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少女が息を切らして、野原を走っている。
遊んでいる様子ではない。
「お兄ちゃん!」
そう叫んだ先には、少女とはずいぶん歳の違う少年・・・いや、青年ともとれる姿だ。
少年の少々緑がかった金髪が際だっている。顔が少女からはよく見えない。
「お兄ちゃん、ごめんね。お兄ちゃんはお兄ちゃんのこと、嫌いじゃないの」
少女の必死だけれども意図が分かりにくい発言に、少年は口の端をあげた。
「大丈夫、わかってるよ。」
少年は大人びた口調で少女の頭をなでてやる。
「ごめんね。だから私のことも嫌いにならないでね」
「平気。僕が瑠美のこと嫌いになるなんてありえないよ」
___うげっ?!私!!?
どこかで響く叫び声に、少年少女はまったく気づかない。
「僕も悪かったから・・・には明日謝りに行・・・。」
「あり・・・う」
二人の声はかすかに聞こえるだけで、話の内容は聞こえなくなっていった。
___あ〜、なんか声聞こえなくなってくー。
何も聞こえなくなり、そのうち視界は暗くなって何も見えなくなってきた。
すべてが消えたとき、いきなりはっきりと大きい声が響いた。
___瑠美!起きろお!!
瑠美那「うるせえ!!」
声を出していた、目の前の人物を殴り倒した。
殴ってから、しまったと思い、その人物に歩み寄った。
瑠美那「あ、大丈夫か!龍ファ・・・」
と言いかけて、目の前にいた人物は自分が思っていたのとは別人であることに気づく。
羅希「あ、瑠美おはよ・・・うわ!?」
気づいた瞬間、再度殴り倒す。
瑠美那「なんでテメエがここにいる・・・」
羅希「な、なんでここにって・・・ここは私と飛の部屋だから」
瑠美那「・・・は?」
考えもしない返答に一瞬呆けて、辺りを見回す。
・・・壁はコンクリート・・・インテリアも結構良い感じで・・・部屋全体がひろい・・・なにより見覚えがない・・・
_______ピキン
瑠美那「てめぇ!またやりやがったな!!おとなしくそっちから出向いてぱっぱと説明しろこの野郎!!」
羅希「だから、龍が邪魔するからそれができないんだって!!」
瑠美那「そりゃそうだな。んじゃ、いいや。今説明して。」
私は何事もなかったようにベットに座って、寝癖のついた髪を指ほぐす。
羅希「・・・なんか君すっごいな・・・」
瑠美那「ああ?」
ガンつけると彼は子犬のように縮まる。
瑠美那「今回は話があるだけなんだろ?話すことあるんならさっさと話せ。早く帰りたいんだよ。龍黄が騒ぐし・・・ん?」
私はちょっと気になって部屋を見回す。
そしてお目当ての時計を見つける。
・・・・・・11:00・・・てか夜?
瑠美那「うわ!もう7時間ぐらい経ってる!?」
羅希「違う違う。」
瑠美那「ん・・・?」
羅希「31時間」
瑠美那「が・・・」
羅希「本当はあの薬、半日の効果なんだけど・・・なんか効きが良かったのかいくら起こして起きないから・・・。死んじゃったのかと思った。」
あー、そりゃ私の寝起きの悪さのせいだな。
瑠美那「・・・やっぱ話聞いてる暇無い。帰る。」
と、私はベットから飛び降りた。
____カチャリ
羅希の横を通ろうとした瞬間、彼に肩をつかまれて、同時に首に何か付けられた。
・・・鉄製のリングの形の首輪だ。
瑠美那「おい。なんだこれ」
怪訝な顔して聞くと、彼はにっこり笑って・・・
羅希「爆弾」
とか怖いことをあっさり言った。
瑠美那「・・・」
羅希「この建物から出ると爆発するよ。ここって“セヴァールフ”の別館なんだが、地下はヴァル・ヴァヌス公国が牢屋にしてるから、こんなのがあったりするんだよね。」
瑠美那「・・・」
___カチャカチャ・・・カチャカチャ・・・
私は爆弾(らしい物)を外そうと、リングを引っ張ったり、なんか出っ張ってるところをいじったりといろいろやってみる。
なんか金物の音が響くばかりではずれる気配はない。
それを知っているのだろう、羅希は笑いながらその様子を見ている。
瑠美那「・・・ま、アンタは私が死んだら困るんだろ。爆弾ってのは本物とは思えないな。」
私はすたすた歩き出す。
___カチャリ
また金属音がして、今度は腕を引っ張られた。
