2人でもそんなに狭いとは思わない広さのベッドに、添い寝をするように横になっていた。
友達と布団の中で秘密の話をしているようだとセレネは呑気に思っていた。
グローリィも身体を求めたとは思えないマイペースさだ。
このまま2人で眠ってしまいそうな気さえする。

「先日、アサシンを拾ったんです。」
そうグローリィが口にすると、セレネは目を丸くした。
狙ったわけではないが、セレネを探し、彼が逃げている人がアサシンなのだろうと容易に察しが付いた。
「きっと貴方の考えている人ではありませんよ。組織に捨てられた、白い髪に蒼い瞳の、哀れで可愛くて純粋な子です。」
「…純粋なんですか。」
そんな純粋な子がこのプリーストに拾われてよかったのかなぁとセレネは呟いた。
彼は随分余裕がある様子だ。

「ええ。だから迂闊に手が出せなくて…。でもとても大切にしたいと思っています。あの子は死んでも手放したくない。初めて、自分の何よりも大切だと思いました。」
それはいいですね、と他人事のように言うセレネだが、彼自信にない話ではなかった。
ただもう彼の大切な人は捨てなければいけなかったから、自分に関係ないと言い聞かせるようにそう答えたのだった。

「ルァジノールと言うんです。何も知らない子供だから、アイリの元に預けて、僕と彼女でいろいろ教えています。彼だけは特別だから、僕の一部の名前は付けないでいるんです。」
グローリィは人に晒さない自分の醜い部分を、何かを失い彼に拾われた者につけて、自分の一部として一緒に生きているという。
その意味はセレネには分からなかった。
分かったのは“彼の一部ではない名前”をもらった自分は、彼に拾われていないということ。

グローリィが距離を詰めて、そっとセレネの手を自分のもので包み込んだ。
「アグリネスもグリードもルァジノールも大切なものを失ったり裏切られたのです。だから僕を恃みにしている。でも貴方は…」
ランプの逆光でグローリィの顔は少し見えにくい。
セレネは先の言葉を待った。

グローリィは続きを言わないまま優しく微笑んで、突然触れるだけのキスをした。
押し付けられる唇は柔らかく、セレネに嫌悪感など欠片も生まれなかった。
シャツに手を入れて捲し上げられて、やっとベッドに横になっている目的を思い出した。
大人しそうな顔つきに似合わず鍛えられた身体は温かく、グローリィは猫の背を撫でるように優しく腰や胸を撫でてきた。

「貴方は、捨てようとしているのでしょう…?あの三人とは違って、まだ在るものを忘れようとしている。」
まだ冷静な頭はグローリィの言葉を聞き入れると、忘れようとしている人をフラッシュバックさせた。
とたんにセレネが泣きそうな顔をした。

「忘れることなんてできません。それが貴方がずっと大切にしてきたものなら尚更。」
グローリィの言葉はセレネを攻めるように頭に流れ込んだ。
「それから逃げるのがそれ自身の為なら尚更。」
優しく言い、優しい手つきでセレネの服を脱がせる、けれど本人にはその言葉は精神への暴力にも思えた。
グローリィを突き放したく思った。

「だから、セレネ…私は貴方を拾うわけにはいかない。貴方が求めるのは私ではありません。」
「…でも、僕はもう、あの人を求めることはしない。」
「それができるのか、自分の胸によく聞いてみなさい。」
そういわれても、自問すれば思い出されるのは思い出してはいけない人。
セレネは何も考えまいと、ただグローリィを見た。

「ここは貴方の居るべきところじゃない。ずっと居てくれるなら大歓迎ですが、でも貴方はすぐに居場所に戻りたくなりますよ。」
「そんなこと…」
「わかりますよ。」
セレネの言葉を遮るようにして、グローリィは彼の意見を否定した。

「貴方は私に良く似ています。だから分かります。」
「…言ってることや態度は聖職者らしいけどやってることは大違いですね。」
上着は完全に脱がされて、ズボンの腰紐を解かれてセレネは呟いた。
「顔だけの司祭と言ったでしょう。」
そう言って二人で笑い合うと、張り詰めかけていた空気が一気に消えてしまった。

「とりあえず、気が済むまでここで休んでください。僕らが絶対に騎士団も絶対に立ち入らせません。貴方の思い人も。」
「…果たしてここに居て休息になるのかちょっと怪しく思えてきましたが。」
「べつに“これ”は強制していませんよ?僕がしたいなぁと思っているだけで。」
「…グローリィさんの場合、その笑顔がなんだか脅してすけどね。」
乾いた笑いをして、セレネは嫌ではないと訂正する。

「ああ、そうだ。セレネ、私のことはグローリィでいいですよ。敬語の必要もありません。」
「…分かりました。でもグローリィは敬語じゃないですか。」
「だって、どうせ貴方の方が年上じゃないですか。」
「……え。」
言われてセレネは止まった。

