「月には悲しい話ばかりあるんですよ。セレネという女神もそう。神とは比べ物にならないほど命短い人間の男を愛し、永い時を共有するために、その男を永遠に眠らせ、若さを保ち続けさせて愛した。」
グローリィの話す神話に聞き覚えがあった。
まさかそのセレネだとは、セレネは…ルナティスは思いもしなかった。

自分の名前と同じ月に関連するものをつけたグローリィは、初めからルナティスのことを知っていたのか。
「ルナティス、貴方はセレネの様に…月のように可哀想な人だ。
心が綺麗で優しいから、自分自身に惑わされてこんなに苦しんで…
私のように、人間のように、欲しいものを欲のままに貪ってしまえばいいものを。」

後ろで衣擦れの音がしたのは、グローリィも服を脱いだからだろう。
その音を聞きながら、自分はそんなに綺麗な人間じゃないと思っていた。
彼の言うとおりなのだとしたら、その月の様な人にずっと寄り添っていて、影響されただけに違いない。

月明かりに照らされていた、白いシーツに乗せていた自分の腕に、後ろからグローリィが手を重ねてきた。
一瞬、息を呑んだ。
彼の白い手首から下は、別の物のようにおかしな模様があった。
ルナティスが息を呑んだのが分かり、グローリィは耳元でくすくす笑っていた。

「性善説なんて僕は在り得ないと思います。こんなに苦しい目に遭って打ちのめされている貴方がこんなに優しくて強いのに、平凡に何不自由なく暮らしていた私がこうなってしまったのか…、証明できませんから。」
俺の手首の下から肘辺りまで、刃物で傷つけたような傷が所狭しと浮かび上がっていた。
古傷となった白いものから、治りかけの茶色、まだ新しい赤。
それが乱雑に腕に張り付いているように見える。
腕をぐるりと一周しているのだから、意図的につけられた傷。

「馬鹿らしい話です。痛みも傷も嫌いなくせに、無性に血が見たくなるんです。」
そう言いながらグローリィは見せたのとは反対の手の指を、ルナティスの後孔に差し込んだ。
その冷たさに一瞬震え上がる。
指の冷たさだけではなく、彼の腕のように、いやそれ以上に傷つけられる気がした。
けれど差し込まれた指は入り口を丁寧に解し、慎重に奥へマッサージをするように入っていく。

小さく、僕は醜くて愚かな人間だ、と言葉とは裏腹に楽しそうな声でいう。
楽しいわけじゃない、情けなくて逆に笑えてしまうからだということをルナティスは知っていた。
「…っ…それだけ、君が…知らないうちにっ、傷つけられたんだろ…?」
「誰よりも楽に、裕福に生きてきた僕が…?」
「楽だったり、裕福なのが…幸せとは、限らない。…とても辛いことが、なくても…望むものが、手に入らなかったり、見つから…かったり…失ったり…そうゆうの、だって…確かに、傷つくものだから…」

肩の後ろあたりに、グローリィの唇が触れる。
指が一本増やされたのを感じた。
深くまで指は入っていき圧迫感を増して、段々と話す余裕がなくなってくる。
「君が、傷を知っているから…アグリ、ィや…僕の…っ、ことも、分かってくれて…大聖堂でも…尊敬される…って…ふ、ぁ…っあ!」
中を蹂躙する指が過敏なところに触れて、ルナティスの言葉を途切れさせた。

グローリィは話を聞いているのか分からないくらい、手際良くルナティスの体内に居場所を作ろうと解していく。
「君のような言葉をくれる人が欲しかった。…ありがとう…大好きだよ、ルナティス。」
今度こそ、言葉で“友人”と互いに了解したような気がした。

ルナティスも微笑んで返したかったが、もう余裕は無い。声は嬌声をあげて言葉をだすことができない。
少しだけ、過敏なところを刺激して追い立てるのを止めて欲しいとルナティスは思ったが、グローリィは全く引かない。
中からの甘く激しい快楽に、血が巡り、身体の芯に熱が集まる。

『僕も』

なんとか言いたかったことをWISで小さく返して、ルナティスは力尽きたようにベッドに顔を埋めてシーツをぎゅっと握り締めた。
しつこい前立腺刺激から逃げるようにしていたために、上半身は完全にベッドに張り付いて、膨張し始めた性器がシーツに触れた。

