<Knight Side>


アンタを俺だけのものにしたい。
いくらアンタに嫌われないように綺麗な自分を演じようとしても
ずっと俺と共に育ってきたこの黒い感情は消えやしない。






ゲフェンの噴水の花壇に腰掛け少し雲が多い青空を見上げていた。
最近のんびりと自然を感じたり、空を見上げることが多くなり、そのたびに気持ちが落ち着く自分に気付いた。
何かが満たされ始め、心に余裕ができた…俺はそう思っている。

視界に掛かる黒い髪を掻き揚げて、目の前の人ごみに視線を移した。
今日はつれない恋人と恋人らしいことを、などと思い立ち、デートの誘いをしてみた。
相手はそっけなく応じてくれたが、以前は憎まれていたことすらある相手なので柄にもなくホッと息をついてしまった。

腕に風を受けて、そういえば騎士の重装備をしないで街にでるなんて久々だなぁと思った。
狩りに行くわけではないが鎧を外し、いつもその下に着ている軽装と剣を腰に提げ、モッキングマントだけを身につけている。



「お」

人ごみの中でも、昔躍起に探しまわった男の姿は一瞬で捉えられた。
紫っぽい身体のラインをはっきり浮かび上がらせる装束、並ぶと俺とは対だと言われる真っ白い髪。
いつも俯きがちな顔が待ち合わせ場所に近づくと不意に上げられて、深い蒼い瞳と目が合った。

細身でしなやかで、けれど強靭な身体。
アサシンの典型である素早さ特化に引き締められた身体。

「目がやましいぞ。」

表情もなくそんな皮肉を言われ、彼に熱い視線を送っていた自分に苦笑いを浮かべた。

「悪いな、アンタがあまりに綺麗だったもんで」
「白昼堂々寝言を言うな。」
目はいつも鋭くて、けれど口元にふっと笑みを浮かべる。
豹を思い浮かばせる彼の動きや表情一つ一つが好きだった。

これでもこの男とは正式に交際のようなものをしている。
そうなってから彼の今まで見れなかった一面がどんどん見えてきて、その度に彼にハマッていく自分に参っていた。
こちらとは違い、彼はいつもの狩りに行くのと同じ装備だった。
アサシンはもともと軽装のようなもの、俺と並んでも気にならなかった。

俺は男で彼も男だが、元々俺にはそんな性癖はなかった。
彼には気まぐれで手を出し、彼を犯しながら獣のような精神と決して屈しない眼光を見て
それからずっとこのアサシンに執着し続けた。
どんな綺麗な女より、どんなに妖艶な女より、この気高い男が欲しくなった。

この男の存在全てが欲しくなった。



出会いが最悪ならそれからの経緯も最悪だが、彼の友人やギルドメンバーの取り成しで俺が誠意をもって彼に接するということで丸く収まった。
独りでいるのを嫌う彼も、俺を傍にいさせてくれる。
それで上手く関係が成り立っている。

同時にそれは危うい均衡だ。
俺は誠意を持っているつもりだが、同時に彼を貪りつくしたい欲望もある。
下手に彼に近づけば、それを抑えられる自信が無かった。
今まで、自分の欲しいものは力ずくで奪い、手に入らなければ壊してきた。

今でもそうしたいと思ってしまうことがある。
そうすれば、俺はたったひとつの大切なものを壊してしまうことになるのに。



「……でるな。」
「…ん?」

ゲフェンの俺のよく来る店で昼食を取っている最中、彼が何か言った様だったが、またいろいろ深刻に悩んでいて聞き逃してしまった。

「また何か考え込んでるな。」
「あー、まあな。」
この悩みを話すわけにもいかず、俺はあいまいに笑って皿に並ぶ鶏肉の料理をフォークでつついていた。
彼はそれを追及はしてこない。
たとえ恋人でも深く関わろうとしない彼の性格のおかげで、俺もここまで我慢できたのかもしれない。
それとも、俺には深く関わらないほうがいいと本能的に察しているのか。

