたいで面白いしな。』彼女が心からそう言っているのが分かった。
本当は、ブラックスミスになりたかったんじゃない。
胸を張ってブラックスミスという自分を誇れる、マナがあまりに魅力的で
彼女のようになりたいと、思ってしまった。
自分でも呆れた理由だと思うけれど、それでも、ブラックスミスになることを彼は決めていた。『そうか、よかった。』
耳元で、そうヒショウの声がする。
『なにが?』
『一言も話していなかった職に就くって事は、何か特別なことがあったんだろう?』
確かに、マナとの出会いがあったから、シェイディはブラックスミスになろうとしている。
『自分で、道を見つけられたんだな、と思った…から。』
『……ああ。ありがとう。』『いきなりですまないが、またフェイヨンに篭もってる。
一晩二晩帰れそうにない。ルナティスにも伝えてくれないか。』
分かった、と返したら、ヒショウからの耳打ちは切れた。
結局、ルナティスもヒショウも、二日帰ってこなかった。
その間、難なく商人に転職したシェイディは、ずっと『インビシブル』のメンバーに連れられて狩りに行き、着実にレベルを上げていた。
倉庫内のいらないものを売ってしまおうと、先に露店の資格を取っておいた。
とりあえずヒショウに耳打ちを送り、売ってもいいものを聞きながら倉庫を整理し、露店に出すことにした。
「売れてますか?」
プロンテラ大通りに開いた露店で、品物を整理をしている最中にいきなり声をかけられた。
見れば、プリーストの法衣の少女。
「あ…ユリカ、さん」
「こんにちは」
うろ覚えだった名前は間違っていなかったようで安心した。彼女は露店の横に座り込む。
いろいろ見て、彼女は何かを手にとった。
「骸骨の指輪…いっぱいありますね」
「ええ、同居人がずっとフェイヨンに篭っていたらしくて。」彼女は珍しくもないそれをじっと見つめていた。
不意に、彼女自信も骸骨の指輪を付けていることに気付いた。「…指輪、好きなんですか?」
「あっ…いえ、そうじゃなくて…」
「…?」
「…これを、プレゼントして下さった方がいるんです」
「…恋人ですか?」彼女は顔を真っ赤にして、うろたえた。
「ち、違います!全然知らない人なんです。えと、私がアコライトの時に、覚えたての支援魔法を使ってみたくて、辻でシーフさんにかけたんです。」
「その人が?」
ユリカは頬を染めて頷いた。
…その時に一目惚れでもしたか。
…分かりやすい。「…私、モンク志望だったんです。プリーストはパーティーで一番重要で責任重大だし、はっきり言って、私は人の為に、なんて考えはなくて…。
でも、その方があまりに嬉しそうに、優しく微笑んでいて、お礼にって指輪をくれたんです。
私がプリーストになって、誰かが少しでも助かるなら、あの人のように微笑んでくれるなら…って。」
単純ですよね、と言って彼女は笑った。けど、シェイディは心から彼女を素敵だと思う。
自分の意思を、しっかりと持っている。
「いや、凄いと思う…」
ユリカは目を丸くしたが、はにかんだように微笑んで、ありがとうと言った。「じゃあ、スピードポーションと…あ、乙女の日記を下さい」
「あ、どうも」
商品を渡して、代金を差し出された半分ほど受けとった。「え…?」
「ギルメン価格です。」
「でも…」
「どうせ、そんなに金が必要な訳じゃないから」
「けど、これを取ってきてるのは同居人さんでしょう?怒られません?」
「ボンゴン帽を倉庫の邪魔だって店売りしようとした人だし」
「そ、それは…」
すごい人ですね、と笑った。
不意に目に入った。
微笑むユリカと…その後ろに、囚人のような…死臭を纏うモンスター。
「危ない!!」
「なっ、きゃあ!」
シェイディはユリカを引き寄せ、二人で露店の商品の上に倒れ込んだ。
