光の渦を抜けて、羽はその青年の前に舞い降りていた。 背が低く、柔らかい銀髪を一つに束ねて垂らしている、歳若いホワイトスミスの青年とも少年ともとれる。 それは間違いなく、シェイディだった。 「これが、幸か不幸かは分からないが…ただ、お前にとって望む未来を導けるものだと祈る。」 そう言ってシェイディが指先でつまんだ羽を差し出す。 その先にいるのは濡れたような艶を持つ短い黒髪に、蒼い瞳のアサシン―ヒショウ―。 「これは…?」 赤い光を纏う真っ白い羽を受け取り、ヒショウは怪訝な表情を浮かべた。 「ある道を辿った、お前自身からの贈り物だ。」 ヒショウはその羽を手のひらに乗せて、シェイディを見上げた。 触れた感触でわかる、この羽はこの世のものではないような、異質な気配を持っている。 彼の目には、青年を咎めるような色がある。 「シェイディ、まさか…これはまた何かの禁」 「これが最後だ、ヒショウ。」 シェイディが遮るように言う声は強く、厳しいものがあった。 「これを見せるのはお前が望んだことだ、見ないのもお前の自由だ。」 彼は、少し声を震わせていた。 「だが、どちらにしろ覚悟は必要だ。」 「……。」 ルナティスといることで破滅する。 その覚悟を持って、彼と生きていきたい。 泣くのなら、一緒に泣く方がいい。 ――― ルナティス ギルド脱退 ――― ヒショウ ギルド脱退 「シェイディ、あの二人から何か聞いてる?」 「いえ。でもまぁ…前も二人そろって脱退してるし、今は追っかけなくていいんじゃないですか?」 相変わらず目のやり場に困る格好のマナが、シェイディの寝転がっていたベッドに一緒に横になってくる。 シェイディは少し寝る位置をズラして場所を彼女に譲った。 「って、シェイディ…やっぱお前何か聞いてるだろ」 「聞いてはいないです。察しはついてるだけで。」 「どんな察しだよ。」 「バカップルが『恋は盲目』みたいな逃避行を始めた、とか。」 「……ぁー…」 なんとなくイメージが出来てしまうらしいマナは、小さく声を漏らしてうなだれる。 その様子を見て、苦笑いを浮かべるシェイディだ。 「……おっけ、ちょっとフライパンでも持って追っかけてくる。」 「は?」 マナはそう言って、なにやら準備運動でもするように腕を回す。 「私は一応ルナティスの姉貴だぞ、ここは一発愚弟の暴走を妨害しにいこうかと。」 「…それは別にいいですけど、なんでフライパン?」 「その方がなんか雰囲気出るだろ。」 「いいえむしろのどかなお茶の間の放送、みたいな感じの雰囲気が出ますけど。」 「それでいいんだよ。どうせ笑い話にすんだから。“怖い姉(姑)がフライパン振り回しておっかけてきた”っていう」 マナはそう言って、笑顔を残して部屋を出て行く。 その後姿を見送って、シェイディは笑みを浮かべる。 幸福など人それぞれ。 けれど、願わくば それが二人共に願った未来でありますように。 『ゴルァアアアアアアア!!!!!ハッハッハ死にさらせええええ!!!!愚弟とそれをたぶらかした雌豚がぁあああああああ!!!!!!』 『シェイディ助けてーーー!!!!なんかマナが過剰精錬のフライパンと過剰精錬の包丁持って追っかけてくるーーー!!!!!』 『………。 大丈夫だ、それはただのシャレだ。』 『シャレにならないよまじでえええええ!!!!!!!』 『ハッハッハー!!!Go To Hell!!!!』 うん… 二人が笑える未来でありますように。 そう切に願い、WISを切ったシェイディだった。 喉を裂き、入り込んでくる刃。 到達したのは気管か食道か、そんなことはどうでもよくて… 反射で止まろうとする腕を必死に押し進め、刃を更に奥まで突き込む。 自分の体なのに思うように動かない。 