「次はアンタに何を貢ごうか考えてた。」

そう言って適当に茶化した。
それを本当だと思ったかは定かではないが、既にいくらか貢がれている事実を思い出して彼は眉をしかめて唇をくっと引き締めた。
「別に、貢げば誠意が伝わるというわけじゃないだろう。」
「態度に表したほうが相手に伝わりやすいって、自分でも安心できるだろ?」

不意に彼が野菜ばかり食べているのに気付いて、俺が食べていた鶏肉の小さな一塊をフォークで突き刺し、ソースをつけて彼の方に差し出した。
素直に彼は顔を出して、それを咥えていった。
食べる瞬間にそっと目を細めている様だとか、肉をごと咥えたフォークからそれだけ唇で取っていく様だとか、その一連の動作だけで人間ではないもののように思えて見とれてしまう。


…本格的に俺は病気だ。

「…あまり高い物を寄越すな。こっちはあまり狩りをしないからろくに返せないだろう。」
「貢ぎものを返されても困るな。それにアンタがこうやって俺に付き合ってくれるだけで十分満足してるさ。」

…本当は、まだ満足していない。
人間の欲なんて、満たされることの無いものだ。

「…そうか。」
彼は納得したように言い、また自身の野菜料理を食べ始めている。
…鋭い彼のことだ、きっとなんとなく俺の心情はわかっているだろう。



「そういえば、アンタはいつも何処に泊まってる?」
食事を終えて、軽く飲み物を飲みながらぽつぽつと話していた。
「いや、いろんなとこ周りながらその都度適当な宿に泊まってるが…?」
「…そうか。アンタが良いなら相部屋しないかと思ったんだが。」



「は?何だって?」

「今泊まってるのは友人の家だからな、アイツにも恋人ができたというのにいつまでも居候しては悪いだろ。
最近相部屋で安い定住宿が多いらしいから、そっちに移ろうかと思ったんだが。」
「…ぁー」

それは願っても無いことだったが

近づきすぎて、彼との関係を…彼を壊してしまいそうな危機感。
それが現実のものになりそうで怖い。
けれど、嬉しいと素直に思うのも事実。

俺は自分の思いに逆らえず、首を縦に振った。






<Assasin Side>


「…って、もう引越しかよ!!」
居候させてもらっている友人に言われ、最もだと他人事のように思った。
今朝引越しを考えていると彼に言い、一応恋人ということになった騎士に同居を呼びかけてみるかということになり
その日のデート(?)に出かけたと思ったら1時間ほどで帰ってきて引越しの準備だ。

思い立ったら吉日というか、騎士が手伝ってくれるというのでならさっさとしてしまおうと思った。
まあデートなんていつでもどこでもできるようなものだろう。一緒に住むとなったら尚更だ。
戻る前に申し込んだ宿に部屋の荷物をさっさと持って移動した。

ほとんど小物や日用品だけなので2人だけで手は足りた。



「てわけで今夜はお赤飯です。」
「なんかちがわねぇか?」
あっという間に終わった引越しに何も手伝わなかった(手伝うことが無かった)親友のローグとその恋人のちょっとした訳有りプリーストが結局くっ付いてきて、勝手に部屋の小さな台所で料理を作り始めている。

…こうゆうときは赤飯ではなく引越し蕎麦ではないのか。

まあそれはどうでもいい。
どうせこんなことにはなるだろうと重い、四人ではちょっと狭苦しくなる部屋のテーブルに椅子と箱とベッドで四人座った。

「おめでたいですねぇ、あのアサシンさんが早くも嫁いでしまうなんて」
「「いや嫁いでないし」」
プリーストがうさ耳をピンと伸ばしながら言うそんな戯言へのつっこみでローグと俺の声が綺麗に重なった。
俺に向けられるあの騎士のにやけた視線が痛い。
ちなみに余談だか彼のうさ耳は本物の耳だ。

