―――50―――

瑠美那「一騎打ちだ。私が死ぬか、アンタが消えるか…」
相手は無表情でいる。
カオスが、暴走し始めているのがわかる。
キャディアスに流れるべきか、私に流れるべきか、迷っているのか。

瑠美那「負けたほうがカオスに食い潰される。デスマッチだな…」
決戦。
私にあるのは、生か死か。その恐怖を、話ながら沈めていく。
私は…負けるわけにはいかない。
みんなの元へ帰りたいから

キャディアス「…僕は必ず蘇る。今度こそ…お前を狩ってやる。邪魔はさせん」
キャディアスの殺気が、押し殺そうとしていた恐怖を呼び戻してきた。

瑠美那「…私の名は瑠美那。アンタと戦うのは初めてだ。変なこと言うなよ」
私は笑いながらそう言って、全身に満ちた魔力を引き出す。

瑠美那「私も譲れない。みんなの所に……帰りたいから!!」
望むことがある。
正義とか、悪じゃなくて……私達は望む未来の為に戦う。
そんな戦い…もう、何度目だろう。
けれど、私はこの戦いで、未来を勝ち取る。
私の、本当に最後の戦いだ。

 

飛成の最期。
彼女の死を見たアステリアは、あっさり自我を手放した。
祭壇から解放されたキャディアスの自我ない本体が、新たな“器”に入ろうとした。

瑠美那「駄目だ…!!」
私は瞳の力を失った、人形と化したアステリアを抱き締めた。
キャディアスに渡すわけにはいかない

瑠美那「アステリア、目を覚ませ…。キャディアスに利用されるんじゃない。ここでアンタが乗っ取られたら飛成は本当に独りになる。アイツ、独りになるのはイヤだっていってたんだ。」
彼は動かない。

キャディアス「無駄さ。彼に自我は残されていないんだ。声が届くはずがない」
すぐ後に迫った、キャディアス本人の声に、かなり焦った。
キャディアス「退け」
どうにかしなければ……アステリアは渡しちゃいけない。

 

ジオン。力の解放を

───君の自我が失われるぞ

……私はそんなヘマはしない。羅希だって乗り越えたんだ。

───…………。

全身が脈うった。
皮膚を熱いものが流れ、その熱さが体に文様を浮かび上がらせる。
遠くなる耳のはじっこで、羅希の声がする。やめろ、としきりに叫んでいた。
魔力の流れが感じられる。だが冴えていく語感とは反比例に、意識が削られていく。

うっすらと残る自我。
それにがむしゃらにしがみついた。
そうした中で、カオスの動きを感じられた。
私のまわりのそれらが、敵意を向けてこない。私にとって異物ではなくなっている。

キャディアスとここでやりあう為に力の解放をしたのだが…ひょっとしたら、カオスを私に従わせられるかも。

瑠美那「羅希!!」
彼に向かって叫びながら、キャディアスと間合いをつめ…カオスに命じた。
私達をその体内に閉じこめろ…と。
瑠美那「先に行っていてくれ!!絶対に帰るから…!!」
私の帰りを待っていて…。
告げたのと同時に、私達はカオスの…混沌の闇に墜ちていった。

 

 

瑠美那が消えた場所。
羅希はそこに立って拳を握っていた。
自分の腑甲斐なさを感じて…
瑠美那に全てを任せてしまって…
みんな、彼の思い切りがつくまで待った。
瑠美那が『私の帰りを待っていろ』と言ったから、ここに残るなんて言うまい。

カルネシア「………」
カルネシアは龍黄達の方へ歩きだした。
羅希に自分の言葉は必要ない。
瑠美那本人が言ってくれたから。

カルネシア「……魔王」
龍黄「ん?」
彼は床に座り込んで俯いている。返事はしても、顔を上げない。
疲れきっているんだろう。
龍黄とセナートは、カルネシアを助ける為にカオスのど真ん中へ乗り込んできた。
彼を見つけ、帰ってくるまで少し時間がかかりすぎた。
あと数秒遅れていたら最後まで力が残っていた龍黄も倒れ、3人ともカオスに食われていた。

カルネシア「小むす…瑠美那の、あの能力についてだ。何か知っているか。」
龍黄「………」
龍黄はだまって、自分の隣に座れ、と床をポンポンと叩いた。
それに従い、隣に座る。

龍黄「あの能力、父親の影響だと思う。」
カルネシア「…………」
龍黄「父さんはアステリアさんと同じ血筋。過去にガイアが人間に恋をして、産まれた人の子孫。」
カルネシア「………いたのか。そんなの」
龍黄「うん。極秘情報」

そりゃそうだ。
“ガイアの子孫”なら、人間の血が混じっていても強いはず。
タチの悪い神族なら必ず利用する。

龍黄「まぁ、今ではそれは薄れすぎて、その血筋自体は普通の人間と変わらない。
何十年かに一度、特殊な隔世遺伝をして、アステリアさんや父さんみたいのが産まれる程度。
それは置いておいて、昔からよく例があるんだけど、人間は神族がベースだから、交配できるみたい。
ただし、女性の方は神族じゃないとダメらしい。
神族の子供を胎内で養うには、神族の胎内じゃなきゃもたないみたいで。」
カルネシア「それは知っている。だが瑠美那の母親は神族じゃないだろ」
龍黄「うん。幻翼人の母親でも、産むのは命がけ。
瑠美は奇跡的に産まれたんだ。」
カルネシア「………幻翼人の母親に、神族以上の父親………あ」