瑠美那「・・・」
羅希「そう言うんじゃないかと思って、寝てる間に仕組んでおいた」
私の視線の先にあるのは、ずいぶん長い鎖のくっついてる手錠。
しかもそれは私の腕にしっかりとついていて、もう片方がベットの飾りにぐるぐる巻きになっている。
つまり、私は手錠でベットにつなげられていた。
瑠美那「このやろっ!」
私は羅希に飛びついたが、惜しいところで鎖がのびきって、つながれた犬状態になってしまった。
羅希「だから、話をしたら帰すって。龍も一応健全な成年男子なんだし、夜道の危険があるわけでもない・・・」
瑠美那「そうゆう問題じゃないわボケェ!!」
私はできる限り手を伸ばして羅希を殴ろうと努力するが、無駄に終わる。
羅希「はい、無駄だから落ち着いて、話するだけだからまずは座って。」
瑠美那「ちっ・・・」
私はなす術無く、おとなしくベットに座った。
羅希「まずは、僕らの関係から説明しておこうかな。」
瑠美那「へいへい」
羅希「まずは瑠美と龍が兄妹で・・・」
瑠美那「・・・」
・・・・・・羅希が言葉を止めた。
羅希「なんか驚きがないね・・・」
瑠美那「だって確信はなかったけどなんとなく気づいてたし。」
羅希「いつから」
瑠美那「船であんたらと戦ってたときぐらいから。アイツの妹の話は聞いてたけど、誰もその名前は言ってないし、やけにアイツがしつこく私をかばってたから。それに、目の色が私も龍黄も違うし、名前もなんか感じが同じだし・・・」
羅希「瑠美と龍は異父兄妹だ。・・・瑠美、意外と頭良い方だったんだね。」
瑠美那「思考力はないけど勘は良い・・・って、お前、今“意外と”って」
羅希「続けるよ」
瑠美那「・・・。」
さっさと終わらせて欲しかったので何も言わないでおく。
そのかわり、今度会ったら殴るけど。
羅希「私と飛は、いじめ受けてた龍黄をかばって、まあつきあいが始まったけど、見ての通り・・・あまり仲は良くない、と言うより龍黄が一方的に拒絶してる。」
瑠美那「・・・」
人なつっこそうな顔してんのにな〜・・・
羅希「まあ、うざったがる龍に無理矢理くっついていたら瑠美に会ってラブラブ?」
瑠美那「殴って良い?」
羅希「やめて。えっと、まあそんな感じで僕らはいたんだけど、1年くらい経ったら、幻翼人の村に昔からある伝染病みたいなものに瑠美がかかって・・・」
瑠美那「あ、ストップ」
私は“幻翼人の村”であることに気がついた。
瑠美那「てことは私は幻翼人なのか?」
羅希「ハーフね。でも瑠美の場合は人間の方が多いみたいだね。」
瑠美那「羽ないしな。あー、無くて良かった」
羅希が話しているときに、飛成がビール瓶とかもって部屋に入ってきた。
飛成「僕はあるよ〜。見たい?」
瑠美那「金くれたら見る」
羅希の方が落ちた。
飛成はちょっときょとんとしてから大笑いし始める。
飛成「あっはっは。瑠美おもろ〜い」
・・・なんか飛成の様子がいつもと違う・・・。
ろれつがまわってないし、顔赤・・・
羅希「あー、またお酒飲んだんだ・・・。あ、飛って酔うと女口調になるけど変な目で見ないであげてね。」
瑠美那「・・・・・・」
飛成をちらっと見ると、もってたビール瓶のふたを開けてがぶ飲みしている。
こいつらって、見た目と性格が反比例してるよな・・・。
羅希「じゃあ、人間関係はこの辺にしておいて本題にはいるね。」
飛成が羅希の隣にちょこんとしゃがみ込む。
羅希「さっき言いかけたけど、瑠美那が村によく出る伝染病見たいのにかかったって言っただろう。」
瑠美那「ああ。」
羅希「伝染病というか、まあ、一種の呪いだね」
瑠美那「・・・私、呪い持ちか・・・?」
羅希「そうなる。いろいろと特徴があるんだけど、例えば、必ずかかるのは1世代に2人だけ。それで、生きてるうちにどんどん浸透して、いつか暴走する。」
瑠美那「暴走?」
羅希「そう。ただ暴れるだけなら問題ないんだけど、それがとにかく強くて、神族とか出てくるくらいで、3世代前には精霊王が殺られた。」
・・・精霊王って・・・話がでかいというか、なんかうさんくさいぞ
羅希「それにかかったのは瑠美那と、葉蘭。あの孤児院にいた盲目の女の人だ。」
瑠美那「あ、あの人・・・」
なんかすっごい美人の声でない人か。