背中をその死人に切られたらしいシェイディは、痛みにうめいた。
「ヒール!」
横から治癒魔法の声。
だがそれが飛んだ先はシェイディではなく、そのモンスター。
生者には回復として働くヒールは、死者に対しては攻撃となる。
死人はそのヒールを飛ばしたアコライトに向き直った。
「早くその商人を回復して!」
叫ぶアコライトは、死人と距離を置いて逃げ回っていた。
はなから倒すつもりはないらしい「ヒール!」
ユリカからヒールを受けて、シェイディは立ち上がった。
傷跡がじんじんするが、もう完全にふさがっている。
「ありがとう……ってルナぁあ!!!?」思わず叫んだ。
死人のターゲットを取って、逃げ回っているアコライトはルナティスその人だった。「お互い転職おめめ〜…じゃなくて!誰か早くコイツ倒してくださーい!!!」
「あ、わっ、ひ、ヒールヒールヒールヒールヒールヒルヒルヒルヒル!!!」
ルナティスの叫びに反応して、ユリカが物凄いいきおいでヒールを連発した。
てゆーか、ヒルで発動するのかよ、とか思ってみる。
さすがはプリーストのヒール。回りの人たちが加勢に入る前に死人は倒れた「ゾンビプリズナー…テロですね…」
この囚人のような格好をしたのはゾンビプリズナーというモンスターらしい。
「テロ…?」
「シェイディ〜!!怖かったよぉ!!」
「うわっ」
背後からヘッドタックルと思われる勢いでルナティスに飛びつかれ、シェイディは石畳の道に倒れた。「大丈夫!?さっきの怪我もう痛くない!?」
「がっ…ぅ…る、なっ…」お前が思いっきり鳩尾に肘をついていて、死ぬほど痛い…ってゆーか苦しい…
「あ、あのっ!!シェイディ君が苦しがってますから!!」
気絶寸前のところでユリカが彼を羽交い絞めにして、シェイディから引き剥がしてくれた。
やっとなくなった痛みと、肺に入ってくる空気に、彼は心底ほっとした。「あれ、貴方は?」
今気づいたとばかりにルナティスはユリカを振り返る。
ゼィゼィと妙な呼吸のシェイディに気づかないで。
ユリカはあわててルナティスの腕を放した。
「えと…はじめまして、シェイディ君の入ったギルドで支援してます、ユリカといいます。」
「ああ!そっかwはじめまして、シェイディがお世話になってます。」
さっきのことなどケロリと忘れてお袋キャラになるルナティスに、初めて殺気を覚えたシェイディだった。「あ、そうだ。テロって続いて起こることが多いっていうし、まだモンスター出るかもしれないから一旦離れ……」
言ってる傍から、三人に影がかかって…
そこには、巨大な黒い馬にまたがった、黒い騎士…「いきなり深淵ありえねえええええええええ!!!!!!!!!」
ルナティスの叫びを聞きながら、あれは深淵というのか…とか思いながら、シェイディは走る。「キリエエレイソンッ!!」
後ろに聞こえたユリカの声に、シェイディとルナティスは立ち止まり、振り返る。
彼女は深淵に攻撃されるギリギリの間合いを保ち、回りの人に補助魔法や回復魔法をかけている。「ヒール!」
彼女を見て、ルナティスも逃げるのをやめ、深淵のまわりにいる人々に回復魔法をかける。
微力でも、何かをしたかったから。「持ってろ」
シェイディはルナティスに青ポーションを渡して、ユリカのもとへ走る。
「ユリカさん!」
呼ぶと、彼女は振り返った。その顔には疲れと、恐怖のための汗が浮かんでいた。
「危ないから下がって!」
「分かってる、これ。」
彼女にありったけの青ポーションを渡す。
「ありがとう」
早速彼女は一個飲み、すぐに支援に回る。
シェイディができるのはこれくらいで、あとは足手まとい。
大人しく離れようと、深淵が暴れるほうから背を向けて「シェイディ!!」
ルナティスの叫び声が聞こえて
目の前にいた、人間よりもずっと大きい、ワニのようなモンスターと目があった。