「…グローリィって」
「18です。」
「うえ!?」
正直なセレネの反応にグローリィが笑い出し、また静かな部屋はのんびりとした空気になってしまう。
セレネはてっきりグローリィが年上だと思っていた。
確かに背もいくらか低いし、歳が分かりにくい顔だと思ったが、それでも落ち着いた物腰や考え方などで25くらいに思っていた。
それが4つも年下で、読み違いは7となるとなかなか驚きだ。

「でも知識と経験はそれなりにあると自負してますから、一時でも貴方が何も考えられなくなるようにする自身はありますよ。」
そう言いながら浮かべる、狂気を持った優しい微笑み。
彼が年上に思えた要因は何よりもこれなのだ。
きっと以前なら怯えただろうそれも、何もかも捨てたいと思う今のセレネには望むところだった。



仰向けになったセレネの足の間に顔を埋めて、彼の性器の裏を湿った舌先でゆっくり舐める。
腿が一瞬力んだ。
熱い舌と指先で焦らす様に愛撫すると、すぐに彼の性器は熱を帯び始める。

「…っ…ふ…」
「敏感ですね…。“その人”とする時に、あまりこうされてなかったんですか…?」
指で擦り上げながら唇をつけてしゃべられて、そこにかかる彼の息さえ快感になった。
思えば、セレネが受けたのは性急なものばかりで、こんな丁寧にされることもなかった。
口での愛撫もされたことがない。

熱い口内に含まれて、湿った舌がその中で尚愛撫を続ける。
「あっ…あぁ…」
含みきれない部分にも指で扱かれて、一気に熱が上がり、腰の奥がうずいた。

腰が浮いてしまいそうになり耐えるのに何かを掴みたくて、行き場に困った手がグローリィの髪を掴んだ。
足にも触れる銀糸の髪はとても綺麗で、高価なものを鷲掴みしてしまったような気になって、慌てて離し、拳を握った。
けれどそれに気付いていたらしいグローリィが、腿を開かせていた手でセレネの手を掴み、自分の髪をまた掴ませた。
掴んでいいということだろうが、それでも彼は遠慮がちに力を入れないようにしていた。

まだ触れられてもいない後孔が疼くのは、先日立て続けに犯されたせいだろう。
気付かれたくなくて、身を捩ろうとした。
けれどグローリィはそんな余裕を与えてはくれない。

手が握りこみ、さすりあげて、慣れた手つきで全身も脳内もかき乱し始める。
「あっ、…ふ…っ!」
息を整えることも許さず、より激しく上下される手と強く押し付け擦りつける舌。
身体を曲げることができなくて、天井を見上げたまま弄られる感覚と卑猥な水音だけしか認識できず、部屋に一人しか居ないような感覚さえする。
一人にしろ二人にしろ、羞恥を感じることに代わりはないのだが。

「うっ…は、あっ!…あぅ…!」
過敏になったそこに吐息を感じた。
笑ったのだろう。
グローリィの唾液やセレネの漏らした体液に濡れて、外気が冷たかった。

「恋人とする時は、挿れる側だったんですよね。」
「…っあ!…そ、そうっ…く、ぁ…」
恋人ではない、恋人にはなれなかった。
そう思ったがもう余計なことをしゃべるれる余裕はなかった。
身体が震え強張って、眉根がぎゅっと引き締まった。

「じゃあ、初めてなのにあんな酷いことをされてたんですか。」
「…はっ…な、なに…っ」
「貴方を連れ帰ったとき、僕が身体の処理をしたんです。ずっと奥のほうまで精液を入れられて、時間もかかりました。一回されたぐらいじゃあんなに奥まで入らないですし、よほど立て続けに犯されたんでしょう?」
話しながらも手の動きは加速されていく。
搾り出すように、快楽を与える動きから射精を促すものへ代わって行っているのが分かった。

「ああっ!!イッ…あ!うぁ、ア!!」
「内壁も傷ついているのに精液もそのままで、気を失っているのに掻き出そうとしたら悲鳴をあげて泣いていましたよ。よほど痛かったんでしょう。」
彼が何のためにそんな話をしているのか理解できなかった。
それよりもセレネは、自分がこんなに乱れているのにグローリィが普段と全く変わらぬ様子で居るのが恥ずかしく、腹立たしかった。

次第にそれも消えていく。
身体に力が入って動かなくなり、ただ中心が脈打つのを感じる。

だがそれもできなくなるほど、快楽の波に思考が奪われ、真っ白になった。

「!! あっ、う ――ああっ…!!!」
快楽が全身を走りぬけ、体内で留め金が外れたような気がして、熱がどくどくとあふれ出す。
その留め金が外れてから、しばらく茫然自失していたが、その間もしばらく身体は精を放ち続けた。

