昔はずっと一人だった。
親友ができて一人の時間が殆どなくなった。
そして互いにそこそこ一人前になったら、また一人になった。
二十年近く生きて、恐らくその9/10は一人だった。
そして今は、一人の時間が殆どなくなった。
「……。」
「起きれるか。」
ぐしゃぐしゃになって寝心地の悪いシーツを引っ掻き回しながら、何とかベッドに座りこむような体勢までは起き上がった。
俺の体の不調の張本人のくせに「起きれるか」と聞いてきた男を軽く睨んだ。
俺も文句は言い飽きたし向こうも謝り飽きただろう。だから何も言わないが。
「水」
言えば一秒待たずに差し出された。
もう毎度のやり取りだから当然と言えば当然。
昨夜散々な目に遭ったんだ、これくらいの小間使い道徳的だろう。
枯れた喉に冷えた水が浸みて心地良い。
だが落ち着く間もなくベッドから起きて、床に投げ出されていた下着だけ拾ってシャワールームに向かった。
しばらくこの男と暮らして分かってきたメカニズム。
リラックスして無防備でいると、襲われる率が高い。
シャワーで一度頭から冷水を被って、5分後には狩りの装備を完了した。
俺はアサシン装束を。
あいつは騎士の甲冑を。
「今日は何処行くか。」
剣に刃零れがないか、切れ味は良いか、確認しながら聞いてきる。
朝だがカーテンを半分閉めて薄暗い部屋で、漆黒の髪と瞳の騎士は尚黒い。
肌まで黒いとはいかないが、なかなか日に焼けている。
白い髪、青い瞳、青白い肌の俺とは正反対の配色。
彼が剣のチェックを終えて鞘に収める鍔鳴りで我に返った。
彼の問い掛けに遅れて考え込む。
…移動まで時間がかかるほうがいい。
正直まだ腿と尻が痛いんだ。
「エルメスプレートでも回るか」
「またそれは遠いな。」
「飛行船を使えばいいだろう。」
「日帰りできるか…?」
「なら今日はジュノーに泊まる。調度あそこの図書館に行きたくなってきたしな。」
有無を言わさずに狩場だけでなく一日のスケジュールまで決めてしまったが、相手は大人しく了解してきた。
盗難に遭ったところでたいした物ない家だが、一応鍵をかけて出かけた。
道中、たいして話すことはない。
露店で目に入ったものについてぽつりぽつりと話す程度。
以前、知り合いに「倦怠期のカップルですかあんたらは!」とか言われたが、そんなことはない。
話すのは互いに好きではないし、この距離が1番心地良いだけだ。
「飛行時間は2時間半だとさ。」
「たまにはのんびりするのもいいだろう。」
いかにも「カプラ転送を乗り継いだ方がよかっただろう」と言いたげだが、そんなのは無視。
いつもなら無理をしてさっさと狩りに行ってやるところだが、その無理を続けたせいで今日は少しキツイ。
「アンタからのんびりデートの誘いなんて珍しいな。」
どうやら耳に妖精でも住んでいるらしい奴は調子づいて、顎をつかんで顔を近づけてきた。
やめさせるのに遠慮無くみぞおちに拳を叩き込む。
体を動かす機能を落とさない為にそこには甲冑がないので良い感じに拳がめり込んだ。
フライトは長い。
なので船内にはレストランやら小さいカジノができていて賑わっていた。
そういえば朝食をとっていなかったが、レストランで食べるほど食いたくもなかった。
その辺にいた男がりんごを売っていたを見つけ、ちょうど良いと1つだけたのんだ。
「あれ、アンタ賭けるんじゃないのかい。」
もらったリンゴに齧り付いたら男に怪訝な顔をされた。
この船内の奥でリンゴを使った賭けが行われている、その為のリンゴだからだろう。
賭けごとは苦手だ。
リンゴでなんて無意味でもっとやる気もでない。
「どうせ暇なんだ。賭けで時間つぶしてようぜ。」
