病的に、君を求めていた。
最後まで君は応えてくれず
けれど拒むこともせずに
いつの間にか僕の前から消えたから…
けれど、今やっと…


 

狩りの先は、決まっていない。
けれど、イレクシスは目的地があると言いたげに、もくもくと歩いていた。
カプラ空間移動サービスを使いゲフェンへ行き、西へ歩いた。

「あの、俺は…まだコボルトとかも避けられないと思うんだが…」
挑戦したことは無いが、多分レベルとしてきついだろう。
そのうえ、コボルトは群れでいることが多く、囲まれやすい。
回避命のアサシンにはつらいものがある。

「少し耐えてくれれば俺が殲滅する。それがPT狩りというものだ。」
イレクシスは有無を言わさずそう言うので、うなづいた大人しく後を着いていった。

「君は、カタールか?」
あまり突っ込んだりはせず、草原に二人でしゃがみ、敵を待つ固定狩りにした。
「はい。とりあえず今は。金があればいつか二刀もやりたいと思ってるけれど…」
ヒショウは苦笑いを浮かべ
コボルトの気配を察知して、その表情を消して立ち上がる。

「…グリムトゥースのレベルはいくつだ?」
コボルトの殲滅を終え、座って休むたびにイレクシスは質問を繰り返した。
まるでアンケートのように淡々と聞くので、ヒショウはなんだか人を相手にしている気がせず
そんなに緊張もしなかった。
イレクシスは質問は多いが、深く話すつもりはないらしい。
それがなんだか、探りを入れてきているように思えた。

「クローキングをとったばかりで、グリムトゥースはまだ習得できてませんが…」
そう応えた瞬間、彼は黙り込んで、何かを考えていた。
だが結局何も言わず、そうか、とだけ言ってきた。

 

「ヒショウ、君は自分の中に、別の存在を感じたことはないか?」
「…え?」

しばらく続いた沈黙を突然破った、彼のその言葉。
ヒショウはしばし言葉を失った。
なんのことだろう?
そう思いながらも否定ができなかった。
思い当たる節はないのだが、いいえと言えなかった。

自分は何かを覚えている、何かを忘れている。

「…では言い方を変えよう。突然意識を失ったり、突然夢から覚めるような感覚があって覚えのない所にいたり…そんな経験はないか?」
イレクシスの言葉には感情はなく、淡々とヒショウから情報を引き出そうとしているように思えた。
そして今度は
「…あります。」
肯定できた。否定できなかった。

そうヒショウが告げた瞬間、イレクシスに初めて"表情”が生まれた。
微笑んでいた、嬉しげに、悲しげに。
その表情を向かい合ってみると…とても切なく思えた。
「やっと見つけた。」
さっきまで、機械的に動いていた、質問を繰り返していたイレクシスではなかった。
目隠しをはずせば、その下は涙を浮かべている気がした。
声も、少し震えている。

「これで、確信を得た。ヒショウ、俺はずっとアンタを探していた。」
「一体、何のこと…」
「ここでは人もいるし、コボルトも沸きやすい。少し離れたところでゆっくり話したい。」

そう言いながらイレクシスはヒショウの手をつかんでいた。
震えていた。
何故、彼が震えているのか…

それよりも、自分の体までも震えだしそうになっていることに気がついた。
さっきまで大丈夫だったのに、イレクシスに恐怖を感じる。
いつも意味なく他人に感じていた恐怖。
何故急に、彼におびえているのか。

さっきまで、彼はまるで人形のようだったからだ。
何かに囚われていて、話すことも機械的で、どこか人のようでなかったから。
だが今の彼は…人間であり、ヒショウにとって"他人”

 

「俺に関わるな…」
吐き気がする。
何か毒を飲まされたように、体が熱くて、目眩もする。
けれど、イレクシスは放さんといわんばかりに力強く腕を握り締めてくる。

「ずっと…探していたんだ。」
イレクシスが何か言っている。
ガスが充満した空間にいるような感覚。
その中でも、必死に彼の言葉を聞き取ろうとした。

探していた?なにを?

「ずっと、君の為に生き続けた。」
何か話しているイレクシスの唇を見つめていた。
耳にも神経を集中させた。
この青年は、何を話して…

「この身を汚したのも、この目を潰したのも、全ては君と再び出会う為」
目隠しの下の彼の顔が、見えた。
視覚ではなく、脳の中に在った。
薄い赤みがかった長めの髪。
その目隠しの下にある瞳は深い蒼。どこまでも深い…
その目が怖い。
魂の奥底にあるものを引きずり出していきそうな、光無き眼光だった。

「…」
彼は、名を呼んでいた。しきりに、誰かの名を…
けれど、誰かの名前を呼びながらすがり付いている相手は、ヒショウ。

 

 

 

知らない
そんな名前知らない

呼ばないで
その名前で呼ばないで

壊れる
積み上げ直してきた物が

呼ばないで!!
そんな女、知らない!!!

「ルナ…ルナティス…!!!」

気が狂わんばかりに叫んだのは
いつも温かく包み込んでくれた人の名前

 

それはWISだった。
けれどあまりに悲痛で…返信する術を忘れた。
「ヒショウ!?」
頭に響いた声の主の名を叫び、そしてWISを返したのは彼が一緒に狩りに出かけたはずのウィザード。
けれど、届いているはずなのに彼は応えない。
そのあと、冷静になってヒショウにもWISを返したが、こちらは届きもしなかった。

臨時公平中とかでなくてよかった。
ソロでイズルード海底洞窟へ来ていたルナティスはまだ止めを刺していないオボンヌをそのままに
テレポートでプロンテラへ戻った。
彼らの居場所は分からないから、またインビシブルメンバーを頼りにするために