なにやら勝手に場を盛り上げている2人はお似合いというか、よく釣り合っていると思う。
人懐っこそうで明るいローグに、繊細そうでやたら美形なプリースト。
釣り合っているのは見た目ではなく、その明るさというか、オーラというか。
それを見るたびに、俺達とは大違いだなと思う。

なんだか俺達の間には相反するものがある気がする。
完全に打ち解けることはなく、そうしていることで傍にいられる…そんな複雑な関係がある気がしている。
だがそれが俺達の形なのだから、不満に思ったりしたことはない。

「あ、ちなみにお2人が部屋を整理している間にちょっと探りをいれたのですが、右の部屋が人が入っていないので、ベッドは部屋の右に寄せたほうが…」
「「何の探りを入れてるんだ、何の。」」
またツッコミの声が被った。





「それではご馳走様でしたー」
「たまには遊びに来いよー」
話をしながら赤飯を食べただけで、2人はさっさと自分達の家へ帰っていった。
これから2人だけで暮らすという実感はまだない。

「じゃあ2人だけの引越し祝いやり直すか?」
「もう十分じゃないのか。」
「ワイン買ってきた。適当に選んだ安物だけどな。」
「………。」
半ば強引に静かな室内に連れられて2人で狭いテーブルの椅子に座る。

資金には余裕があったのでもっと良い部屋にすることもできたが、ここは大通りから離れて静かだし2人とも大雑把なところがあるので住めればいいだろうと適当に選んでしまった。
後先考えずに登録したが幸いカビや雨漏りなんてものは無いようで安心した。

どうも彼と暮らすという実感がない。
思えばずっと敵対していた相手だというのに、こうやってのんびり2人だけで酒を煽っている現状に首を傾げたくなる。
それを口に出せば「まあ、そんなもんだろ。」と投げやりな返事。

「…そろそろ眠い。」
「じゃあ風呂入ってこいよ。片付けておく。」
俺が何か言う前に、主夫のごとくちゃっちゃと片づけを始める騎士を見て、思わず口をへの字にしてしまった。
片付けたり、食器洗いをしたり家事を目の前でしているものすごく違和感があった。
彼には血に濡れた剣を持って残忍な笑みを浮かべている印象しかなかった。

「……。」
何故か落ち着かない。
ただ一人で暮らすより資金的な面で楽になると思い、彼を誘った。
それだけだったのに。
彼がずっと同じ空間にいることに狼狽している自分に気付いた。

「……先、入る。」
「おう」
同じようなことを言い、夜着を持ってバスルームに向かった。
カチャカチャという食器を洗う音がやけに耳に残った。



「……」
シャワーを浴びながら、不意に洗面用具を忘れたことに気付いた。
…何故かあの男の傍からは少し離れたいと思って、慌てていたせいだ。
確か片付けきっていない山の中にあったはずと思い、髪が吸った水を落とすように掻き、バスタオルで身体を軽く拭いて腰に巻いた。
多分まだ彼は食器を洗っていて、大声を出さなければ聞こえないだろう。

まさか無いとは思うが、あの男が変な気を起こす前にさっさと取ってこよう。

バスルームを出て少し早足で部屋の端の荷物の山に…



ガチャンガチャン!



目的地の前に付いた途端に背後でした物音に思わず振り返る。
さっきとは違う別のワインを持っていた彼が、それを落とした音だった。
彼の足元で灯りに少し反射しているガラスの欠片と影で黒っぽく見える液体が広がった。

落とすな、もったいない。

「ア、ンタ…何して…」
「洗面用具を忘れたから取りに。」
「あ、あー…なる…てか、服…」
「いちいち着るのも面倒臭いだろうが。」

女の裸じゃあるまいし、ここまで彼がうろたえるとは思わなかった。
自分の身の安全のためにも彼に背を向けて目的物を探す。



「…あっ」
た、と言おうとした瞬間、身体を後ろに引かれた。
いつの間にか後ろから抱きしめられている。
彼が袖の無い服を着ていた為、互いに素肌で振れる腕がやけに熱く感じた。
それ以外は布越しだか、それでも十分に熱い。

