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羅希「瑠美、怪我はない?」
瑠美那「・・・岩が頭に二個ほど当たった・・・」
私にとって、荒らしのような数秒の出来事であった。
管理室の天井に羅希が魔法で大穴をあけた。その穴の先には夜空・・・。この男はあっさり8階分の床を一気にぶち破った。
私は今までに何度か魔法を見たことはあるが、それは風で軽く物を切るとか、火を出すとかの類だった。
けど、この状態を見てしまうとそれは子供の遊びのように見える。
瑠美那「・・・これが“精霊”の力なんだな・・・」
羅希「?」
私は一人呟いて、立ち上がる。
そして何かを思い出したように声を上げた。
瑠美那「羅希、足を怪我してるんだけど・・・私。」
羅希「あ、そういえばそうだったね。」
・・・こんな大穴をあけさせてから言うのもなんだけど・・・。
私はなんとかこの穴を上れないかと思案していた。
しかし、羅希がいきなり私の前に背を向けてしゃがみ込む。
羅希「はい」
瑠美那「え・・・」
羅希「おぶってく」
瑠美那「・・・いくらなんでも無茶だろ」
羅希「大丈夫大丈夫。いいから、早くしないと人が来るよ。」
・・・こうしていてもしょうがないので、騙されたと思って彼にのしかかった。
羅希「じゃあ、しっかりつかまって」
と言ってる最中に彼はいきなりジャンプ。
跳ぶ前に言えよ、そうゆうことは!
私はあわてて彼の首にしがみついた。
瑠美那「え・・・?」
気がつけば、もう1つ上の階だった。
羅希「どうしたの」
瑠美那「・・・お前、今どうやって登った?」
羅希「跳んで」
瑠美那「・・・普通できるか、そんなこと」
結構高さは高いし、そのうえ女子一人担いで(重さ的に女子以上だけど)・・・。
羅希「私が普通じゃないんじゃないか」
瑠美那「・・・」
羅希「まあ、私は“生まれたときから”ビシバシしごかれたしね・・・」
瑠美那「なに、親に・・・ってうわ!」
また彼は声もかけずにもう1つ上の階に向かって跳んだ。
瑠美那「声かけろよ!」
羅希「分かった。」
次も難なく到着。
羅希「それ以上に、木登りとか慣れてたしね。・・・いくよ。」
着いてすぐに、またジャンプ。
瑠美那「遊ばないでガリ勉してそうなタイプだけどな、お前。」
羅希「遊びはしなかったけど、勉強以上に武術を教え込まれたから、運動は得意だったかな。はい、跳ぶよ」
彼はまったく疲れた様子もなく、続けざまに跳んだ。
羅希「木登りは、瑠美とよくやってたから。と言っても、こんな風に私が担いで登ってただけだけど。」
瑠美那「・・・」
羅希「で、その登っている木が村のご神木で、いつもこそこそ登っていたな。一度も見つからなかったけど。」
難なく着地。
アステリア達の言ったとおり、兵士は下の階で待機しているんだろう。全く人気が見られない。
一般人は部屋に隠れているのか・・・。
瑠美那「・・・全く覚えていないな。」
羅希「そうだろうね。龍達のことも覚えていなかったんだし。」
羅希がそう言いながら、今まで登ってきた穴をのぞき込んだ。
私も一緒にのぞいてみると、一番下の管理室に兵士達が乗り込んできていた。
私達は顔を引っ込める。
どうやら彼らは私達に気づいていない様子なので、引っ込むまで待つことにした。
羅希「そうそう、一度瑠美に告白したことあるんだ。」
瑠美那「・・・てめぇ、何歳児に告白してんだよ」
羅希「5歳児だね。あっはっは」
瑠美那「・・・ロリコン」
羅希「え、そんなことないだろ。今も好きだし・・・いった!」
思いっきり全力で彼の後頭部を殴りつけた。
瑠美那「で、私はなんて答えた。」
羅希「微妙だったな。」
瑠美那「フラレたんだろ」
羅希「そんなことなかったよ!なんかさ、私に迷惑かけられないからって・・・」
瑠美那「だから、フラレたんだろうが」
羅希「違うって・・・。私がもっと大きくなって、大人になったら一緒に人間界で暮らそうって。君の家族とかもつれてさ・・・」
瑠美那「んで、断ったか」
羅希「違うってば!そう言ったら、うんって言ってくれたしさ」
瑠美那「たかが5歳児の言葉だろ。マジになるなよ。」
羅希「あのねぇ・・・」
とか言ってる間に、管理室の兵士達はいなくなっていた。
羅希「じゃあ、今度は一気に登るよ。」
瑠美那「おう」
羅希「・・・ふう、ついた〜・・・って大丈夫?」