喉の中で、腕の中で、頭の中で、いろんなものが自分の行為を邪魔する。敵だらけだ。 それでもなんとか硬い肉を裂いて、硬い声帯を潰す音。 意識が薄れる程に気持ち悪い音だった。 だが痛みと恐怖に血が激流となり、汗が吹き出し、奇妙に意識は覚醒させられる。 息をしようとすると、裂けた喉が開いて吐き気と激痛で涙が滲む。 潰れた蛙のような声を出して、それでもまだ終わらない激痛に頭がおかしくなりそうだ。 だがそれよりも 愛する人を失ったの方が、痛い。 違う。 自分は彼を愛せなかった。 だから彼は、自分を置き去りにして自害した。 そうさせてしまった自分が憎くて、殺したかった、だから今こうしている。 彼を愛せなかった、愛する覚悟がなかった。 けれど彼は必要だった。 絶対に失いたくないことだけは確かだったのに… やり直すことは出来ない。 だから、終わらせたい。 早く終わらせたい。 早く、早く、痛い、苦しい! 早くこの心と体の激痛を終わらせたい一心で、 柄の根元まで沈んだ刃を、最後の力を振り絞り横へ薙ぐ。 力が足りず切り裂くことはできなかったが、とどめとなるには十分だった。 瞼が下りきらないまま、意識は消え去っていく。 必死に彼の姿を思い出そうとしても、腕や胴体を失い肉塊となっていった最期しか思いだせなかった。 「……ッ!」 白昼夢から目が覚めるように、ヒショウはびくりと痙攣して我に返る。 尻の下に引いていた毛布を手繰り寄せて、肩から羽織った。 それでも凍ったように冷たい体は温まらない。 怖い、記憶に押しつぶされる。 唇を噛み締めて、自分の腕に爪を立てる。 幽霊に取り殺されそうになっているような恐怖を感じる。 一人は怖い、夜も怖い。 考えてしまうことが、思い出すことが怖い。 怯えて過敏になっていた耳に、部屋の外の足音が聞こえた。 足音は宿部屋の扉の前で止まり、期待通りにルナティスが入ってきた。 「ヒショウ?どうしたの、寒いのか?」 「…少し」 心配そうに見つめながら、ルナティスは荷物を床に置いて近寄ってくる。 「最近、少し変だよ。何かあったのか?」 「……無かった、ということはないが、どう話していいかわからない。」 「急にギルド抜けてどっか行こうって言い出したのと関係ある?」 「…ある。あるが、無我夢中なところがあって、あまり深い意味はないのかもしれない。」 「そっか。それにしても、お前にしては珍しく大胆な行動を取ったね。」 プリーストの法衣を着たままベッドで大の字になったルナティスが、そう言いながら苦笑いした。 彼が大の字になってもまだ少し余裕のある広いベッド。 狩りを終えて、宿を取ろうとしたのだがどこも満室。 雨が降りそうだったので野宿も出来ず、仕方なく連れ込み宿に駆け込んだ。 部屋の外の音が全く聞こえず、話し合うには絶好の場所だと思った。 「…単純でもなければ、どうにも伝えられない気がしたから。」 「何でまた急に?」 「急じゃない。」 ヒショウはベッドではなく備え付けられたソファの方に座り、険しい顔をしていた。 「…前々から、分からなくなってきてたから。だから、どうにかしたかった。」 ルナティスとこうして二人でいるのが正しいのかは分からない。 何故なら未来のルナティスは、自分の死を「ハッピーエンド」だと言ったからだ。 彼の場合、二人一緒にいることで幸せになれるとは限らないのだ。 ルナティスは、自分を「壊れている」と言うのだから。 そして今も、ヒショウがいくら彼を受け入れると主張してもただの笑顔のまま。 「でも、俺にも何故不安なのか、何が不安なのか、はっきりわからない。」 「じゃあ、僕にはできることはないのかな。」 「それは違う、お前がいないとどうにもならない。俺が、お前のことが分からなくなって不安になっている、それは確かだから。」 