となりで騎士が勝手に紙袋にいくらかのリンゴを買って、船室の奥へ歩いていった。
俺もリンゴを銜えながらその後ろについて行った。
奴はなかなか賭けが強い。
こんなつまらないところまで正反対だと思う。
ディーラーもどきの女性相手に着々と勝ち進めながら、リンゴの一つに齧り付いている。
荷物がリンゴだらけになっても困るのだが。
「お兄さん強いわね」
不意に掛けられた声はディーラーからではない。
さっきからチラチラこちらの方を見ていた女性二人だ。
プリーストとローグ、恐らくペアだろう。
「ねえ、私たちとも賭けをしない?」
ご丁寧に俺の方にも体を向けて騎士に寄り添ったローグからは甘い香水が香った。
「へえ、どんな?」
「そのリンゴと同じ。でも、私達が勝ったらデートしてくれる?もちろん朝までコースで。」
やれるものならやってみろ。
その男の相手をしたら翌朝にはアンタら二人とも孕んでるか腰が砕けてるか死んでるぞ。
と心の中で哀れんでやった。
「じゃあ俺らが勝ったら?」
「うちのプリースト様が支援してあげるし、私もついでに奉仕してあげる。」
「ベッドの中でか?」
騎士があの黒い瞳をうっすらぎらつかせてにやりと笑んだ。
俺にはそれが寒気のするものにしか見えないが、女には魅力的に見えるんだろうか。
ローグは尚面白そうに笑って、いつの間にか腰に回ってる騎士の腕を撫でた。
「もちろん。」
馬鹿め、50%の確率の危機を自ら100%にしやがって。
と心の中で哀れんでやった。
「私はあんな回りくどいことをせずに、お付き合いしたいんですが」
くるくると金髪の毛先がウェーブして、そんなところから磨いた大理石のように滑らかな肌といい、繊細そうで美しい女性だった。
あのローグもスタイルのよさの割に幼めな顔立ちで可愛いらしい。
一般でいうかなりの上玉だろう。
こう声を掛けられることはよくあったが、どうやら俺は性格の方が女にはつまらないらしく一晩限りの縁の誘いが多い。
時々付き合ってやることもあったが、一応今はあの騎士がいるのだからどうしたものかと黙って騎士を見た。
向こうは何やら様子を伺うようにこちらを見ていた。
それに気付き、同時に気付かなくていいことにも気付いてしまった。
あの男、自分が軟派されて俺がどう反応するか、または俺が軟派されてどう反応するか様子見しているのでは。
…嫉妬なんて町娘みたいなことはしないぞ。
止めてなんかやるものか。
アンタのせいでよその女にたなびく余裕など、身体的にも精神的にもない。
故にその気も毛頭ない。
だがアンタが女にとられるのが辛くて止めたなんて自惚れた勘違いされるのもゴメンだ。
「あいつ次第だな。」
それだけプリーストに言うと、もう食べあきた林檎を手の上で転がしながらあくびを一つした。
「他当たってくれ。」
受けるのかと思いきや、そう言って彼はあっさりローグを放した。
一瞬呆けた彼女は、溜息をついて潔く離れた。
「貴方は?」
見上げてくるのは改めて見てもやはりなかなかいい女の部類だ。
だが相手に不足はしていない。
というかもはやそんな余裕はない。
「右に同じ。」
そう言えば残念そうに溜息をついて、ついでとばかりに頬にキスをしてきてから離れていった。
離れていく二人の背中を見送ってから、またリンゴをかじりだした。
「惜しかったか?」
騎士がこちらを見て聞く。
賭けはもういいらしく、テーブルから離れて俺の隣に来た。
「別に。」
むしろアンタが乗り気だったのに放した方が気になってる。
興味がないなら初めから感心なんか示さないと思ったんだが。
本当に俺の反応を見たかっただけで乗り気のふりをしたというのか。