羅希「・・・血のつながりはないけど、私の妹だ。」
瑠美那「・・・彼女のあの目と喉は生まれつきか?」
羅希「いや。村を追い出されるときに。瑠美那の場合は君の家族が庇ったから大丈夫だった・・・けど、結果的には人間界に放り出されたし、両親は庇ったときに殺された。私と飛は、その時こっちへの道が閉じる前に2人を追って飛び込んだんだ。」
瑠美那「あー、そりゃどーも」
羅希「でもね。本当はあの呪い・・・ん?」
羅希がそう言いかけたところで話を止めた。
瑠美那「どうし・・・ん?」
私も話をやめた。
何か聞こえる。
飛成「え〜、なになに〜?どうしたの二人とも〜〜??」
羅希「飛、静かに。」
瑠美那「・・・サイレンっぽくないか?」
羅希「そうだな・・・・・・・・・・・・あああ!!!!」
羅希が突然叫ぶので、私と飛成はちょっと引く。
・・・耳すましてた分ちょっと耳痛かった・・・。
羅希「警報だ!龍が進入してきたんだ!多分!!」
瑠美那「何ぃ!?あの馬鹿が!」
私は立ち上がろうとして、はっと気がついた。
・・・手錠ついてんじゃん。しかも爆弾も
瑠美那「おい!これ外せ!」
羅希「の前にちょっと聞くけど」
瑠美那「んだよ!!」
羅希「私達もある程度君に話せたから、仲間と思って同行していい?」
瑠美那「はあ!?」
羅希「いや、実はもう会社と抜ける準備はできてるんだ。ここのコンピューターはいつでも壊せるとように準備したし」
瑠美那「あのなあ、そんな簡単に信用できないし、第一龍黄が・・・」
飛成「ここからたっくさんふんだくったから、お金はあるわよ」
瑠美那「よし、いいだろう!」
羅希「瑠美・・・」
飛成にどこから出したのか札束を出されて私の心は一気に360°回転した。
いやあ、私って金に弱いからなあ・・・
羅希「んじゃ、・・・はい」
___バキッ
手錠は羅希によって破壊された。
おいおい、鍵使って外すんじゃないのかよ。
瑠美那「あ、おい!首輪は・・・」
羅希「それ、爆弾じゃないよ。ただの健康リング。後ろの留め金とればはずれるよ。」
・・・はめられた。
別館と言うから結構小さいものかと思ったら、本社とあまり変わらずエレベーターに40階の文字。
・・・まあ本社は40階くらいあったがデカイことにはかわりない。
んでもってなんか結構こっちもハイテクでやっぱ「会社〜」って感じの造りと雰囲気を醸し出している。
私達がかけつけたとき、現場はすごいことになっていた。
瑠美那「龍黄・・・やりすぎだ」
羅希「龍・・・やりすぎ」
飛成「龍・・・やりすぎよ」
セヴァールフ社員が床に血をにじませて転がっている。みんな(多分)生きてるけどなんか死体の山に龍黄がポツリと立っているみたいだ。
龍黄は兵に銃や剣を向けられ、包囲されていた。
なかにポツポツと魔法兵らしき者が見られる。
ちなみに私達は階段から隠れるようにしてその様子を覗いていた。
瑠美那「あーあ、翼出してるし・・・。」
羅希「ありゃ言い訳できないな。」
飛成「早く助けないと僕みたいにあの変態社長の餌食になるんじゃない?」
飛成の酔いはちょっと覚めてきたみたいで、顔の赤みも引いてきたし口調もしっかりしていた。
瑠美那「・・・とりあえず私が説得に・・・」
羅希「あ、後にした方が良い。君のことは会社にはあまり話していないし、龍の前に出るのも危ない。」
最後の部分に私は疑問を持って羅希の方を見た、
彼はまじめな顔して
羅希「見ていれば分かる」
とだけ言って、なんかブツブツ呟きだした。
なんか魔法の詠唱みたいだが、独り言みたいな感じであんまり詠唱って感じでない。
羅希「瑠美。ちょっと寄って」
言われたとおり、彼の方に一歩近寄ると同時に、耳が痛くなるほどの爆音が響いた。
言葉を失ってそちらを見やると、奇妙な光景があった。
まわりをみると爆風が現場の方から吹いてきているのに私達には感じない。風が私達を避けているようだった。
瑠美那「魔法か」
羅希「そう。対物防御結界。」
羅希越しに飛成がだるそうな様子で呟いているのを聞いた。
飛成「龍も、ブチ切れながらもちゃんと人は殺さないようにしてるみたいだね〜」
え?ブチ切れ?
羅希「そうだな。昔よりは良くなったみたいだね。」
昔よりは?