真正面から言葉をぶつける。 優しい顔つき、淡い金髪にエメラルドグリーンの瞳、プリーストの法衣。 聖職者を絵に書いたような彼。 その笑顔の下を… 「お前の本音が聞きたい。だから、2人だけになりたかった。」 「…そうは言ってもね、突然豹変したりするわけじゃないし。」 「それも…そうか。」 ルナティスが苦笑いして、起き上がる。 ヒショウは視線を下げて、ほんの少し苦い顔をしていた。 こちらから積極的になれば解決するのではないか、と単純に考えていた自分の甘さが悔しかった。 「でも、アスカの優しさと真剣さと頑張りに免じて教えてあげる。今のお前なら、ちゃんと聞いてくれそうだしね。」 ルナティスがベッドの縁まで来て、座りヒショウと真正面に向かい合う。 笑顔で小首を傾げる動作が、いつも通りのルナティスなのだが、なんだかわざとらしかった。 「お前には、理解できないよ。」 心臓を掴まれた気がした。 彼の顔面に張り付いた笑顔、しかしその仮面の奥の瞳は暗い。 これだ、今までに感じてきた違和感。 ルナティスが隠し続けるそれ。 「だって、そうだろ。僕を理解したいなら、僕と同じ目に遭わないといけない。それが、お前にできる?」 口に出すのもおぞましい、ルナティスが幼い頃に受け続けてきた仕打ち。 その断片を聞かされただけで、ヒショウは一度拒否したことがある。 「……無理だ。」 「だろ?それにわざわざそんな目に遭うのも馬鹿らしいし、そもそもお前を庇ってたんだから今更お前がそんな目にあったら僕が泣く。」 ルナティスは結局、またいつも通りの笑顔に戻る。 これではダメだ、彼に守られるばかりの立場ではいたくないのに。 「あと、お前が僕を理解できないっていう理由…もう一個教えてやる。」 ルナティスは起き上がり、ソファに座るヒショウの前まで歩み寄る。 肩膝を彼の脇に立てて、見下ろすように死ながら顎を捉える。 「アスカ、口、あけて。」 そう言われ、何をされるのか分かってしまい頬が赤らむ。 それでも、それに従い唇を薄く開く。 唇を重ねられ、熱い舌が口内に入り込み、歯列を撫ぜて舌を絡め取ってくる。 「っん…」 顎を持ち上げられ、首筋を撫でられ、自然と上下の顎が広げられる。 ルナティスの舌は喉まで犯すのではないかというほど差し込まれる。 思わずルナティスの両腕を強く掴んだ、しかし拒否はしない。 「は…っ…ん、ぅ…」 腕をつかまれたまま、息を荒げる彼のアサシン装束を肌蹴させる。 「本当、アサシン装束って脱がせるの楽でいいな。帯紐着いてなければだけど。」 「…っ、プリーストに、言われたくない、な…」 装束の合わせを内側で固定している紐を解けば、あとは簡単に肩から装束が落ちる。 白い肌を晒され、手のひらで探られてから、ヒショウが突然抵抗しだす。 「ルナティス、その、シャワーが、まだ」 「浴びないほうが僕は好き。」 「っ…っ…」 いつもなら彼を張り倒してやめさせるか、シャワーを浴びさせてもらうかするのだが そういえばさっきまでしていた真面目な会話を思い出すと、このままルナティスの好きにさせてやるべきなのかもしれない。 むしろ、彼の好きにさせたいからこそギルドも脱退してきたのだ。 「…っ…ふ…」 手のひらが筋肉の窪みをなぞる様に触れて、胸の突起を指先で転がす。 首筋にも甘く噛み付き、吸い付いて所々にあとを残していく。 体の表面から内へ甘く響いてくる愛撫に、徐々に脳が蕩けてくる心地がする。 念入りに首筋にあとを残すルナティスの軟らかい髪を軽く撫でる。 ただ為すがままになっているのは居心地が悪いが、だからといってこちらから起せる行動も思い浮かばないのでそのまま彼の髪を撫でていた。 指先に絡みつく柔らかい感触が心地よい。 「ルナティス…」 「なに?」 