―――49―――

思うに……私は天才かも知れない。
キャディアスの攻撃を直撃したのに、その中で何かのコツを掴んでしまった。
魔力を弾くのではなく、受け入れてしまうこと。
あれを弾けるわけがない、と思い…ならいっそのこと真正面から受けてみようと考えた。
不定な魔力の流れ。それらが私の体を害さず、入り込んでくる。
なんとくやってしまった行動だったから…吸収できるとは夢にも思わなかった。

羅希「瑠美!無茶だ!!」

羅希が後ろで叫んでいる。
だが私はちっとも無茶だとは思わなかった。
食事をするように、お腹がいっぱいになっていくみたい。
限界はみえるけど、まだまだいける。

そして一杯になる前に、キャディアスの魔法は防ぎきった。
轟音の余韻の後に、沈黙が残る。

瑠美那「防いだ……」

私はよろめいて、情けなく尻餅をついた。

瑠美那「……羅希…どうよ……」

口に力が入らなくって、妙な発音になってしまった。
へらへらしている私をとは対照的に、羅希は私にフラフラしながら駆け寄ってきて、大丈夫か、とか体を調べたりする。

羅希「…なんて無茶するんだ」

瑠美那「そんなに無茶に思えなかったぞ。そんなにヤバイことしたか?」

羅希「他人の魔力を吸収なんて、そう簡単にできる芸当じゃないし……なによりキャディアスのアレを吸収なんて……」

………私ってば、いつのまにこんなに強くなったんだろう?

羅希「体…大丈夫そうか?」

瑠美那「ああ。それより…キャディアスは?」

羅希は答えのかわりにどこかを指さした。
少し離れたところに、いつもの服じゃなくて、神界で着る正装を着たカルビーがしゃがんでいる。
彼の腕の中に、セリシアが。
その後ろに、竜花、セナートや龍黄もいた。
カルビーと何かを話していた。

瑠美那「……行こう」

私が羅希を支える形で、みんなの方へ歩き出した。

 

瑠美那「………キャディアスは?」

ぐったりしていて動かないセリシアに警戒しつつ、カルビーに問い掛けた。
彼は気の抜けたような様子で返事を返してくる。

カルネシア「逃げた。」

その言葉が、やたら響いた。
みんながじっとセリシアを囲んでいることに疑問を感じた。
何をしてるんだろう。

瑠美那「……セリシアがどうかしたのか?」

羅希「……魂がもどってる。」

カルビーが答える前に、羅希が答えてくれた。

羅希「……誰かが、解放したんだと思う。」

瑠美那「あー……それで、セリシアの声が聞こえたのか。」

カルネシア「聞こえたのか?」

瑠美那「うん。“このまま好きにされててもいいのか”って問い掛けたら“違う”って返ってきた。」

カルビーに聞かれてそう答えたら、彼がちょっと考え込んだ。

 

ちょっと沈黙の間があって、セリシアが唸る。
カルビーが名前を呼んだら、彼女は目を開けた。

セリシア「……キャディアス様は?」

カルネシア「逃げた」

まだ辛そうな様子だった彼女が、目を見開いた。
カルビーにしがみつく。

セリシア「……飛成は!?」

かなり焦って言うセリシアを見て、みんな嫌な予感がした。

瑠美那「カルビ…」

って言うと、分かりにくいかな。

瑠美那「カルネシアの氷縛で眠ってる」

それを聞いてもセリシアは落ち着かない。
彼女は首を横に振って、まだ声を張り上げる。

セリシア「氷縛はキャディアス様が解いた。飛成を殺す為に…彼女は最後の自我で私を解放しに来てくれた。」

嫌な予感はやっぱり的中。

瑠美那「殺す!?どうして!!」

セリシア「器…アステリアに乗り移る為。飛成が生きている限り彼は自我を手放さないと分かったから…」

私はアステリアを目で探した。
祭壇にはもういない。龍黄かセナートが降ろしてくれたんだろう。
入り口近くの壁際に寄りかかって、まだ目を覚ましていない。

羅希「飛成の居場所…分かりますか?」

羅希がわずかに震える声で聞く。
なるべく、冷静になろうとしているのが分かる。

セリシア「私が封印されていた場所だと思う。けれど、もう彼女の気配が感じられない」

みんな、内心舌打ちしただろう。
間に合わなかったか…。
それでも、動かずにいるわけにはいかない。

カルネシア「セリシア、動けるか?」

セリシア「ええ」

カルネシア「羅希と俺とセリシアで飛成を探しに行く。」

私も行きたかったが、黙って従うことにした。
みんな、飛成のことは“間に合わなかった”と確信している。
だからこそ、キャディアスがくるであろう、アステリアの元を固めなければ…。
私は…ここに残るべきなんだ。

 

 

「探さなくてもここにいるよ」

みんなが行こう、とした瞬間だった。
入り口で飛成の声がした。
案の定、そこには彼女がいた。
右の方から先がない。痛々しい傷口からは、血がポタポタと流れ落ちている。
それでも、彼女は何もないように平然としていた。

………それは、自我の主の体ではないから。

飛成を止めるといっても、どう止めればいいのか分からない…。
カルビーと羅希と龍黄が同時に走った。
セナートが私の隣で詠唱をする。

瑠美那「龍黄、止まれ!!」

龍黄の前で、あの空間のゆがみが見えた。
彼は指示通り止まったが、そのゆがみは更に牙をむく。
退ききる前に、爆発を起こした。
龍黄の姿が爆煙に消えた。

瑠美那「2人とも、後ろ!!」

今度はさっきのような攻撃的なものではなかった。
2人を捕獲しようとしてる。

瑠美那「捕まるな!!」

それでも、2人にはそれが見えていない。魔力の流れもないというのだから、見極める術はない。
結界を張って防ごうとしたみたいだが、そうする前に2人とも捕らえられた。
繭のように体を包み、動くこともさせない。
私が飛成を止めよう、と走ろうとしたら、隣でセナートが膝を立てて倒れ込んだ。
私の死角で何が起きたのか分からなかった。
彼は首を押さえて、乱れた呼吸をしている。
口から血が異常なまでに流れ出ていた。
けれど、彼は私を見て「かまうな」と訴える。
セリシアもうずくまり、ローブが鮮血に染まっていた。
私はそれでも、走り出す。

でも、もう遅い。
私が何かをする前に、飛成はニヤリと笑って、首に押し当てていて宝剣を引いた。

それから少し遅れて、彼女の首筋から鮮血が噴水のように吹き出していた。

 

 

表情をそぎ落としたように無くして倒れる彼女ごしに
人形のように目を見開いて固まるアステリアを見た。

 

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