爆煙が次第に空気に紛れていって、龍黄の姿が見えてきた。
龍黄「羅希!!さっさと出てこい!!瑠美をおとなしく返せ!!」
・・・なんか顔超怖いし声がなんかドスきいてて・・・怖い・・・
瑠美那「・・・うん、切れてるって感じする」
羅希「昔はもっとすごかったよ。ところかまわず魔法ブッ放してさ・・・」
飛成「そうそう。アレに羅希何度やられたことか・・・。もうなんかその度に羅希の髪ちょっこげてるし、お肌ボロボロになっちゃってなんかせっかくの美貌が台無し?ってか」
羅希「飛。気持ち悪いからやめて」
飛成「ふぁーい」
・・・・・・。
羅希「じゃあ、瑠美・・・ちょっと龍を治めてきてくれる?私達のこととか説明して・・・」
瑠美那「へい」
私は階段を下りていって龍黄の名を呼んだ。
龍黄「瑠美!無事か!?」
瑠美那「お、おう。」
龍黄・・・顔怖いぞちょっと。凛々しいけどこいつには似合わない・・・。
瑠美那「あのさ、龍黄。聞いて欲しいことあるんだけど・・・」
龍黄「の前にまずここから逃げよう!」
瑠美那「・・・の前に話さなきゃいけないの」
龍黄「なんだ、ささっと言ってくれ。」
まだ切れてる状態なのか?口調が変。
瑠美那「羅希達を同行させて欲しい」
龍黄「!?」
龍黄が驚愕に目を開いた。
瑠美那「アイツらに全部・・・でも無いけど、ある程度聞いたんだ。」
龍黄「・・・」
瑠美那「まだ関係とか、私とかが追い出された理由とかさ。そしたらあいつらそんなに悪くないんじゃないかなーと思って。」
龍黄が眉をひそめ、私ではない誰かを睨みつけるような顔つきになる。
だから、その怖い顔やめろって。
龍黄「・・・瑠美は何も知らないんだ!」
瑠美那「教えてくんなきゃ知るわけないだろうが!お前は羅希がお前の“妹”を殺したって言って恨んでるが現に私は生きているし、あいつは私達を追って精霊界を飛び出してきた!私にもお前にもなんの害も与えていない!お前があいつを恨む理由は何処にあるんだ!」
結構力入れて演説。
・・・だってお金貰ってるし(笑
龍黄「瑠美を呪ったのはあいつだ!今殺されていなくてもいつ死ぬか分からない!」
瑠美那「だから、なんでそう断言できる!あいつが私を呪ったとかこれから死ぬとか、てか殺すなよ!私を!」
龍黄「あいつのまわりでばかり“翼の呪”が出てる。それにあいつの素性は知れない!幻翼人かだって怪しい!」
瑠美那「あのさあ!それって思いっきり逆恨みじゃん!?その“翼の呪”・・・って2つだけなんだろ?偶然だろ!どう考え・・・」
羅希「龍」
後ろから出てきた羅希の声が、怒鳴り合いをやめさせた。
その後ろから飛成もついてくる。
私は龍黄の方を見た。
さっきの説得がちょっと聞いたのか、怒りまくって飛びかかることはしないみたいだ。
羅希「瑠美、さっきの話の続きだ。」
そう言って視線を龍黄から私に移した。
瑠美那「続き?」
羅希「そう。瑠美達が人間界に追い出されたとき、もう一つの“翼の呪”が覚醒した。」
瑠美那「って、葉蘭・・・」
羅希「じゃなかったんだ。」
私は唖然とした。その事実じゃなくて、ただの勘違いで葉蘭があんな目にあったのか、ということで。
うしろで龍黄が、え、と声を上げたのが聞こえた。
羅希「・・・“翼の呪”にかかったのは、兄妹の妹ではなくて兄の方。本人も、覚醒してから気がついたんだがね」
瑠美那「・・・じゃあ、それにかかってるのって」
羅希が間をおかずに言葉を紡いだ。
羅希「瑠美と私だ。」
・・・私は「あ、そーなんだ」程度にしか思わなかったが、龍黄には結構効いたらしい。大鎌を取り落として目を見開く。
羅希「・・・と、全部説明し終わったところでそろそろ逃げない?気がついたら結構囲まれてるんだけど」
瑠美那&龍黄「え・・・、うわああ!!!」
さっき龍黄が倒した数倍くらいの人数の兵が取り囲んでいて、そこら辺の一部から社長らしき人物が顔を出した。
社長「幻翼人は生きたまま捕らえろ。君子も多少の傷は許す。小娘はかまわん、殺せ!」
男女差別だ〜!とか言ってる余裕もないな。
龍黄に庇われ、嵐のように唸る銃声を避けながら羅希達の方へ走っていった。
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