何、と聞かれると答えられることはない。 ルナティスは顔を首筋から舌へ下げていき、また胸の突起を舌先で突く。 「っ……」 強い快楽はあまり感じないものの、徐々に体の芯が痺れてくる気がする。 「ねえ、ヒショウ…」 「な…何…」 「そろそろ分かった?」 分かった、とは、何が… そういえばさっきまで話をしていたのは… 「僕のこと、理解できない、って」 「だから…何、が…」 愛撫はそのままに、片手の平が足の間に入り布越しにそれに触れてくる。 「いつもと違って抵抗しないのは、僕のことを分かろうとしてくれてるからじゃない…」 「…っ…」 「僕に同情してくれるからだろ」 ルナティスがソファから膝を下ろし、ヒショウの前に座りながら自ら装束を脱ぐ。 それを見ながら抵抗しない自分を客観的に見つめて、自分の意思で彼を受けいれているのではないという事実に気づく。 ルナティスに申し訳なくて、可哀想で、だから受け入れている。 自分はそうやって、彼を見下すような位置にいるのだと気づく。 「だからヒショウは僕のところまでは堕ちてこれないよ。」 「なら、堕ちなくていい。理解できなくてもいい。」 ヒショウはベッドについていたルナティスの手を掴み、彼の顔を真下から見上げた。 「一緒に」 すれ違ったままでもいいから、一緒に居させて欲しい。 そう言おうとして、言葉を止めた。 そうじゃない、それでは何も変わらない。 一緒に居るから大丈夫、と甘い考えていて結局は…… これが…僕らの、選べる…最高の、最期だから… 「っっっぁああああ゛あ゛あ゛ーーー!!!」 腹の底から叫んで、ヒショウは自分の頭を掻き毟る。 ルナティスはビックリして彼の上に跨ったまま固まっている。 そんな彼を引き倒して体制を入れ替わり、勢いのままにその頬を拳で殴りつける。 「!!??」 更に驚きを重ねてルナティスは混乱する。 「訳が分からない!!!なんなんだよお前は!!!!」 「えっ、なに、逆ギレ!!?」 「一人で勝手にあれこれ悩んでるくせに何で何も言わない!! それなのに勝手に自己完結して挙句に…!!!」 ルナティスが混乱しつつもヒショウが何を言いたいのかなんとなく分かってきたらしい。 けれど、黙っているだけだ。 「どうせ俺はお前の何も分からないで傷つけるだけだ! お前と居たってろくなことにならない…っ、いい結果なんか何も無いのか!?」 目を丸くしたままのルナティスが、何か言おうとする。 だがそれを許さないというようにヒショウがその頬に平手打ちをする。 さっき殴った反対の彼の頬は赤く腫れ、若干青くなり始めていた。 「お前のことが分からない!嫌いだ、大嫌いだ、なんでこんなに悩ませる!?」 口から出る言葉が本心かどうか分からない。 ただ思うままに口から言葉を迸らせる。 言えば言うほどに苦しくなって、涙まで滲んでくる。 「それでも離れられないのに!お前しかいないのに!お前と一緒に生きたいのに!! 何でこんなことにしかならない!!こんな、こんな!! 何でお前はそんなにヘラヘラ笑って、俺をこんなに苦しめるんだ!!!」 理不尽な言葉に、自分で吐き気がしてくる。 言葉をぶつければ彼だけでなく自分も苦しくなってくる。 殴れば彼の頬骨と自分の拳も痛む。 それでも怒りや不安をどうしていいか分からなくて、拳を振り上げる。 だがその手を捕まれて、力任せの応酬で競り負けた。 今度はヒショウがベッドに背中から落ちて、ルナティスに圧し掛かられた。 もともと力はルナティスが断然強いのだから、至近距離で競り合えば簡単に負けてしまうのは仕方が無い。 押し倒されても暴れていたら、ベッドからずり落ちて床に背中からたたきつけられる。 ベッドは低くて怪我をすることは無かったが、肺が破裂したような感覚があって空気がまともに喉から循環しなくなった。 