つまり、どこもかしこも猛烈に暑苦しかった。

「…熱い。」
「窓、開けるか?」
そうしたら寒いだろう。
そう思って、気温は別に熱くないことに気付いた。
熱いのは俺自身の体温。

それを自覚した途端、心臓の激しい動悸も自覚した。
抱きしめられて、乙女のように胸を高鳴らせている自分に思わず吐き気がした。

「がっつくな。まだ風呂に入ってない。」
「ギリギリだった俺の前にそんな格好で出てくるアンタが悪い。
「…お前な、なんでそんな俺に…っ」
そのまま床に引き倒された。

覆いかぶさられ頭を支えられて、そのまま深く口付けされる。
こうなると、もうとめられないだろうと早くも諦めた。
さっさと終わるのを待つのがきっと最善策だろう。

「…っ、う・・・ッ…」
喉に達しそうになり吐き気がするほど奥まで舌が蹂躙する。
そのせいで目の奥が熱くなり、涙が滲むのを抑えようと目をぐっと閉じた。
さっき飲んだアルコールばかり強い安物のワインの味がする。

「っは…ウ、っ…!ん、ぐ…」
キスというより拷問のようだった。
苦しさと吐き気を訴えて彼の力が入って固くなった腕を叩いて爪を立てる。
けれどそんなことはお構い無しで唇は押し付けられ、後頭部をしっかりと掴まれて、まだ端から端まで奥まで舐めようと顔の角度を少し変えながら舌を動かしている。

そうされながら、今更この男は強欲なサディストであることを思い出した。

「っぐ…ふっ!…ハァッ…ハァッ…!」
ほぼ息継ぎ無しで気管も塞がれたような状態での数分間の拷問が終わったとき、額に汗がじっとりと滲んでいた。
寄せた眉根の皺が取れない。
喉を通る空気がとても神聖なものに思えるほどありがたかった。

不意にキスではないアルコールの匂いがして、さっき彼がワインを零したことを思い出した。
アレが広がり、俺の肩あたりまで来ていた。
それを見た俺の視線に気付いたらしく、彼は上着を脱いでワインの水溜りの上に惜しげもなくかぶせた。

まあ、広がるのを防ぐことはできるだろうが、服がダメになるのは確実だった。
それを言う気力は今の俺には無い。

飢えた獣が獲物に貪りつくように、性急に首筋や胸に吸い付き歯を立て、剣ダコのできた手のひらが腹や腿をせわしなくなぞる。
「そんな必死にならなくても、俺は逃げない。」
彼の様子がなんだか可笑しく見えて、そうとだけ言った。

「逃がさねぇよ…どっちにしろ…」
上から低い声で落とされた囁きで背筋に寒気が走った。

俺がずっと持っていた彼の印象、血に濡れた剣を持って残忍な笑みを浮かべているというそれ。
あれは印象なんかではなく、俺自身が感じていた彼の本性だと悟った。
逃げるつもりは無いと言ったのに、急に追い詰められ逃げられなくなった兎のような心境に陥る。

逃げられないなら、せめて殺されない程度に抗おう。
そう思うのが精一杯だった。


Next


なんだか甘甘ラブラブな関係よりもギリギリがけっぷち(?)な関係っていいなぁなどと思ってしまい
書き初めてしまいました…。

(つД`)ちょっと鬼畜いカプスキーな同士に(いらっしゃるかわからないけれど)捧げます。
2編にする為多分後編はノビさん向けーで終わるはずかとっ


サイトで彼らを知っていて、なおかつちょっと気に入ってくれていた人などいたら…
謝罪します。orz
やっとまとまりはじめた彼らのキャラはこんな感じになってしまいました(´;ω;`)