「挿れるよ」
そう言われて少し構えたが、グローリィはすぐに入ってこなかった。
手を伸ばしてベッド脇の小棚から透明な粘りをもった水の入った瓶を出し、床に置いた。
ルナティスもそのコツンという音を不審に思い、振り返ってそれを見た。

「っな!…ぁ…グロ…」
「ああ、大丈夫。ルナティスが使われた薬じゃないよ。ただの消毒薬だから。」
散々苦しめられた覚醒剤に似ていたのだろうと察して、グローリィはすぐにそう弁解した。
それにほっとため息をついたのもつかの間、何故消毒薬を出すのかという方に疑問を持った。

昨日今日でもう何度も見た狂気を含んだ優しそうでどこか鋭い笑顔。
解された入り口にそれを塗りたくられ、少し中まで入れられる。
「…んっ…っツ!…?」
一瞬、ピリッとした痛みが走って思わず声を漏らしたが、グローリィは気にする様子もなく、消毒液と言った液体を自らの性器にローションのように塗りたくった。

「…うぁ!…ん、ぅ…」
ぐっと突きこまれる感覚がして挿れられたのかと思ったが、入れられたのはまだ指二本だった。
奥のほうまで入れられて、左右に道を開けるように押し広げられた。
「いくよ」

十分すぎる程に濡れたグローリィの性器が突きこまれた。
奥までルナティスの内壁を押し広げて侵入する。

「…ァ!!…ヒっぐ!うぁあ、あああっ!!」
突然、下半身が痺れそうな激痛が走った。
裂けたのかもしれない、けれどそれとは違う激痛。
拡大していくような、ヒリヒリとした痛み。

「アァ!!…いやだ!痛い、痛い!!」
「ここまでさせておいて、止めろとは言わないよね…?」
耳元で楽しそうに笑うグローリィの声。
そしてまだ痛みに強く口を閉じているルナティスのそこ深くで動き始めた。

「いやああ!!待っ…!!グロ、リィ痛い!!痛いっ!!」
何かやってはいけないことをやってしまったような異常な痛みだった。
ルナティスは泣き喚きながら色気なくベッドをバンバンと叩いて痛みを訴える。
グローリィはそれを上から楽しそうに見ている。

彼が動くたびに浮き上がる背の筋肉を舐めるように手のひらで撫で上げる。
汗で少し濡れていた。
「っふ…言ったでしょうっ、中が酷く傷ついてただれてたって…」
「っあああ!!や、ひ、酷っ…い!あう、やああ!!」
「僕が…っこうゆう男だって、知ってた…だろ?」

悪戯をした子供のように、それか鹿の喉を噛み千切ってやった獣のように、嬉しそうに笑みを浮かべて、後ろから激しくルナティスに腰を打ち付ける。
ルナティスは胸の脇あたりのシーツを掻き毟って、頬をベッドに擦り付けられながら、赤子のように泣き喚いていた。
さっきまで膨張してきていた性器はすっかり萎えてしまった。

「慣れてしまえば、気持ち良くなるから安心して…」
「無理、だっ!!…ああぁっ!…っーーー!!!」
さっきまで無かった突きこまれる快感も感じ始め、二つの感覚に犯される。
このまま気を失ってしまいたいと思った。
ぼろぼろと涙が溢れて、シーツにしみこんでいく。

先ほど散々指で弄られた場所をぐいぐいと先端で擦り、奥深くまで突き入れる。
その繰り返して、痛みに拒絶したまま固く閉じようとしていた肛門もその内も、段々とグローリィの動きにあわせて力を抜くようになってきた。
それを見ると彼はルナティスから見えないところでにやりと笑う。

「…気持ちよくなったでしょう…っ?!」
「あうっ!!…あ、ハァッ…!は、んぁ…っ」
頷きはしないが、言うとおりであるのは反応で分かった。
ただ喚きっ放しではなく、快感を得るたびにビクビクと反応している。