「いつも突っ込まれてばっかだからたまには女とヤリたいとか思ったんじゃねーか?」
「アンタがそんな気遣いをしてくれる奴だとは思わなかった。」
それなら俺がその気になれるように、アンタのせいで毎日痛むこの尻をなんとかしろ、と心で悪態をついた。
「随分リンゴ貯まっちまったな。」
自分で貯めたくせに、紙袋の中を見て呟いている。
「降りたらまず売っ払うか。」
「だな。」
やることも無くなったので、甲板に上がって待つことにした。
狩りは上々だった。
冒険者証にそこそこ溜まったポイントと、収集品とそこそこのレア。
いつもと代わり映えはない。
日が落ちる前に上がって、赤く染まったジュノーの街に戻った。
「図書館に行ってくる。」
着いた時からあそこが改装し、書籍の収容数も大幅に増えたと聞いて気になっていた。
別にそれが目的でここに来たわけじゃないが。
「荷物。」
それだけ言って差し出してきた手に、荷物袋を押し付けた。
「宿、とれたらWISくれ。」
「了解。」
図書館に向かう頃には、まだ明るいが所々で青白い街灯が淡く光だしていた。
幼い頃はアルデバラン付近にいた。
あそことここジュノーはカプラ転送で繋がっているので、ジュノーの学問や書籍のおこぼれがアルデバランには繁栄していた。
子供心にジュノーを夢の国のように憧れを抱いて見ていたことがある。
冒険者になってそこそこ収入が出てから、ここへはよく来ていたのだが最近はご無沙汰だった。
だから妙に懐かしさを感じていた。
空が赤から蒼に変わった頃、壮大なシルエットを浮かべる図書館の前につき、入ってすぐに騎士の声がした。
『宿、とれたぜ。』
『ご苦労様。』
『収拾品、適当に売っといていいか。』
『頼む。』
頼んでから土結晶はとっておいて欲しいと思ったが…まあいいか。
どうせすぐに手に入る。
普通は捨てない品だが、彼は必要なものとそこそこのレア以外は本当にとっておかない。
お陰で家は殺風景なままで居心地はいいし、倉庫も満杯には遠い。
昔同居した親友とは大違いだ。
窓から差し込む月明かりは少ない。
建物内の所々に発光石が並べてあったが、流石に夜の闇相手では本の字までは照らせない。
発光石を片手に気になるものを探し、宿に持ち帰ることにした。
図書館で本を熟読するのは特定の情報を求めている学生か、暇な一般人や冒険者がほとんど。
だが時間がない人のためにもと、ここは寛大に貸し出しを受け付けてくれている。
それでも世界的に有名な場所故に図書館利用者は絶えない。
閉館間際、書架の至る所に発光石片手に本を下がす人の姿が見える。
その類の人影が、俺が机に積んでいた借りる予定の本の脇にあった。
「勤勉なのね。」
薄暗いが、今朝飛行船の中で声をかけてきた女性─プリーストの方と分かった。
「ただの読書だ。」
「こんな閉館間際まで?」
「…狩りの後だからやむを得ず。」
たった今本棚からとってきた一冊を山に加え、計四冊を抱えて書庫を出た。
ホールの方はまだ係員がいて、本もないので火が点けられて明るい。
「ねえ、よかったら私達の宿で読まない?」
「もう宿はとってある。」
「ツインでしょ?こっちもなの。だから、貴方がこっちに来て、私の相方が向こうに行くわ。」
…まだ諦めてなかったのか。
というか、本当にアンタの相方、殺されるぞ。
狩りが不調だったわけではないが、何となく今日のあいつは不機嫌に思えたから尚更だ。
正直、あの男に何かされぬようこのまま図書館で夜を明かしてしまいたい気分にさえなるのだ。
いやな予感がする。
「悪いが、間に合ってる。」
「お堅いのね。」
プリーストは苦笑いした。
今度こそ諦めてくれたか。
本を抱えて貸し出し用のカウンターに向かう。