私は羅希の背中でたこのようにぐにゃぐにゃになってへばっていた。
瑠美那「キモ・・・吐き気が・・・」
本当にこいつは一気に登ってきて、その異常な速さに私は乗り物酔い状態だった。
速いし、ガックンガックン揺れるし、息苦しくなるし・・・サイアクの時間だった・・・。
羅希「えーっと、窓ふき用クレーンは・・・あれか。」
私は彼の背中から飛び降りる。
ゆっくり休んでいて、と言い残して彼はクレーンの方へ向かった。
羅希が離れたら急にあたりが静かになって、風が吹き込んできた。
夜の冷たい風。
それが具合の悪い私には心地よかった。
冷たい風を喉の流し込んで、一息ついた。
羅希はクレーンの点検や操作の確認をしているらしい。
私も怪我をした足を庇いながらそこへ向かう。
瑠美那「うわっ!」
いつの間にやら私のところへ来ていた羅希が、私を抱えてクレーンの方へ歩き出す。
羅希「けが人はあんまり無理しない。」
瑠美那「・・・」
そのまま荷物のように抱えられたまま、クレーンに乗り込む。
スペース的に3人くらい乗れそうだ。
そんなに錆びてもいないので、故障の心配はないだろう。乗った瞬間、結構揺れたけど、何処かがきしむ音も壊れる音もしなかった。
そして、会社の正面口とは反対側。
アステリアの言うとおり、かなり良い脱出経路だ。
けれど、念のためだろう。こちら側にも数人見張りがいるが、そんなに数も多くなく、そんなに武装もしていない。
50階の高さのためよく見えていないのもあるのだろうが、こちらを気にする様子もない。
羅希「降ろすよ」
と言った瞬間、クレーンが徐々に降下し始める。
って、「降ろす」って私のことじゃないんかい。
瑠美那「おい」
羅希「ん?」
瑠美那「降ろせ」
羅希「あ、忘れてた」
と、言ってから私はご丁寧に足場に座らされた。
クレーンはゆっくりと静かに下がっていく。
瑠美那「・・・」
私って鍛えてるから結構、体重重いんだけど「忘れてた」とか平気で言ってるし、ここまで重労働していたはずなのに、全く疲労の様子もない。
日頃からかなりキツイ訓練でもしてるんだと思うが・・・
羅希「どうしたの?なんかジロジロ見て」
瑠美那「・・・人は見かけによらないな、と思って」
羅希「・・・ガリ勉君が以外と体力あるなってこと?」
瑠美那「・・・おう」
羅希「惚れた?」
瑠美那「お前みたいなのがそんなんだと、飛成とかすごいんだろうな」
羅希「無視か。」
彼は傷ついたようでも不快なようでもないようで、普通にそう言って流す。
羅希「瑠美、もう少し頭を低く・・・というか、もう足場に寝てくれる?」
雑談しているうちにクレーンは結構下がってきていて、下の見張り達も目をこらせば見える位置に来ていた。
私は指示に従い、仰向けになった。
羅希はその脇にしゃがみこむ。
瑠美那「なあ、龍黄と飛成は」
羅希「大丈夫だろ。少なくとも飛成がいるし。彼らのことだから、今頃僕らの分の宿とかをとって待っていてくれる。」
瑠美那「そうか」
それ以降、私はなるべくしゃべらないように口を紡いだ。けれど、
瑠美那「あー、横になったら眠くなった。」
という状況になったので、小さく彼に告げた。
羅希「寝ていても良いよ。起きるときには宿だと思うから。」
・・・夢を見ていた。
あまり夢という実感がなかったけれど、覚えのない客観的な映像にコレは夢だ、と予想できた。
登場人物は、つい最近見た少年と少女で、なんかむかつく少女マンガのようなラブラブっぷりを出していた。
そんな嫌な関係(私にとっては)の二人が、羅希と私なのだろうと、なんとなく気づいていた。
「着いたよ〜」
少女を担いで登ってきた木はとてつもなく大きく、高い。
「ごめんね、わがまま言って」
「いいよ。ココじゃないと日没は見えないからね」
少女と少年は木の枝の根本に座る。木は丈夫で二人がごそごそ動いてもびくともしなかった。
少女の隣に座る少年の頬に一筋汗が流れた。
「ごめんね。本当に疲れたでしょう?」
少女は眉をひそめて少年に言う。いくら謝ったところで何も変わらないが、どうしても謝りたくなる。
「いいってば。そんなに謝らなくても。これは僕が好きでやっていることだし、それに瑠美が喜んでくれるなら僕も嬉しいから。」
少年がそう言って微笑んでくれるのが嬉しかった。
彼は必ずこんな言葉を返してくれる。それが分かっていて、その言葉が欲しいから、少女はいつもいつも謝っているのかもしれない。
