「こんな感じで、母は新郎新婦を見ながら幸せそうに父について話してた。」

そう呟くフィーリアとヒショウの視線の先には式を終えて、多くの参列者の祝福を受けながら歩いている新郎新婦だ。

「次は君があそこに立つ番だろう。」

そう言いフィーリアの頭をそっと撫でる。
二人は腕を組んで寄り添っているが、いちゃついている訳ではない。
フィーリアがそうしなければ歩けない程に弱っているのだ。

「ありがとう、こんな我侭に付き合ってくれて…。」
「我侭だとは思ってない。…歩けるか。」
「大丈夫。」

ゆっくりと二人は前の参列者が出て行った教会に入っていく。



「新郎新婦のご到着よおおおおおお!!!!」
「この子があのカタブツを落としたツワモノか!?」
「姐さんどいてくれ!花嫁の飾りつけは私がやるからな!!」
「三人ともっ、花嫁さんが怖がりますから…っ」

式場に足を踏み入れた瞬間、なんだか豪快に男勝りの女性3人が寄ってきた。
三人とも冒険者の服装で、ヒショウの知り合いと知れた。
すぐにヒショウがフィーリアを庇うように前へ出た。

「悪いが、時間がないんだ。大人しく参列席に戻ってくれ。」

「なによーなによー」
「いつもの弱虫さんが婚約者の前で強がっちゃってねぇ?」
「まぁ、あとでもみくちゃにしてやろうじゃないか。」

不満げながらも参列席に戻っていく女性たち。
彼女らが戻っていった先には他にもたくさんの参列者がいて、殆どが冒険者。
てっきり二人きりで行う式だと思っていたのに、他に人がいたことにフィーリアは驚いた。。

「すまない。静かにしたかったから、なるべく近しい人間にだけはと連絡をしたんだが…
彼らだけでも煩い上に、来ないと思っていた遠くの友人も来てしまったらしい。」
「いいえ…いいの。けど皆は、この式のことちゃんと知っているの?」
「知ってる。それでも、心から祝福してくれると言っていた。」

微笑みあう二人は幸せそうな夫婦にしか見えなかった。
きっとこれからが最高に幸せな“二人の”思い出となる瞬間だった。






「彼女を妻とし…生涯彼女と共に生き、守り愛することを誓いますか?」

二人の間に立つ神父は、ヒショウの狩りの相方であり、恋人であるはずのプリースト。
ヒショウは「彼は誰よりも理解し、この結婚に賛同してくれた。」といっていた。
マニュアルとは少し違う誓いへの問いかけを口にした彼は、穏やかな表情をしていた。

「彼を夫とし…生涯彼と共に生き、労わり愛することを誓いますか?」

強く「はい」と言ってくれた新郎と同じように答えた。
生涯彼と共に生きるなんてできない。
けれど、愛することはできる、と不思議と思った。
愛も恋もしらない、汚れた女なのに。

向かい合うと端正にタキシードを着こなしている彼の姿が、ステンドグラスの奥の光と共に光ってまぶしく見えた。
彼から見る自分はどうなのだろう、相変わらず醜く痩せ細って、白いウェディングドレスはまるで死に装束なのではないか。
死に装束には贅沢だけど、きっと綺麗ではない。

それでも、精一杯苦手なのだろう笑みを浮かべて、手を取って、指輪を嵌めてくれる。

「ここに、二人を夫婦とすることを認めます。新郎新婦にに祝福あれ。」



祝福のファンファーレ。
今日初めて見た顔だけど、精一杯祝福してくれる人達。
優しく口付けてくれる新郎。
初めて受けた、どこか神聖な口付けに涙が溢れた。
その瞬間だけ、自分が何よりも清いものに思えた。

母も、この光の時間に心奪われて、妄想を続けたのだろう。
本当に可哀想な人だった。
けれど…

――― お母さん、私は絶対に私を幸せにしてくれる夫を見つけたよ…。

この瞬間が生きている中で最も幸せ。
自分にこの先は無いから、彼が何よりも素敵な思い出だけをくれた人、彼をそんな存在と捉えたまま自分は消えられる。
そう思えば、自分はなんて幸福な人間なのだろう、そう思えた。

赤いヴァージンロードを出てきて、慌てたように口にする。

「…外で、写真…ね。」

それが今回、何よりの目的。
妹にたった一枚、自分が幸せであったと伝え、安心させてやるための写真が欲しかった。
そうしたら、急いでニブルヘイムとやらに行って、離婚をして、そこでやっと全てが綺麗に片付く。

彼が言う「分かった」という返事は、周りの参列者の熱烈な祝福の声にかき消された。
とても煩いけれど、この時間がずっと続けばいいと思った。





「…納得がいかん。」
「は?」

出来上がった写真を見つめて、やたら露出度の高い服を着た美人が不満の声を漏らした。
どうやらヒショウとそれなりに親しい女性のようだが…何故彼女に心を奪われないで、友人の男性の方にいったのか、少し疑問に思う。

「こんなしみったれた写真じゃ納得いかん!!取り直しだ!!新郎新婦胴上げするぞおるぁ!!!」
「は!!?」

その女性の掛け声に、ヒショウだけが怪訝な声を漏らし、他はものすごいノリ気になって声をあげている。

「おいまて!!フィーリアにあまり無理をさせるな!!」

ヒショウのそんな言葉はお構い無しに二人の周りに人が群がる。
新婦をちゃんと気遣ってはくれたらしく、そんなに高くは飛ばされなかったから、無理というほどではなかった。
けれど、その分新郎は容赦なく高く飛ばされていた。

そんな中、自分でも予想しなかった最高の2枚の写真が撮られた。

 

 

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