「アスカ、ふざけるなよ」 「っ!?」 ルナティスの手が、咽ていたヒショウの首を容赦なく掴み締め上げてくる。 気がつくと、ヒショウよりもルナティスの方が涙を流していた。 「それはこっちのセリフだ、僕がどれだけ空しい思いしたと思ってる。 僕がどれだけ好きだっていっても本当はこっちなんか見てもいないくせに。 僕より大切なものなんかいくらでもあって、いつでも僕を捨てられるくせに。」 ヒショウの顔が赤らみ、先ほど息ができなくなった上に今も首を絞められて彼の肩が痙攣している。 ルナティスの腕を掴む指にもまったく力が入ってない。 「何が僕と一緒に生きたい、だよ… それがお前自身の優越感と僕への同情から来てるっていい加減分かれよ!! いくらお前に愛されてるふりされたって嬉しくない!!!」 「っっ…!!!」 「お前のこと、好きで大切だけど、俺一人の空回りじゃないか…!! もう嫌になってくるんだよ!!それでもお前のことあきらめられない自分が!! 俺ももう訳が分からない!!憎くて憎くて、嫌になる…!!!!」 ルナティスが泣き叫ぶのを聞いていたヒショウが、懇親の力を振り絞り、また拳を振り上げた。 拳はルナティスの顎にヒットし、舌を噛んだらしい彼はしばらく口を押さえてもがいていた。 それに構わず、空気を肺に流し込み呼吸を取り戻す。 と同時に彼の肩を全力で蹴り上げて、転がった彼にまた圧し掛かりマウントポジションを取り戻す。 だが今度は殴りも、首を絞めもせずに圧し掛かっただけだった。 「そ、れは、っこっちの、セリフだ…!! お前こそ、そんなこといつも考えながら俺に尽くして、騙してたんだろうが!! そんなことされて嬉しいわけがあるか!!馬鹿にするな!!!」 ヒショウは咽ながら、必死に空気と一緒に言葉を吐き出す。 「お前の持ってる俺への感情と、俺のじゃ重みも違うのかもしれないけど、俺だって必死なんだ!!! それをお前が勝手に悲観的になって自己完結してるだけだろうが!!!」 「それが俺を見下してるって言ってるだろ!!」 「見下してない!!お前が勝手にそう思ってるだけだ!!」 「俺がどんな奴かもわかってないくせに!!!」 「お前が分からせないのがいけないんだ!!!」 ルナティスは腫れた頬の痛みで口を開くのも辛くなってきて、ヒショウも締められた喉が苦しくて、言葉がしばらく途切れた。 むしろ、もう怒鳴りあって疲れてしまったのが大きい。 疲れで言葉を交わせなくなれば、だんだんと熱していた頭も冷めてきた。 「あー…もう面倒くさい。とりあえずお前を全力でボコす。」 「事前のDV発言するなよ、アスカ。」 またしばらく声が途切れる。 じっと静かにしていると、微かに近くの部屋か隣の部屋で事に及んでいるらしい女の喘ぎ声が聞こえた。 そういえばここはそういう宿だ。 だがもう体力や気力を使い切った二人にはそんな声は欠片も耳に入らなかった。 「…アスカ、ごめん。」 「俺もお前を殴ったから謝るな。あと殴ったことも、俺は半分くらい反省してないからな。」 「…ちょっとはしちゃってるんだな。」 「お前を冗談じゃなくて本気で殴るなんて、思いたいわけないだろ…。」 互いの手に残る感触に、泣きたくなった。 二人ともしばらく互いの顔を見れずにいたが、馬乗りになっていたヒショウが黙って立ち上がる。 もう何もする気力もなくなったヒショウは黙ってベッドに入っていった。 ルナティスも、そのうち起き上がってシャワールームへ向かっていく。 シャワーを浴びて彼もベッドに入る。 だが二人とも離れて、背中越しに横になっていた。 どちらもまったく眠れそうになかったが、一言も口をきかず、動きもしないまま時間だけが過ぎていった。 NEXT> |