そのうち、日没が訪れる。
空が朱に染まり、その上部から藍色がそれを覆っていく。
沈んでいく太陽も、だんだんと輝きを失っていく。
いつもまぶしい太陽がこの時凝視していられる、そのことに少女は優越感を感じていた。
いつの間にか朱は地平線へ追いつめられ、音もなく消えていく。
そして更に静かな、藍色が空に立ちこめる。
ただの一連の動作。
けれど、偉大な雰囲気を漂わせるこの光景が大好きだった。
「・・・ねえ、瑠美」
その光景に後押しをされるように少年は言葉を続けた。
瑠美那「・・・」
冗談かと思ったらマジで宿だったし。
私は寝心地の良いベットの上で起床。
スッキリしている意識の中で、隣のベットに龍黄を発見。
うつぶせになって翼を全開に広げて眉をひそめている。夢見は良くないらしい。
飛成「寝かせておいてあげてね。あまり寝ていなかったみたいなんだ。」
と言う声の方を見ると、私と向かいあっているベットに座って飛成がなにやら縫い物をしている。
瑠美那「・・・羅希は」
飛成「コレの材料買いに行った」
と言って、飛成は今縫っている布を揺らす。糸と布の色は両方象牙色なので、何処にどう糸が縫ってるのか見えにくい。
瑠美那「なんだそれ。」
飛成「なんちゃって精霊具」
瑠美那「わかんねえよ」
飛成「精霊具って知らないか。その主に精霊が使う“意志を持った装備品”だよ。」
瑠美那「意志を持った・・・生きてんのか」
飛成「生きてる訳じゃないけど、持ち主を選んだり、その人に忠誠を誓ったり、少々特殊能力があったり。しゃべったり痛がったりする訳じゃない。」
彼は針を布団に刺して、布をおいた。
飛成「コレも精霊具だよ。」
と言って彼は自分の腰から宝剣を引き抜く。
飛成「僕らは1人に1つは必ず精霊具を持ってる。龍黄の大鎌もその1つだよ」
私は横目で隣に寝ている龍黄のベットに立てかけてある大鎌を見る。
飛成「と言っても。彼は母親のを受け継いだだけだけど。」
瑠美那「・・・」
私の母親・・・
こんなモノ振り回して戦ってたのか。何者だ
飛成「そういえば、あまり必要ないかもしれないけど話しておく。」
瑠美那「必要ないなら話・・・」
飛成「瑠美のお母さんが雪菜“シュエラン”さんで、お父さんがアーテネスさん」
・・・親の名前だけど、なんか二人とも覚えにくいな・・・
瑠美那「龍黄の父親は?私とコイツ、異父兄妹なんだろ」
彼は少々返答に困った様子で、視線を中に泳がせた。けれど、すぐに視線をこっちに戻した。
飛成「龍の父親に名前はない。」
瑠美那「どうゆうことだよ。忘れたんじゃなくてか?」
飛成「そーゆー人なの。」
瑠美那「わかんねえって」
飛成「すっごいえらい人なの。だから、名前はなくて“称号”で呼ばれてたからさ」
瑠美那「・・・偉い人って・・・」
と、彼が話している最中に、部屋のドアがばたんと勢いよく開けられた。
ちょっとびっくりしてそちらを見ると、なにやら大量の紙袋を持った羅希がいた。
飛成「おかえり。見つかった?」
羅希「なんとか必要な物は」
ズルズル引きずってきそうな量の荷物だが、彼にとってはそんなに重くもないらしい。
てくてく歩いてきて、テーブルの上にゆっくり並べる。
瑠美那「これから何を始めるんだ?」
羅希「とりあえず、瑠美の中の呪いを封印する」
羅希が準備をてきぱき進めながらそう返事をした。
瑠美那「・・・そんなことで防げるのか?呪いって」
羅希「防げないと思う。でも時間稼ぎ程度にはなるから」
瑠美那「そうか」
羅希「じゃあ、ちょっとこの辺に立って。」
彼の言われるままに部屋の中心に立つ。
私を中心にして部屋の床に、なにかの液体で字が書かれる。私には全く読めない。
羅希が出す指示で、飛成が決められた位置に小石程度の大きさの光る石を、字にあわせて乗せていく。
羅希「これやると、しばらく体の節々が痛んで地獄を見る思いをするけど、せいぜい2、3日の話だから。」
瑠美那「え・・・って、私が?」
羅希「他に誰がいますか」
とにかく、がんばれ、とちょっと哀れみ入った目でいわれた。
多分、彼も同じ目にあったことがあるんだろう・・・。
羅希「それじゃあ、始めよう。」
それから、妙に空気が張り付いた。
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