その後を、ヒールの足音が寄り添ってきているが、この際気にしないことにした。
「その本、ご存知?」
貸し出し処理が終わってすぐに、一冊を指差して聞かれた。
首を横に振ると彼女はにっこり笑った。
下心のない、本が好きな女性の笑顔だと思った。
…さっきのように誘う表情よりもこちらの方が魅力的だと言いたい。
「『蒼天の天帝』というタイトルなのに、話中には『紅玉の帝王』という表現ばかりなのよ。」
「…掛けてるのか?」
「みたいなものかしら。当時の王を隠れて批判した本だという説よ。蒼い天に対して逆らう紅い王…つまり天に裁かれてしまえということかしら。紅玉というのは王が流させた民の血…とも言われてる。」
彼女の話は興味深かった。
その本をとりあげて背表紙を眺めた。
「…××年…なるほど、恐帝か。」
僅か数年の王なので名は広くないが、恐帝と呼ばれた程残忍な王だったと歴史書でみたことがある。
「本当、博識ね。アサシンには勿体ないわ。」
「雑学好きなだけだ。」
人と書籍について語ったことはない。
何しろ俺が関わったのは頭の弱い親友と、語る以前に人間ではないその恋人と……
あの騎士は、本など読むのだろうか。
まあ、趣味や興味のあることについて語るのはなかなか楽しいものだと分かったが、あの男とは語るより武器をとって戦う方が性に合う。
…いつだったかに知り合いがあの男を"虎"と例えて以来、そのあまりにしっくりくる様に俺の中で奴は"肉食獣"と認定されている。
だがそれもあながち間違いではないだろう。
虎に食われる兎になったつもりはないが、それでも奴は何かあれば─例えば俺が裏切ったりすれば、本当に俺を食い殺す、そう確信している。
だからといってまさか勘違いで食い殺されるとは思っていなかった。
目の前には、例の肉食獣が暗闇で瞳をぎらつかせている。
ああ、夜の闇の中でみると獣というより魔物だった。
「……。」
怒りで声も出ないといった感じだ。
原因は先程まで隣にいたプリーストの女性だった。
図書館から出て彼が迎えに来ていたのを見て、気を効かせて立ち去った。
朝に誘われた女性とまたちゃっかり一緒にいたことに若い娘のように嫉妬したかはわからないが、彼女が去り際に俺にキスをしていったのはまずかったようだ。
彼女はほんの悪戯のつもりだろうが、お陰でこっちはかなり危機的状況だ。
「…その血の昇った頭に有効か分からないが、弁解はしておくぞ。彼女と会ったのは偶然だし、さっきのは不可抗力だからな。」
「そうかよ」
それだけ言って建物の壁に押し付けて噛み付くように口付けてくる様子からして、俺の言葉なんか馬耳東風か。
アサシン装束を引きちぎるように解く手に爪はないが、脱がされる度に肌を切り裂かれるような錯覚をした。
何かと盛ってくるから装束を簡単に脱げないようにしたら一日で駄目にされた。
だから逆に脱げやすいようにした筋肉と肉を締め上体を巡る帯は、大して伸びることなく金具も外れて石畳の床に落ちる。
ベルトもしてないズボンは下着ごと簡単に下ろされた。
腰辺りが寒い。
「…やたらと嫉妬すんのも…、盛る…のも…阿呆らしいぞ。」
挑発したわけではない。
思いのままを口にしただけだ。
「お前こそ、女口説くなら目の前で堂々すりゃいいのに、影でこそこそしやがって。」
堂々としたところで同じだろうが。
「っ…」
耳をぴちゃぴちゃと舐められたり噛まれたりする感覚に高揚感と不快感を同時に覚えた。
抱きしめるように冷たい甲冑に締め付けられ、胴から背に回った腕に寛げただけの装束が完全に剥ぎ取られた。
寒い。
ジュノーは地理のせいか雪はあまり降らない都市で、まだ冬まで時期がある。