痛みはまだあった。
それを耐えるのに奥歯がぎりぎりと嫌な音を立てている。
けれど痛みが引いていくにつれ、それが性的な刺激を引き立たせてくる。
必要以上にぬりたくった消毒液は体液と混じり2人の体温で生ぬるい液体となって彼らの結合部からあふれ出していた。

大分そうしてあふれ出したところでグローリィは腰を引き、少しだけ人の内の快感で膨張しきった性器に冷たい消毒液を塗りなおした。
「っ、嫌…だ、もう…」
「さっきよりは痛くない」
また怯えているルナティスに有無を言わさず、緩んだ蕾みに欲望を突き入れる。

「…ーーーッ!!っああ!!っうそつき…ぃ!!!」
「だから、そうゆう男だって分かってたでしょうが。」
また繰り返された激痛に涙をぶり返させて、顔をベッドに埋めて呻いていた。
その間、ずっと容赦なくグローリィは彼の中を激しく荒らし続け、息を荒げ始めていた。

「でも、力の抜き方は上手いね…っ、程よく締め付けて、くる…」
血は恐らく出ていないが、消毒液や体液などで犯されている蕾は女性器のようにぐしょぐしょに濡れている。
繋がっているところを指でなぞると、ルナティスの背がびくりと震えた。

「あっ…ぅあ、ん!!はぁっ、はぁっ!っや…!」
「ああ、そろそろきました…?」
ルナティスが痛みにばかりでなく、艶っぽい声を漏らし始めた。
痛みはずっとある。唸りたくなる痛みであるのに、それと同じくらいに快楽が走り、まるで痛みがそれを引き立てているように
激しく全身を犯される。

「もう、遠慮なくいく…」
これまでので遠慮があったのか、と内心つっこみながら、ルナティスは突き上げられる衝撃に息を詰まらせた。
全体重をもって奥まで、何度も何度も突きこまれる。

ベッドにへばりつくようにしてそれを受け入れる。
確かにこれを四つんばいで受けろというのは些か無理があっただろう。
グローリィは相手の腰を支える必要が無く、全力でずっと奥まで無理矢理突き入れてくる。
痛みを伴う快楽、乱暴な衝撃、意識を失いそうな刺激の中でルナティスはグローリィを恨んだ。
罵ったところで彼は楽しそうに笑うだけなのだろう。

もう諦めた。
信じられないほど溢れる涙と高い声と卑猥な水音を感じながら、友人のサディスティックな性行為を素直に受け入れ続けた。





「おはよう、今日は髪を染めに行くんだよね。染料は僕が奢るよ。」
目が覚めて速攻、真っ赤な顔をしてグローリィに怒鳴りに行こうとしたのだが、部屋を出た先にいた彼は相変わらずの爽やかな笑顔でいて、なんだか怒鳴る気が抜けてしまう。
ルナティスは勢いを落として、テーブルの彼の向かいの席に倒れこむように座った。

「そうしてもらわないと割に合わない…」
「確かに、昨日はご馳走様でした。」
熱くなった顔は冷めることが無く、ルナティスはそれを隠すようにテーブルに突っ伏した。
グローリィの楽しそうな声を聞いていると気が可笑しくなりそうだ。

乱暴に扱われるのは慣れた、というのは言い方がおかしいが、そこまでは許せた。
だがいきなり同居人のアグリィを呼び出して、彼に押さえつけさせてまた行為を再開するという羞恥プレイは勘弁してほしかった。
無口ではあったが紳士的で好意的なクルセイダーには短い時間だが世話になりかなり好印象を持っていたのに。
そのうえ散々行為を見せ付けておいて、疲れきったルナティスの身体の処理をアグリィにやらせる始末。
おかげでさっきから彼に謝り、彼も主人(?)の無礼に謝ってくれるものの目があわせ辛い。

「やっぱグローリィ性格悪いね」
「それがチャームポイントですから。」
「全然チャームじゃないし。」
グローリィがこうゆう人間なんだとか、自分達はそんな妙な友人関係なんだとか、何もかも納得してしまえば腹も立たない。

「じゃあ、一緒に染料を買いに行きましょうか。」
「…待って、まだ腰がちょっと…」
「アグリィ、ルナティス抱っこして連れて行っ」
「なんでもない全然立てる歩ける走れる…!!!」



  
BACK NEXT