グローリィの手が探るように腹や胸を這い、覆いかぶさった彼に頬にキスをされる。
唇の柔らかさのあとにさっきまで性器を貪っていた舌が頬を伝い、唇をかるく舐めて口内に侵入した。
「…んっ…、……?」
大人しくそれを受け入れて、軽くこちらからも舌を絡めて応えたら、唾液と、妙な味の液体が少しだけ流れ込んできた。
苦いような、ちょっと甘いような、生っぽいような、青っぽいような

「……ーっ!」
それが自分自身の精液であると気付くと、顔に血が上って眩暈がした。
目を細めて笑いながら、彼は口内を蹂躙し続ける。
さっきまでとは違う、まるで眠気を誘うような心地よい快楽。

こんなことをしていながら、セレネはグローリィに後ろめたさを感じない。不思議と嫌悪感も無い。
彼が凶暴な男だとしても、そうゆう奴なんだ、と割り切れてしまいそうな…。
そんな男は昔いくらでもいた。けれど、それらと比べることがないのは、一度自分の心のうちを話したからか。

もしかしたら、自分達は違った形で良い友人になれたのかもしれない。
いや、こうゆう形だからこそ、かけがえのない友人になれるかもしれない。
身体の関係を持っても、それを繋がりにする気は互いにないし、色気があるものだと思わない。
二人の関係は変わらないだろう。

「セレネ、ベッドから降りて、膝を付いてください。」
指示されたがすぐに彼は動けず、一息ついてからグローリィの手を借りて、ベッドの脇に膝をついた。
グローリィがベッドの縁、セレネの前に足を開いて座る、それで何を求められているのか理解した。
セレネはベッドに手首を付いて、熱を帯びてはいるが完全に膨張も立ち上がりもしていないグローリィのそれ指で持ち上げて、舌を這わせた。

「軽くやって、濡らしておいてくれるだけでいいですよ…。」
察するにセレネが受け入れる側なのだろう。
「グローリィが挿れる側でいいのか…?」
「どちらでも良いですが」
頷いて、グローリィのものを口に含んだ。

「でも、セレネは恋人を抱く側だったのでしょう?だから、その手で私なんかを抱かないで欲しいんです。」
恋人のために前なり後ろなりとっておいて欲しいなどと呟いたが、後半は小さくて、セレネにははっきり聞き取れなかった。
柔らかく温かい舌で男の性器を咥え込む綺麗な人を、愛しげに撫でながら髪に指を通して、そっと後頭部を引き寄せて更なる愛撫を要求する。
「んっ…く、ん…」
できるだけ奥まで口に入れて、両手で懸命に陰茎や睾丸部まで愛撫する姿がなんとも官能的だ。

もう良い、と髪を撫でて肩を軽く押して、セレネを制した。
グローリィも若干頬を赤らめて、息を乱しかけていた。

彼は立ち上がって、セレネの脇に立つ。
「ベッドに腕を乗せて。」
「え…上、は…」
ベッドの上でするのではないのかと不安になって、彼のほうをみて聞いた。

「ヒールで塞いだので覚えていないでしょうが、森で腹部に木が深く刺さってまして、表面は完治したんですが、何しろ大分深かったので、内部までしっかり完治してない可能性があるんです。」
ベッドの上で後ろからの体勢で行為をすれば、セレネがずっと腕で身体を支えていないと、身体を反らせて腹部に負担をかける体勢になってしまう。
それを気にして、負担がかからないようにベッドの下で、ベッドにのしかかってする体勢にしたのだろう。

そこまで分かっていながらやらないという選択肢の出ないグローリィを、自分に正直な人だと思った。

「ああ、ランプの芯が終わっちゃいますね…満月ですし、カーテンを開けましょうか。」
「わかった。」
グローリィが動いてすぐに、2人をユラユラと映し出していたランプの灯が消え、代わりに開けられたカーテンの向こうの月が室内の2人の姿を浮かび上がらせた。

「そうだ…セレネという名前の意味を言ってませんでしたね…」
後ろから覆いかぶさるように、セレネの後ろに膝を付いて、その背に寄りかかった。
耳元に低い声で囁かれる。子守唄のように思えた。
「セレネは月の女神…月明かりの元に打ち捨てられた貴方の白い肌と金色の髪が綺麗で、月の女神が重なったんです。それに…」

腕を手のひらでゆっくりと撫で上げられるのが、体勢のせいもあり妙にいやらしく思えた。
「貴方の名前も、月だったと思ったので。」
「…え…」
目の前にある白い、しなやかな指。
それと対のものが後ろの双丘に割り入って、蕾みを撫で上げた。

「セレネより、ルナの方が私は綺麗だと思いますけどね…ルナティス。」

ルナティスは知らないと思っていた名前をグローリィに耳元で呼ばれ、目を丸くした。



  
BACK NEXT