だがかなり北に位置する都市であり、もうすっかり夜だ。
抗議しようとしたが、片足を大きく持ち上げられ言葉を発するタイミングを逃した。
身体が少し浮き、不安定な大勢に思わず彼の肩にしがみついた。
だがすぐに下ろされたのは、野外での行為、どう体位を変えようか悩んでのことだろう。
すぐに身体を回され、図書館を囲う石壁に顔と胸を押し付けられる。
なんでもいい、寒いから早く温めて、そしてさっさと終わらせてくれ。そう願った。
肩を押さえつけながら腰を引かれ、よろめきながら情けなく尻を突き出す体勢になる。
その割れ目に差し込まれたのは皮の手袋をつけたままの親指。
それを感じて歯を食いしばった。
毎晩のようにやられ、今朝方まで荒らされていたとはいえ固く閉じたそこにはキツい。
「……っ…」
悲鳴も呻きも抑えられたが、圧迫感と擦り切れたような感触に襲われる。
濡れてもいないのに皮越しに親指を、というのは少しばかり痛かった。
休む間もなく無理矢理指が内壁と入口を押し上げ広げてくる。
そこに添えられるものは、見ずとも感触とこいつの行動パターンでわかる。
挿入の痛みに備えて奥歯と喉に力を入れた。
その瞬間に髪を後ろからわし掴みにされ、強く引かれた。
「っん、ぐ…ぅあ゛っ!ア゛ァ!!!」
挿入直前に反らされた喉から耐え切れず漏れた、呻き。
そして悲鳴。
予想以上の痛みと異物感。
挿入されたのは予想に反して人の体ではなく、硬いもの。
「ッイ゛…!!!」
ズルリと引き抜かれ感じたのは激痛。
その際に「カチャッ」とどこか聞き慣れた金物の音が聞こえた。
「ッバ、カ…やめ、ろ!」
体温は上がるどころか急降下して余計に寒くなった。
「いい加減、俺のくわえんのが嫌になってたんだろ。」
そんなこと、一言も言ってない。
引き抜かれたものがまた差し込まれ、肩が震えた。
身体を屈めて耐えたくとも、髪を掴まれていてできない。
情けなく壁に縋り付いた。
「久々の女はどうだったよ」
阿保か。
図書館でそんな行為に至れるわけがないだろう。
どこでも盛るどこぞの獣じゃあるまいし。
差し込まれた剣の柄らしきものが、限界以上に差し込まれ、押し上げられる。
奥歯を噛み締め石壁を掻いて耐えた。
相変わらず痛いが、状況は把握できて少し覚めた頭が「刃の方じゃなくてよかった」とか「一回で正確に奥まで差されたのはよかった」とか「無駄に装飾品が外されててよかった」とか、妙なプラス思考に働いた。
片手は髪を掴んでいるから、抜き差しするのも片手だろう。
逃げれば逃げられる。
だが後が恐い。
ぎりぎりなる奥歯が不快で、唇を噛み直した。
「勃ってねぇな。刃の方突っ込まれたかったか。」
それをやったら今度こそお前を自警騎士団に永久に叩き込んでやる。
いい加減、寒い。
痛い。
頭痛もしてきた。
さっさとこの場を打開する方法を考えていた。
「…アンタが…いい。」
爪が剥がれそうだったから、指の腹を壁に押し付けた。
痛みに滲んだ汗が額からこめかみを伝ってきた。
震える声で、妥協の懇願をする。
「こんな、じゃ…イケない…。アンタが…」
ふざけて“おねだり”なんか強要されても絶対に言ってやらなかった。
「た、のむ…ヤんなら…アンタのがいい。」
言えば、わし掴みにされていた髪が放された。
アイツがどんな顔してるかわからないが、今の言葉は多少効いてくれたようだ。
「…っく!」
やっと剣の柄が抜かれた。そしてまた身体を反された。
向かいあった相手の顔は、騎士の肩越しに光る街灯の逆光で見えなかった。
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