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静かな木々のせせらぎ、小さく響く小鳥の声、柔らかな木漏れ日・・・。

ここは本当に心を和ませる森だった。

私はいつもの日課でここへ来る。

ここが私のゆいいつの“逃げ場”だから。

何となく森の中を歩き、偶然に座りやすそうな切り株を見つけたので座った。

・・・「っ・・・」

瞬間、腕に激痛が走った。

さっきからずっと感じていた痛みだが、体を休めたことで痛みが増した。

さっき、仕事で負った傷だった。

仕事とは、『アレイジ』と呼ばれる、いわゆる・・・スタッフサービスのようなもの。

・・・いや、微妙に違うな。

「金さえ払えば何でもやってやる」という、危険で、陰湿で、何かとゲームにありがちな仕事である。

こんな20歳にもならない小娘がこんな仕事をしているのには訳という物がある。



物心ついた頃から暗い、倉の中で、わずかな食料で育てられ、

外へ出たと思ったら、村長が「村人の倍以上の税金を払え」とぬかしやがる。

10ほどしかない子供に、そんなことできるわけがなかった。

しかし、できなかったら追い出される。

ただでさえ気味悪がっているのだから、子供1人追い出すなど彼らは平気でやるだろう。

だが、それでは私が困る。

なんとか村に留まりたいがために、村人に紹介されたこの仕事に就いた。

・ ・・一口に『アレイジ』とは言っても、ジャンルがたくさんある。

雑用、探求、人助け、殺人、・・・。

私は何よりも金優先だったので、最も儲かるモノを受けた。

人殺し専門『殺喜者』(キリングソルジャー)、それが私の役職である。

目的のためなら殺しも喜んでやる・・・ということ。

そのおかげで今まで散々な目に遭ってきた。

ケガは多いわ、村人にはどんどん嫌われるわ・・・。だが、そのおかげで私は強くなった。

金も村人に隠しながら少しずつたまり、もうかなりの額がある。

私が“あの村に留まりたい”と思う理由を振り払ったら・・・私は出ていく。





・・・「もしもーし、瑠美那“ルミナ”さーん。なに自分の世界に浸っているの〜」

どこからか、トーンの高い男の声がした。

聞き覚えがある、・・・私としてはあまり好ましくない声・・・。

その声のした方向・・・私の真上を見上げてみた。

瑠美那「またお前か・・・」

私の真上に垂れ下がっている無数の木の枝から、青年の顔がこちらをのぞいていた。

・・・「イヤそうな顔しないでよ。僕たちはもう他人ではない、親密な関係なんだから!!」

瑠美那「ワケわからん言い方するな。大体何処が親密だ。化け物が」

・・・「ば、化け物・・・!?ひ、ひどい!お互いの全てを知り合った仲なのに!!」

瑠美那「・・・」

この青年が言っている、「関係」とは、彼が私の泣き顔を見た・・・それだけである。

それ以来、私が必死に泣くのを我慢するようになったのを見て【天然記念物】とでも言うようにいい気になっているだけだ。

瑠美那「・・・おい、化け物。そこからさっさと消えろ。コレ投げるぞ」

そう言って私が構えたのは、仕事で受け取り、余った爆弾である。

それを見せた瞬間、彼はその場からフッといなくなり

・・・「女の子がこんなモノ持つんじゃないよー」

私の背後に現れ、私の手から爆弾を奪い去った。

瑠美那「・・・」

私は怒りを沸々と煮えたぎらせていた。

こいつの何よりイヤところは、ボケていてムカつくクセに、強いところだ。

私は爆弾を取り戻そうともせず、そいつをにらみ返した。

こいつの名前は龍黄“ロンファン”。発音がよく分からないのであまり呼んだことがないが。

この森の奥に隠れ住んでいる変なヤツだ。

・・・こいつに初めてあったときは、本当に不気味で、怖かった。

全く見たこともない、緑色の木の葉のような色をした長い髪。

いつも持っている、ホラー映画に出そうな身長ほどもある大鎌。

そしてなにより、背についている髪の毛と同じ色をしたデカイ翼。

化け物極まりない。

最近は慣れてきたから何とも思わないが・・・

この前図書館で調べてみたが、こいつは【幻翼人】という種族で、一応【精霊】らしい。・・・少し精霊に失望した。

龍黄「そうにらまないの!もう、初めてあったときはかわいかったのに、どうしてこんなにひねくれて・・・、ああ!!またケガしてる!!どうしてそんなに健康に気を遣わないの?!そのうちぽっくり逝っちゃうよ!?まったく〜」

彼は一通りグチグチいうと、私のケガとは反対の手を引いて、森の奥へと引っ張っていった。



彼が隠れている住処で、私は治療を受けていた。・・・何故か目隠しをして。

瑠美那「なあ、変人」

龍黄「どっちかというと翼人!!」

瑠美那「どうして、いつも目隠しして治療受けなきゃいけないんだ??」

龍黄「へ・・・?」

彼は黙り込み、治療の手を一瞬止めた。

龍黄「・・・また泣きたくないでしょ」

瑠美那「泣きたくなるような不気味な治療なのか?」

龍黄「まあ、黒く、手足のたくさんある素早い虫とか一般世間でコックローチと呼ばれている生物とか使っているけど、気にしなくていいよ」

瑠美那「それってどっちもゴキブリだろ」

龍黄「・・・」

瑠美那「・・・」

龍黄「そういえばさ、ム○オ疑惑で取り立てられてる鈴○宗男さんが「ア○の坂田」さんにそっくりだって気付いたんだけど・・・」

・・・予知能力か・・・?

瑠美那「そーゆー違う次元の話でごまかすのはやめろ」

私は目隠しをしたまま、さっき外してしまったナックルを探した。

龍黄「す、すぐおわるから、攻撃態勢をとらないで!!」

治療の手が、さっきの倍ほど速くなった。

こいつの隠れ家は、この森で一番大きな木の頂上付近に木をくみ、小さな小屋を造った、簡素なモノ。こいつの存在は、かなり貴重なモノだから、姿を見られてはマズいらしい。

現に、何度も捕まりそうになっている。それを何度もくぐり抜け、今、この森に隠れていた。

こいつは何故か、故郷を追い出されたという。

幻翼人の世界に帰れなければ、人間の世界にとけ込むこともできない・・・。

私と同じ異端者だ。

それ以外にも、私達は似ていた。

・ ・・置かれている立場も、生き方も、・・・それに、私達はそろって片目が黄色だった。

何故かは、2人とも知らなかったが、まあ、ただの偶然というヤツだろう。

・ ・・こうゆう話はたいてい“気のせい”とか“偶然”ではない、というのは

漫画や小説の王道パターンだが、このさい気にしない

龍黄「よし、いいよ」

そう言って彼は私の目隠しをとった。

そして目に映ったのは、いつもと同じ、治療を受けるときに訪れていた小屋だ。

龍黄「ねえ、君はいつまでこんな仕事をするの?」

瑠美那「多分、ずっとやめないと思う。私はもうすぐあの村を出るけど、そのあとも稼がなければやってけないし、アレイジなら、ナンバープレート持ってればどこでも仕事はできるし。」

龍黄「・・・普通の仕事はしないの?」

瑠美那「やっても続かないな。接客はダメだし、指図されるのも嫌いだ」

ふっ、どうせひねくれた自由人さ、私は。

瑠美那「治療、いつもすまないな。」

じゃ、と、私は立ち上がり、小屋を出た。


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