カルネシアの頭の中で複雑に絡みあっていた糸が解けた。

アステリアの能力からして、“ガイアの子孫”はガイアやカオス同様、自分の型を持たない。
カオスが強い者に属すように、
アステリアが他者の血で他者の方を取り入れるように、
“ガイアの子孫”は余計なものが混じると、それに属してしまう。

瑠美那には、そこに“人間”の血が混じった。
元は人間である幻翼人の母に流れる人間の血と
神族と人間のハーフである父に流れる人間の血。
だが、“ガイアの子孫”の力は上手い具合に『タダの人間』を作らなかった。

カルネシア「…人間の『比較的魔力を受け入れにくい』性質を極端に強く受け継いだ…?」
龍黄「と、思う。それでもって今回、カオスなんて強い魔力の塊に触れ続けてたせいで、彼女の魔力を拒んで閉じていた穴が開いて…受け入れっぱなしになっちゃった、とか。」

しばらくの沈黙の後、2人の視線は羅希に注がれる。
彼は決心が付いたのか、こちらへ歩いてこようとしていた。

カルネシア「……昔っから報われないヤツだな…」
龍黄「……まぁ、瑠美に触るたびに魔力取られるだけで、死にはしないから…羅がんばってやっていけるんじゃないかな」

皆、無意識だった。
誰もが、瑠美那の勝利を信じて疑わない。
確信なんてないはずなのに。

 

 

カルネシアは龍黄に手を貸して、立ち上がる。
セナートも、セリシアの手を貸りて、立ち上がった。

カルネシア「……羅希。飛成を運ぶのを手伝ってやれ」

飛成の死の現場を見たアステリアはしばらく混乱していた。
だがすぐに飛成がまだ息があることに気が付き、冷静さを取り戻した。
出血がひどかったが、即席で傷を縫い合わせてなんとか止めることはできた。
そして原始的なやり方で血液型が同じだった羅希の血を飛成の体に流しこんだ。
もう、命に別状はないだろう。

アステリア「…私一人で大丈夫だ。」
アステリアが羅希の手伝いを断り、一人で飛成を抱き上げる。

羅希「じゃ、私が龍を運びます。貴方だって他人に手を貸せるほど余力はないでしょう」
カルネシア「…わかった」

 

 

魔力は使っても使っても尽きることがなかった。すぐに私の体にみちてくる。
回復力がすごいのかな…
キャディアスとはずっと魔法の競り合い。
だが彼に疲れがみえてきている。

瑠美那「トドメだ!!」
彼と間をとって、魔力をためた。
キャディアスもためているのか、手を出してこなかった。

瑠美那「っ!!」

発動をしようとしたら、さっきまでじっとしていたカオスが私を取り巻き、締め付けてきた。それがそのままぐんぐん体内に入り込んでくるのがわかる。
キャディアス、次はカオスで反撃ときたか…
魔力が満ちてくる
だかそれが多すぎて、体がちぎれそうにな感じがした。

魔力を解放しようとするが、上手くいかない。
止まらず入り込んでくるカオスの魔力が、外に出すのを邪魔するようだ。
キャディアスの命令を受けて私をとりまく魔力は流れるようで、つかむことができない。
カオスにやめろと命じても…それは聞き入れられない。
魔力を扱うように、カオスを扱うにもコツがあるんだろう。
いくら抗ってもカオスは止まらない…。

キャディアスの勝ち誇った笑いと、すでに薄れていた自我がさらに消えかけることに、死の恐怖を感じた。

 

 

陣地へ戻ると、神族達はみな戦いを終えて羅希達の帰りを待っていた。
誰もがセリシアの存在に驚いていたが、敵という様子がないので何も言わなかった。
だが不満はあるだろう。
説明はしなければ

ヴァレスティが出迎えてくれて、メンバーを見回してから口を開いた。
「ご苦労。…ところで、キャディアスと瑠美那は?」
カルネシア「これから話す」
カルネシアはいきなり、羅希から龍黄を取り上げた。

カルネシア「ここまででいい。お前はカオスの入り口にいろ」
羅希「えっ」
羅希にそう告げて、彼が何か言おうとするのもかまわず、背を向けた。

羅希「はい…!」
彼は笑みを浮かべて来た道を戻っていった。
ずっとそうしたかったのだろう…。

ヴァレスティ「良い親になったではないか」
ヴァレスティが冷やかすように言うのを、カルネシアは聞かないフリをして、陣地の奥へ歩いていった。

 

 

羅希「瑠美…」
彼女がいる、自分は踏み込めない場所。
何もしてやれることができない。
ただ待つことだけ。
けれど、自分に待っていてと言ってくれた。
とっさにでた羅希の名前だったのかもしれないが、それでも…嬉しかった。
彼女の心の中に、少しでも自分の存在があったと思えた。

昔から、彼女に愛されたいなんてわがままを思ったことはない。
どうせ自分はすぐに死ぬんだと諦めていたから。
でも、少しでも…彼女の心の隅にいたかった。
ただ、傍にいられれば良かった。

彼女の帰る場所を確保しておかなければ。
彼女の道標に……

君は……必ず帰ってくる

 

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